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第13章 ヤーベ、王都の料理大会ではっちゃける!

第177話 喫茶クリスタルガーデンを切り盛りしよう(後編)

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「これはどういうことだ! 貴族であるワシも並べだと!」

表が騒がしいです。どうやら何か揉めているようです。

「あら、どうなさいまして?」

メイド姿のままフィレオンティーナさんがお店の外に出て行ってくれました。

「貴様! 貴族であるワシが食べてやろうと言っているのだ! こんな平民と同じく並べなどと、馬鹿にしておるのか!」

「馬車で乗り付けようと、例え王様であろうと、お店で食事をなされたい方はお並び頂きますわ」

しれっとフィレオンティーナさんが説明しています。大丈夫でしょうか・・・。

「貴様! 不敬罪だぞ! 覚悟は出来ているだろうな!」

ああ、貴族様がすごく怒っています。フィレオンティーナさんになにかあったら・・・。

「不敬罪ですか・・・ちなみに貴方、どちら様?」

「き、貴様! ワシを知らんのか! わしはボブスナー男爵である!」

「・・・うーん? 聞いたことないですわね・・・、貴方、先日の謁見の間にいましたかしら?」

フィレオンティーナさんが顎に人差し指を当てて小首を傾げます。かわいい・・・じゃなくて、謁見の間?

「なんだとっ! ・・・え? 謁見の間?」

ボブスナー男爵と名乗った貴族の人は目が点になっています。

その後ろにも馬車が何台もやってきました。

「貴族の我々も並べと言うか! 不敬な連中だ!」
「平民と同じ扱いだと! ふざけるな!」

次々と貴族の人たちがフィレオンティーナさんに文句をつけています。

「これは何の騒ぎか?」

さらに後ろから来たのは貴族の中でも、もっと地位の高そうな感じの人です。

「おお、これはコルゼア子爵殿! 大変ご無沙汰しております」
「いやいや、コルゼア子爵ご健勝そうでなによりです」
「この平民が我ら貴族を平民と同じく並べなどと申しておりまして、貴族の何たるかと教えてやらねばと・・・」

やはり後から現れた貴族は地位の高い人だったようで、文句を言っていた貴族たちが、笑顔でご機嫌を取りに行っているようです。

「あら、コルゼア子爵様ではありませんか。一昨日ぶりですわね」

急にフィレオンティーナさんが笑顔で地位の高そうな貴族様に笑顔で話しかけました。

「おお、フィレオンティーナ男爵ではありませんか。どうしてそのような格好を?」

男爵!? コルゼア子爵と呼ばれたお貴族様がフィレオンティーナさんの事を男爵と言いました。周りで騒いでいた貴族達は一体どういうことなの理解できないようです。
・・・かくいう私も理解できていませんが。フィレオンティーナさんが男爵って・・・どーいうことですか!?

「旦那様・・・ヤーベ・フォン・スライム伯爵が肝入りで肩入れしているのがこの喫茶<水晶の庭クリスタルガーデン>なのですわ。店主のリューナちゃんもよい腕をしていて、昨日の王都スイーツ大会では見事トップで予選を通過いたしましたわ」

フィレオンティーナさんが私の事をうれしそうに説明してくれます。よい腕って、照れてしまいます。
・・・それにしても、ヤーベさん肝いりだったんだ。

「おお、その予選とトップで通過したというホットケーキなる物を食べてみたくて足を運ばせてもらったのですよ。ああ、それで王都住民が押し寄せていると言うわけですな」

コルゼア子爵様が長蛇の列を成す人びとを眺めます。

「そうなのです。もしホットケーキをご所望であれば、従者さん二人にお並び頂いて、お店に入れる少し前に一人が子爵様をお呼びにお戻りになる方法がよろしいかと。子爵様に限らず、貴族の方々は王国に住む民を守るためにお忙しい身でしょうから」

強烈な嫌味を含めてお店に入る方法を提案するフィレオンティーナさん。凄すぎます。

コルゼア子爵様は周りを見回してから、フィレオンティーナさんが何を言いたかったのか理解したみたいです。

「はっはっは、まさにフィレオンティーナ男爵のおっしゃる通りですな! そのようにさせて頂きましょう。お前達、悪いが早速並んでくれるか。お店に入れそうになったら呼びに戻って来てくれ」

