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第6.5章 ヤーベ、マイホームを手に入れる!

第54話 マイホームを建ててみよう

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「やっと泉の畔に帰って来たぜ~、のんびりだろぉ~」

爽やかな木々の零れ日を浴びながら深呼吸(?)して、背(?)を伸ばす。
全然ワイルドじゃないけど、口調はワイルド・・・いや、ワイルドでもないか、あの芸人も。

「オイッチニ~、サンシ~」

俺様は両手(?)を上に伸ばし、背筋(?)をピンとすると、腰(?)を中心に体の上半身(?)をぐるぐる回す。

・・・やったらめったら(?)が多いな、オイ!
確かに俺様はスライムボディになってしまったから、体のどの部分が背筋や腰だよ!ってツッコミはもちろんあるけど、いいじゃないか! もはや気分だよ、気分!
朝から触手を振り回して健康体操~って踊ってたら、通報されるわ、マジで。

それはそうと、泉の畔に立ち、周りを見渡す。
自然一杯の景色・・・というか、自然しかないけど。

でも、なんとなく感慨深い。
やっと帰ってきたという感じかな。

迷宮氾濫スタンピード>から向こう、ずっと出かける羽目になってここに帰って来れなかったからな。

・・・まあ、ここに帰ってくるっていう言い方もどうかと思うけどな!





バサリ。

布ずれの音がしたので振り返ると、テントから寝ぼけ眼のイリーナが起きてきた。
そのままボーッとした顔でトテトテと泉の淵ギリギリまで歩いていくと、徐に膝をつき、泉の水を手ですくってバシャバシャ顔を洗い出す。

「ほわ~、気持ちいい」

君、伯爵令嬢だったんだよね? 
それでいいのか? 
でもイリーナだし、まあいいか。



ローガ達も長旅だったのか疲れて寝ている。
まあほとんどローガに乗って走って来たからな。
後で起きたら、ソレナリーニの町で買い込んだ屋台飯を振る舞って慰労しよう。



ヒヨコたちもずっと飛んできたからな。
今はゆっくり休んでいる。
ヒヨコたちにも好物の串焼きを用意しよう。
ヒヨコがアースバードの焼き鳥・・・まあいいか。



帰り道、ソレナリーニの町の代官ナイセーだけには挨拶に寄った。

城塞都市フェルベーンのトラブルについて報告、対応済みと連絡しておいた。その時にコルーナ辺境伯家に立ち寄ってルシーナちゃんの治療をしたこと、フェンベルク卿の囲い込みがあって脱出してきたことなども包み隠さず伝えた。
ナイセーは頭を抱えていたな。先日の<迷宮氾濫スタンピード>報告も完了しないままテロ事件になったしな。



まあ、それはナイセーに全部お任せだ。
俺様は関係ないっと。



さて、俺様はマイホーム建築を考えよう。
今、俺たちに建てられそうな家といえば・・・えっ!? イエとイエば・・・ぷぷっ!

オヤジギャク!

・・・自分だけで完結する、ちょっと寂しい。

真面目に家を考える・・・まあ、普通に考えてログハウスだよな。
木を切り倒して、組み上げる・・・。
素人の俺には無理だな。

「ちょっとカソの村の村長に家の建て方を相談するかな・・・」

「おはよう、ヤーベ。やっと普段の生活に戻ったな」

イリーナがニコニコしながら朝の挨拶をしてくる。

「やあ、イリーナおはよう」

だがイリーナにとってこの畔でのテント生活が普通の生活ってどうなんだ?
大丈夫か?

