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第11章 ヤーベ、王都の危機を救う!
第140話 なぜここに来たのか教えてあげよう
しおりを挟むあまりにも俺が軽く挨拶したからだろうか、俺の態度にイラつく者が出る。
「テメエ! どこ行ってやがったこの非常時に!」
フレアルト侯爵が俺に食って掛かってきた。
若いねぇ。確かヒヨコたちの調べによると、父親の急な病死により17歳で侯爵家当主を引き継いだんだっけ?
ケツの青いただのガキだよなぁ。
「どこと言われても、俺自身は別にどこも」
「ふざけんな!」
そのフレアルト侯爵を押し止め、ドライセン公爵が俺に話しかけてきた。
「子爵殿。お主の手勢が姿を見せておらんようだが、今どうしているのだ?」
「ああ、それなら・・・」
そこへ俺の言葉を遮る様にある人物が突入してきた。
「ヤーベ様! お会いしとうございました!」
そう言って俺の背中に抱きついて来たのは俺に結婚を申し込んできたカッシーナ王女だった。
「うおうっ!?」
思わずよろけちゃったよ。てか、王女様、人前で抱きつくのってハシタナイとか言って怒られません?
「カッシーナ、今大切なお話をしてますから。ちょっと落ち着きなさい」
リヴァンダ王妃がカッシーナ王女を嗜める。
「ほう、カッシーナ王女。本当に傷が治ってお美しくなられましたな。まさにワシの后にふさわしい! 今すぐこちらに来い! そうすれば命だけは助けてやるぞ。ああ、リヴァンダよ、貴様もワシの側室として生かしておいてやる。年がいっている分お前の方が側室だがな」
「なっ!?」
怒りで顔が真っ赤になるリヴァンダ王妃。
対してカッシーナ王女はキョトンとしている。
「プレジャー公爵? 一体何を言っているんでしょうか? 私はすでにヤーベ様の奥様だといいますのに」
へばりついていた背中から左手の方へ移動してきたカッシーナ王女。ガッチリと自分の胸に左手を取り込むあたり、抜け目のなさが感じられるな。ケシカラン柔らかさだ、もっと下さい。
「いや、カッシーナ。まだヤーベ君の奥さんじゃないから・・・」
ワーレンハイド国王が嘆息しながら言う。
・・・なにげにワーレンハイド国王この状況でも余裕ありそうなんだよなぁ。
さすが国王様?
「そうよカッシーナ。ヤーベ子爵の奥様になるには、ヤーベ子爵が最低でも伯爵まで陸爵してもらわないと婚姻は認められないんだからね」
この王都が風前の灯火となっている状況下で、国王も王妃も自分の娘の結婚についてダメ出ししている。肝が太いというか、座っているというか・・・。
「はははははっ! 馬鹿か貴様ら! その男の妻になる事は永遠にないわ! そんなザコはすぐにでもぶっ殺してやるわ! それより早くこっちへ来いカッシーナ! そうすれば可愛がってやるぞ?」
「キャハハ! 手伝う~?」
「いいのう、それも」
死ぬほど気持ち悪い笑みを浮かべるプレジャー公爵と盛り上がるサキュバス。
いや~、こんなヤツが国王の座に就いたら、秒で王国が終わる気がするな。
「まあそれも王の座を頂いてからにしてくださいよ」
緑のローブの男が窘めるように言う。
「そうそう、アンタだけ顔出してないんだよね? お宅、誰?」
俺は不躾に指を指して聞いた。
「お前は知らぬだろうよ。俺は5年前までしかこの王城にいなかったからな」
そう言って男はフードを後ろにずらした。
「お、お前は!」
声が上がったのは貴族たちの後ろにいた男からだった。
「おお、ブリッツ殿、お主もここへ来ていたのか」
コルーナ辺境伯が声を掛けたのは宮廷魔術師長であるブリッツであった。
ブリッツはその実力と功績のみでトップまで登りつめた男であった。
元は平民の出であったが、叙爵して現在は伯爵まで陸爵している。ちゃんと家名もあるが、王城内ではよほどの事がない限り名乗らない。領地も断っているため、所謂宮廷貴族と呼ばれる、給料だけもらって国のために仕事をする貴族である。
「ゴルドスター・・・、とてつもない実力の<召喚士>が関わっていると予測できた時点でお前でないかとは思っておったが・・・まさかプレジャー公爵と手を組んで王家の簒奪を狙うとはな」
厳しい目つきで睨む宮廷魔術師長のブリッツ。
「ゴルドスターって、あの大量の生贄を使って召喚術を実験する計画をぶち上げ、撤回を求められても従わず、ついには解雇となり王都を追放された、あのゴルドスターか」
「当時からその魔力と召喚術だけは超一流で、次代の宮廷魔術師長を狙えるとまで言われた男だったな・・・」
コルーナ辺境伯とルーベンゲルグ伯爵が思い出したように言う。
この二人は王都の政治にも人材にも明るい様だが、どうも四大侯爵家は我関せずと言った雰囲気の様で、あまり人材にも詳しくない様だった。
「当時俺の天才的な能力を認めず、王都から追い出した者達への恨みは募るばかりだったが、ついに貴様らに復讐する時が来たのだよ。あれを見ろ! 俺が召喚した魔物どもを! あれだけでこの王都を壊滅させられる戦力だ! 他国への侵略も容易に出来る! 俺を認めなかったお前らは自分の無能さを恨みながら死んで行け!」
