【本編完結】リップサービス

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リップサービス【近下視点】

俺は恋人?

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修学旅行以降、高垣と休みの日に出かけることが増えた。
けど俺たちの間に恋人らしいことは一切起きない。
手も繋がないし……キスとか、愛を伝え合うとか、一切そういう空気にならない。

以前から感じていたけど、高垣は俺との交際を『恋人』ではなく『友人の延長線』と認識してるんだと思う。

俺は高垣に恋人だって意識してもらうために『帰りたくない』って可愛らしく抱きつく作戦を実行してみた。
けど実際は……何も言えず人気のない所で急に後ろから抱きついただけになったけど……。
そしたら高垣は「何かあったの?」と心配してくれた。
向き直って正面から抱きしめ返してくれたから俺の心臓は爆発しそうなくらいドキドキした。
けど、慰めるように背中をポンポンとされただけで終わってしまった。

こんな感じで「俺ばっかり好きなんだな……」って思うことはたくさんある。
けど一番そう感じるのは高垣がイベントの度に友人を優先する時だ。
念願の文化祭、前年は遠くからしか高垣を見れなかったけど、今年は一緒にお店回れるとドキドキしていた。

なのに……

「悪い。他の子たちと一緒に回るって約束したんだ。」
「…………あ、あぁ、そ、そっか!」
「ごめん。」

(こ、恋人よりも友達優先なの?!?!)

とか、面倒くさい恋人になっちゃだめだ。
高垣にとっては俺も友人の1人にしか過ぎない。
だから他の友達との約束を守ってるってだけだ。
自分にたくさん言い聞かせたけど胸はズキズキ痛かった。

(今年も遠くから高垣の様子を見ることしかできないのか……)


文化祭当日、俺と高垣は店番すら被ってなくて、俺は文化祭だっていうのにワクワクも何もしてなかった。

(クラスメイトに不審がられるから、店番してる高垣の所にもいけないし……くそぉ……)

でも店番を交代する時に少し顔を見ることができた。

(今日はこれで満足しよう。)

文化祭終わった後も高垣たちはみんなで打ち上げとかやるんだろうな……。
一応俺恋人なのに……俺との時間なんてないんだな……。

高垣が望まないなら俺が我慢すれば、

「近下」
「はぃ?!」

卑屈になってる最中後ろから声をかけられた。
不意討ちすぎて俺の声は裏返った。

「お疲れ様。」
「え……」

高垣がペットボトルのジュースを差し出してきた。
受け取ってお礼を言おうとしたら高垣は人に呼ばれてすぐに立ち去ってしまった。

(う……嬉しい……っ)

(嬉しいよぉ!!!!)

俺は何の変哲もないペットボトルのジュースをただただ見つめていた。
そして、またたくさんの人に囲まれて楽しそうに話してる高垣の様子を遠くから見つめた。

(俺、高垣にもらってばっかりだな……)

俺は自分も高垣にお返しがしたくて同じようにジュースを買った。
もちろん高垣が好きなやつ。
クラスの出し物が終了して片付けするタイミングで高垣に渡そうと思った。
渡す機会をずっと伺ってたけど、高垣の周りは入れ替わり立ち替わり人が集まるからいつも以上に声をかける機会がなかった。

そしたら高垣の方が俺に気づいてそばに来てくれた。

「どうしたの?近下」
「……っ!」

高垣が人だかりから離れると、たくさんの視線が突き刺さった。
俺なんかが人気者の高垣を独り占めしてる……贅沢すぎると感じた。
そしたら急に周りの奴らに申し訳なくなって、早口でお礼を言ってジュースを押し付けて素早くその場を去った。

(俺、恋人って特権を乱用してるのか……?)

淋しいとかワガママなこと考えてたけど、俺は周りに比べたら高垣との時間を堪能できてるのかもしれないって気づいた。

(俺……恋人になって調子乗ってたのかもな……)

『恋人だから』って考えで高垣を縛るのはやめようって自分を戒めた。

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