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第13章 ヤーベ、王都の料理大会ではっちゃける!

第174話 審査員にアピールしよう

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製作時間も終わり、一同が完成したスイーツをブースの前に並べる。
予選は参加者が多いため、完成したスイーツは自分のブースに置いておき、審査員たちが食べ歩きながら審査して行くという流れになっている。

『デリャタカー』のオーナーシェフ、ドエリャ・モーケテーガヤーのブースを見れば、完成したスイーツは二段のスポンジケーキのようだ。チラ見程度だが観察していた様子だと、下の段はパウンドケーキのようなしっかりとした触感のケーキで、上の方は配合を変えて出来るだけ柔らかくした触感を楽しむフルーツケーキを合わせていた。ドライフルーツの他、ナッツのようなものを砕いていたから、触感もそれなりに楽しいだろう。単なる偉そうな金儲け主義の男かと思っていたが、それを差し引いてもそれなりの腕前のようだな。連れてきた部下にはかなり厳しく指示を出していたが。

他の参加者たちを見ても、固めのスポンジケーキが主流のようだ。やはり下調べした通りだったな。ドライフルーツなどの種類をいろいろと変えているとは思われるが、パウンドケーキとか、フルーツケーキとか、そういった感じの物がほとんどだ。後は完全に焼き上げるクッキー系だな。くくく、俺たちの様にふっくらふわふわ触感のスイーツなど皆無だ。
何せ乳製品が見つからないからな。チーズも生クリームもない。ソフトクリームで勝負出来たら最高なのに。そう言えばチョコも見かけないな。見つかったら一儲けできそうだ・・・おっと、今は大会に集中せねば。

参加者が多いため、審査には時間がかかる。俺たちの作ったホットケーキは時間が経って冷めてくると硬くなるかもしれない。
そこで魔道ホットプレートと同じような物で、保温プレートも製作しておいた。
そこに完成したホットケーキを乗せておく。しばらく時間が経ってもほのかに暖かいまま食べてもらえるように配慮してあるのだ。

回っている審査員たちが、一口食べては「これはおいしいですわ」とか「なかなかに美味!」とか「なるほどなるほど」とか口々に感想を言いながら手にした用紙になにやら書き込んでいる。きっとスイーツの感想やら点数やらが書き込まれているのだろう。




「ふおおっ! ご主人しゃま―――――!!」
「旦那様~~~~!!」

声のする方を見れば、リーナとフィレオンティーナが参加者エリアの外から手を振ってくれている。

リーナよ。思いっきり手を振るのはいいが、左手に握り締めた肉の串からタレが飛び散っているぞ。周りの人の迷惑になるからやめなさい。
イリーナやルシーナ、サリーナの姿が見えないが、きっと屋台で遅めの昼食でも買い込んでいるのだろう。

それにしても、リーナは俺の方を見ているが、フィレオンティーナはどうもホットケーキに釘付けになっている様にも見えなくもないな。
・・・これは、無事予選突破出来たら予選突破おめでとうの祝勝会と明後日行われる決勝戦の試作を兼ねたパーティでも開かないといけないかな?


他のブースが騒がしいとそちらに視線を送れば、エルフブリーデン公国の公女ブリジットと紹介されたエルフっ娘が「うまいのじゃー!」「最高なのよ!」「甘味バンザイ!!」などと叫びながら各ブースで爆食している。ていうか、アレは審査なのか? ほぼガチ食いしているように見えるが、百以上あるブースを回り切れるのであろうか? その後ろにいるメイドらしきエルフっ娘が泣きながら何やら諭しているが、まるで効果ない。知らない人が見たら、エルフブリーデン公国の公女だとは思わないだろう。逆に思ってしまうとエルフブリーデン公国のイメージとしてどうなのかという心配が出て来てしまう。

・・・しかし、さすが異世界。やっぱりいたんだね、エルフ。
エルフのお耳をモミモミしたい・・・という願望はラノベファンならば、誰にでもある・・・うん、誰にでもだ。きっとある。
だけど、あの公女様は無いかな。うん。近寄らない様にしよう。メンドクサイ臭が漂いまくっている気がする。

その公女様、あのドエリャ・モーケテーガヤーのブースに立ち寄って感動しているようだ。

「のおおっ! このフルーツケーキのうまいことと言ったら! カリカリしたのはナッツなのか?楽しい触感だわ!」
「もう少し! もう少しだけで構いませんので、お淑やかで優雅に食されてくださいませぇ~」

ガッついて爆食するエルフ公女っ娘に泣きながら懇願するエルフメイドっ娘。
まあ、無理だな。聞きゃしないだろう。

「そうでしょうそうでしょう、このドエリャ、渾身の一作にございますれば」

恭しく胸に手を当ててお辞儀するドエリャ。
この時俺の脳内でドエリャのイメージを「ザ・シェフ」から「ザ・イヤミ」にシフトした。
そのイメージはお菓子で言うならダダ甘、料理で言うなら油ギッシュなクドイ揚げ物だろうか。

やがて、俺とリューナのブースの前にも審査員がやって来た。
最初にやって来たのはスイーツ伯爵と名高いコンデンス伯爵だった。

「・・・? これは? この王都で私が食べたことの無いスイーツに出会えるとは・・・」

しげしげとホットケーキに顔を近づけて見つめるコンデンス伯爵。

ツンツン。

俺はリューナの背中をツンツンする。基本説明はリューナがした方がいいだろう。

「あ、これはホットケーキと言うスイーツです。王都で主流のスポンジケーキは触感が硬めですので、ふわふわな触感を目指して作りました。また、温かいのが特徴です。ホントなら出来立てホカホカを食べて頂くのが一番おいしいのですが・・・」

「なんと! 温かいスイーツなのかね! これはもしや大発見になるのか!?」

そう言うと興奮気味にナイフとフォークでホットケーキを一口大に切り分けて口に運ぶ。

「!!」

口に運んだまま、固まるコンデンス伯爵。どした?

