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第13章 ヤーベ、王都の料理大会ではっちゃける!
閑話26 城塞都市フェルベーンの冒険者ギルド、大失態を犯す
しおりを挟むその日はいつになく依頼受理や達成報告が活況だった。
城塞都市フェルベーンの周りには魔獣が住み着く森や<迷宮>もあり、多くの冒険者が採取や討伐の依頼を受けに行っては、達成の報告のために戻ってくる。
最近ではやたらとソレナリーニの町の冒険ギルドに高ランクで品質の高い魔物の買取が多く出ているらしく、城塞都市フェルベーンでも手に入らないような素材がこちらに流れてくる。さすが辺境といったところか。俺たちも負けてはいられないところだ。
「ギルドマスター殿はおられるかっっっっっ!!!」
いきなりとてつもない大声で誰かが俺を呼んでいる。なんだ?
「北の岩山にあるというミノタウロスが住み着いている<迷宮>をぶっ潰してもよいか、確認を取りに来たっっっっっ!!」
はあ? <迷宮>をぶっ潰す?
何言ってんだ?そんなことできるわけねーだろーが・・・。
一体どんな奴がそんな夢物語を語ってるんだよ・・・。
「何なんです、あなた! いきなり大声で!」
この声は受付嬢のコビーだな。
犬人族のコビーは可愛い顔に似合わず融通が利かない頑固者だからな。
生半可な対応はしないだろう。
酒場の連中にもゲラゲラ笑われているし・・・しょーがねーやつが来たな。
まあコビーならさっさと追い返すだろう。
「不躾で済まない、無礼は承知の上なんだ。急いでいるので、ギルドマスターにミノタウロスが住み着いているという<迷宮>をつぶしてしまっていいかどうかの確認をお願いしたいのだが」
「貴方、冒険者の人? 冒険者プレートは?」
どうやらとりあえずソイツのランクを確認するらしい。
いつでも仕事が丁寧だな、コビーは。
「エ、Fランク!?」
ブッ! なんだ、そいつFランクなのか!? 駆け出しじゃねーか!
どこのバカがそんな<迷宮>ぶっ潰すとかわけのわかんねーこと言ってるんだ?
・・・それみろ、酒場の飲んだくれどもにメチャクチャ笑われてるじゃねーか。いいサカナだぜ、ホント。
「貴方、Fランクの身でありながら、ふざけているんですか? そこの依頼ボードを見てごらんなさい。ミノタウロスの討伐はBランク依頼です。まして岩山にあるミノタウロスの<迷宮>だなんて、死にに行くようなものです!」
コビーが丁寧にFランクの駆け出しに説明してくれているな。
これでミノタウロスがどれだけヤバイ敵か理解できたかな。
「だから、そのミノタウロスが住み着いている<迷宮>が無くなってしまっても問題ないか聞いているのだが?」
マジか・・・、コビーが丁寧に説明しているのに、<迷宮>が無くなっても困らないかまだ聞いてやがる・・・。いったいどんなガキなんだ?
