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【1】霊感女子・加賀利咲菜子の憂鬱
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今日は帰り道にある喫茶店に寄ることにした。
失職したことも新興宗教の勧誘がしつこかったことも、若くして亡くなった可哀相な女の子のことも頭から追い出して、香り高いコーヒーから立ち上がる湯気を眺め何も考えずにぼーっとしたい。
私はいつもカウンター席の一番端に座ることにしている。
大抵の店のカウンターは一人当たりのスペースが狭く窮屈だが、この店はゆったりと空間を保ってあるため他人と肩と肩が触れたり目が合って気まずい思いをすることがない。ここで頭を空っぽにしてコーヒーを飲むのが私のお気に入りの時間なのだ。
「あ……」
いつものコーヒーと日替わりのケーキを注文して意気揚々と席へと向かったが、目当ての席には
先客がいた。この店に通い始めてもう半年になるけれど、初めて見る男性客だった。
座っていてもわかるスタイルの良さについ釘付けになる。シンプルな
すらりと長い脚はシューズのつま先まで美しい。横顔の額から鼻筋のラインが美しい。緩やかなウェーブのかかった黒髪もまた艷やかで美しい。残念なのは、少し長い前髪で目の部分が隠れてしまっていることだ。瞳もきっと美しいはずだ。
――いや待って。私ったらこの数秒間に何回美しいって思った?
苦笑しながら別の席に座った。
あの席に座れないのは残念だけどイケメン拝めたし、ま、いっか。
しかしこの男性、綺麗すぎてなんだか違和感があった。
無機――生命を有さない、陶器の置き物だとか絵画のような印象を覚えたのだ。
まるで、幽霊……みたいな。
でもまあ、イケメンだからいっか。
実際のところ、生きていようがいまいが関わらなければ問題はない。
のんきにコーヒーから立ち上がる湯気を吸い込み香りを楽しんで、一口目を口に含んだ。いつもと同じ、おいしいコーヒーに安心する。次はケーキだ。今日のケーキはオレンジピール入りのパウンドケーキだ。甘酸っぱいオレンジの香りが鼻孔《びこう》をくすぐる。口に運ぶとしっとりとした優しい甘さが口内に広がった。
「んー……おいし」
思わず声に出してしまう。
幸せだ。霊が見えたって彼らの声が聞こえたって、この時間が私を癒してくれる。
そんなささやかな幸せを噛み締めているところに、またも霊は現れた。
「はあ……」
一言に霊といっても、それぞれ違う。声だけで姿が見えない霊、生きているように見える霊、死んだ時の状態を留めている霊――十人十色というのだろうか、本当、いろんな霊がいる。
今ここに現れたのは黒い霧か靄のように漂う、形のあやふやなものだった。
残留思念っていうのかな、強い気持ちの残滓が消えずに漂っている感じ。
私はいつものように無視することにして目を逸らした。せっかくの至福の時間を霊になんか邪魔されたくない。
だけど、うまくやり過ごせなかった。
急に耳鳴りがしてきた。カップを持つ手が震える。冷や汗とも脂汗ともつかぬものが背筋を伝い、指先から体が冷えていくのがわかる。
モヤモヤした霊体は何もしてこない。曖昧な輪郭で目も口もないのに、こっちを見てる。笑ってる……そう感じた。
落ち着こう、落ち着こうと自分に言い聞かせても、動悸と息苦しさが襲う。なんかいつもと違う……?
――たすけて、誰か。
耳に水が入った時のような閉塞感に苛まれていると、耳元で誰かが囁いた。
「息をして」
「え……?」
涙目のまま振り返ると、傍らに男性が立っていた。私のお気に入りの席に座っていた男の人だった。
「ゆっくり、吸って吐いて。繰り返して」
彼は私の横について、深呼吸するように促した。
普段なら他人に距離を詰められるとそれだけでストレスを感じるのに、全く不快に思わなかった。むしろ、体がじんわりと温まっていくような心地良さが私を包む。
隣で自分に視線を注ぐ男の顔を、私はまじまじとみつめた。艶のある黒髪に健康的な肌、すっと通った鼻筋に薄い唇、長い睫毛に切れ長の瞳――私の考える美男の条件を揃えた容姿だ。
切れ長の瞳と目が合った。
「イケメンだ……!」
思ったことが声に出てしまった。
「あ、すす、すみませ、えっと……」
慌てて取り繕うと彼は「変わってないな」と微笑んだ。
「え?」
「前も同じことを言われた」
以前……? 会ったことがあるの?
