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第8章 ヤーベ、王都ではっちゃける PARTⅠ

第96話 王女の夢を叶えてみよう

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「侯爵家はどうなんです?」

俺は三大公爵家の派閥について聞いていたが、それとは別に四大侯爵家の確認もしたかった。

「四大侯爵家は三大公爵家とは一線を画している。三大公爵家の派閥にとは距離を置き、独自の領地経営を行っている。そう言う意味では三大公爵家のうち、ドライセン派の人間は四大公爵家のどこかに繋がりをもつ貴族も多いんだ」

 

「四大侯爵家が派閥を作ってることはないんだ?」

 

「建前上、四大侯爵家は王国を支える四本柱であり、それぞれが同等であると認識されている。尤も、三年前にキルエ侯爵家の当主と奥方が馬車の事故で無くなり、現在一人娘が当主を引き継いでいる。またフレアルト侯爵家も当主が一年前に病で急逝したため、一人息子が党首の座を継いでいる。そんな関係で、四大侯爵家の力関係に微妙な影響が出始めているのも事実なんだ。特に新しく就任したキルエ侯爵の娘・・・現キルエ侯爵になるんだが、かなり真面目で真っ直ぐなため、煙たがられているみたいだし、フレアルト侯爵家の当主になった息子は結構なはねっ返りだしな」

フェンベルク卿が大きく溜息をつく。

「正直者が馬鹿を見る・・・どの時代でも嫌な話だね」

俺はそのはねっ返りはともかく、真面目な娘さんの事を思い溜息をつく。

「特に貴族って奴は、良くも悪くも、『貴族』って奴なんだ。それを真っ向から否定すれば、貴族の存在意義が問われることになってしまうからな」

「問われなきゃいけないヤツの方が多そうですがね」

「否定できない事実かもしれんがね」

俺の若干の嫌みも、フェンベルク卿には苦笑させるに留まった。
貴族・・・やっかいだな。
俺はお礼を言って席を立った。

 

 

・・・・・・

 

 

その夜。

俺は<高速飛翔フライハイ>で王都の空を飛んでいた。一緒に来ているのはヒヨコ隊長だ。

ちなみに、出立時にローガが起きて来て俺に声を掛けて来た。我も同行致します! なんて言っていたが、空から王城へ忍び込むのに、ローガは連れてはいけない。留守番を指示しておいた。かなりガックリ来て尻尾も萎れていたが。

 

 

 

さて、王城の北東にある塔の最上階にある窓辺に来た。
木の窓を開ける。

キィィ・・・

木の窓を開けることにより、月の光が部屋に柔らかく差し込む。
ベッドには一人の女性が眠っているようだ。
眠っている時でも仮面をつけたままなんだな。

「・・・どなたですか?」

俺の気配に気が付いたのか、鈴の音のような綺麗な声で俺に問いかけると、寝ていた体を起こし、ベッドの端に腰かけた。

ヒステリックに叫ぶでもなく、落ち着いて問いかけてくる王女様。
この王女さん大物だな。

「・・・魔法使いです」

「魔法使い? 王国ウチの魔術師団?」

しまったー! どこぞの月下の奇術師ばりにカッコつけたつもりで魔法使いって言ったけど、この異世界じゃ魔法使い珍しくないわ! 大失敗!

「失礼、やり直させてくれ・・・俺は君の願いを叶える精霊王・・・あれ? 願いを叶えるなら魔法使いの方がやっぱりいいかな?」

「あ、あの・・・貴方は一体? というか、空に浮いているのですね? よろしければ部屋にお入りになります?」

王女のまさかの誘いをありがたく受ける。

「これはご丁寧にどうも」

俺はふわりと部屋に入り込む。
ローブ姿だが、中は実はデローンMk.Ⅱのままだ。
ローブをまくり上げられると大変なことになる。夜の公園に出るコートの前をバーンと開く変態よりヤバイ気がする・・・言ってて自分が悲しい・・・。

「それで・・・ここにはどのような御用で?」

王女・・・カッシーナはあくまでも落ち着いた表情で問いかける。
不審者だと騒がれないのはありがたいが、ここまで反応が薄いのも心配になるな。

「カッシーナ王女でお間違えありませんか?」

「ええ、私がカッシーナです」

ゆるぎない表情で答えるカッシーナ王女。

「それにしても随分と落ち着いておられますね。私が不審者だったり、暗殺者だったりするかもしれないとか、不安になったりしませんか?」

俺は意地悪な質問をしてみる。

「私は暗殺されるほどの価値を有しておりません・・・それに、不審者であるなら、私のような醜女は狙わないでしょう」

「貴女は随分とそのお心を曇らせていらっしゃるようだ。確かに貴女は太陽のように眩しく輝くような美しさををお持ちでないかもしれない。でも私には貴女がとても魅力的に見えます。そう、夜の帳を優しく照らし出すあの月のような優しい美しさが貴女にはある」

