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「まあ貴方も年代物だから、いつかはどこかしら壊れると思っていたのよ。欲を言うなら布と綿も欲しいわね」
「ではいっその事、どこかから新たな器を調達して新品にしてみたらいかがですか?私の魂の容れ物ですから、もっと頑丈な物の方が人形の故障を気遣わなくてよろしいかと」
「嫌よ、新品なんて。その人形に愛着あるもの。それに…」
「それに?」
「貴女が入っていた方がぴょこぴょこ動いて可愛らしいもの」
さいでございますか、とリリーはあっさり諦める。長年、傍で見守ってきた主人の性格を把握しているからこそだろう。
アリッサは愛着湧くモノには執着し、それ以外には興味がまるでない。
リリーは、自分の成すべき事はアリッサの愛着あるモノを出来るだけ無事に、そして主人であるアリッサを必ず護る事だ、とそのように使命として捉えている。
そんな人形の想いなど露知らず。アリッサはどうせ見つからないと高を括って荒れた部屋を探し始める。
ひっくり返された家具らを更にひっくり返して捜索していると、小さな鼠が数匹、大慌てで部屋中を駆け回りだした。
どうやら寝ている彼らを起こしてしまったらしい。
「…鬱陶しいわね」
「そうですね、こうもバタバタと騒がれては煩わしいです。排除しますか?」
「いや、私がやるわ」
そう言いながらアリッサが元気に走り回っている鼠一匹に睨みを利かせると、その鼠を囲う様に何処からともなく深黒の籠が現れる。
籠に囚われた鼠は身動き出来ずにただバタバタと暴れていたが、すぐに観念したのか大人しくなった。
その後、適度に糸探しをしながら先刻と同様、鼠を見付けると瞬時に睨みを利かせて籠の魔術を掛ける。
全ての鼠が捕獲される頃には元々、煩雑とした室内だった空間にいくつもの黒い籠が無作為に配置され、更に一層カオスを極めたものとなっていた。
「これで静かになったわね」
「流石でございます、ご主人様」
ふむ、と辺りが静かになった事を確認するとアリッサは本格的に糸探しに乗り出す。
と言ってもチェストの中を漁ったり、床に転がる小物の類をひっくり返してみたりと、やる事は先程の家と大した変わりはなく、アリッサはふうやれやれと飽き飽きとした気持ちで再開する。
「…シッ。外に誰かいますね」
リリーが何かに気が付いたのかアリッサの糸探しを制止するように袖を布と綿で出来た小さな腕で掴む。
そしてアリッサが静かに小物を床に置いた事を確認すると、音のした方向、そのすぐ窓際まで音もなく飛んで移動した。
アリッサは体勢を低くしてそろそろとリリーの傍へ近付く。
窓の外を注意深く偵察していたリリーは近くに寄ってきた主人に耳打ちする。
「どうやら冒険者のようですね。相手は二人ですけど、今なら気が付かれておりませんので不意討ち出来ると思います。どうしますか?」
「ただの鼠と違って組織に属する者共は仲間が多くて厄介だわ。相手にすると後から面倒な事になるからやめておきましょう」
アリッサも窓の奥をちらりと覗くと、確かに遠目ではあるが男女の冒険者らしき人影が見える。
背の高さからして彼らは鉱人や小人ではないが、耳の長さまでは判別できない。
身に纏う服装から判別するに森人ではなく、真人だと予想したが、冒険者の装いにアリッサは不幸にも明るくなかった為、詳しくは判らなかった。
ただ幸いにも彼らはこちらに気が付いていないようで、そのまま冒険者達は手近な民家に入っていった。
「流石、ご主人様。明哲保身のご判断で頭が下がる思いでございます」
「褒めたって何も出ないわよ」
「そこで常に最良のご判断を下すご主人様に一つ、私からご提案があるのですが…」
「なに?」
「ではいっその事、どこかから新たな器を調達して新品にしてみたらいかがですか?私の魂の容れ物ですから、もっと頑丈な物の方が人形の故障を気遣わなくてよろしいかと」
「嫌よ、新品なんて。その人形に愛着あるもの。それに…」
「それに?」
「貴女が入っていた方がぴょこぴょこ動いて可愛らしいもの」
さいでございますか、とリリーはあっさり諦める。長年、傍で見守ってきた主人の性格を把握しているからこそだろう。
アリッサは愛着湧くモノには執着し、それ以外には興味がまるでない。
リリーは、自分の成すべき事はアリッサの愛着あるモノを出来るだけ無事に、そして主人であるアリッサを必ず護る事だ、とそのように使命として捉えている。
そんな人形の想いなど露知らず。アリッサはどうせ見つからないと高を括って荒れた部屋を探し始める。
ひっくり返された家具らを更にひっくり返して捜索していると、小さな鼠が数匹、大慌てで部屋中を駆け回りだした。
どうやら寝ている彼らを起こしてしまったらしい。
「…鬱陶しいわね」
「そうですね、こうもバタバタと騒がれては煩わしいです。排除しますか?」
「いや、私がやるわ」
そう言いながらアリッサが元気に走り回っている鼠一匹に睨みを利かせると、その鼠を囲う様に何処からともなく深黒の籠が現れる。
籠に囚われた鼠は身動き出来ずにただバタバタと暴れていたが、すぐに観念したのか大人しくなった。
その後、適度に糸探しをしながら先刻と同様、鼠を見付けると瞬時に睨みを利かせて籠の魔術を掛ける。
全ての鼠が捕獲される頃には元々、煩雑とした室内だった空間にいくつもの黒い籠が無作為に配置され、更に一層カオスを極めたものとなっていた。
「これで静かになったわね」
「流石でございます、ご主人様」
ふむ、と辺りが静かになった事を確認するとアリッサは本格的に糸探しに乗り出す。
と言ってもチェストの中を漁ったり、床に転がる小物の類をひっくり返してみたりと、やる事は先程の家と大した変わりはなく、アリッサはふうやれやれと飽き飽きとした気持ちで再開する。
「…シッ。外に誰かいますね」
リリーが何かに気が付いたのかアリッサの糸探しを制止するように袖を布と綿で出来た小さな腕で掴む。
そしてアリッサが静かに小物を床に置いた事を確認すると、音のした方向、そのすぐ窓際まで音もなく飛んで移動した。
アリッサは体勢を低くしてそろそろとリリーの傍へ近付く。
窓の外を注意深く偵察していたリリーは近くに寄ってきた主人に耳打ちする。
「どうやら冒険者のようですね。相手は二人ですけど、今なら気が付かれておりませんので不意討ち出来ると思います。どうしますか?」
「ただの鼠と違って組織に属する者共は仲間が多くて厄介だわ。相手にすると後から面倒な事になるからやめておきましょう」
アリッサも窓の奥をちらりと覗くと、確かに遠目ではあるが男女の冒険者らしき人影が見える。
背の高さからして彼らは鉱人や小人ではないが、耳の長さまでは判別できない。
身に纏う服装から判別するに森人ではなく、真人だと予想したが、冒険者の装いにアリッサは不幸にも明るくなかった為、詳しくは判らなかった。
ただ幸いにも彼らはこちらに気が付いていないようで、そのまま冒険者達は手近な民家に入っていった。
「流石、ご主人様。明哲保身のご判断で頭が下がる思いでございます」
「褒めたって何も出ないわよ」
「そこで常に最良のご判断を下すご主人様に一つ、私からご提案があるのですが…」
「なに?」
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