異世界きたら最弱だったけど実は最強! ハードボイルドにしてたら名探偵に成り上がっていた件~あの推理してないのに勝手に事件解決するのやめてね?

街風

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  ――とある薄暗い地下室


 3人の怪しい女の魔術師が話し合いをしていた。
その中の青い髪を伸ばした女、フローラが男勝りの口調で言った。

「エミリア、これで闇組織に殺された奴は2人目だ、想定よりだいぶ早かったんじゃねーのか?」

フローラに指摘されて白髪の美しい淑女エミリアは、優雅に紅茶を飲みながら落ち着いた様子で答える。

「所詮使い捨ての売人よ。殺されたところで痛くも痒くもないわ」

「だが、警察まで『アイス』の存在を早々に嗅ぎつけちまったぜ?」

それにはエミリアもふむ、顎に指をあてて考え込んでしまう。

たしかにエミリアの予定では警察がアイスのことに気が付くのはずっと後の筈だった。そのための対策もしていて、自分達を狙う裏組織に一人目の売人が殺された時、警察が深く調べないように偽の犯人を仕立て上げてどこにでもある普通の殺人事件に見えるように工作したつもりだった。

わざわざ殺された側が、敵組織の犯行をかばったというのに、警察にあっけなく見破られてとんだ骨折り損だ。現場に残されたアイスも監視の目がどこにあるか分からない為、回収できなかった。

「どうやら警察の中に余程頭が切れる奴がいるようね」

「ふーん、どこの分野でもすげぇ奴ってのはいるんだな」

無言で爪を噛むエミリアと、敵ながらやるぜぇと感心するフローラに、今まで黙って話しを聞いていた背の低い女の子が二人の会話に割り込んだ。

「・・・・・・・・警察じゃないよ」

その言葉にエミリアが反応する。噛んでいた爪を口から離して問いただす。

「ミア、警察じゃないとはどういうこと? だれが情報を警察に流したの?」

ミアと呼ばれた少女は二人を驚かせたのが嬉しかったのか、口をもごもごさせて、ふふふと笑う。そんな彼女の口からは白い棒が飛び出ていた。

「偽装の犯人を見破ったのも、アイスを発見したのも全てマーロっていう探偵さ。僕が一人でしらべたんだよ? どう、凄いでしょ褒めてもいいんだよ?」

ほっぺをプクーと膨らませて可愛らしいけどあざとい表情でミアは上目づかいで見上げる。その仕草は小さな子供が大人に媚びを売っているようにしかみえない。

だが、エミリアとフローラはそんなミアを知らんぷりして、二人顔を合わせてマーロという名前に首をひねるだけだった。

 ミアは渾身のキメポーズをスルーされたのがショックだったのか、ねー僕のお手柄だよ!? 褒めないの!? と何度もアピールしてジタバタするが、どれだけミアが駄々をこねても、見慣れた光景なので二人は態度を変えることは無かった。

「マーロなんて俺は知らねえな。つええのか?」

 フローラに聞かれたミアはそっぽを向いてちょっとふて腐れ気味に答えた。

「ふん! 強いかは知らないけど、一部では有名らしいよ。まあ僕もつい最近知ったばかりだけどさっ」

「マーロ、聞いたことはないけれど用心すべきね。こんな所で私達の研究を邪魔されるわけにはいかないわ」

「たしかにここでバレちまったら、アイスまでばら撒いたのに全部がパアだ。せっかく集めた信者達にも逃げられるかもしれねぇ」


 今後の計画について二人だけでああでもない、こうでもないとミアだけを置いてきぼりに話し合いを再開する。

ミアは自分がマーロの名前を教えてあげたのに、褒めてくれるどころか無視するなんてっ!! と、とても腹立たしいような、少し悲しいような気持ちになった。プンプンと心の中で怒って、もういいもんねっと小さく呟き、一人だけ部屋をでていこうとすると、それに気づいたエミリアが声をかけた。

「ミア、どこにいくの?」

「僕はこれから帝都で行われる粋なイベントに参加しにいくんだ」

「イベント? どんなイベントかしら?」

「ふーん、教えてやるもんか。べーーーだっ」


ミアはそう言って、口から出ている白いペロペロキャンディーの棒をゴミ箱に投げ捨てて、部屋から出ていくのだった・・・・・







 『第一回帝国キャンディー王選手権』



 僕はコグレ警部補と一緒にイベント会場の舞台袖から様子を伺っていた。
ステージ上には予選を突破したキャンディー猛者達がズラリと並び、司会進行役の男の人が拡声器のマジックアイテムを片手に会場を盛り上げている。

