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第10章 ヤーベ、貴族としての生活が始まる
閑話21 王都に住む人々の幸せな日常②
しおりを挟む「お父さん、焼き上がったパンはもう籠に盛り付けて並べて行くからね!」
「あいよー」
「もう30分で開店時間だよっ! 寝坊した分急がないとお店開けてもパンの数がたりないよ?」
「わかってるよ・・・昨日寄り合いで盛り上がっちまって、だいぶ飲んできちまったから・・・」
わたわたと開店準備に追われているのは「手作りパンの店マンマミーヤ」である。
流行り病で奥さんを亡くして以来、看板娘のマミとパン職人の親父さんの二人だけで店を切り盛りしていた。
妻を亡くしてから、商業ギルドの寄り合いに顔も出さず人づきあいが悪くなって客足も落ち込んだが、ヤーベの取り成しにより、店を盛り返すことが出来ていた。
「ヤーベさんに教えて貰った、『総菜パン』すごい人気だよね~」
先日様子を見に来てくれたヤーベより新しいパンのアイデアをたくさんもらったのだ。その目玉が『総菜パン』であった。
「昨日販売した焼きそばパンとコロッケパン、あっというまに売り切れになっちゃった」
先日初めて販売した焼きそばパンとコロッケパンが大人気で、口コミでお客さんにも情報が広がったのか、ここ2~3日ずっと来客が多い。
「特にコロッケ、おいしいんだよね」
焼きそばは父親が店内で調理しているが、コロッケはヤーベから紹介してもらった定食屋「ポポロ食堂」から朝一で毎日納入してもらっていた。
「ポポロ食堂」の姉妹が作るコロッケは本当に美味しかった。
しかもポポロ食堂の姉妹は自分と同じように流行り病で父親を亡くし、一か月前から母親も行方不明とのことで、マミは本当に心配していた。
ヤーベに紹介された時も、継続してコロッケを買ってくれるとうれしい、みたいな話が合った。常に一定のお仕事があるって安心できるよね、とマミはできるだけコロッケを買うことを決意した。なにより自分たちの店でも大人気の総菜パンになったのだ。お願いしてでも仕入れなければならないと強く決意した。
「ウチもパンを焼いても全然お客様が来なかった時は本当に辛かったから・・・」
そんな姉妹を応援しようと、コロッケパンの籠の前には「ポポロ食堂特製コロッケを使用した一番人気の総菜パンです」と案内を入れた。
このコロッケパン、冷めても実においしいし、これだけでお昼ご飯にもなると評判なのだ。
開店20分前になり、お店の窓板を外して光を取り込もうとしたマミの目の前に、人の行列が飛び込んできた。
「えええっ!?」
慌ててお店の扉を開けて外に出る。
「あれ? マミちゃん開店にはまだちょっと早いよね?」
一番先頭に並んでいるのは常連のトニーさんだった。
「はい、後20分くらいですが・・・何ですか!? この行列?」
マミは何が何だかわからない顔をして問いかけた。
「何って、コロッケパンを食べたくて並んでいるんだよ。だってコロッケパンや焼きそばパンは数量限定で売り切れたらその日は終わりでしょ?」
「確かにそうなんですが・・・」
見ればすでに10人以上が並んでいる。
現在毎日朝一番でポポロ食堂のリンちゃんがコロッケを届けてくれる。数は30個だ。ポポロ食堂もヤーベ直伝の「バクダン」なるコロッケに似た料理が大人気で毎日行列が出来ているとのことだ。そんな忙しい中、毎日朝コロッケを届けてくれる。
(うわ~、ポポロ食堂のリンちゃんとレムちゃんには足を向けて眠れないよ~)
マミはポポロ食堂の姉妹に感謝しながら手作りパンの店マンマミーヤの開店準備を進めて行くのであった。
「むう~~~」
大通りを唸りながら歩いている狐人族の美少女。喫茶<水晶の庭>のオーナー、リューナであった。
ちょくちょく喫茶<水晶の庭>に顔を見せてくれるお客、ヤーベ。だが、最近ヤーベは他の店でいろいろなアイデアを出して、そのお店の立て直しに一役買っていた。
ポポロ食堂の「バクダン定食」を食べた時は、シンプルながらその独創性にびっくりした。オーロラソースと呼ばれたソースに至っては耳と尻尾が逆立つほどの衝撃を受けた。
手作りパンの店マンマミーヤでは、ポポロ食堂のコロッケを使ったコロッケパンなるものが大人気で状列が出来ているらしい。そのほかにも焼きそばパンというものもあるらしい。
リューナは喫茶店を経営しているため、朝食にサンドイッチを出すことはあった。だが、焼きそばパンとコロッケパンはサンドイッチとは違う。あの発想はサンドイッチとは一線を画すものだ。
「むう~~~」
決して自分の店にアイデアをくれなくて怒っているわけではない・・・
そう言い聞かせるリューナ。
そう言えばふと今年も王国主催の行事で、王国一の甘味を決定する大会が開かれることを思い出した。
「以前にもたくさんケーキを買ってもらったこともあるし・・・ヤーベさんが今度お店に来たら、ケーキをサービスして相談に乗ってもらおうかな!」
リューナは過去一度もその大会に出場したことは無い。プロの料理人というわけでもない、ただ、自分のお店を持って、訪れてくれるお客様に少しでもおいしい物を食べてもらいたいだけ。
しかし今、ヤーベと言う存在が彼女に一歩を踏み出す勇気を与えようとしていた。
「ヤーベさん・・・来てくれないかな・・・」
リューナは自分の店にヤーベが来てくれることを待ち遠しく思った。
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