二面性男子の大恋愛

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前編

もう一人と再会

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(昨日遅くまで一緒だったのに、もう会いたい……)

 コウちゃんに恋してるって意識したら感情の歯止めが効かなくなりはじめた。
 今までちゃんと恋したことないから、恋したらこんなに自分が制御できなくなるんだって驚いてる。
 今も一人でニヤニヤしないように表情管理を頑張ってる。

(今日は体育があるし!コウちゃんと一緒にいられる時間がいつもより、ちょっとだけ長い)

(……クラスが同じならもっともっと長く過ごせるのにな~)

(でも、同じクラスだと授業集中できないかもな)

 頭の中をコウちゃんでいっぱいにしていたら、二時間目の授業中教室のドアが突然開いた。

「?!」

 俺以外のクラスメイトも肩が揺れるくらい驚いていた。
 入ってきたのは黒染めしましたって一目でわかる髪色の、制服をちょっと着崩した青年だった。
 前髪がやや長いし俯いてるから顔がよく見えない。

(え、遅刻……)

 うちは進学校だから優等生が多い。
 遅刻とか風紀違反とか内申に響くことしてる生徒はほとんどいない。

(この子、入学からずっと不登校……というか停学になってた後ろの席の子か……)

 俺は妙に緊張してしまった。

(絡まれないように穏便にやり過ごそう……)

 そう思って彼が通りすぎる前に視線を下に向けた。

「あれ?タケちゃん?」
「……え、」
「俺だよ」
「え、リョウジ……!」

停学処分の問題児は俺の幼馴染のリョウジだった。

「米山、早く席に着け」
「はーい」

 適当に受け答えして俺の後ろの席に着席したようだった。

「タケちゃんもここ入学したとか運命じゃん」

 授業が終わると速攻リョウジが絡んできた。
 クラスメイトたちは不良となるべく関わらないようにしたいからか目を反らしている。
 リョウジはそんなクラスメイトの反応を気にせずに俺の机に腰かけて嬉しそうに俺を見ていた。

「確かにすごい縁だね。ていうか、なんで停学になってたの?」
「兄貴のタバコがたまたま鞄に入ってたんだよね」
「……リョウジ吸ってるの?」
「吸ってないって。口臭チェックする?」
「やだよ」
「タケちゃんとこも離婚したよね?」
「あ、うん……苗字変わってるってことはリョウジも?」
「うん。今社会人になった上の兄貴と二人暮らししてんの」
「そうなんだ……お互い大変だね」
「タケちゃんがいるなら学校生活楽しくなるな」
「えぇ……お前を楽しませる自信ないけど」
「タケちゃんが隣にいてくれるだけで俺は楽しいよ」

 彼は俺のもう一人の恩人だ。
 幼稚園でも小学校でもリョウジの周りには友だちが溢れてた。
 そんなリョウジが仲間に入れてくれたから社交性のない俺は孤独じゃなかった。
 リョウジもコウちゃんも、パッとしない俺にも分け隔てなく接してくれる良い人なんだ。



「宮島くん、一緒に組もう」

 体育の準備体操でいつも通りコウちゃんが声をかけてきてくれた。
 けど……俺がコウちゃんと組んじゃうとリョウジは組んでくれる人がいない。

「えっと……、長瀬くん本当ごめん!!今日……別の子と組んでもいい?」
「え……」
「いつも誘ってもらってるのにごめん!今日から登校してきた幼馴染がいて、まだクラスに馴染めてないから俺が一緒に組んであげたいなって……」
「……」

 コウちゃんが無表情で見つめてくるから、取り繕って言葉を並べてしまった……。
 そこにリョウジがジャージに手を突っ込んでフラフラやってきた。

「タケちゃん一緒に組も~……って、あれ?もうペア決まってた?」
「あー……」
「わかった。俺別の子と組むよ」
「ごめん、本当ごめん」
「気にしすぎだよ」
「ありがとう」

 コウちゃんは別の子に声をかけるとすんなりペアができていた。

(いつも声かけてくれてるのに……薄情者って思われたかも……気にしすぎって言ってくれたから大丈夫だよね?)

