18 / 26
続•リップサービス【近下視点】
新学年がはじまって……
しおりを挟む 手紙の返信を携えた先触れを出していたお蔭で、私達がソルツァグマ修道院へ着いた時にはサリューン枢機卿、メンデル修道院長、ファブリス司祭達、エヴァン修道士他数人の修道士達と共に出迎えてくれていた。
ヴェスカル、グレイ、イドゥリースが先に下車。私はグレイの、ついて来たメリーはイドゥリースのエスコートで馬車を降りると、彼ら全員聖職者の礼を取って深々と頭を垂れる。
「聖女マリアージュ様、そしてグレイ猊下――お久しゅうございます。エヴァン修道士とファブリス司祭よりマンデーズ教会にて起こされた奇跡を聞き及びましたが、無事にお戻りになられた事に太陽神への感謝を」
サリューン枢機卿の口上に、私とグレイも返礼をした。
「ファブリス司祭、他の方々も。お元気でしたか?」
「お陰様にて、大変良くして頂いております」
「それは良かったわ。メンデル修道院長、私の我儘で急な話になったにも関わらず、快く受け入れて下さり感謝致します」
「聖女様のお頼みとあらば。寧ろ、奇跡の話を当事者から直接聞けて役得にございました」
「ヴェスカルはこちらへ」
「はい」
エヴァン修道士が声を掛けたことにあれ? と思う。そう言えばべリーチェ修道女の姿が無い。
そんな疑問が顔に出ていたのか、エヴァン修道士は「既にヴェスカルは学び終えましたから」と言う。
「聖女様、新年の儀にも関係あるのですが、ヴェスカルの事でお話が」
曰く、ファブリス司祭達と同時にヴェスカルとエヴァン修道士も位階を上げるという事になったらしい。
ヴェスカルは『聖女専属侍祭』、エヴァン修道士は『聖女専属書記』という特別位階だという。
どういうことか訊けば、私専属というだけでやる事自体は今までと大して変わらないんだとか。
ヴェスカルは私の小間使い的な位置付け、エヴァン修道士も聖女の記録専門職になる。
役職名が付く、それだけである。
ただ二人共権限的には司祭にも匹敵するそうでこれまでにない特別職。正装も普通の聖職者達とは違うものになっており、今日はそのサイズ合わせと本番練習があるという。
「位階をお授けになるのは聖女様ですから、また後程お会いしましょう」
エヴァン修道士とヴェスカルと別れた後、私達も行きましょうということになり歩き出す。
今気が付いたが、修道院を囲むように立っている騎士達に気付いた。王宮の制服を着ている。恐らくサリューン枢機卿の警護だろう。今日は流石に修道院は貸し切り状態であるようだ。
向かった先の聖堂で新年の儀の一連の流れを説明される。第一王子アルバートとメティ、王族、貴族達、ファブリス司祭達聖職者、民衆……祝福対象はてんこ盛りである。
新年の祝いで大体的にお披露目するのが効果的なのだろうから仕方ないが。
聖句を覚え直し、途中でエヴァン修道士とヴェスカルを加え。リハーサルを数回終えた時には既に私はヘトヘトになっていた。
***
お腹が鳴った昼過ぎ。漸くそれなりになってきたところでべリーチェ修道女達女性陣がランチを持って来てくれた。
ああ、彼女達の背後に後光が見える……。どうせなら一緒に食べようと誘って近況などを聞くと――
「え、メイソンの?」
「はい。ヴェスカルの手も離れましたし」
何と、べリーチェ修道女はメイソンの世話をしてやっているらしい。今は出家したとは言え、メイソンは元大貴族のドラ息子である。
調き……もとい、上下関係をみっちり教え込んだ私と違い、べリーチェ修道女には横柄な態度を取っている可能性がある。
「大変よね?」
首を傾げて訊ねると、「ええ、まあ……」と苦笑交じりの微笑みを返された。
「聖女様がマンデーズ教会に向かわれた事を知った時は、また置いて行かれたと暫く駄々を捏ね不貞腐れていて手を焼きましたが――何とか言い含めて仕事を与えてみたら、最近やっと聖職者としての自覚が出て来たようで真面目に働いておりますわ」
何と、子供達を教えているんですよ!
「グッ、ゲホゲホッ……」
その言葉の衝撃たるや。
私は口に含んだシチューを危うく噴き出しかけた。
子供達を教える? 教師? あの馬鹿で変態な雄豚奴隷メイソンが!?
「嘘だ。信じられない……」
幻聴を疑っていると、愕然とした様子で震え声を出すグレイ。全く同感だ。
驚かせる事に成功したとでも言わんばかりにクスクスと笑うべリーチェ修道女。
「猊下、本当ですわ。そろそろ午後の授業が始まる所でしょう。ご覧になられますか?」
どうしよう、子供達が凄く心配なんだけど。
リハーサル……でも、少しだけなら見ても良いかしら?