「思ったよりも元気そうで安心したよ。約束どおり迎えに来たよ。きれいになったな、咲菜子」
――私の名前、知ってる……?
ますますパニックに陥ったが、ここでスマートフォンが鳴って我に返った。
「あの、え~と……そのっ、し、失礼します!」
口癖になっているフィラーを連発しながら席を立ち、私は店を飛び出した。
「なんなの、いったい……」
路上で独りごちた。
あんなイケメン、会ったら絶対覚えてる。忘れるはずない。
いや、それよりも気になるのはあの黒いモヤモヤの霊体だ。ああいうのは何度か見たことがある。ほうっておけば自然と消えていく残留思念、みたいなものだと思う。でもさっきのあれは、あきらかに私を見て何か言おうとしていた気がする。
死んだ人の気持ちなんてわからない。生きてる人の本心だってわからないことが多いんだもん。
深く考えるのはやめにして、私は帰路についた。
心残りはコーヒーとケーキだ。
てか、さっきスマホ鳴ったよね。
バッグの中からスマートフォンを取り出すと、メッセージが一件届いていた。
『オムライス食べたいな』
何とも脳天気なメッセージに救われた気がして、クスッと笑ってしまう。
送り主は、私の恋人だ。
恋人……のはずだ、たぶん。
彼との出会いは今年の夏――猛暑の中、栄養ドリンクのサンプル配りのアルバイトをしていた時だった。暑さでどうかなりそうで、さっさと割り当てられたドリンクを配って帰りたかった。
――霊はいいなあ、死んでるから暑さとか感じないんだろうな。
行き交う生者に紛れてうじゃうじゃと彷徨う死者の霊を横目に見ながら、ため息まじりに息を吐いた。
この頃の私は妙に生きるのが面倒で、漠然とした希死念慮に捉われていた。
虚ろな顔でドリンクを配っていると、ぐう、と腹が鳴った。
――生きてたらお腹すくし、食べるにはお金が要るし、本当に面倒くさい……。
「ダイジョブ?」
突然、生きた人間から声をかけられた。
「え」
「これ貸したげる。熱中症にならないように、ね」
携帯用の小さな扇風機を差し出してくれたのは、同じドリンク配りの男性スタッフだった。
明るい茶髪が印象的な私と同じくらいの背丈、馴れ馴れしいとさえ思える態度と言葉遣いだったが、気にならなかった。
だって、この世界で誰が私が熱中症にならないか心配してくれる? きっと九州の山奥に住むおばあちゃんと、この彼くらいだ。
優しい言葉なんていつぶりにかけて貰えたか、記憶を辿っても思い出せなかった。ミニ扇風機を受け取る時に触れた彼の手は私よりも大きくて少しカサついていた。誰かと手が触れ合うのだっていつぶりかわからなかった。不覚にも、ぽろりと涙をこぼしてしまった。
「えっ……何、どしたの? 俺、余計なことしちゃったかな」
「ちが、違うんです。私……」
涙がこんなに簡単に出てしまうなんて、恥ずかしくて死にそうだった。
「名前は?」
「加賀利…です。加賀利咲菜子」
「咲菜子ちゃんね。俺、三ヶ瀬博生。さっさと終わらせて飯でも行かない?」
彼の笑顔はどこかあどけなくて、人と接することに臆病になっていた私の心を溶かすには十分過ぎるほど温かかった。
それからの展開は、とても早かった。
帰りに大手チェーンのファミレスで夕食を取りながら、互いのことを話した。