 体育も別グループになったし授業終わりもコウちゃんはクラスの友だちと帰っちゃったし、お昼休みまでコウちゃんと話せるタイミングがなかった。

(お昼休み来てくれなかったらどうしよ……)

 考えこんでるとリョウジが椅子とコンビニ袋を持って俺の席にやってきた。

「タケちゃん一緒に食べよ」
「あー、うんっ、」

 リョウジがいたらコウちゃん入りづらいかな……いや、リョウジを除け者にできないし……。
 リョウジは昔いつも俺を仲間に入れてくれたから。

「宮島くん」
「あ、長瀬くん!」

 振り返るとコウちゃんが無表情で立ち尽くしていた。無表情だからかいつもの柔らかい雰囲気と違って見えた。
 気づいたらリョウジとコウちゃんがお互いに見つめ合っていた。

「長瀬くん、ごめん!俺の友だちも一緒に食べてもいいかな?」
「……うん、いいよ」

 ニコッと笑ってくれたけど何か緊張感が拭えない。
 リョウジの机と俺の机をくっつけて、コウちゃんがいつもの席に座って三人で机を囲んだ。

(俺が空気を和ませなきゃ……!!)

「長瀬くん、こちら俺の幼馴染のリョウジ……今苗字なんだっけ?」
「米山」
「米山リョウジ。リョウジ、こちら俺の昔馴染みの長瀬くん」
「……」
「長瀬くんね~、って昔馴染みって何?」
「昔通ってた空手道場の友だちなんだ」
「あぁタケちゃん行きたくないって泣いてたやつ?」
「別に行きたくなかったのは最初の方だけだし」
「……二人はそんな昔からの付き合いなの?」
「そう。リョウジとは幼稚園と小学校が一緒だったんだ」
「中学は違うの?」
「うん、リョウジとも高校で再会したんだよね」

 リョウジは会話を気にせずコンビニで買ってきたおにぎりを取り出した。

「リョウジそれで足りるの?ていうか毎日コンビニ?」
「んー朝準備するのめんどーだし」
「確かに」
「タケちゃんは弁当自分で準備してるの?」
「ふふっ実はこれ俺が作ったやつなんだよ」
「え、タケちゃんの手作り?!食わせて!!」
「いや、コンビニ飯の方が美味しいよ!!」
「俺も食べたい」

(えぇ……コウちゃんまで……)

「どうぞ……本当に美味しくないよ。昨日の残りだから固くなってるし」

 俺はお弁当箱を二人に差し出した。

「いただきます」

 まずコウちゃんが俺の弁当からきんぴらごぼうをつまんで上品に口へ運んだ。

「美味しい、この味付け好き」
「本当に?えへへ」

 コウちゃん、褒めてくれた……しかも味付け好きって言ってもらえた。
 じゃあさ、ご飯の好みが合うなら外食したりするのも一緒に楽しめるのかな。
 いや、飛躍しすぎだな……図々しいこと考えちゃった。

「タケちゃん、俺箸ないからあーんして」
「「は?」」

 リョウジの要求にも驚いたけどコウちゃんと声がハモったのにも驚いた。

「ごめん。男同士でそういうことするの見たことないから驚いた」

 コウちゃんが苦笑いでそう言った。

「タケちゃんは抵抗ないでしょ?回し飲みとか昔したじゃん」
「はいはい」

 俺は呆れながらリョウジの口にきんぴらごぼうを運んだ。
 リョウジはモグモグしながら幸せそうな笑みを浮かべた。

「うま」
「ありがとう」

 俺はふと机に飲み物を出してないことに気づいて鞄から取り出した。

カランッ……

 鈍くさいけど肘が箸に当たって床に落としてしまった。

(あー……やっちゃった……)

「箸洗ってくる」
「いってらっしゃい」

 コウちゃんが笑顔でそう言ってくれた。
 箸を水道で洗って教室に戻ると二人が何か真剣そうな表情で話してた。

「な、なんの話~?」

(何か今の切り出し方、友だちって感じ!)

(中学の時は丸1日声を1度も出さない日とかあったのに、高校生活すごい!!)

