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第5章 ヤーベ、地元のピンチに奮い立つ!

閑話3 疾風怒濤のローガ達

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草原を怒涛の如く突き進む一団。

砂煙を濛々と上げながら超高速移動しているこの集団を通りすがりに見た商人は、後にこう語っている。

「あまりの速さにマジビビッた!」・・・と。

『お前たち!ボスからの直々の命令だ!絶対に抜かるんじゃないぞ!』

『『『おおっ!』』』

今まで、ボスであるヤーベ様からの指示は、基本的に「お願い」だった。

「泉の北を調査に行ってくれるか?」
「カソの村でお祭りがあるから獲物をたくさん狩って来てくれるか?」

普段とても優しいボスは命令がいつも依頼口調だった。
もっと厳しく手足の様に使ってもらっても構わないと伝えたりしたのだが、

「お前たちは大切な部下であると同時に仲間だから」

と言ってニコニコしていた。

だが、今回ははっきりと伝えられた。

「全狼牙族と、ヒヨコ隊長の全部隊の指揮をお前に預ける。今よりカソの村へ急行し、村へ迫る魔物を一匹残らず殲滅せよ」

「行け!必ずカソの村を守り切れ!」

身震いするほどの高揚。敬愛するボスからの勅命。
これで奮い立たなければ男ではない。



『隊長!ローガ殿たちの速度に追いつけません!』

ローガ達狼牙族の一団が超高速でカソの村に向かったのだが、気合が入りすぎているのか、ヒヨコたちの飛行速度を上回る速度で進行していたため、ヒヨコの一団が遅れていた。

『くっ!ローガ殿はボスの勅命にかなり気合が入っていたからな・・・』

全速力で飛びながら会話するヒヨコ隊長。

『二手に分かれる! 半数を今カソの村へ向かっている一団を追っている別動隊と合流させろ。半数はこのまま俺に続け!』

『はいっ!』

『別動隊と合流したらカソの村へ伝令を飛ばせ!俺を見つけてその距離を報告しろ!』

『はっ!』

そうしてヒヨコの半数が分かれて離れて行く。

『とはいえ・・・ローガ殿達のやる気を考えると・・・到着した時、我々のやる事が残っているのか、若干不安だな・・・』

ヒヨコ隊長は全然別の内容で不安を感じていた。
そして、その不安は的中する。

『た、隊長!』

『なんだ、どうした?』

『ボスが、出立する直前、伝言を!』

『なんだと! 何と言った!?』

後ろから何とか追いついて来たヒヨコがとんでもない事を報告してきた。
ローガ殿が勅命を受けて猛ダッシュで出立したのでそれに送れないよう急いで飛び立ったのだが、まさかボスが後方の部隊に伝言を残していたとは・・・

『はっ! なんでもオークという魔物は比較的肉がうまい可能性が高く、出来れば形を残して仕留めるように、との事であります』

『なっ!なんだと!』

ヒヨコ隊長はその指示に衝撃を受け狼狽した。

出来れば形を残して仕留める、だと・・・。

今のやる気満々なローガ殿一党が敵に突入したら・・・。

『まずいっ! 何としても追いつかねば、戦闘が始まったら敵は形を残さず消し飛んでしまいかねんぞ!』

ローガ殿の戦闘力は言わずもがなだが、現在四天王と言われる四頭の狼牙。この連中の戦闘力がハンパない。風牙、雷牙、氷牙、ガルボ、このうち風牙、雷牙、氷牙はその名の通りの自然現象を操るスキルを持つ。魔法も併せ持つので広範囲の敵も殲滅するだけの実力を持つ。ガルボ殿は比較的力任せのイメージがあるが、他の三頭がフルパワーで戦闘をすれば、地形すら変わりかねない。オークの原型が残ることなどまずないだろう。

『このまま追いつけずオークが消し飛んだら、ボスに合わせる顔がない! 何としても追いつくぞ!』

『ははっ!』

ヒヨコたちはさらに速度を上げローガ達を追いかけた。





・・・・・・





ザンッ!