彼とは同い年で、同じアニメが好きだった。恋愛ドラマよりもミステリや刑事ドラマが好きことなど、共通点がたくさんみつかった。
食事の後は遅くまでゲームセンターで遊んで、気がつくと最終電車がなくなっていた。タクシー代がないと言う彼に、アパートに泊まっていってと自ら提案した。
断られたらどうしようという不安がなかったわけではないが、彼はきっと断らない――そう確信させるだけの熱量を感じていた。
博生は二つ返事で泊まることになった。一人暮らしの私の部屋には客用の布団もなければソファもない。
だから一緒に寝た。
当然のように体を重ねた。
――軽い……私ってこういう子だったんだ。
そう思いながらも後悔はしなかった。
それから数ヶ月経った今、博生は私の部屋に入り浸りだ。家族との折り合いが良くないとのことで、実家には時々荷物を取りに帰る程度だ。あまり立ち入らな方がいい気がして、私から詳しく訊くことはしていない。彼に嫌われるのが怖いから。
現在、博生は働いていない。彼曰く、パチンコとスロットで稼いでいるということだが、それが仕事と呼べるものなのか、どのくらいの収入があるのか私は知らない。家賃も水道光熱費も食費も全部、私が支払っている。私のアパートなんだから当然といえば当然なんだけど、やっぱりフリーターの身で二人分の生活費を賄うのはキツい。
もし私に友達がいたら……恋人なんだから半分出してもらいなよってアドバイスしてもらえたりするのかな。
残念ながら友達と呼べるような人は私にはいない。
高校を卒業後、特に目的もなく上京して職を転々としているから――いや、他人との関係を築く能力――所謂コミュ力がほぼゼロに等しいからだ。
――けど、博生と私は恋人ってことでいいんだよね……?
そんな不安がいつも付き纏う。
だけど、ブロッコリーとミニトマトを添えたほかほかの黄色いオムライスを想像すると自然と幸せな気分になってきた。
――チキンライス、ムネ肉でいいかなあ。モモは高いし……でも、やっぱモモにしよう。喜ぶ顔見たいし。そうだ、アイスも買って帰ろう。
足取り軽く、私はスーパーへと向かった。
失職したことも新興宗教の勧誘がしつこかったことも、若くして亡くなった可哀相な女の子のことも頭から追い出して、香り高いコーヒーから立ち上がる湯気を眺め何も考えずにぼーっとしたい。
私はいつもカウンター席の一番端に座ることにしている。
大抵の店のカウンターは一人当たりのスペースが狭く窮屈だが、この店はゆったりと空間を保ってあるため他人と肩と肩が触れたり目が合って気まずい思いをすることがない。ここで頭を空っぽにしてコーヒーを飲むのが私のお気に入りの時間なのだ。
「あ……」
いつものコーヒーと日替わりのケーキを注文して意気揚々と席へと向かったが、目当ての席には
先客がいた。この店に通い始めてもう半年になるけれど、初めて見る男性客だった。
座っていてもわかるスタイルの良さについ釘付けになる。シンプルな
すらりと長い脚はシューズのつま先まで美しい。横顔の額から鼻筋のラインが美しい。緩やかなウェーブのかかった黒髪もまた艷やかで美しい。残念なのは、少し長い前髪で目の部分が隠れてしまっていることだ。瞳もきっと美しいはずだ。
――いや待って。私ったらこの数秒間に何回美しいって思った?