「ははっ!」

フィレオンティーナさんの言うとおりにするコルゼア子爵様をポカーンと見る他の貴族たち。魂が抜けてしまっているみたい。

「時にコルゼア子爵様。わたくし、どちらかと言えば人の顔を覚えるのは得意な方なのですが、この貴族を名乗るこの方たちは謁見の間で見覚えが無いのですが?」

コルゼア子爵様がジロリと周りを睨みます。

「この者達は騎士爵という貴族としては一番下の部類になります。まあ男爵もいるようですが、一部の男爵は騎士爵と同じ扱いの者もおりますので、謁見の場には呼ばれないのですよ。フィレオンティーナ男爵が叙爵された際に謁見の間にいなかったとしてもおかしくはないのです。逆に言えば、フィレオンティーナ男爵が見覚えのない貴族は、すべからくフィレオンティーナ男爵より身分が下の者と思ってもらって間違いないですな」

そう言って豪快に笑うコルゼア子爵様。フィレオンティーナさんって、貴族の中でも王様に呼んでもらえるくらいすごい人だったんだ・・・。

「そうなのですか、それで納得できました。それから我が主人のヤーベがまた屋敷のお披露目で食事会を開くことになるかと思います。その際にはホットケーキをデザートにご用意するように伝えておきますわ」

「おお、その時にもいただけるのですな。実に楽しみな事です。ですが、それまで待てそうにもありませんので、また後で順番が来たら参上する事に致しますぞ、それでは」

「ええ、お待ちいたしております」

優雅にフィレオンティーナさんがお辞儀をします。

「それで? 貴方がたはどうなさるおつもりで?」

わっ、フィレオンティーナさんが睨みを効かせてる~。

「わ、我々も従者を並ばせることにしようか」
「お、そうであるな、早速並ばせることにしよう」

あ、貴族さんたちがわらわらと散っていきます。

本当にフィレオンティーナさんが大活躍です・・・もうフィレオンティーナさんに足を向けて眠れません。というか、フィレオンティーナさん男爵様で、伯爵様の奥さんなんですね・・・。私、そんな人にバイトに来てくれないかな~なんて思ってました。不敬罪だけは勘弁してください・・・。



「お店でホットケーキを召し上がりたい方はお並びくださーい。コーヒーとサンドイッチはお持ち帰り注文できまーす! お持ち帰りの方は並ばずにこちらでお買い求めください」

ああ、またもフィレオンティーナさんが八面六臂の活躍です。
常連さんたちにコーヒーが飲めるように配慮してくれるみたいです。

「おお、コーヒーだけなら並ばなくていいの?」

「はい、コーヒーを専用の容器でお持ち帰りできますよ」

「やった、リューナちゃんのコーヒー飲める!」

五~六人の人がお持ち帰り受付に来る。

「あ、いつも来て下さるサンディさん、ジムさん、トムおじさんも!」

「リューナちゃん決勝進出おめでとう!」
「コーヒーのお持ち帰りはこの店のファンとしてはありがたいよ」
「お店でゆっくり飲めないのは残念だけどね」

そう言いながらもコーヒーのお持ち帰り容器ごと買ってくれる。ホントにありがたいお客様たちです。

「サンドイッチもお持ち帰りできますよ?」

「おお、それはありがたい!」

あ、その木皿ごと渡しちゃうんですね。だから、木のお皿も安い物を大量に用意したんですね。ヤーベさん、本当にアイデアマンです!





「テメエらドケドケ!」
「俺たちが先に入るんだよ!」

・・・またトラブルでしょうか?

フィレオンティーナさんが外を覗きに行こうとしたのですが、

「わふっ!(ちゃんと並ばないとブッ殺すぞ!)」
「ガウッ!(そのドタマ齧られたくなければ大人しく並べ!)」

見れば狼牙族が数頭、暴れていたと思われる男たちを咥えて列の後ろに運んでいます・・・頼もしいです。
その後も、お店の入口に二頭ほどビシッとお座りしています・・・あ、扉開けてくれるんだ。賢い・・・。

そんなこんなで、時間はもう午後三時過ぎ。
最後のお客様を送り出してお昼の営業を終了する。

「終わった~~~~」

イリーナさんが床に突っ伏しています。
ルシーナさんもサリーナさんもぐったり。

「ふみゅ~」

リーナちゃんはテーブルに頭を乗せて寝ています。

「どうでした? 今日の営業は」

フィレオンティーナさんが笑顔で話しかけてきます。この人、本当にタフな人だ・・・。

「信じられないくらいのお客さんが来ましたね・・・」

「きっと、売り上げも信じられないくらいありますよ?」

あ、そうだ! 売り上げ・・・とんでもないくらいの金額になってます。

「明日の決勝に勝って優勝したら、もっとすごいことになるかもね」

「うわ~~~、優勝したくないかも!」

私はフィレオンティーナさんと一緒に笑います。

「それはそうと、早速まかないをお願い致しますわ! わたくし、五段重ねでお願い致しますわ!」

フィレオンティーナさん、ブレないですね~。

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