異世界きたら最弱だったけど実は最強! ハードボイルドにしてたら名探偵に成り上がっていた件~あの推理してないのに勝手に事件解決するのやめてね?

街風

文字の大きさ
上 下
14 / 32

14

しおりを挟む
 首都ワンシントンの土地はいくつかの地区に分かれている。

有名なレストランやブランド店が並ぶ商業地区、帝国政府の本部がある行政地区。

他にも、セレブや貴族が住まう場所や、多彩な娯楽がある繁華街など、地区ごとにその形は様々だ。

その中でも、圧倒的な面積を占めるのが、いわゆる一般階級の人が暮らすエリアだ。

大きく分けると、東西に分かれていて、多くの住民が生活をしている。

 そして、今回事件がおきたのは東地区にあるごく普通の民家だった。

レンガ造りの寂れた建物の出入り口を、制服をきた警察官達が何度も出たり入ったりを繰り返していた。

気温が高いせいか、みんな汗をびっしょりかいて制服が滲にじんでいる。

一生懸命に働いているのが伝わってくる。ギガンテス君にも見習ってほしいところだ。

彼等の勤勉な姿を見て、僕は日本にいた頃によく目にしたサラリーマンたちを思い出した。

朝から満員電車に乗り、働いて、夜になれば仕事の同僚たちと居酒屋で酒を飲む。

そんな普通の生活を送る人達。なんでもないような光景だが、思い出すだけで、僕は懐かしい気持ちになった。

この世界で生きていくと決めた時から覚悟をしたつもりだったが、ふとした瞬間に感傷的になってしまうのは、仕方がないことなのか、それとも僕の覚悟が足りなかった故なのか。それは分からない。

かつてシャーロック・ホームズが言った言葉が僕の胸に突き刺さる。

『運命はなぜこうも弱い人間に悪戯をするのだろう?』と。

まったくもってその通りだっ!!

異世界なんてものが存在するんだから世の中には強い奴が大勢いたはずっ!

それなのに、戦闘的な能力が皆無の僕を、この修羅の国に連れてきた運命には悪意しか感じないぞっ!

犠牲になるのはいつだって弱者だ。

そして、それは今回の事件でも同様のようだった。

 僕は、ギガンテスを連れて殺人現場である建物の中に侵入し、殺された被害者をみた
 長く髪を伸ばした金髪の女性だ。刃物で胸を刺された痕跡があり、渇いた血だまりのうえに倒れていた。そのせいで血の匂いが充満している。

魔術師だったのか、魔術師がよく好むようなローブを着て、首には魔術の媒体になる魔法石のネックレスがつけられていた。お世辞にも美人とはいえず、どこにでもいるような普通の魔術師といったところだ。

部屋の様子をみると彼女が質素な生活をしていたことが伺えた。装飾品などの贅沢品はなく、最低限の必要なものだけが揃えられているようだった。

 僕が観察を続けていると、一人の警察官が声をあげて近づいてきた。

「ちょっと困りますよ! 勝手に入ってこないでください!!」

若い警察官の男は僕の腕を掴み強引に外に引っ張っていこうとする。このままでは、追い出されてしまうと、僕はギガンテス君にアイコンタクトでどうにかしろと合図を送った。

しかし、ギガンテス君は僕から完全に目を逸らし、連行されてるわけでもないのに自ら率先して出口に向かって歩いていく。

 「おい」

 「おれは警察の邪魔をして捕まりたくないから」

そしてギガンテス君は僕を取り押さえている警察官が通りやすいように、出口の扉を開いて律儀に待機し始めた。

(馬鹿野郎ぉぉぉ、誰がそっちを助けろといったぁ!?)