「そう言えばイリーナはルーベンゲルグ伯爵家の娘さんだっけか?」

「え、ああ・・・そうだな。どうしたのだ? 急に」

「いや・・・、泉の畔にテント生活って辛くないのかなって・・・」

「何を言う、前にも言ったではないか。今はヤーベのそばにいることが私の全てなのだ」

・・・ジーン。イリーナ、エエ娘や。

「よし! ここに丸太でおウチを作ろう! イリーナがゆっくり生活できるように」

「ええっ!? 私のためなのか・・・?」

「うん、俺はまあ外でもいいんだけど。イリーナは体が休まるベッドとか、暖かいお風呂とかあった方がいいだろ? 寒くなるとテントでは風邪を引いちゃうかもしれないし」

「ヤーベ・・・!」

そう言っていきなり抱きついてくるイリーナ。
顔を洗うのも、体を拭くのも泉の水を使っているせいか、イリーナはすごくきれいなんだよな。なんとなくいい香りがする気もする。
・・・泉の水を売り出したら儲かりそうな気がそこはかとなくしてくるが・・・まあ、将来考えればいいか。

「嬉しいけど、私はテントでも大丈夫だぞ? ただ、もし可能ならお願いしたいことが・・・」

モジモジしながら俺の方を見てくるイリーナ。

「クッダク以外なら何でも聞くよ」

「ヤーベは体の大きさを変えられるから、ちょっと大きくなってもらってその上に寝てみたいのだが・・・」

「・・・スライムベッドか?」

「そんな感じだろうか?」

まあ、イリーナがやって欲しいんだから、要望には応えよう。

ローブを脱いで久々のデローンMk.Ⅱをさらけ出す。
一回り大きくしてさらにデローン化を進める。
イメージはゆりかごだ。

「さあ、いいぞイリーナ、おいで」

「すごいな、ヤーベありがとう!」

早速ポヨンッという勢いで俺に座ってくるイリーナ。まるでハンモックみたいに全身を預けてくる。

「わああっ! すごいぞヤーベ! ポヨンポヨンだ! とっても気持ちがいいぞ! すごいすごい!」

俺の上でぽよぽよと体を揺らすイリーナ。

「ヤーベはひんやりするんだな。ホントに気持ちいいぞ!」

嬉しそうに言うイリーナ。喜んでもらえて何よりだ。

というか、俺はひんやり冷たかったんだな。自分は寒暖耐性があるから自分の温度はよくわからんのだよな。冬場は嫌われないようにぐるぐるエネルギーで湯たんぽ化することも検討せねば!



「・・・でもイリーナは俺が怖くないのか?」

「怖い?ヤーベが?何故だ?」

「<迷宮氾濫スタンピート>では大量の魔物を吸収したんだぞ。例えばこうして今俺の体の上で休んでいるが、もしかしたら溶けて吸収されてしまうかもしれないとか、思ったりしないのか?」

俺の質問にイリーナはコテンと首を傾げ、その後急に笑い出した。

「はっはっは、何を言っているんだヤーベ」

実におかしいといった感じで急に反対を向き、俯せになると俺を体全体で抱き包むように両手を広げるイリーナ。
まあ、それでも俺のスライムボディの方が大きいけど。

「私は最初に出会った時にヤーベに命を助けられたんだぞ? その後の<迷宮氾濫スタンピート>だって、ヤーベがいなかったら私は町ごと滅ぼされていたかもしれない。その後のテロ騒ぎだって、私は毒に倒れていたかもしれないのだ。これだけヤーベに命を救われて来て、今さらヤーベを疑うとか、それこそないぞ。ヤーベの事は全身全霊で信用している。もし、私を溶かして吸収する事があるのなら、それはヤーベが何かの理由でそうしなければならないことがあるのだろう。それに対して私はヤーベを恨むような事はしないぞ。きっとそれが必要な事なのだろうからな」

ニコ~っと微笑むイリーナ。俯せに寝転がって俺様のぽよぽよボディを抱きしめているので、イリーナの笑顔を俺もはっきりと見ることが出来た。

「イ、イリーナ・・・」

ヤベッ! 感動して涙が出そう!
・・・俺の目がどこにあるかは別として。

そんな嬉しい事を言ってくれるイリーナにちょっとサービスだ!



トプンッ!