想像以上に大盛況で、観客席は多くのお客さんで溢れかえっていた。
僕はふふふ、と自分が企画したイベントの大成功を確信する。

僕がステージに見入っていると、コグレ警部補は心配そうな声で、もう何度目になるか分からない同じ質問をまたしてくる。


「マーロさん、本当に予選を突破した人の中に犯人がいるんですか?」

「心配症だなコグレ氏。ここまで御前立てしてやったんだ。犯人が飛びつかないわけがないだろ?」

「は、はぁ、しかしこれは一体なにを御前立てしているのでしょうか・・」


何ってそりゃキャンディー好きな犯人をおびき寄せて捕まえる御前立てに決まってるだろ?
いまさら何て事を口走るんだ。無能すぎるだろコグレ氏。

犯人が無類の飴好きなのは、現場の証拠が物語っている。ならば、ここに犯人は必ずいるはずだ。


 「わたしには犯人像が、かいもく検討もつきません」

「ふっ、そんなのはとても簡単だよコグレ氏、まあ大船に乗ったつもりで黙ってみてなよ」

社畜落ちこぼれ警察のコグレ警部補には難問のようだが、この名探偵には犯人の特徴が手にとるようにわるぞっ!

それは大きく分けて三つ、まずキャンディーへの情熱がハンパない、次に強盗殺人を行使するだけの戦闘力がある。そして何より殺人動機が狂ってるヤバイ奴だ。

そしていまステージ上に残っているのは、戦闘力テストとキャンディーの知識テストをクリアして見事予選を勝ち上がった者だけだ。

つまり、僕の完璧なる推理によって導き出される答えは・・・このステージにいる人の中で一番頭がおかしい奴が犯人っ!! 自信をもって言える、間違いないとね!!!

「コグレ氏、僕が名探偵の華麗なる洞察力をみせてあげようではないか」

「はいっ、ぜひお願いします!!」

「ふふふふ、ではまず一人目から・・・」

そして僕は犯人のどんな挙動も見逃さないようにステージに注目した。司会の男が選手の紹介を始める・・・・

 「では紹介します。エントリーナンバー44番、帝都の小さなアイドルぅっ、その見た目に騙されてはいけないっ、彼女こそ有名なA級冒険者パーティー『死の宣告者』のメンバー、ミアちゃんだーーーー!!!」

うおおおおおおおかわいいいいいと、あっちこっちから聞こえてくる。


その声援に応えるように、小さな可愛らしい赤毛の少女が膨らませたほっぺに指をあてて可愛らしいポーズを決めた。

「はーーーーい、皆のアイドル、ミアちゃんだお? 僕のこと応援してね、テヘ♡」

すると会場中に突然黄色い声援の合唱が鳴り響いた。

司会者の男も「凄い人気ですねぇ」と驚く。


僕はその女の子を見た瞬間、即座に候補からはずした。

もう論外だ、論外。あんな子が飴なんかで人を殺すはずがない。いくら危ない異世界とはいえ、年端もいかないアイドルみたいな少女が悪に手を染めるハズがない。

冒険者パーティーの名前こそ不吉だが、この頃合いの子供は大人ぶっておかしなネーミングセンスを磨いてしまうことが多々あるのを僕は知っている。所謂中二病ってやつだ。

あんな可愛い子は至って無害。間違いないだろう。


僕は手に持っていた、予選突破の参加者リストから彼女の名前のところにバッテンを引いて候補から外した。

そして次の候補者の紹介を見る。

「エントリーナンバー201番‼ レペゼーン、スラム街ィィ、数々のモンスターを素手で千切っては投げ千切っては投げていたら街の衛兵にスカウトされた男、狂気の番犬、シカゴォォブゥーーー選手!!」

「グワハッハッハッハ―、この世の全ての飴は俺のものっ!!! どんな手を使ってでも必ず優勝するぜぇぇ!!」

そういって紹介されたのは、全身ムキムキのタンクトップの野獣のような男だった。ギラギラとした目つきで他の参加者を睨み、自分の存在感を誇示している。


僕はその選手をみた時、驚きすぎて手に持っていたリストを落としてしまった・・

誰が何処から見ても完全に犯人としか思えない男が堂々と現れた。てか、もう犯人だよ、言っちゃってるし、どんな手を使ってもキャンディーが欲しいって

推理しようとしたら犯人が自白を開始してしまうとは・・・流石に僕もあせってしまう。

ついさっき、カッコよくコグレ警部補に名探偵の洞察力をみせてやるぜっ、と意気込んだばかりだったのに・・・・・これはハードボイルドな探偵な僕でもちょっと恥ずかしいぞ。