「はっはっは、おもしれーガキだなぁ」
俺はそのガキがどんな顔をしているのか見たくなってフロアに出ていく事にした。
「あ、ギルドマスター」
コビーが困った顔をこちらに向けてくる。そりゃそうだよな。
「おい、ギルドマスターのドーリアさんが出て来たぜ・・・」
「死ぬな、あのガキ」
おいおい、俺が何をするってんだ? 人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ。
「岩山にあるミノタウロスが住み着いている<迷宮>を潰すってか?」
「ああ、それで冒険者たちの生活が困ったりしないか確認に来たんだ。そこをメインに稼いでいる連中にとっては死活問題だろう?」
コイツ・・・マジか。
実力がどうかはさておいても、<迷宮>を潰すにあたって冒険者の生活の事を心配してるのか? そんな気遣いというか気が回せる奴がこのギルド内に果たしているかどうか・・・。おっと、マジでこいつがイケそうな気がして信じかけちまったぜ。
「あの迷宮はミノタウロス以外に大した魔物もいないし、お宝もあまり出ている形跡がないから、あそこをメインに活動している冒険者はいねーな。たまにミノタウロスが<迷宮>から出て徘徊するから、近隣の村から討伐依頼がかかるくらいだな。今もそこにあるだろ、Bランクの討伐依頼書が」
「ああ、そこの受付嬢さんにも教えてもらったよ」
「ミノタウロスの討伐は単独でもBランク冒険者からの受理だ。まして<迷宮>なんてとんでもないぜ? 悪いことは言わん、やめておけ」
おもしれーやつだが、死にに行かせるにはちともったいない。
なぜ、そんなにミノタウロスの討伐にこだわるのか聞いてみるか・・・。
「その<迷宮>に何でこだわる?」
「ミノタウロスが徘徊する事により、望まれない子供が生まれてしまうと聞いた。森でミノタウロスハーフの少女たちが明日をもしれぬ生活を強いられているのを見た。ここではそんな情報は?」
コイツ、ギラつく視線を俺に向けてきやがる。
「おいおい、ここは冒険者ギルドだぜ? 魔物の情報ならともかく、保護や救援なら領主様に掛け合うかお前がギルドに依頼でもかけなよ」
「ギャーハッハ! そりゃいいや! 御大臣様だなぁ!」
チッ、馬鹿にするつもりはなかったが飲ん兵衛たちが囃し立てやがる。うるせえな。
「・・・そうか。まあ<迷宮>が無くなっても困らないならそれでいい。ミノタウロスの討伐依頼を受ける気もない。俺はミノタウロスが根城ごと処理できればそれでいいからな」
堂々と言い切りやがった。
どういうつもりだ?受理せずに戦えば依頼達成報酬もないんだぞ?
「じゃ、俺はこれで」
「ちょっと待て、お前名前は?」
なんだか嫌な予感がしてきやがった。コイツ・・・何者だ?
「俺はヤーベだ。冒険者なら、家名は不要だよな?」
振り返り、ちょっとだけニヤリとして、ヤーベと名乗ったソイツは冒険者ギルドを後にした。
「家名って・・・あいつ、貴族なのか!?」
俺は顎を擦りながら考えた。ここフェルベーンはコルーナ辺境伯の領主邸がある街でもある。変な貴族が専横出来るような街ではない。それだけは安心できるんだが・・・。
「ホントかよ?」
「Fランクだって言ってただろーが!」
ざわつくギルド内。
だが、その喧騒を打ち破る情報がもたらされる。
「大変です! ギルドマスター!」
「なんだ、どうした?」
一人の受付嬢が奥から羊皮紙を手に走ってくる。
「先ほどのFランク冒険者のヤーベ様ですが・・・!」
「様?」
そこにいる全員、受付嬢が先ほどのヤーベを様づけして呼ぶことに違和感を覚える。
貴族らしい、との事なので爵位がわかったのだろうか、と思ったのだが。
「ヤーベ様はFランクのまま一度も更新を行っておりませんが、ソレナリーニの町ギルドマスターのゾリア様より特段の事情有りとして特Aランクの記載を受けています!」
「と、特Aだと!」
「しかも・・・商業都市バーレールではオークキングを筆頭にオークジェネラルやオークメイジなどのオーク上位種を含む1500匹もの討伐を自身と使役獣だけの戦力で達成し、その時は正式にギルドマスターからの特別依頼だったとの処理がなされています!」
「な、なんだとっ!?」
ギルドマスターのゾリア殿は元Aランクの冒険者で、元Bランクどまりの俺とは実力の桁が違う。そのゾリア殿が特Aランクの表記をしている・・・。
それになんだ? オーク1500匹討伐? オークキングにオークジェネラル? 何かの物語か?
「商業都市バーレールで1500匹のオーク討伐が冒険者ギルドでの初依頼となっており、冒険者ポイントが信じられないほどの処理となっているため、まだ正式にランクアップの設定が完了していないみたいです・・・」
「ば、ばかなっ!」
冒険者ギルドの初依頼がオークキングを筆頭にオーク上位種を含む1500匹討伐って!
そんな化け物じみた冒険者なんでいるんだよっ!
フツーは薬草採取やゴブリン討伐から始めるだろうがよ!