「ウ、ウマイッッッッッ!!」

いきなり大声を出したものだから、他の審査員やエリアの外にいる観客たちからも注目が集まる。

「なんだこのうまさはっ! ほのかに暖かく、それもふわふわな触感。なのに染み入る様に甘い! コクがあるのは新鮮なバタールを使っているからと言うのはわかる。だが、この琥珀色のような、というのか、黄金色・・・というのか? この甘くねっとりとした液体は一体・・・?」

「これは『蜂蜜』と言います。蜂が花の蜜を集め、巣の中で加工して貯蔵したものなのですよ。栄養価も高く、非常に貴重な食材なのです。もう少ししたら王都でもアローベ商会が取り扱う予定ですよ」

ちゃっかり自分の商会の宣伝も入れておく。

「な、なんとっ!? 蜂が集めた蜜だと!? き、聞いたことも無い! それがこれほどのうまさを・・・。だが、蜂蜜だけではない。基本ケーキはスポンジがしっとりとはしていても比較的硬めの触感でしっかりしているものなのだが・・・、これはまるで違う! 手で押さえたらあっさりぺちゃんこになってしまいそうなほど繊細で脆い印象だ。これほどのふわふわ感を一体どうやって・・・」

コンデンス伯爵があまりに驚いているので、審査員たちも次々に寄ってきてしまう。
ならばここはお店の宣伝のチャンスだな。

「このホットケーキは、東地区にあります喫茶<水晶の庭クリスタルガーデン>で大会終了後に販売されますから、出来立てホカホカの一番おいしい状態で食べたい方はぜひお店に来てくださいね!」

俺は大声で説明する。

「ほうっ! お店に行けばこのホットケーキの出来立てが食べられるというのかね!」

目をキラキラさせて食い気味に聞いてくるコンデンス伯爵。顔近いよ。おっさんはノーセンキューです。

「ええ、ドリンクとのセットメニューですけどね!」

さりげなくドリンクもセットにして、売り上げに貢献しよう。
横を見れば、俺の方を見て、「ええっ!?」という表情のリューナちゃん。
いやいや、ここで宣伝してお客の心をガッチリつかんでおかないと。

「んんっ! おいし―――――!!」
「ふわふわですぅ!」
「甘―――――――――――――――い!!」

どっかの漫才師かと思うような人もいたが、やはりホットケーキのふわふわ触感と蜂蜜の砂糖とは一味違った甘さは初めての体験のようだ。

「私も一口頂きますね」

見ればカッシーナ王女がやって来ていた。
リューナを手伝うとは伝えているが、ヤーベ・フォン・スライム伯爵の名前は出さないと伝えてある。
アイコンタクト・・・もできないか、ローブ被って顔出してないし。

「どうぞどうぞ」

皿を示して食べて頂くように勧める。ローブから手、出してないけどね。

フォークでホットケーキのひとかけらを口に運ぶカッシーナ王女。

「お、おいしいっ!」

満面の笑みで喜ぶカッシーナ王女。

「本当に美味しいです! 初めての触感です・・・、それに本当に心地の良い甘さです。うっとりしてしまいます・・・」

ほわんと頬に手を当てて喜ぶカッシーナ王女。
フォーク咥えたままなのはいかがなものか?

「本当に美味しそうですね!」
「どれ、聖女フィルマリーが食べてやるわ!」

そう言ってアンリ枢機卿と聖女?フィルマリーもやって来てホットケーキを頬張る。

「わっ! ふわふわです!」
「甘いっ! 何よこれ! 凄すぎなんですけど!?」

幸せそうに食べるアンリとびっくり目を白黒させて驚くフィルマリー。
商業ギルドの副ギルドマスター・ロンメルもパクついている。
王都警備隊隊長のクレリアも至福の表情だ。

「ほわわ~~~」

頬に手を当て、フォークを口に咥えたまま、カッシーナ王女と寸分たがわず同じ格好でトリップするクレリア。

乙女はホットケーキを食べるとみんなこうなるらしい。

ふと見れば、ドエリャの奴が凄い形相でこちらを見ている。
はっはっは、こちらが話題をさらったのが相当悔しいらしいな。



やがて審査が終わり、予選通過者の発表になる。

「予選第一位は・・・」

ドルルルルル

ちゃんと生演奏でドラムロールなるのな。異世界も似たような感じだな。

「エントリー番号七十七番! 喫茶<水晶の庭クリスタルガーデン>オーナー・リューナさん!」

「「「「「わあああああ―――――!!」」」」」

パチパチパチパチ

「やったぁ!」

万雷の拍手と歓声が上がる中、予選を第一位で通過したことを告げられ、万歳するリューナ。尻尾もブンブン左右に振られている。

「やりましたよヤーベさん! ヤーベさんのおかげです!」

「し――――! 俺は謎の助っ人マンだよ。それに、作ったのは全てリューナちゃんだよ? 自信もっていいよ」

「あ、そうでした謎の助っ人マンさんでした」

そう言ってテヘペロするリューナ。尻尾もフリフリだ! 可愛すぎる! 心のシャッター百連写だ! 記憶フォルダに永久保存だ!

さてさて、まずは王都スイーツ大会の予選を無事突破したな。
後は明後日の決勝戦に用意するスイーツのメニューと食材を検討しなくちゃならないな・・・。
俺は夜の祝勝会のメニューと合わせ頭の中でいろいろと献立を考え始めるのだった。
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