 ここにきて、まさかの裏切りに僕は焦ってしまう。

ここで大きな功績をたてなければ、我が社には永遠にドブさらいと、ペット探しの依頼しかこなくて倒産する。

この財政難を回避するためには、僕がハードボイルドな探偵として名推理で事件を鮮やかに解決へと導かなければいけないのに・・・

 僕は掴まれた腕をどうにか振りほどこうとしたが、相手はビクともしなかった。当たり前だが警察は普段から荒事に慣れている。日頃から訓練されている戦士に僕如きでは太刀打ちできるわけがない。

「君、いきなり失礼じゃないか。僕は探偵だよ? 捜査の邪魔をしないでくれたまえ」

「なに言ってるんですか? 捜査の邪魔をしているのは貴方ですよ。それに探偵とか知りませんけど部外者に入られと困りますので迷惑です。お引き取りを」

 余りにも最もなことを言うので、僕は返す言葉がなくなってしまう。結局、僕は警察官の男に押されて、外に追い出された。

「いいですか、もう帰ってくださいよ!」

そう言い残して、彼は勢いよく扉をしめようとした。

だが、そうは問屋が卸さない。

僕にだって引くに引けぬシリアスな事情があるのだ。

警察官が閉じようとした扉の隙間に僕はつま先を無理矢理ねじ込む。彼が昂った感情のまま扉を勢いよく閉めたせいで、僕のつま先がドアに挟まれた時、ガコンと大きな音がなった。

「あああ、痛たぁぁぁぁぁぁ」

当然、訓練された警察の力で潰されてしまえば、貧弱な僕の足などひとたまりもない。

僕は悲鳴をあげ、つま先を抱えてその場にうずくまった。そして、周りの警察、通行人に聞こえるように大きな声で叫んだ。

「この警察が僕に危害を加えました!! 骨まで折られたかもしれません!!!!」

「ちょ、ちょっと君!!!」

 警察官は周りに注目されてまずいと思ったのか、慌てている。

僕はその様子をみて誰にもばれないようにほくそ笑んだ。

(ふふふ、馬鹿め、ケンカすれば、街のわんぱく少年にも負ける僕だぞっ!? 対策をしているにきまってるだろ!!!)

 ハードボイルドな名探偵はいつだって、準備を怠らないのだ。

僕の履いているブーツには鉄よりも遥かに硬い金属、アダマンタイトが仕込んであった。
こんな危険な世界で、無防備に歩くほど僕は間抜けじゃない。

身に着けているものには全て、一級品の魔術付与や金属を使って安全対策をしている。最高クラスの硬度を誇る高級金属『アダマンタイト』を安全靴に使っている者は、世界広しといえど、恐らく僕だけじゃないかと思う。

 完璧な作戦が成功して満足していると、隣に立つギガンテス君が呆れた表情で僕を眺め、もうどうにでもなれといった様子で自分のツルツルの頭を撫でまわしていた。

毎日事務所でグータラしているから、使い道があるかもと連れ出してみたが、淡い期待だったようだ。

ミミィなんて今頃一人でドブさらいしてるのに、お前も少しは役にたてよ。

 その後も、僕は足が痛いと叫び続けていると、スーツを着た短髪小太りの男が騒ぎを聞きつけてやってきた。

「どうしたんだ。なにがあった?」

「あっ、警部補。じつは・・・」

どうやらこの警察官の上司らしい。

彼は事情を聴いたあと、僕の方をみた。

「おや、貴方はもしかして・・・」

驚いた表情でまじまじと僕を眺める。

ん? どこかで会ったことがあるのかな・・

これまでの記憶を思い起こしてみるが、小太りの警察官には心当たりがなかった。

「事情はわかりました。せっかく探偵のマーロさんが来てくださったのです。是非捜査に協力してもらいましょう」

「・・・・え?」

「ささ、どうぞお入りください」

警部補はさも当たり前の如く、僕等を招くように建物の中に入っていった。

予想外の結末に僕も、ギガンテス君も驚いてフリーズしてしまう。

そして、僕を追い出そうと躍起になっていた警察官が焦って聞いてくる。

「あ、貴女は何者ですか。もしかして警察関係者の方ですか? なぜ警部補が案内を?」

そんなの僕がしるわけないだろ。こっちが知りたよ。

けれど、馬鹿正直に答えてチャンスを棒にふりたくないので、とりあえず僕は意味深に「フフ」と笑っておくことにした。

「僕が何者かは想像に任せるよ。ただ・・」

と一呼吸おいて、彼の肩に手を置いて耳元に囁やく。

「キミの今後の身の振り方は考えておくべきだね」

僕の言葉に顔を青くして、彼は怯えた表情で震えあがる。

僕はふふふ、と取りあえず笑いで、その場をごまかして警部補をおいかけるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...