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第8章 ヤーベ、王都ではっちゃける PARTⅠ

第93話 重くなる事態に対処しよう

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定食屋ポポロの状態はかなり厳しい物がある。
建物は古め、それほどの清潔感も無い。
味付けはそこそこ悪くはないのだが、材料はかなり悪い。
正直、一見で来ているのであれば二度目にもう一度来ようとは思わないレベルだろう。

「お茶をどうぞ」

そう言って妹ちゃんが急須を持ってきてコップにお茶を注いでくれる。

「ありがとう」

コップから暖かそうな湯気が立ち上る。
一口飲んでみる。

「・・・・・・」

お茶の入れ方は良い感じだ。丁寧に作業していると思う。
だが、茶葉がだめだ。お茶自体が古いものだな。

ちなみに、俺はもともと味にうるさい人間ではない。社畜時代はコンビニで買ったインスタントで体を形成していたくらいだ。

異世界に飛ばされてから味覚アップのため、食べながらぐるぐるエネルギーを高めていると、食材の良し悪しや、味付けなどが鋭敏にわかるようになった。

「お嬢さん、このお茶の葉はいつ購入したのかな?」

「お茶っ葉ですか・・・? これは三日前ほどです」

妹ちゃんは何の質問? みたいな感じで答えてくれる。

この質で三日前なら、明らかに質の悪いお茶だと分かった上で格安で仕入れているか、購入時に騙されているかの二択しかない。

「このお店は姉妹だけでやってるのかな?」

「はい・・・実は半年前に父が流行り病で亡くなってしまって・・・、母もお仕事を探しながらこのお店をやっていたんですが、一ヶ月前に帰って来なくなって・・・」

そう言いながら涙ぐむ妹ちゃん。

「お母さん帰って来ないの!?」

思わず俺は声が大きくなった。

「はい・・・、衛兵さんにお母さんが帰って来ないって伝えたんですけど・・・」

「それは心配ですね・・・」

シスターアンリも心配する。

「アンリちゃん、王都ではこういった失踪事件に関しては、衛兵さんに伝えると探してもらえるものなの?」

「・・・正直、そう言う情報がある、というだけで、探せるものではないと思います。彼女たちの母親が居なくなったという情報は挙がっても、彼女の母親を知っている人間はあまりいないでしょうし、探すこと自体が難しいかと・・・」

「なるほど・・・」

そりゃそうだ。写真があるわけでもない、情報網が発達しているわけでもない。姉妹の母親が居なくなっても、有名人でもなければ母親を知る人はかなり少ないだろう。衛兵たちが探す伝手も無い。

「君たちの名前を教えて貰ってもいいかな?」

「私はリンと申します。姉はレムと言います」

「お母さんのお名前は?」

「母はルーミと言います」

「ルーミさんね・・・ちょっと気にして探してみるよ」

「ホントですか!? ありがとうございます!」

少し目に涙を溜めて頭を下げるリンちゃん。
だが、そうやって話し込んでいると、

「ちょっと、根掘り葉掘り聞かないでよね。大体誰よ、アンタ達!」

ちょっと目の吊り上がったきつめの女の子が出てくる。
きっと野菜炒めを作ってたお姉ちゃんかな?

「誰・・・と聞かれれば、客だね。俺たちは」

「ぐ・・・!」

勢いよくやって来たお姉さんのレムちゃん。
いや、右手に包丁持ってるの危ないから。

「今はこのお店、二人だけでやってるのかな?」

「そうよ!文句ある?」

何でこんなにこの娘はツンツンしているんだろう?
いつかデレるんだろうか?
まあ、レムちゃんにデレてもらう必要はないんだが。
後、危ないから包丁を突き付けるのは止めてくれないかな?