「タケちゃんはおバカさんって話してた」
「え?!」

 リョウジはそういうの思ってても気になんないけど、コウちゃんにまでそう思われたらちょっとショックだな……。

「俺はそんなこと思ってないよ」
「よかった……」



⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺



 放課後、コウちゃんが教室にやって来た。コウちゃんが何か警戒してるみたいに視線を彷徨わせていた。

「どうしたの?」
「昨日、一緒に帰ろうって約束したでしょ?」
「うん!一緒に帰ろう!」

(社交辞令じゃなくてよかった~)

 コウちゃんの隣を歩きながら浮かれていた。嬉しくなってコウちゃんの様子を伺ったらコウちゃんは浮かない表情を浮かべていた。

「どうしたの?」
「え?」
「何かあった?何かいつもと違う……」
「……ううん。ちょっと今日は疲れただけ」
「……そっか。何かあれば俺がいつでも話聞くよ」
「うん。ありがとう」

 ちょっとだけコウちゃんの顔色が良くなってホッとした。

「今日、体育の時間もお昼もごめんね」
「……」
「リョウジ社交的だからすぐ友だちできると思うから、それまで付いててあげてもいいかな?」
「……うん。けど、」
「どうしたの?」
「宮島くんの隣取られちゃったみたいで淋しいな」
「え?!」

(淋しいって思ってもらえるような存在なんだ……俺)

(いや、浮かれちゃダメだ)

「俺、友達少ないから隣はいつでも空いてるよ!……へへっ」

 コウちゃんの口説き文句に上手い返しができなくて照れてしまった。……恥ずかしい。

「……俺には重要なんだよ」
「?」

 コウちゃんが足を止めたから俺も歩みを止めた。

「米山には渡したくないな」
「へ、え、」

 コウちゃんが思いの外神妙な顔で俺にそれを伝えてきた。俺はそれを勘違いしそうになってみるみるうちに顔が赤くなっていった。

「……宮島くんは俺より米山がいい?」
「え、そういうの考えたことない……!比べられないっていうか、」
「……」

 何か恥ずかしくてコウちゃんの顔が見れなくて勢いよく俯いた。俺はそのまま言葉を続けた。

「俺にとっては2人とも俺を一人ぼっちにしないようにしてくれた恩人だから、どっちも大切にしたい」
「……」
「けど、リョウジに対する気持ちと長瀬くんに対する気持ちは違うから……」
「どう違うの?」

 コウちゃんの声が珍しく鋭くて、咄嗟に表情を確かめると険しく歪んでいた。

(コウちゃん、リョウジに隣取られたくない、渡したくないって言ってた……不安なのかな?)

 何となく思い出したのは、道場に通ってた頃コウちゃんのお母さんが妊婦さんだった記憶と、コウちゃんが弟ができることに不安を感じていた記憶。

『おにいちゃんになるから……しっかりしなさいって』

 空手が強くて、頭も良くて、優しくて、完璧に見えるけど、寂しがり屋で独占欲もあって心は俺と変わらないくらい脆い部分があるのかも。

(俺はそこも大事にしてあげたい)

 コウちゃんとリョウジを想う気持ちは全然別物なんだ。それをコウちゃんに伝えたかった。

「あのね、その……」
「……」
「なんていうか、リョウジはみんなでバカ騒ぎした記憶とか、何か妙に馬が合う友だちって感じなんだけど……長瀬くんは人生の節目にいつも胸の中にいてくれた人って感じなんだよね」

 コウちゃんの顔の強ばりがふっと抜けた。

「長瀬くんのことは他の誰かと比べられないくらい特別に想ってるよ……」

 『単なる友達』に伝えるにしては重すぎる言葉だけど、コウちゃんにはちゃんと伝えたかった。
 コウちゃんが泣きそうな笑顔を浮かべたから思わず手を握った。

「俺も……宮島くんのこと特別に想ってる」

 コウちゃんが手を握り返して伝えてくれた。
 俺は一生懸命笑顔を向けた。

(……コウちゃんはつい最近まで俺のこと忘れてしまってたし、俺の想いの重さとは全然違う)

 コウちゃんに自分の恋心や孤独だった期間の淋しさをぶつけたくない……コウちゃんと末永く関係が続くならずっと友達同士でいたい。

(こんな素敵な男子と恋が実るわけないしな……)

 コウちゃんにバレないようにがっくり肩を落とした。
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