俺の言葉にカッシーナ王女は驚いたような表情になった。

「私が・・・美しいと?」

「ええ、貴女は美しい」

カッシーナ王女の疑問に俺は正直に答える。
カッシーナ王女は俺の前まで歩いてくると、その仮面を外して、素顔を晒す。
その顔の左半分は見るも無残に焼け爛れていた。

「私の姿を美しいなどと言ってくださったのは貴方が初めてです・・・。とても嬉しかった。ですが、私はこの通り醜いのです。体の半身も同じように焼け爛れているのです」

そう言って目を伏せるカッシーナ王女。
その彼女の両肩に手を置く。

「?」

「貴女は美しい。周りを気遣い、このような場所に引きこもる方が皆の負担にならずに済む・・・そう考える貴女の心がね」

「え・・・」

少し頬を染めて顔を上げるカッシーナ王女。

「そんな貴女に、プレゼントがあるんです」

「プ、プレゼントですか?」

『ぴよーーーー!』

「あ、ヒヨコちゃん!」

「私の友のヒヨコが貴女の願い・・・夢を叶えて欲しいと言って来ましてね」

「夢?」

俺はバサッとローブを脱ぎ捨てる。
デローンMk.Ⅱの体があらわになる。
カッシーナ王女の目が驚いたように見開かれた。

「私は・・・醜いですか?」

出来る限り優しく王女に問いかける。
キモチワルッて引かれたらちょっと泣くぞ。

だが、呆気に取られていたカッシーナ王女は目を瞬かせながら微笑む。

「いいえ、ちっとも」

輝くような笑顔を見せてくれるカッシーナ王女。

「クスッ、では貴女の夢を叶えましょう」

そう言って大きな翼を形成する。そしてカッシーナ王女の後ろに回り、抱きしめる。

「え・・・?」

「さあ、思いっきり鳥になりますよ。空の散歩へエスコートします」

そう言って窓から夜の星空へと飛び出した。

「きゃっ!」

少しだけ悲鳴を上げるカッシーナ王女。だが、さすがは王女というべきか、すぐに慣れて星空のランデブーを楽しみ始めた。

「ああ・・・なんて素敵なんでしょう! 瞬くように美しい星空の下、鳥のように空を自由に飛び回れるなんて!」

「喜んでもらえて光栄ですよ、王女」

「凛とした空気・・・でも月の光は柔らかく優しい感じがしますわ・・・。本当に貴方にとって私はあの月のように柔らかく美しく見えているのですか?」

大空の散歩を楽しんでいたカッシーナ王女が顔を捻って俺に向かって尋ねてくる。

「もちろん。貴女自身が美しい事はゆるぎない事実ですよ」

カッシーナ王女をふと見れば、耳まで真っ赤になっているようだ。

「・・・よろしければ、私を貰っては頂けないでしょうか?」

再び顔を捻って俺に話しかけてくる。

「・・・光栄ですが、私はまだ自己紹介もしておりませんよ」

ぱっと正面に向き直って恥ずかしそうにするカッシーナ王女。

「そ、そうでしたね・・・あまりに早計でした」

「ふふっ・・・お気になさらず。それに、とっておきのプレゼントはまだこれからですよ?」

「ええっ!? こんな星空の散歩をプレゼントして頂いたのに、まだ素敵なプレゼントがあるのですか?」

「ええ、正しくとっておきのプレゼントがね。それではお部屋に戻りましょう」

俺は王女の部屋に戻ることにした。

 

 

「さあ、貴女の重荷はこのヤーベが全て受け止めましょう。貴女はただ、美しいまま、心の赴くままに生きればいい」

「ヤーベ様、と仰るんですね」

にっこりと笑うカッシーナ王女。左顔が焼けただれていたとしても、その笑顔は美しく感じる。この笑顔が分からない奴は彼女を愛する資格が無いと断言してもいい。

「私を信じて頂けるのであれば、お召し物を全て取り払い、ベッドに横になってください」

「えっ・・・」

顔を真っ赤にして俺の方を見つめるカッシーナ王女。か、かわいい・・・。

「ヤーベ様を信じて・・・よろしいのですよね?」

「ええ、良ければ信じて頂けると張り切りますよ?」

悪戯っぽく笑ってウインクする・・・目がどうなってるか、デローンMk.Ⅱの状態ではよくわからんが。

「うふふっ、本当に不思議な方・・・殿方に肌を見せることなど、永遠に無いと思っておりましたのに・・・」

そう言いながらも頬を染め、恥じらいながらも一糸纏わぬ姿になり、ベッドの上に横になる。

「目を閉じて下さい。次に目を開くときは、貴女の人生が変わっていると思いますよ」

「まあ、それは楽しみですね」

笑顔のまま、目を閉じるカッシーナ王女。

俺は触手を出して、リーナを治療した時と同じように、スライム細胞を同化させていき、カッシーナの細胞情報から元の組織体の情報を取る。得られたデータを元にスライム細胞を変質させていく。スライム細胞を送り込むたびにどんどんとカッシーナ王女の顔が綺麗に修復されていく。体の左側全域、左肩も、左の乳房も、お腹も腰も。その全てを痛めて変質した細胞を吸収し、新たなスライム細胞で体を作っていく。

「さあ、終わりましたよ、王女」

ゆっくり目を開けるカッシーナ王女。

恐る恐る俺の方を見る。

そして、自分の体を見て、半身に刻まれた傷が無い事に気づく。

両手で顔を覆って確認するが、やはり傷が無い。

「え? ええっ? えええっ!?」

驚き過ぎて理解がついて行っていないカッシーナ王女。

そして、

「ふええええええっ!」

泣き出して俺に飛びつくように抱きついて来た。
俺はカッシーナが落ち着いて泣き止むまで優しく抱きしめ続けた。

 
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