上 下
67 / 206
第7章 ヤーベ、王都に向かって出立する!

第61話 謁見内容を把握しよう

しおりを挟む

「謁見の内容なのだがな・・・」

やたら難しい顔をして語り出すフェンベルク卿。おいおい謁見ってそんなヤバイのかよ?

「まだ決まっていない」


ズドドッ!


俺は椅子からずり落ちる。

「だ、大丈夫か?ヤーベ」

「なんだよ、脅かすなよ!」

イリーナの手を借りて俺は椅子に座り直して文句を言う。

ちなみにローブ姿の中はデローンMk.Ⅱ+触手二本(右手左手)というい出で立ちだ。

「問題はその前と後だよ」

「前と後?」

「王への拝謁前には当然身体検査や、礼服の仕度など事前準備に一週間以上かかるはずだ」

「面倒臭ぇ! てか、身体検査?」

それを聞いてイリーナが俺をガン見する。

「そりゃそうだ。武器など持ち込んで拝謁などできんよ」

当たり前だが、厳しいんだな・・・。

そうなると、身体検査をどうクリアするか対策を練らないとだめだな。

「礼服などは王家御用達の者達が準備するから心配はない。費用もこちらで負担するので心配ない」

「前は拝謁準備に時間がかかるという事は理解できた。で、拝謁後は何が問題なんだ?」

「王より賜る御言葉にもよるが、コルーナ辺境伯家の賓客から、国王の謁見を経ると、当然ながら国家に所属してくるよういろいろな組織からの勧誘があるだろうよ。特に王国魔術師団、王国騎士団という王国直属のグループ、教会の大聖堂聖騎士団、神官団という教会グループ、その他私のような貴族に仕えるパターンだな。後考えられそうなのは、王国魔術師団とは別の魔術師ギルトが出張ってくる可能性もあるかもな」

「はっはっは、いつの間にこんなにモテモテになっちまったんだろうなぁ」

まったく溜息マシンガンが止まらねーぜ。

「どうやったかは知らんが、<迷宮氾濫スタンピード>を制圧する戦闘力と千人以上の重篤患者を一日で回復させる奇跡の技だぞ? 誰に聞いてもお前が欲しいと言うだろうよ」

「お断りします」

「誰しもがはいそうですかと言ってくれると思うなよ? 万一無理矢理お前を引っ張ろうとする奴がいたら、俺のところにとりあえず厄介になっていると言えばいい。俺の方は無理にここに留まって力を貸してくれとは言わないようにするさ」

「コルーナ辺境伯家の賓客というのは良い隠れ蓑になりそうですかな?」

「どこまで役立つかはわからんがね」

俺の茶化すようなセリフに、苦笑を交えて答えるフェンベルク卿。
結構腹を割って話してくれているように感じるな。

「王もヤーベという人物が傑物であるという認識はすでにあるだろう。だからそれだけにお前自身がどのような者なのか、どのようなことを考えているのか、王国にとって益があるのか、害になるのか、それを見極めるために呼ばれていると言っていいだろう」

「アンタ拝謁だけっていったじゃないかよ!」

「拝謁の中身がそれだけ詰まってんだよ」

「ふん詰まり過ぎだろうよ!」

「王は聡明であらせられる。ヤーベの事は悪く思わないと思うのだがな」

はー、と俺は大きくため息を吐いて肩を落とした。

「謁見の間で拝謁となった時に気を付けることはあるか?」

「うむ、通常多くの貴族が列席する中で拝謁する場合と、かなり絞って人数を少なくして拝謁する場合とがある。実はヤーベ殿がどちらになるかわからんのだ」

「む、そうなのか?」

「うむ、だからここを出発する際は私も行く。可能なら私も謁見する予定だ」

「それは心強いな」

「だが、まだわからん。実の所、ヤーベ殿の起こした奇跡はにわかに信じられぬものばかりだ。場合によっては内々での謁見になるかもしれんしな」

「気が重いねえ・・・」

「はっはっは、天下のヤーベ殿も苦手な事があるのかね」

快活に笑うフェンベルク卿。

「俺は普段は泉の畔でのんびり暮らしているのですよ? そんな堅苦しい場所、苦手に決まっているでしょ」

またまた盛大に溜息を吐く。

「知っているか? この国には王家の他に三大公爵家と四大侯爵家があるのを」

「ああ、ナイセー殿に聞きましたよ。ただ、家名も伺わなかったし、貴族間の関係も伺いませんでしたね」

フェンベルク卿がテーブルに肘を付き両手に顎を乗せて重い息を吐く。

「三大公爵家はリカオロスト、プレジャー、ドライセンの三つ、そして四大侯爵家はエルサーパ、フレアルト、ドルミア、キルエの四つだ。四大侯爵はエルサーパ家が水を司り、フレアルト家が炎、ドルミア家が土、キルエ家が風をそれぞれ司っている。四大侯爵家は王国の地水火風を示していると言われているのだ」

ヤッベー、どういう意味で司ると言っているかわからんが、俺が本当に四大精霊と契約済でーすなんて言ったらどんなトラブルが巻き起こるかわからん。最近召喚してないのに勝手に出て来ていることもあるし、後でよーく言い聞かせておかねばなるまい。

「四大侯爵家は実際の所、本当に国を支える四本柱と言っても過言ではない。あまり不穏な噂も無い。そのうちキルエ侯爵家は現在女流当主が務められている」

「ふーん、そうなんだ」

「あまり大きな声では言えんが、三大公爵家は一癖も二癖もある。何せ王家に何かあれば公爵家が出張ってくるようになるわけだしな」

「関わりたくない感じがビンビンするよ」

「特に野心家と言われているのがリカオロスト公爵家だ。実は今の王には長男と長女、そして次女の三名しかおられない。そのうち長女のコーデリア様は隣国のガーデンバール王国の王子に嫁がれておられるので王国にはいない。王太子であられるカルセル様と、王女であられるカッシーナ様のお二人しかいない」

