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コーヒーと手紙
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大晦日
午後、21時45分。
冬の夜、1人自転車を走らせて、アルバイト先であるコンビニに向かっていた。風の刺さるような冷たさで、頬の感覚が奪われそうになった。
アルバイト先は家から近い事もあり、通勤に不便は感じていなかった。
目的地に到着して、自転車から一旦降りた。自転車は倉庫の横に置くことが決まっている。
移動しながら、少しコンビニのレジの方を覗いた。女性の先輩がレジで忙しそうにしていた。
俺の元好きな人。
今日は年の瀬だからか、お客さんは多く、対応に追われていた。
急いで自転車を置きに行き、コンビニに入った。奥のロッカー室に入り、仕事着に着替えた。
ロッカー室から出てレジを見ると、お客さんの行列が出来ていた。
すぐにレジに入って先輩と対応した。2人でやると早く終わる。
お客さんが全員いなくなって、先輩はお礼を言った。
「助かったよー。あのままお客さんが増えたら、帰れないと思ってたから。」
「タイミングが良かったみたいで、良かったです。」
シフト上、俺は先輩と入れ替わることになっていた。
この少しの時間しかしゃべれない。
先輩の率直な性格が好きだった。
告白する前に、彼氏がいることを知った。俺の恋は儚く散った。
「それじゃ、この後のことなんだけど・・・」
俺はいつも通り先輩と接した。仕事の引き継ぎを受ける。
「分かりました。足りなくなった分は足しておきます。」
「よろしくね。あと・・・」
先輩は間をおいて、笑顔で言った。
「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。」
「よろしくお願いします。」
日本人らしく律儀にお互い頭を下げた。
先輩はロッカー室へ行き、普段着に着替えた。先輩が店を出ると、出入り口には、先輩の彼氏が待っていた。寒空の下、長い間、待っていたのだろう。離れていても、鼻が赤くなっていたのが分かった。
2人は嬉しそうに顔を見合わせて、手を繋いだ。そして、仲良く歩いて帰って行った。
先輩の嬉しそうな笑顔。
アルバイトは夜22時から夜中14時まで。
一昨年も去年も今年もコンビニで年越しだ。
先輩に告白して、OKを貰っていれば、今頃、恋人になってる予定だった。
俺は先輩の横にいられないことが、悔しかった。
(このまま来年も1人でコンビニで年越しを迎えるんだろうな。)
先ほどまでのピークを脱出できたのだろうか、店内にはお客さんは誰もいない。
外では雪が降り出していた。
(どうせ、俺に春なんか来ないな。)
しばらくして、店内に学校の制服姿で女の子が入ってきた。
最近、来るようになった常連の女の子だった。小柄でおとなしそうな雰囲気を持っていた。
(今は仕事だ、営業スマイル、営業スマイル・・・)
我に返って、いらっしゃいませと言った。
女の子は俺の姿を確認した後、少し店内を見回り、レジの元に来た。
「あのぉ・・・」
「はい、いらっしゃいませ」
女の子は恥ずかしそうに声をかけてきた。
「すみません、ホットコーヒーを1つお願いします。」
「かしこまりました。160円になります。」
俺はいつものようにお客さんに接客した。つとめて明るく、感じの良いように。お客さんに傷心した気持ちは関係ない。
レジを済ませ、コーヒーを淹れる。この淹れ方も最初、先輩に教わった。
「はい、おまたせいたしました。ホットコー・・・」
コーヒーを持って、女の子に渡そうとしたとき、言葉は遮られた。
「あのっ!」
突然、女の子は声をかけた。
「あ、はい!」
俺は驚いて、慌てて返事をした。
女の子は2,3回深呼吸をした後、勇気を振り絞って言った。
「それ、あげます!」
「え?」
「私が買ったコーヒーあげます!」
「え?・・・え?」
状況がすぐに理解できずにいた。
女の子が買おうとしたコーヒーを、俺にくれる?
「えと、突然、ごめんなさい。ずっと前からあなたのことが気になっていました。」
女の子は顔を赤くして、うつむきながら、俺に言った。
「これ私の連絡先です。良かったら、お友達になってください。」
ピンク色の小さな手紙を差し出した。
俺は持っていたコーヒーを置いて、手紙を受け取った。
「そ、それじゃ!良いお年を!」
まるで逃げていくように、女の子は走って店の外に出て行った。
俺は呆然と女の子が出て行った方を見ていた。
このコーヒーと手紙は、あの子なりの精一杯だったのだろう。
"お友達”という単語が気になった。もう、気持ちを言っているようなものだけど。
さっきまでのことを思い出す。
率直な先輩のことが好きだった。
先輩にはもう彼氏がいて、ヘタレな俺は心の中で悔しがるしか無くて、
ただ先輩が幸せなら良いと思った。
みじめで自暴自棄になっていた。
周りと比べて、一人でコンビニで年越しするのが嫌になった。
だけど、俺の事思ってくれる女子が他にいたとしたら・・・?