あんなもの誰が見てもすぐに気が付く。
ぼくはハハハハハと渇いた笑い声をあげて、コグレ警部補に声をかけた。


「いやーーー、なんかだね。簡単に犯人みつかってしまったねコグレ氏」


「えっ!? 誰です!?」

「・・・・は、いや分かるでしょ」

「くっ・・私にはマーロさんほどの名推理はできませんっ!!どうか教えてくださいっ!」

 マジかよっ!?
いくらんでもひどすぎるよコグレ警部補。よく警察になれたな。

僕は最終確認の為に本当に分からないの? と聞くがコグレ警部補は子犬のように頭をカクカクさせるだけだった。

「えっと・・じゃ教えてあげるよ。アイツ・・」

僕はステージ上でマッスルポーズを決めているシカゴブーを指さした。

そして、そこからのコグレ警部補の行動は早かった・・・。

僕が指さした男を視界に入れた途端に、目をぐわっと見開き、彼は全速力でステージに向かって走り出した。止める間も無かった。


「ちょ、コグレ氏ぃぃぃぃ!?」


コグレ警部補は加速をつけて叫びながらシカゴブーにタックルをかました。

「確保ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


「うわーーなんだコイツ!!??」


誰よりも驚いているシカゴブーは慌ててしがみついてきたオッサンを剥がそうとするが、コグレ警部補の号令に、いつの間にか待機していた警察がわらわらと現れてシカゴブーを取り押さえていく。


現場は騒然として、もはやキャンディー王選手権どころではなかった。
僕は慌てて会場の雰囲気を抑えるため、司会の人から拡声器を奪い状況を説明する。




「えーーー皆さん、ただいま警察が凶悪な犯人を取り押さえている為落ち着いてください」


凶悪犯と聞いて会場がざわざわと騒がしくなる。なんだなんだと野次馬根性満載の人達が駆け寄ってくる。

その様子をみて、僕はやってくれたなっコグレ! と心の中で叫んだ。
本当ならこのイベントが終わるまで犯人を泳がせて置いて、最後の表彰式で僕がカッコよく犯人を推理で追い詰める予定だったのに、コグレ警部補が暴発したせいで僕の計画が見事に水に流されてしまったよ。

ここで僕の名声は高まる筈だったのにと、悔やむがもう遅い。仕方がないと諦めてせめてものアピールをすることにした。


「えーーー皆さん落ち着いて、今回の事件はこの名探偵マーロの手によって無事に解決されました! ご安心ください!!」


僕が客席に向かってそう説明すると、隣にいた女の子、ミアちゃんが、ビクッと反応して僕の顔をまじまじと眺めて、あの探偵のマーロ? とポツリと呟いた。

なんでこの子が僕の名前知っているのだろうか??


「え、ミアちゃん僕のことしってるの?」


「えっ・・いあ・・あっ、はい」

とても動揺して目を合わせないように顔を伏せてしまう。
どうしたのだろう? と心配してあげると僕は彼女の行動の意味に気が付いた。


そう、きっとミアちゃんは僕のファンなのだ!!! だから僕の名前を知っているんだ!! なるほど、ふふふ、憧れのハードボイルドが突然あらわれたから緊張しちゃってるのかな?


そう考えると僕はとても彼女に親近感が湧いてついつい会話をしたくなってしまった。ファンサービスも欠かさないのが真のハードボイルドってものさ。

「いやー、ごめんね。僕が開催したキャンディー選手権を楽しみにしていたんだろ? でもこの様子じゃ大会は中止だよ」

「えっ・・貴方が開催?? なんの為に??」

あれ? 僕のファンだから知ってて来たんじゃないのか?
もしかして僕のファンが偶然、僕のイベントにきていたパターン系? だとしたら彼女はなんて運がいい子なんだ。

 ならば僕も全力で、今回の僕の活躍をハードボイルドに教えてあるのもやぶさかではないっ!