ローガ達はカソの村から少し離れた場所に陣取った。
陣と言っても、ローガを中心に一列に並んでいるだけだ。
まだ敵の姿は見えない。

『お前達、準備は良いか?』

『『『もちろんですリーダー!』』』

ズラリと並んだ狼牙達が一斉に返事をする。

『ボスは我々の敵の四倍もの数を一人で受け持つと言われた。何としてもここに来る敵を速攻で殲滅し、ボスの援護に戻るぞ!』

『『『『ははっ!』』』』

そしてやってくるゴブリンたち。

「ギャギャギャ!」

「ギャギャー!」

『ふんっ、何を言っているのか全く分からんな』

『まるで知性の無い魔物というのは哀れすら感じますな』

『仕方あるまい、我々とは違うのだ。知性も無いのだから、殲滅するのに気を病む必要もない』

四天王のうち、ヤーベから直接名を賜った三頭がゴブリンをあざ笑うかのように前に出る。

『先陣は任す。油断するなよ』

『『『ははっ!お任せください!』』』

三頭が飛び出す!

『は~、やる気が違うでやんすね、あの三頭は』

『ボスより直接名を賜ったからな。それだけの結果を見せねばならんと考えているだろうよ』

『こりゃあ、俺の出番はないでやんすなぁ』

ガルボの苦笑にローガも頷く。

『それでもかまわんがな、油断だけはするな。お前は万一この布陣を抜けてくるような魔物が出たら必ず仕留めてくれ。まあ、そんな奴が現れるとは思えんが』

『了解でやんす』

ローガとガルボが話している間も三頭を先頭に狼牙達が攻めあがる。

『我が名は風牙! ボスより頂いたこの名に恥じぬよう、この戦先陣を切らせて頂く!  まずは受けよ! わが身に纏いし風よ! 切り裂け!<真空烈波エアブラスト>!!』

風牙の体が風を纏い、高速で駆け抜ける際に真空刃を発生させ敵を切り裂いていく。

『ふはははっ! ならば我も負けてはおれぬ! 我が名は雷牙。我の力を受けてみよ! 大気に宿りし陽炎の力! 今こそ降り注ぎ彼の敵を打ち破らん!<雷の雨サンダーレイン>!!』

雷牙の前方に広範囲にわたり雷が降り注ぎ、敵を焼き尽くしていく。

『ふっ! ならば我も力を見せようか。我が名は氷牙! 我が前に立つことは自ら死地へ踏み込む事と同じと知れ! 大気に集う零下の子らよ、氷雪に舞え!<凍結細氷ダイヤモンドダスト>!!』

氷河の前方に強力な冷気が放たれ、魔物が凍り付き砕けて行く。



その後ろから狼牙達が突撃して行く。その爪と牙を縦横無尽に振るい、敵を屠って行く。

実際の所、ゴブリンやオークは狼牙と比べると魔物の分類では1~2ランク低い。とはいえ圧倒的にゴブリンやオークの方は圧倒的に数が多い。通常ならばまともに戦うのは無謀とも言える戦力差であったが、ヤーベの部下となった狼牙達は与えられたスライム細胞で強化されたローガを筆頭に狼牙一党が圧倒的な実力を持つように進化した。ローガの力がその一族にも流れ込むようなそんな強化状況にあった。



『ローガ殿!攪乱担当します!』

別動隊の敵を追っていたヒヨコたちが、敵の間を飛び回り攪乱して行く。

『集団から単独で逃げ出さない様に監視してくれ』

『了解!』

もはやゴブリンやオークは陣形を留めることも出来ず、ばらばらに蹴散らされていく。

切られ、焼かれ、凍らされ砕けて行く。



あっという間にゴブリン、オークの軍勢を殲滅したローガ達。

そこへやっとヒヨコ隊長たちが到着する。

『ローガ殿!』

『おお、ヒヨコ隊長。ご苦労さん。敵は殲滅してしまったぞ』

『しまった・・・遅かったか』

『何かあったか?』

『出立する時、ボスが後方のヒヨコに伝言を・・・』

『何!?何とおっしゃったのだ!』

『オークという魔物は比較的肉がうまい可能性が高く、出来れば形を残して仕留めるように、との事でした』

『なんだと!?』

ローガが立ち上がり、目の前の状況を確認する。

『これは・・・手遅れ・・・か』

ローガがうなだれる。

ヒヨコ隊長は全力で飛んで来たにも関わらず間に合わなかったことにがっくりと翼を落とした。
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