苦笑しながら別の席に座った。
あの席に座れないのは残念だけどイケメン拝めたし、ま、いっか。
しかしこの男性、綺麗すぎてなんだか違和感があった。
無機――生命を有さない、陶器の置き物だとか絵画のような印象を覚えたのだ。
まるで、幽霊……みたいな。
でもまあ、イケメンだからいっか。
実際のところ、生きていようがいまいが関わらなければ問題はない。
のんきにコーヒーから立ち上がる湯気を吸い込み香りを楽しんで、一口目を口に含んだ。いつもと同じ、おいしいコーヒーに安心する。次はケーキだ。今日のケーキはオレンジピール入りのパウンドケーキだ。甘酸っぱいオレンジの香りが鼻孔《びこう》をくすぐる。口に運ぶとしっとりとした優しい甘さが口内に広がった。
「んー……おいし」
思わず声に出してしまう。
幸せだ。霊が見えたって彼らの声が聞こえたって、この時間が私を癒してくれる。
そんなささやかな幸せを噛み締めているところに、またも霊は現れた。
「はあ……」
一言に霊といっても、それぞれ違う。声だけで姿が見えない霊、生きているように見える霊、死んだ時の状態を留めている霊――十人十色というのだろうか、本当、いろんな霊がいる。
今ここに現れたのは黒い霧か靄のように漂う、形のあやふやなものだった。
残留思念っていうのかな、強い気持ちの残滓が消えずに漂っている感じ。
私はいつものように無視することにして目を逸らした。せっかくの至福の時間を霊になんか邪魔されたくない。
だけど、うまくやり過ごせなかった。
急に耳鳴りがしてきた。カップを持つ手が震える。冷や汗とも脂汗ともつかぬものが背筋を伝い、指先から体が冷えていくのがわかる。
モヤモヤした霊体は何もしてこない。曖昧な輪郭で目も口もないのに、こっちを見てる。笑ってる……そう感じた。
落ち着こう、落ち着こうと自分に言い聞かせても、動悸と息苦しさが襲う。なんかいつもと違う……?
――たすけて、誰か。
耳に水が入った時のような閉塞感に苛まれていると、耳元で誰かが囁いた。
「息をして」
「え……?」
涙目のまま振り返ると、傍らに男性が立っていた。私のお気に入りの席に座っていた男の人だった。
「ゆっくり、吸って吐いて。繰り返して」
彼は私の横について、深呼吸するように促した。
普段なら他人に距離を詰められるとそれだけでストレスを感じるのに、全く不快に思わなかった。むしろ、体がじんわりと温まっていくような心地良さが私を包む。
隣で自分に視線を注ぐ男の顔を、私はまじまじとみつめた。艶のある黒髪に健康的な肌、すっと通った鼻筋に薄い唇、長い睫毛に切れ長の瞳――私の考える美男の条件を揃えた容姿だ。
切れ長の瞳と目が合った。
「イケメンだ……!」
思ったことが声に出てしまった。
「あ、すす、すみませ、えっと……」
慌てて取り繕うと彼は「変わってないな」と微笑んだ。
「え?」
「前も同じことを言われた」
以前……? 会ったことがあるの?
「思ったよりも元気そうで安心したよ。約束どおり迎えに来たよ。きれいになったな、咲菜子」
――私の名前、知ってる……?
ますますパニックに陥ったが、ここでスマートフォンが鳴って我に返った。
「あの、え~と……そのっ、し、失礼します!」
口癖になっているフィラーを連発しながら席を立ち、私は店を飛び出した。
「なんなの、いったい……」
路上で独りごちた。
あんなイケメン、会ったら絶対覚えてる。忘れるはずない。
いや、それよりも気になるのはあの黒いモヤモヤの霊体だ。ああいうのは何度か見たことがある。ほうっておけば自然と消えていく残留思念、みたいなものだと思う。でもさっきのあれは、あきらかに私を見て何か言おうとしていた気がする。
死んだ人の気持ちなんてわからない。生きてる人の本心だってわからないことが多いんだもん。
深く考えるのはやめにして、私は帰路についた。
心残りはコーヒーとケーキだ。
てか、さっきスマホ鳴ったよね。
バッグの中からスマートフォンを取り出すと、メッセージが一件届いていた。
『オムライス食べたいな』
何とも脳天気なメッセージに救われた気がして、クスッと笑ってしまう。
送り主は、私の恋人だ。
恋人……のはずだ、たぶん。