僕はよりハードボイルドを意識して、少女を見下ろしニヒルにふっ、と笑って言った。

「このイベントはね、僕が追いかけている犯人を誘い出すために開催したイベントなのさ」

「え!?」

「犯人はぶっ飛んだ奴でね、こんな物の為に人殺しをする凶悪犯なんだ」


僕は、殺人現場からこっそりくすねていた青いキャンディーをポケットから出してみせてあげた。それを見て彼女はとても驚いた表情をする。

その反応をみて僕もそうだろう、そうだろうと頷いた。
わかるよ、まさかキャンディーの為に殺人を犯す人がいるなんて誰が想像できようか。コグレ警部補が異常なだけで、この反応が普通なのだ。

僕は久々に常識人にあったことが嬉しくて、テンションが上がってしまった。興奮して彼女の手を取り、青いキャンディーを握らせる。

「・・・・・え? なんで僕に・・・・」

「ふっ、僕はミアちゃんが気にいったよ。本当は僕の可愛い弟子にあげるつもりだったんだけど、特別に君にあげよう。警察には内緒だよ??」


「・・え?・・いや・・え?・・え、なんで?」

「ハハハハハ、いいからいいから遠慮しないで」

僕は無理やりミアちゃんの手に青いキャンディーを握らせる。あまりにもファンサービスが良すぎてミアちゃんは戸惑いが隠せないようだ。ふふふ、相手が喜ぶサプライズは本当にする側も気分があがってしまうよ!

僕は喜んでハハハと笑っていると、つい手が滑って『第一回キャンディー王選手権』の参加者リストを落としてしまった。

 ミアちゃんは落ちているリストを見て、ヒィっと短い悲鳴をあげて転んでしまうと、涙目で僕のことを見上げてくる。起こしてあげようと手をのばせば、またヒィと叫んで後ずさりしてしいく。

「大丈夫?」

「こ、このマークはなんですかっ!? ぼぼぼ僕をいったいどうしようと???」


別にどうもしようとしていない。起こしてあげよとしているだけなのに、ミアちゃんが勝手に怖がっているだけだ。

だがその理由はリストを見て合点がいった。僕はリストに載っているミアちゃんの名前の所だけ、犯人の疑いなしと判断し、大きくバッテンマークを入れていたのを忘れていた。

もしかして僕に嫌われたとか勘違いしてる??


それなら心外だ。僕はミアちゃんのことが大好きだ。このまま勘違いされて別れるのはとても寂しい。だから僕はとっておきの物をプレゼントすることにした。


「ミアちゃん、そのマークは君が想像しているような物じゃないから安心してくれたまえ」


「み、見逃してくれるのですか??」


「うん? まぁうん、そうそう、そんな感じだから安心してくれ。それと、友好の明かしに君に良いものをあげよう」


僕はポケットから小さな箱を取り出してミアちゃんに見せてあげる。

「これは今回のイベントの優勝景品だ。中止になったからあげるよ」

「えっ!!!!」


ミアちゃんはとても欲しそうな目で僕が持つ箱に釘付けになる。


「くっ・・・僕から見返りを求めようとしても無駄だぞっ!?」

「ははは、見返りなんて求めてないのに、可愛らしいね。でもそうだな・・・」


そこで僕は言葉を切って、考える。
一応、これは飴玉とはいえ、一流のパティシエが集まり作ったお金のかかった品だ。

もし、ミアちゃんが家に持ち帰って親御さんに見つかったら、とりあげられてしまうかもしれない。

ミアちゃんのような普通の女の子の家庭は教育方針もまともな筈、こんな高価なもの貰ったのがバレたら叱られてしまうだろう。

なので、僕は一つの条件をつけることにした。


「ミアちゃん、これをあげる代わりに一つだけ約束を守ってほしいんだ」

「なっ、なんだ!?」


「今日あったことは、家で誰にも言わないでくれるかい?」


「なんだとっ!? く、くそっ、けどキャンディーは・・・・欲しい」

しばらく葛藤した末、ようやくミアちゃんは僕から世界一のキャンディー、cafe・barマスター風味を受け取った。

そして、悔しそうな顔で捨て台詞を吐いて逃げ出した。

「ぼぼぼ僕はお前の味方にはならないからなっ!?」

「うん、それも人生だね」

必ずしも憧れているからとて全員がハードボイルドな探偵になれるわけではない。

ミアちゃんは良く現実が見えている子なんだな、と僕は走り去る彼女の後ろ姿を見ておもうのだった。
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