「で、話からすると、お前は自分の実力やら魔力やらが足りないから、たくさんの人を犠牲にしてアレを召喚したと?」
俺は剣呑な雰囲気になってしまいそうなのを出来るだけ抑えて聞く。
あのデカイ化け物ども召喚するとなれば、すでに相当な犠牲者が出てしまっているという事なのか。
「口の利き方に気を付けろ、下郎! 貴様のような多少狼が使えるだけの<調教師>風情が出る幕ではない!」
「うーん、俺の実力云々より、お前の魔力や実力が足らないから人を一杯犠牲にしないと召喚できないって話をしたんだが?」
「ははは、愚かな者とは会話にならんようだ」
ゴルドスターは呆れたと言わんばかりに肩を竦める。
「いや、コミュ症の人間と会話するのは疲れるね。魔力足らないから生贄たくさん使ってるんだろって聞いてるだけなのに。まあ、自分の実力が無いって認められない器の小さい男って事だよね。あ~、嫌だ嫌だ」
「き、貴様~~~~!」
ゴルドスターの血管が切れそうになる。
だいぶイラつかせたところで、もうちょい突っ込んで聞いてみるか。
「お前、強制的に<迷宮氾濫>をおこさせる術を持っているな?」
俺の問いにゴルドスターが反応する前に真っ先にコルーナ辺境伯が反応した。
「な、何だと! ヤーベ殿それでは・・・」
「ええ、コイツでしょうね。コルーナ辺境伯領であるソレナリーニの町の北に位置したダンジョンで<迷宮氾濫>を起こしたのは」
「どういうつもりだ!」
「想像は出来ますけどね」
「え、出来るのかい?」
コルーナ辺境伯がゴルドスターに問い詰めるも、俺は想像が出来たのでつい言葉を発してしまったのだが、ルーベンゲルグ伯爵は驚いたようだ。
「王家を簒奪し、王都を制圧した際に一番困るのは外部から攻められる事でしょう。そのために外の力を排除しておきたかったのでしょうね。この中で最も王都から遠い代わりに辺境を開発し、魔獣と戦うための戦力を整えているコルーナ辺境伯こそが一番注意すべき相手であったという事でしょう」
「なんだと! このフレアルト侯爵家よりもか!」
フレアルト侯爵は激昂するが、俺は淡々と話を続ける。
「四大侯爵家の領地は王都から近く、その戦力は王都防衛のためとは言え対人間に特化しており、実戦も少ないでしょう。それに比べてコルーナ辺境伯家の戦力は広い未開拓の土地を開墾していく作業を行いながら魔獣と戦っていくために整えられた騎士たちです。鍛えられ方が違います」
「ふざけるな! わが侯爵家の騎士たちが劣るというか!」
フレアルト侯爵がキレているが、こんな小物を相手にしていヒマ無いんだよなぁ。
「なるほど、ただの馬鹿ではないらしい。ますます面白いな。確かにダンジョンで<迷宮氾濫>を起こしたのは俺だ」
御ルドスターが堂々と自分が犯人だと自白しやがった。
「どうやってやるんだ?」
「くくく・・・知りたいか? ダンジョンにはモンスターポッドと呼ばれる、魔物が生まれ出す力場がいくつかある。そこに魔力を極限まで圧縮した魔輝石を放り込むんだ。魔輝石が爆発した時に圧縮魔力が一気に解放され、モンスターポッドを暴走させる!」
魔力を極限まで圧縮した魔輝石ね・・・
「あ、そう。で? 実力も魔力も無いヘタレなお前はその魔輝石とやらにどうやって魔力を詰めたわけ?」
俺の体内で濃密な魔力が渦巻いて行く。
「くくくっ、どうも貴様は俺を怒らせたいようだな。まあいい、頭の悪いお前にも分かるように説明してやろうか。魔輝石は一つで数百人分の魔力を詰めて作るものだ。まあ、田舎に行けばそれくらいの村などいくらでもあるさ」
「・・・そうかい」
ついに抑えきれなくなり、魔力が俺の体から漏れ出す。
「「「!!」」」
魔力感知の高い数名が俺の変化に気づいて体を強張らす。
「おいおい、テンション上げるのは良いが、何か忘れちゃいないかぁ? 俺たちに手を出して見ろ。王都はあっという間に壊滅するぞ?」
ニヤ突きながらゴルドスターが馬鹿にしたように告げる。
「マ・・・マスター・・・コイツ・・・ヤバいかも・・・」
後ろで浮いていたサキュバスがダラダラと冷汗をかき、震えだす。
「お前、本当にアホだな。なぜ、俺がここにいるのかわからんのか?」
その場の全員が、プレジャー公爵は元より、国王も王妃もドライセン公爵以下貴族たちも誰もがヤーベが何を言っているのか理解できない。
そしてカッシーナ王女だけがニコニコと微笑んでいる。
「外の魔獣どもの対応が終わったからここに来たんだろうが」
ここにいる誰もがポカンと口を開けてヤーベを見た。
この男は今何と言ったか?
すでに王都の外に迫っている魔獣の対応が終わった?
その全てがあまりにも意外過ぎて理解が追い付かない。
「お疲れ様です」
カッシーナ王女だけが優しい笑顔でヤーベに労いの言葉を掛けるのだった。
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