「材料は誰が買いに行くのかな?」

「そんなことアンタに関係ないでしょ!」

「私もお姉ちゃんも買い出しに行きますよ」

「いちいち答えちゃだめ!」

リンちゃんは丁寧に答えてくれるけど、レムちゃんは個人情報秘匿タイプだな。

「ごちそうさま」

そう言って俺は金貨を1枚テーブルに置く。

「わわっ、すみません、お釣りが・・・」

「いや、お釣りはいらないよ。また来るね」

そう言って子供たちを連れ立って店を出る。

「ありがとうございました! またお越しくださいね」

リンちゃんが丁寧に挨拶してくれる。
リンちゃんの接客は気持ちがいいね。
レムちゃんはあっかんべーしてたけど。 

 

 

ポポロ食堂を出て、再びローガに狼車を引いてもらい帰途に就く。

「ヴィッカーズ、いるか?」

『ははっ!』

ヒヨコ十将軍序列第五位のヴィッカーズが飛んできて俺の肩に止まる。

「あの姉妹が定食屋で使っている材料をどこから仕入れているか、仕入れ先を調べろ。仕入れ先との取引状態と実際の取引現場も確認しろ。それから母親の失踪についても調査しろ。特に足取りだ。どこで行方不明になったか、徹底的に調べ上げろ」

『ははっ!!』

「え、ええ!? 今ヒヨコちゃんに話しかけてたんですか!? しかもすごく難しい事を指示してませんでした!?」

アンリちゃんが信じられないといった表情で俺に問いかける。

「ウチのヒヨコたちはすごく賢いんですよ」

俺はドヤ顔でアンリちゃんに答えた。

 

 

南地区の教会へ帰って来た俺たち。
教会に入ろうとしたところで、入り口に誰かが倒れているのを見つけた。

「オソノさん!!」

倒れている人にアンリちゃんが駆け寄る。
怪我人は俺たちが食事に出る時に留守番として見送ってくれたお婆さんだった。

明らかに暴力を受けて血を流して倒れていた。
全身が汚れ気味なのを見ると複数で寄って集って蹴られたように見える。

「光にありし神々の御手よ。御身の慈悲に縋りて、この者を癒し給う。<大いなる癒しハイ・ヒール>」

アンリちゃんの両手から暖かく柔らかな光が溢れ出し、オソノさんを包み込む。

「・・・ああシスター、帰って来たのかい」

「よかった!」

涙を流しながらオソノさんに抱きつくアンリちゃん。

「大丈夫だよ、死なない限りアンタが治してくれるだろうからね。あんな連中にやられやしないよ」

そういって笑顔を見せるオソノさん。なんて強い女性ひとなんだ。

「そんなこと言って・・・あんなひどい連中が来たら、逃げてください!」

「とんでもない、権利書とか盗まれちまったら大変だよ」

「そんなこと!」

アンリちゃんはオソノさんが心配なようだが、オソノさんもアンリちゃんが心配なんだな。

いい二人だ。

それにしても、「あんな連中」って言っているところをみると、何度もそのチンピラどもはこの教会に嫌がらせをしに来ているということか・・・。

 

ゴウッ!

 

「はっ!」

アンリは驚いた。魔力風で自分の髪が大きくたなびく。
魔力の風はヤーベから放たれていた。
アンリが着ていたローブのフードが捲れ上がり、端正な顔立ちの素顔がはっきりと晒され、金髪が揺れる。

(こ・・・この人、とんでもない実力の魔術師・・・?)

アンリはヤーベの持つ内包魔力がとてつもないものだと感じていた。

「どうやら、片付けねばならんような連中が存在しているようだな・・・」

報告があったのだから、分かっていた。
だが、敵は思ったよりも直接的な手段に出ているようだ。
想像していたより、時間に余裕が無い様だ。

「ヒヨコ十将軍序列第三位クロムウェル」

『ははっ!』

素早く飛んできて俺の方に止まるヒヨコ十将軍のクロムウェル。

「シスターアンリとオソノさん、子供たちを守れ。場合によっては実力行使も許可する。但し殺すな。殺すと面倒だ」

『ははっ! お任せください。必ずや賊は撃退してご覧に入れます!』

「頼むぞ。それからお前の調査結果は明日夜報告してくれ。それまで調査を進めておいてくれ」

『了解です!』

単純に力で来るなら、その力の向ける方向が間違っている事を教えてやろう。
そう、後悔するほどにな。

 
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