「その二人に何かあれば・・・」

「不遜な物言いだが、可能性が無いわけではない話なのだ。さらに、カッシーナ王女は五歳の時に宮廷魔術師の私室で起きた事故により、顔を含めた半身に大やけどを負われてしまったのだ。大神官を含めた神官たちの回復呪文によって命だけは取り留めたとのことなのだが、それ以降全く国民はおろか、王城内でもその姿を見ることはほとんどない。一年に一度の新年を祝う式典のみ、顔が半分隠れる仮面をお付けになって国王の挨拶の横に立たれる。だが声を発することも無く王の挨拶の後、会場をすぐ後にされてしまうのだ」

あまりに意外な王女の話を聞いた俺は思わずフェンベルク卿の顔を見つめる。

「ふーむ、それではカッシーナ王女はほとんど表舞台に出て来ないという事なんだな。これでは長男のカシオリ殿の両肩には相当な重荷がかかっているなぁ」

「誰がカシオリか! 土産じゃねーんだよ! カルセル王太子様だぞ! お前冗談でも当人の前でそんな間違いするなよ!? 打ち首間違いないぞ!?」

しみじみと呟いたのだが、名前を間違ったせいで滅茶苦茶怒られた。
まあ確かに王太子本人の前でカシオリとか言ったらぶっ殺されること間違いないな。気を付けよう。

「話が逸れたな。リカオロスト公爵は王家との繋がりを強くしようと躍起になっている節がある」

ビクリとしてイリーナが体を震わせ、俺の手を握ってくる。どした?

「王家との繋がりって、王太子に娘でも送り込もうとしてるのか?」

「いや、リカオロスト公爵家は長男次男の二人なんだが、それぞれカッシーナ王女に求婚をしつこく続けているようだ。なにせカッシーナ王女は体の半身を火傷で損傷しているのだから、リカオロスト公爵家からの求婚以外来ていないのも事実なんだが」

その説明を聞いて俺は思わずムッとしてしまった。

「明らかに権力だけを見ているのか? カッシーナ王女当人を気に入っているとか、ないのか?」

「カッシーナ王女は誰とも会わないんだ。会ってもいないんだから、カッシーナ王女自身の事なんでどうでもいいんだろうさ」

ずいぶんとむかつくヤローだな。火傷の傷もひっくるめて面倒見てやる! くらいの男気見せろってんだ。

「それにリカオロスト公爵家は厄介だ。ルーベンゲルグ伯爵令嬢であるイリーナ嬢はよくわかっているだろうが」

「どういうことだ?」

俺はイリーナを見ながら問う。

「リカオロスト公爵家はルーベンゲルグ伯爵家にイリーナ嬢との結婚を迫っている。それもかなり強引にな。実は今イリーナ嬢が失踪という形でいないことになっているから、少し落ち着いているが、ルーベンゲルグ伯爵領への圧力をかけてイリーナ嬢の輿入れを強行させようとしていたんだ」

「ヤーベ、それが怖くて私は王都を逃げ出したのだ。父も母も逃げろとは言わなかったが、その気持ちは汲み取れた。兄から最低限の荷物とお金だけもらって王都を脱出したんだ」

「そうだったのか・・・」

それにしてもあまりに急な対応だし、極めて危険だろう。現にイリーナは俺が助けなければ殺されていた可能性が高い。脱出させるにしても護衛なり何なり必要だったはずだが・・・。

「そうなると、王都に着いた際にルーベンゲルグ伯爵家へ挨拶に行くのはまずいかな?」

「難しいな。俺はもちろん喋るつもりはないがヤーベと共に一緒に居る女性がルーベンゲルグ伯爵令嬢だとバレないという考え方はないだろうな。王都で一緒に行動すれば必ずバレるだろう」

「そうか・・・ならば、やるべきことは一つだな」

「ど、どうするのだ?」

「もちろん、君の両親にご挨拶するのだ!」

「ほわっ!? つ、つ、ついにヤーベが・・・ウン、おウチかえりゅ」

「おっ? ついに年貢を納めるのか、ヤーベ?」

「何が?」

「ルーベンゲルグ伯爵家に挨拶に行くんだろう?」

「そうだ、イリーナの師匠・・・・・・・としてな!」

俺はドヤーッという顔で偉そうに胸を張る。
・・・ローブを深くかぶっているから、俺のドヤ顔はわからない・・・というか俺今スライムだったわ。

「し、師匠・・・?」

イリーナがポカーンとした顔で俺を見る。

「おいおいどうした、ソレナリーニの町でもそういう設定で話をしただろう?」

「そ、そういうせ、設定・・・?」

なんだか顔を赤くしてプルプルしているイリーナ。

「お前・・・それはないだろう・・・」

フェンベルク卿も俺に呆れた表情を向ける。

あれ? 俺何か間違えた!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生配信〜はぁ?なんだそれ!ってか異世界転生すら聞いてないぞ!〜

だらけたい
ファンタジー
 ど〜も神さまで〜す。  今回なんとなくで異世界に転生させた人がいるんですよ〜。  で〜、その異世界転生の様子を配信したら面白いと思って新しくチャンネルを作ってみました〜。  ただ、コメントなどに色々禁則事項があるのでそこら辺は気をつけてくださいね〜。  面白いかどうかは転生者次第なので、面白くなくても文句は受け付けませ〜ん。見るならそのつもりでお願いします〜。  でも、面白くても面白くなくても登録だけはお願いします〜。  では、本編へど〜ぞ。

処理中です...