「ほわわっ!?」

頭だけ残してイリーナの体を包み込む。
俺の体内にとっぷり取り込んだような状態だ。もちろん消化したりはしない。

その後、立ち上がるようにする。
すると、まるでスライムスーツに包まれたイリーナが立っているような感じになる。
まるで巨大風船に入って風船から顔だけ出しているような状態だな。

「ふわわっ! ぽよぽよしているぞ」

そのまま巨大風船のごとくぽよぽよと飛び跳ねて泉の畔の周りを移動する。

「わああ~、楽しいぞヤーベ!」

「はっはっは!イリーナ専用のボディだぞ!」

風船と違ってスライムボディは割れないからな。

「わ、私専用なのか・・・くっ」

「まあまあ、それはいいからいいから」

そう言ってぽよぽよ泉の周りを飛び跳ねる。

二人でワーワーと楽しんでいると、ローガ達やヒヨコたちが生暖かい目で俺たちを見ていた。

『春でやんすね~』

おいガルボ。お前この前も春だって言ってたぞ。ここはずっと春なのか?

『うむうむ、ボスもこれでイリーナ嬢を娶れば安泰だな』

『ローガ殿は知らないかもしれませんが、ボスにはルシーナ嬢という二人目の奥さんもいるんですよ』

『なんだと! そのような情報どこで手に入れた!』

『ローガ殿達が庭で待機していたコルーナ辺境伯家のお嬢さんですよ。ボスが命を助けてあげた縁で、ルシーナ嬢がすっかりボスにまいってしまいまして』

『なんと! ボスも罪作りなものよ』

『いやいや、ボスともなればハーレムも当たり前というもの』

『『『確かに』』』

四天王よ、そんなにそろって頷かなくてもいいぞ。
後ヒヨコ隊長。自分のハーレムを正当化するために俺にハーレムを押し付けるのはやめろ。

そんなこんなでみんなで盛り上がっていると、泉の畔に来客があった。

「これはこれは精霊様方、なにやら盛り上がっておられますな」

やって来たのは、カソの村の村長と若い衆だった。

「やあ村長。元気にしているか?」

「それはもちろん、精霊様のご加護で前よりも健康ですよ」

マッスルポーズで元気をアピールする村長。ホントに元気だな。最初会った時はこんな元気なジーサマじゃなかった気がするけど。
よく見れば後ろの若い衆は樽を抱えている。もしかして水の精霊ウィンティアの角がついた奇跡の泉の水を汲みに来てるのかな。

「こうして若い衆に精霊様の加護を受けた泉の水を運ばせております。おかげで作物も元気に育っており、一日一人コップ一杯飲むと万病の予防にもなるとかで。精霊様方には感謝感謝でございますぞ」

そう言って若い衆の持ってきた樽を降ろすと水を汲み始めるよう指示を出す村長。

「村長自ら出向いているんだ?」

「もちろんでございます。奇跡の泉の水を分けて頂くのです。感謝のために自ら出向いております」

「わ~~~、殊勝な心掛けだねっ!」

いきなり俺の後ろから飛び出る水の精霊ウィンティア。呼んでなくても、もう自分たちで出ちゃうようになったね! 別にいいですけどね。

「私も泉の周りに加護を授けてますから~、とてもいい水になってると思いますよ~」

土の精霊ベルヒアねーさんも登場ですか。しかも加護あったんですね!

「いいな~、風は加護を与えにくいから・・・」

風の精霊シルフィアが残念そうに登場する。

「ヤーベは俺の加護で燃やしてやろうか?」

一人意味不明なヤツがいるのでスルーします。

「ところで村長、ここにマイホームを建てたいのだが。よかったらログハウスとか建てられる職人がいたら紹介して欲しいんだけど」

「おおっ! ここに精霊様の神殿を!」

「いや、マイホームです」

「ログハウス風の神殿ですな! 自然に溶け込む素晴らしいものを造り上げましょうぞ!」

「いやマイホームです」

「お前達! 精霊様の神殿造りだ! 村を上げて全力で造り上げるぞ!」



「「「「「おおおーーーーー!!」」」」」



「いや、だからマイホームですって・・・」

俺は天を仰いだ。
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