二面性男子の大恋愛

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前編

王子様

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 翌日のお昼も先にリョウジと二人で席に着いてコウちゃんのことを待っていた。
 現れたコウちゃんはまたどこか浮かない表情をしていた。

「長瀬くん、どうしたの?」
「え?」
「なんかちょっと元気ない?」
「いや……うーん」
「え、なに?どうしたの??」
「今、二年生の先輩に生徒会主催の演劇に出てくれって誘われて……」
「すごい!!何の役?」
「……」
「え、何で言い淀むの??変な役なの?!」
「……王子様役だって」
「ピッタリじゃん!!」「ははっ王子様!」

 バカにしたリョウジの声と興奮した俺の声が重なった。

「なんで!王子様ピッタリだろ!!」
「え~長瀬って王子様っぽくないだろ」
「リョウジに何がわかるんだよ!!コウちゃんは容姿がいいだけじゃなくて頭もいいし、優しいし、空手やってる時すんごいかっこいいから」
「……コウちゃん?」

 リョウジに呼び方を指摘されて、どんどん顔が熱くなった。
 恐る恐るコウちゃんの顔を見るとコウちゃんも顔が赤くて、初めて見るコウちゃんの姿にちょっと感動した。

「ごめん……ちっちゃい頃の呼び方……馴れ馴れしいよね……」

 恐る恐るコウちゃんの様子を伺ってみた。

「いや、何で前みたいに呼んでくれないのかなって思ってたから嬉しい……」
「ほんと?じゃあまたコウちゃんって呼ばせてもらう」
「うん、タケくん」

(あ、コウちゃんも昔の愛称で呼んでくれた)

 コウちゃんと二人で笑顔を向け合った。

「なんかお前らのやり取りムズムズする」
「野暮なこと言わないでよ」

 揶揄ってくるリョウジをジトッと睨みつけた。
 そして話題を戻そうとコウちゃんの方に視線を向けた。

「コウちゃん演劇出たくないの?」
「恥ずかしいかな……」

 コウちゃんって昔から道場でも目立ってたし代表挨拶もしてたから、そういうのは慣れっこかと思ってたけど恥ずかしがったりするんだ。

「タケちゃん、長瀬の王子様役見たそうな顔してる」

リョウジが揶揄う表情を向けてきた。

「……無理強いしたくないよ」
「タケくん……見たい?」
「え、うん……!王子様の格好してるコウちゃんすごく美しくてかっこいいと思う…!!」

 興奮ぎみに伝えるとコウちゃんは目をパチパチさせた。
 コウちゃんを驚かせるほどの自分の熱意に徐々に恥ずかしくなってきた。

「女子みたいなこと言ってるね、俺……」

 けど女の子たちみたいにイケメンにときめきたいって言うのとは何か違う……リョウジもそれなりにイケメンだけどリョウジのそんな格好は笑っちゃうと思う。
 多分……俺は……コウちゃんのいろんな姿が見たいのかも。王子様の格好をビシッと着こなすコウちゃんも、お芝居をしてるコウちゃんも、いろんなコウちゃんが見たい。

「俺……王子様役引き受けようかな」
「え?!コウちゃん、無理してない??」
「してないよ。積極的になるのも悪くないよね」
「うん……でも、無理しないでね?」
「しないよ」

⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺

 コウちゃんが王子様役を引き受けることになってから打ち合わせや稽古で忙しくなって全然顔を合わせることがなくなった。
 コウちゃんは舞台に誘ってくれた溝端先輩とよく行動してるらしい。
 友達が少ない俺の耳にも噂が届くくらい溝端先輩は有名人だ。SNSでダンス動画を上げていてファンがたくさんいるらしい。全校集会などで集まる時もいつも彼がどこにいるのかわかるくらい目立つし、背は小柄で顔も中性的で「芸能人みたいだ~」っていつも関心してしまう。
 舞台はそんな溝端先輩がお姫様役で、コウちゃんが王子様役だそうだ……。

(絵になる二人だよな……)

「俺と大違い……」
「何が?」
「うわ?!リョウジ」
「最近ため息ばっかり」
「リョウジ、みんなは?」

 クラスでも文化祭の話し合いが行われた。リョウジのコミュニケーション能力の高さが発揮されて、今じゃクラスの中心人物だ。
 やれ女子がたくさん来てくれるようにカフェにしようだとか、やれネコカフェなら集客できるだとか、みんなと一緒に盛り上がってた。
 俺は外野でリョウジの楽しそうな姿を眺めていたら、気づいたらコウちゃんのことを考えていた。

「みんなは売店行った。タケちゃん早く飯食おうぜ」
「うん」
「今日も長瀬来ないの?」
「文化祭までは来ないんじゃないかな……いや、それ以降も来るかわからないけど」

 もしかしたら溝端先輩と急接近して俺と一緒にいることとかどうでもよくなるかもしれないし……。

(俺ってこんなマイナス思考だったっけ……?)

(恋って恐ろしいな……)

「タケちゃん、文化祭一緒に回ろうね」
「あ……」

 コウちゃんに確認した方がいいかな?
 でも、コウちゃんの舞台観に行くから一緒に回る時間ないよな……。

「うん、一緒に回ってくれると助かる」
「なんかよそよそしい」
「そう?」
「長瀬の王子様観に行くんでしょ~」
「うん、俺が見たいって言っちゃったから」
「キスシーンあったらどうする?」
「……あるのかな?」
「さぁ?」
「……あんま見たくないな」
「へぇ」
「米山!俺らも交ざっていい?」

 売店に行ってたクラスメイトたちが俺たちの元に来た。

「タケちゃんいい?」
「うん、どうぞ!」
「ありがとう!」

 リョウジがいる所には自然と人が集まる。
 みんなでワイワイするこの空気が懐かしく思えて嬉しい気持ちになった。
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