いつまでも、先輩のこと引きずってちゃダメなんだ。
「すみませーん」
「あ、はい、すみません!」
いつの間にか他のお客さんが来ていたようで、すぐにレジに戻った。
アルバイトが終わったあと、あの子に連絡をしてみた。
もうすぐ、春が来ることを期待して。
午後、21時45分。
冬の夜、1人自転車を走らせて、アルバイト先であるコンビニに向かっていた。風の刺さるような冷たさで、頬の感覚が奪われそうになった。
アルバイト先は家から近い事もあり、通勤に不便は感じていなかった。
目的地に到着して、自転車から一旦降りた。自転車は倉庫の横に置くことが決まっている。
移動しながら、少しコンビニのレジの方を覗いた。女性の先輩がレジで忙しそうにしていた。
俺の元好きな人。
今日は年の瀬だからか、お客さんは多く、対応に追われていた。
急いで自転車を置きに行き、コンビニに入った。奥のロッカー室に入り、仕事着に着替えた。
ロッカー室から出てレジを見ると、お客さんの行列が出来ていた。
すぐにレジに入って先輩と対応した。2人でやると早く終わる。
お客さんが全員いなくなって、先輩はお礼を言った。
「助かったよー。あのままお客さんが増えたら、帰れないと思ってたから。」
「タイミングが良かったみたいで、良かったです。」
シフト上、俺は先輩と入れ替わることになっていた。
この少しの時間しかしゃべれない。
先輩の率直な性格が好きだった。
告白する前に、彼氏がいることを知った。俺の恋は儚く散った。
「それじゃ、この後のことなんだけど・・・」
俺はいつも通り先輩と接した。仕事の引き継ぎを受ける。
「分かりました。足りなくなった分は足しておきます。」
「よろしくね。あと・・・」
先輩は間をおいて、笑顔で言った。
「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。」
「よろしくお願いします。」
日本人らしく律儀にお互い頭を下げた。
先輩はロッカー室へ行き、普段着に着替えた。先輩が店を出ると、出入り口には、先輩の彼氏が待っていた。寒空の下、長い間、待っていたのだろう。離れていても、鼻が赤くなっていたのが分かった。
2人は嬉しそうに顔を見合わせて、手を繋いだ。そして、仲良く歩いて帰って行った。
先輩の嬉しそうな笑顔。
アルバイトは夜22時から夜中14時まで。
一昨年も去年も今年もコンビニで年越しだ。
先輩に告白して、OKを貰っていれば、今頃、恋人になってる予定だった。
俺は先輩の横にいられないことが、悔しかった。
(このまま来年も1人でコンビニで年越しを迎えるんだろうな。)
先ほどまでのピークを脱出できたのだろうか、店内にはお客さんは誰もいない。
外では雪が降り出していた。
(どうせ、俺に春なんか来ないな。)
しばらくして、店内に学校の制服姿で女の子が入ってきた。
最近、来るようになった常連の女の子だった。小柄でおとなしそうな雰囲気を持っていた。
(今は仕事だ、営業スマイル、営業スマイル・・・)
我に返って、いらっしゃいませと言った。
女の子は俺の姿を確認した後、少し店内を見回り、レジの元に来た。
「あのぉ・・・」
「はい、いらっしゃいませ」
女の子は恥ずかしそうに声をかけてきた。
「すみません、ホットコーヒーを1つお願いします。」
「かしこまりました。160円になります。」
俺はいつものようにお客さんに接客した。つとめて明るく、感じの良いように。お客さんに傷心した気持ちは関係ない。
レジを済ませ、コーヒーを淹れる。この淹れ方も最初、先輩に教わった。
「はい、おまたせいたしました。ホットコー・・・」
コーヒーを持って、女の子に渡そうとしたとき、言葉は遮られた。
「あのっ!」
突然、女の子は声をかけた。
「あ、はい!」
俺は驚いて、慌てて返事をした。
女の子は2,3回深呼吸をした後、勇気を振り絞って言った。
「それ、あげます!」
「え?」
「私が買ったコーヒーあげます!」
「え?・・・え?」
状況がすぐに理解できずにいた。
女の子が買おうとしたコーヒーを、俺にくれる?
「えと、突然、ごめんなさい。ずっと前からあなたのことが気になっていました。」
女の子は顔を赤くして、うつむきながら、俺に言った。
「これ私の連絡先です。良かったら、お友達になってください。」
ピンク色の小さな手紙を差し出した。
俺は持っていたコーヒーを置いて、手紙を受け取った。
「そ、それじゃ!良いお年を!」
まるで逃げていくように、女の子は走って店の外に出て行った。
俺は呆然と女の子が出て行った方を見ていた。
このコーヒーと手紙は、あの子なりの精一杯だったのだろう。
"お友達”という単語が気になった。もう、気持ちを言っているようなものだけど。
さっきまでのことを思い出す。
率直な先輩のことが好きだった。
先輩にはもう彼氏がいて、ヘタレな俺は心の中で悔しがるしか無くて、
ただ先輩が幸せなら良いと思った。
みじめで自暴自棄になっていた。
周りと比べて、一人でコンビニで年越しするのが嫌になった。
だけど、俺の事思ってくれる女子が他にいたとしたら・・・?
いつまでも、先輩のこと引きずってちゃダメなんだ。
「すみませーん」
「あ、はい、すみません!」
いつの間にか他のお客さんが来ていたようで、すぐにレジに戻った。
アルバイトが終わったあと、あの子に連絡をしてみた。
もうすぐ、春が来ることを期待して。
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