・・・とんでもないやつを笑いものにしてしまった。
なのに、あいつはミノタウロスの討伐が出来ればいい、とそれだけを・・・。
「た、大変です!」
「今度はなんだ!」
「全冒険者ギルド支部へ緊急通達です! 先ほどのFランク冒険者のヤーベ様は、王都でも国を救うほどの活躍を何度もされており、男爵に叙爵されてからわずか四日で伯爵まで陞爵された「救国の英雄」とのことです!!」
「げえっ!?」
ギルド内が一瞬にして静寂に包まれる。
男爵に叙爵されてから、わずか四日で伯爵まで陞爵されただと・・・。
そんなヤツ過去に聞いたこともないし、物語の主人公にだっていないだろう!
「ほとんど冒険者ギルドに顔を出さず、魔物の買取ばかりだったので、ギルドもヤーベ様の動向を全くつかんでいなかったそうです。それで、今回国を救って伯爵にまで陞爵されたヤーベ・フォン・スライム伯爵をSランクに認定する事を決定したと王都のギルド本部から連絡が!」
「エ、Sランクだとぉ! FランクからSランクへランクアップ!?」
冒険者ギルドは国をまたいでの組織ではあるが、国の援助を受けたりする事情もあり、一国の冒険者ギルド本部が冒険者に与えられるランクは最大でSランクまで、と決まっている。
その上にはSSランクという伝説級のランクもあるのだが、このSSランクは少なくとも3つの国家にある冒険者ギルド本部がSSランクを認定しないと発行されない究極のランクであった。このSSランクの認定を受けたものは過去、魔王の復活を阻止した伝説の勇者パーティ5名だけであった。
そんなこの国のトップランクを認定されたヤーベを笑いものにしてしまったのである。
この後、他のギルドから何と言われるか分かったものではない。ヤベェ、体の震えが止まらねーぜ・・・。
「ああっ!?」
冒険者の一人がいきなり声を上げた。
「な、なんだ! 今度はどうした!」
「ヤーベ、ヤーベってどこかで聞いたことがあると思ったら、城塞都市フェルベーンの奇跡といわれた人以上の重症患者を奇跡的に回復させて、テロリスト組織を壊滅させた英雄の名前だ!」
「な、なんだと・・・」
もはやギルドマスターのドーリアは声も出なくなった。
その時の混乱と喧騒、そして歓喜は自分もよく覚えている。
なにせ自分の娘も助けてもらっているのである。重篤な状態で教会に寝かされ、妻と二人涙を流すしかできなかった時、颯爽と現れ、瞬く間に病人を回復させていった奇跡の立役者。
聖女様と二人で病人を治して回った様は御使い様、と呼ばれていた。
そんな人を笑いものにしてしまったのだ。
「お、俺はなんてことを・・・」
ギルドマスターのドーリアはその場で四つん這いになって崩れ落ちた。
「そういや、俺の彼女も教会で助けてもらったんだ・・・」
「俺はテロリストの宗教に入信するところを救われたんだ・・・」
誰もかれもが『城塞都市フェルベーンの奇跡』で少なからずヤーベにお世話になっていたのだ。
あの時、立役者のヤーベは馬車のパレードでも、表彰式でも白い豪華なローブをかぶっており、顔を見せることはなかった。だから、今日冒険者ギルドに来た矢部裕樹の姿を知る者はいなかったのである。
この日、城塞都市フェルベーンの冒険者ギルドはお通夜のように静まり返ったという。
そしてこの後王都の冒険者ギルド本部は元より、バーレールの冒険者ギルドやソレナリーニの町の冒険者ギルドからも非難轟々の嵐となってしまうのであった。
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お久しぶりです。
第6章章末あたりまで読んで、そこで更新が止まっていたのでしばらく放置しておりましたが、ここ最近は頻繁に更新されているようで、久しぶりに7章開始から一気読みしました。(しおり部分は7章から少し進んだところでしたが)
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今は王都ですね、ヒヨコ序列最上位(w)の面々が持ってくる依頼をどう消化していくか楽しみです。新しいアイボーの強化も楽しみです。
ケロ ネロ様
いつもお読みいただき誠にありがとうございます。作者の西園寺でございます。
もちろん相変わらずコメディ系でございまして、これは400話くらいまで行っても変わっていない不変の摂理かもしれません。
ヒヨコ隊は王都編でかなりポンコツ化しましたが、今後はヤーベの情報収集を影で支えるなくてはならない存在になっていきます。ぜひご期待ください!
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