彼との出会いは今年の夏――猛暑の中、栄養ドリンクのサンプル配りのアルバイトをしていた時だった。暑さでどうかなりそうで、さっさと割り当てられたドリンクを配って帰りたかった。
――霊はいいなあ、死んでるから暑さとか感じないんだろうな。
行き交う生者に紛れてうじゃうじゃと彷徨う死者の霊を横目に見ながら、ため息まじりに息を吐いた。
この頃の私は妙に生きるのが面倒で、漠然とした希死念慮に捉われていた。
虚ろな顔でドリンクを配っていると、ぐう、と腹が鳴った。
――生きてたらお腹すくし、食べるにはお金が要るし、本当に面倒くさい……。
「ダイジョブ?」
突然、生きた人間から声をかけられた。
「え」
「これ貸したげる。熱中症にならないように、ね」
携帯用の小さな扇風機を差し出してくれたのは、同じドリンク配りの男性スタッフだった。
明るい茶髪が印象的な私と同じくらいの背丈、馴れ馴れしいとさえ思える態度と言葉遣いだったが、気にならなかった。
だって、この世界で誰が私が熱中症にならないか心配してくれる? きっと九州の山奥に住むおばあちゃんと、この彼くらいだ。
優しい言葉なんていつぶりにかけて貰えたか、記憶を辿っても思い出せなかった。ミニ扇風機を受け取る時に触れた彼の手は私よりも大きくて少しカサついていた。誰かと手が触れ合うのだっていつぶりかわからなかった。不覚にも、ぽろりと涙をこぼしてしまった。
「えっ……何、どしたの? 俺、余計なことしちゃったかな」
「ちが、違うんです。私……」
涙がこんなに簡単に出てしまうなんて、恥ずかしくて死にそうだった。
「名前は?」
「加賀利…です。加賀利咲菜子」
「咲菜子ちゃんね。俺、三ヶ瀬博生。さっさと終わらせて飯でも行かない?」
彼の笑顔はどこかあどけなくて、人と接することに臆病になっていた私の心を溶かすには十分過ぎるほど温かかった。
それからの展開は、とても早かった。
帰りに大手チェーンのファミレスで夕食を取りながら、互いのことを話した。
彼とは同い年で、同じアニメが好きだった。恋愛ドラマよりもミステリや刑事ドラマが好きことなど、共通点がたくさんみつかった。
食事の後は遅くまでゲームセンターで遊んで、気がつくと最終電車がなくなっていた。タクシー代がないと言う彼に、アパートに泊まっていってと自ら提案した。
断られたらどうしようという不安がなかったわけではないが、彼はきっと断らない――そう確信させるだけの熱量を感じていた。
博生は二つ返事で泊まることになった。一人暮らしの私の部屋には客用の布団もなければソファもない。
だから一緒に寝た。
当然のように体を重ねた。
――軽い……私ってこういう子だったんだ。
そう思いながらも後悔はしなかった。
それから数ヶ月経った今、博生は私の部屋に入り浸りだ。家族との折り合いが良くないとのことで、実家には時々荷物を取りに帰る程度だ。あまり立ち入らな方がいい気がして、私から詳しく訊くことはしていない。彼に嫌われるのが怖いから。
現在、博生は働いていない。彼曰く、パチンコとスロットで稼いでいるということだが、それが仕事と呼べるものなのか、どのくらいの収入があるのか私は知らない。家賃も水道光熱費も食費も全部、私が支払っている。私のアパートなんだから当然といえば当然なんだけど、やっぱりフリーターの身で二人分の生活費を賄うのはキツい。
もし私に友達がいたら……恋人なんだから半分出してもらいなよってアドバイスしてもらえたりするのかな。
残念ながら友達と呼べるような人は私にはいない。
高校を卒業後、特に目的もなく上京して職を転々としているから――いや、他人との関係を築く能力――所謂コミュ力がほぼゼロに等しいからだ。
――けど、博生と私は恋人ってことでいいんだよね……?
そんな不安がいつも付き纏う。
だけど、ブロッコリーとミニトマトを添えたほかほかの黄色いオムライスを想像すると自然と幸せな気分になってきた。
――チキンライス、ムネ肉でいいかなあ。モモは高いし……でも、やっぱモモにしよう。喜ぶ顔見たいし。そうだ、アイスも買って帰ろう。
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