凄く気になるんだけど。
ちらり、とサリューン枢機卿やメンデル修道院長を見る。
すると、苦笑いを浮かべながら「賢者様の聖句のおさらいをしたいですし、半時程度なら構いませんよ」と許可が出た。
どこかげんなりした恨めしそうな様子でこちらを見るイドゥリース、それを励ますメリー。
彼らに頑張れとエールを送り後でねと手を振って、授業が行われている教室に行ってみる事に。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
べリーチェ修道女の案内で向かった先――そこは私が講義をしたこともある古びた大きな石板、もとい黒板のある部屋だった。
子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。怖いもの見たさで、私はごくりと唾を飲み込んだ。
ヴェスカル、グレイ、イドゥリースが先に下車。私はグレイの、ついて来たメリーはイドゥリースのエスコートで馬車を降りると、彼ら全員聖職者の礼を取って深々と頭を垂れる。
「聖女マリアージュ様、そしてグレイ猊下――お久しゅうございます。エヴァン修道士とファブリス司祭よりマンデーズ教会にて起こされた奇跡を聞き及びましたが、無事にお戻りになられた事に太陽神への感謝を」
サリューン枢機卿の口上に、私とグレイも返礼をした。
「ファブリス司祭、他の方々も。お元気でしたか?」
「お陰様にて、大変良くして頂いております」
「それは良かったわ。メンデル修道院長、私の我儘で急な話になったにも関わらず、快く受け入れて下さり感謝致します」
「聖女様のお頼みとあらば。寧ろ、奇跡の話を当事者から直接聞けて役得にございました」
「ヴェスカルはこちらへ」
「はい」
エヴァン修道士が声を掛けたことにあれ? と思う。そう言えばべリーチェ修道女の姿が無い。
そんな疑問が顔に出ていたのか、エヴァン修道士は「既にヴェスカルは学び終えましたから」と言う。
「聖女様、新年の儀にも関係あるのですが、ヴェスカルの事でお話が」
曰く、ファブリス司祭達と同時にヴェスカルとエヴァン修道士も位階を上げるという事になったらしい。
ヴェスカルは『聖女専属侍祭』、エヴァン修道士は『聖女専属書記』という特別位階だという。
どういうことか訊けば、私専属というだけでやる事自体は今までと大して変わらないんだとか。
ヴェスカルは私の小間使い的な位置付け、エヴァン修道士も聖女の記録専門職になる。
役職名が付く、それだけである。
ただ二人共権限的には司祭にも匹敵するそうでこれまでにない特別職。正装も普通の聖職者達とは違うものになっており、今日はそのサイズ合わせと本番練習があるという。
「位階をお授けになるのは聖女様ですから、また後程お会いしましょう」
エヴァン修道士とヴェスカルと別れた後、私達も行きましょうということになり歩き出す。
今気が付いたが、修道院を囲むように立っている騎士達に気付いた。王宮の制服を着ている。恐らくサリューン枢機卿の警護だろう。今日は流石に修道院は貸し切り状態であるようだ。
向かった先の聖堂で新年の儀の一連の流れを説明される。第一王子アルバートとメティ、王族、貴族達、ファブリス司祭達聖職者、民衆……祝福対象はてんこ盛りである。
新年の祝いで大体的にお披露目するのが効果的なのだろうから仕方ないが。
聖句を覚え直し、途中でエヴァン修道士とヴェスカルを加え。リハーサルを数回終えた時には既に私はヘトヘトになっていた。
***
お腹が鳴った昼過ぎ。漸くそれなりになってきたところでべリーチェ修道女達女性陣がランチを持って来てくれた。
ああ、彼女達の背後に後光が見える……。どうせなら一緒に食べようと誘って近況などを聞くと――
「え、メイソンの?」
「はい。ヴェスカルの手も離れましたし」
何と、べリーチェ修道女はメイソンの世話をしてやっているらしい。今は出家したとは言え、メイソンは元大貴族のドラ息子である。
調き……もとい、上下関係をみっちり教え込んだ私と違い、べリーチェ修道女には横柄な態度を取っている可能性がある。
「大変よね?」
首を傾げて訊ねると、「ええ、まあ……」と苦笑交じりの微笑みを返された。
「聖女様がマンデーズ教会に向かわれた事を知った時は、また置いて行かれたと暫く駄々を捏ね不貞腐れていて手を焼きましたが――何とか言い含めて仕事を与えてみたら、最近やっと聖職者としての自覚が出て来たようで真面目に働いておりますわ」
何と、子供達を教えているんですよ!
「グッ、ゲホゲホッ……」
その言葉の衝撃たるや。
私は口に含んだシチューを危うく噴き出しかけた。
子供達を教える? 教師? あの馬鹿で変態な雄豚奴隷メイソンが!?
「嘘だ。信じられない……」
幻聴を疑っていると、愕然とした様子で震え声を出すグレイ。全く同感だ。
驚かせる事に成功したとでも言わんばかりにクスクスと笑うべリーチェ修道女。
「猊下、本当ですわ。そろそろ午後の授業が始まる所でしょう。ご覧になられますか?」
どうしよう、子供達が凄く心配なんだけど。
リハーサル……でも、少しだけなら見ても良いかしら?
凄く気になるんだけど。
ちらり、とサリューン枢機卿やメンデル修道院長を見る。
すると、苦笑いを浮かべながら「賢者様の聖句のおさらいをしたいですし、半時程度なら構いませんよ」と許可が出た。
どこかげんなりした恨めしそうな様子でこちらを見るイドゥリース、それを励ますメリー。
彼らに頑張れとエールを送り後でねと手を振って、授業が行われている教室に行ってみる事に。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
べリーチェ修道女の案内で向かった先――そこは私が講義をしたこともある古びた大きな石板、もとい黒板のある部屋だった。
子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。怖いもの見たさで、私はごくりと唾を飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
最後の君へ
海花
BL
目的を失い全てにイラつく高校3年の夏、直斗の元に現れた教育実習生の紡木澪。
最悪の出会いに反抗する直斗。
しかし強引に関わられる中、少しづつ惹かれていく。
やがて実習期間も終わり、澪の家に通う程慕い始める。
そんな中突然姿を消した澪を、家の前で待ち続ける……。
澪の誕生日のクリスマスイブは一緒に過ごそう…って約束したのに……。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

攻められない攻めと、受けたい受けの話
雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。
高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。
宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。
唯香(19)高月の友人。性格悪。
智江(18)高月、唯香の友人。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる