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第11章 ヤーベ、王都の危機を救う!
第141話 絶妙な人(?)選で迎撃しよう
しおりを挟む時は少し遡る。
「うーん、これは騒動になるなぁ」
俺は明け方、まだ夜が明けない頃からすでに着替えを済ませ、寝室を出るとコルーナ辺境伯邸の中でメインに間借りしている応接室のソファーに身を沈めて唸っていた。
ヒヨコ十将軍からの報告では、王都バーロンの北、西、南の3方向で魔獣を召喚しての襲撃を計画していると情報が届いていた。
「それにしても、フィレオンティーナが元Aクラスまで上り詰めた一流の冒険者だったとはね・・・」
再びの立食パーティでゾリアから聞いた話。
二つ名も雷撃姫から轟雷の女神まで進化した、最強の雷撃の使い手と言われた魔術師だったようだ。俺もシルフィアの力を借りれば雷の精霊魔術を操ることは出来る。
だが、フィレオンティーナは精霊魔術以外にマナの力を使った元素魔術の使い手でもあった。この世界で所謂魔術師と呼ばれるのは元素魔術の使い手の事を言う様だ。それだけ複数系統の魔術を操ること自体が実力を証明するものでもあった。
「さて、どう対処するか・・・」
すでに、どの門の方角にどのような魔獣が呼び出されるか判明している。
南からは南方のダンジョンから<迷宮氾濫>で大量発生した魔獣が王都へ襲来している。
その数、万に達しようかと言う規模との報告が上がっていた。
その構成はゴブリン、コボルドのような小型から、オーク、オーガ、そしてマンティコアやキマイラのような大型魔獣までかなりの数が迷宮から溢れ出したようである。
そのため、先んじてローガ達に指示を出している。
ローガを大将に、狼牙族全軍と、ヒヨコ十将軍の内、序列第一位から第三位までの軍団を先発させた。そして、万に近い魔獣たちを狩りきるために、俺の体の一部をいくつか持たせてある。それは亜空間圧縮収納機能を持つ出張用ボスと呼ばれている。
「ローガ達なら、まあ魔物がどれだけいても問題ないか・・・。多少抜けられても王都の防衛に兵士たちが南門に集結しているしな・・・」
魔物が3方から襲来している情報の内、一番早い南の<迷宮氾濫>の情報は王城に届いているだろう。
となれば王国軍や王国騎士団の戦力はまず南門に集結するだろう。
そうすれば、ローガ達だけで魔物の軍勢の大半を殲滅したとして、多少ローガ達の包囲網を魔物が抜けても王都にダメージを与えるまでには至らないだろう。
これでまず1方向を封じる事が出来るはずだ。
コンコン。
俺の部屋がノックされる。
「入っていいよ」
「おはようございます、旦那様」
部屋に入って来たのはフィレオンティーナだった。
魔術師のローブになかなか魔晶石が埋め込まれたなかなかゴツい杖を持っている。
もうすでに、俺が頼みたいことが分かった上で準備万端、といった感じだろうか。
出来る奥さんを持つと話が早くて助かるね。
「おはよう、フィレオンティーナ」
俺はにっこりと微笑んでフィレオンティーナを迎える。
「温かいお茶でも入れようか?」
「旦那様。とても魅力的なお申し出ですが、問題は早めに片付けた方がよろしいでしょう。出来ましたら帰って来てから入れて頂いてもよろしいでしょうか?」
俺の申し出に優しく微笑みながら、先にトラブルを片付けようと言ってくれる。
「すまないが北の雷竜サンダードラゴンを仕留めてくれるか? お前に敵が近づけない様、ゲルドンを前衛につける」
「もちろんですわ、旦那様のご期待に見事応えて見せましょう」
碌に詳しく説明していないのに、あっさり了承して優雅にほほ笑むフィレオンティーナを見ると安心と共に、ついついまた一緒に寝室に戻りたくなる。イカンイカン。
「奇しくも雷対雷だな。負けられないか」
「もちろん負けませんわ」
そう言って杖を持ち、ソファーから立ち上がるフィレオンティーナ。
「・・・雷竜を仕留めてきた暁には・・・旦那様からのご褒美・・・期待してもよろしいですわよね?」
妖艶にほほ笑んだかと思うと、部屋を出ていくフィレオンティーナ。
「もちろんさ・・・期待に応えられるようこちらも頑張るとしようか」
フィレオンティーナを見送った俺は、メイドさんにイリーナたちを起こしてくるように依頼する。
俺の分身を封じた宝玉を持って西門に行ってもらうためだ。
イリーナたち自身に戦闘力がなくとも、俺の分身の解放と倒した敵の回収だけ担当してもらえば問題ない。
俺の分身は、いろいろと夜中にコッソリ研究した結果の集大成でもある。
その大きな球を1つ、中くらいの球を1つ、小さい球を4つ作り出して、組み合わせる様につなぎ合わせる。
俺のイメージは、そう。アンパ〇マンだ。
スライムボディがベースなのだから、もちろんその必殺パンチは思いっきり伸びる。
以前の俺は分身といっても切り離したスライムボディを俺の意識で動かすことは出来なかった。
<スライム的掃除機>のように、目的を指示して自動行動を意図させることで勝手に動くようにすることは出来るが、それはあくまで勝手に動いているだけであって、自分で自由にコントロールしているわけではない。
そこで、切り離したスライムボディに追加で俺の意識を受信するための「核」を後から埋めてやることにより、ラジコンの様に動かせないかと思ったのだ。
そして、それは実際にうまくいった。離れた場所から操作するのは慣れが必要ではあったが、それも夜中のトレーニングで克服した。
最初にトレーニングしたのは、小さなスライムを作り、そのボディを遠隔操作して遠視する事だった。
まるでネズミの様に様々な所へ入り込んで自分の目で見る事でそのコントロールに慣れて行ったのだ。
・・・決して奥さんズの寝室へ覗き目的で行ったわけではない。それが目的で行ったわけではないのだ。単なる偶然である。大事な事だから二度言おう。
コンコンコン
「入っていいよ~」
「ヤーベ、お待たせ・・・ふああ~」
「ヤーベ様、おはようございます・・・」
「ヤーベさん、おはよう!」
イリーナに、ルシーナ、サリーナが朝の挨拶と共に部屋に入って来る。
・・・リーナはって?
リーナは俺の寝室のベッドで寝てるよ、まだ。
「ご主人しゃまー、ふみゅみゅ・・・」
俺が起きた時にはまだ夢の中のようだった。
「やあ、みんなおはよう。ところで悪いんだけど、この王都に魔獣が向かって来ているから、ちょっと退治して来てくれる?」
俺の「ちょっとそこまでお使いに言って来て」的なノリでの説明に3人は目を丸くする。
「魔獣退治?」
「そ、その・・・私たちにでしょうか・・・?」
「ど、どんなヤツ?」
「全長20mの一つ目巨人のギガンテスだって」
「「「・・・えええ~~~~~!!」」」
眠そうだった3人の目がこれ以上開かれないくらいバッチリと開く。
目が覚めたかな?
「・・・ヤーベ、私は即ぺちゃんこにされてしまう未来しか見えないぞ・・・」
「ペチャンコ嫌ですぅ・・・」
「・・・おばあちゃん、先立つ不孝をお許しください・・・」
イリーナが目に涙を溜め初め、ルシーナが小動物の様にぷるぷるし出し、サリーナは完全に目が死んでいる。
「大丈夫大丈夫。君たちには俺の分身を授けるから。現地に行って、敵に向かって俺の分身を開放して、敵を倒した後に回収するだけっていう単純なお仕事だから」
俺は、至極簡単に説明して安心するように伝えた。
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