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Prologue

〝心〟

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_Prologue_
〝心〟


PH-A9001、PH-A9001

如何でしょうか、これが今回署内で一定期間内で試験用として配属されるアンドロイドです。対象の遺伝子が特定できる細胞が少しでもあれば半径3km圏内で追尾ができ、CB(セントラルブレイン)…ご存知の通り都市内の人口、地形など殆どの個人情報や国の情報を管理する機関とデータを共有する事ができます。
広範囲の追尾機能、データ共有機能とともに戦闘面でも秀でていて、一兵卒の軍人並みの強さを兼ね備えております。加えてこのアンドロイドは人の仕草や言葉遣い、息遣いまで表現する事ができます。アンドロイドが苦手な方でも馴染みやすい、明るく元気な性格でユーモアを話すことができるモデルとなっております。

──ついに巡査もアンドロイドになり変わるのかぁ、確かに巡回してる2割はもうアンドロイドだけどね。
事故は起きるけど、見回りだけなら…やっぱりアンドロイドの方が優れてるからね。
私は構わないけど、でもユーモアができる子っていうのは面白いね。巡回してるアンドロイドはユーモアが通じない事が多い…というか!通じないし。
どんな活躍を見せてくれるのか、とっても楽しみだ。

お褒めいただき光栄です。では、明日から3年間試験用として運用いたしますが…このアンドロイドに名前をつけてくださいますか?名前をつけてくださったら登録され、名乗るときにいつもその名を名乗るようになります。

──え、私で良いの!?

はい、初めてこのアンドロイドのお話を聞いてくださりましたからね。
なんでも構いませんよ、できれば人間社会に溶け込めるものが望ましいと思いますが。

──そうだなあ………うーん…
君の髪は、とっても綺麗な黒髪だな、それでいて瞳はスカイブルー…シアンだ。それでいて顔立ちは上品で、でも明るい子……よし、決めた。いいよ

PH-A900、名前の登録をお願いします



──碧姫(タマキ)。
君の名前は、花井碧姫(ハナイ・タマキ)だ





「はい、ご主人様。私は花井碧姫です。」
目の前のアンドロイドは名前をつけられると穏やかな笑顔で、美しい声でそう名乗った。
その発言からして彼女が一目でアンドロイドだとわかる。しかしどこから見ても彼女の容姿は人間だ、それでいて肩を上下させて息をしているし瞬きだってする。
身長は170cm、おそらく戦う時の衝撃に耐えられるよう作られていてどちらかというとアスリート体型だ。
碧姫を連れてきた人は「今日は可能な限りアンドロイドだと知らせないで」と私に任せると何処かへ行ってしまった。今回贈られた彼女は試験用だからなるべく親元から離れて経験を積ませたいんだろう。彼からしたら売り物の機会かもしれないけれど私はそうは思えなかった。

「そうだな、まずは私の名前を覚えてくれるかな?ほらー…ご主人様だと、みんながびっくりしちゃうかもしれない」
「承知しました、署内の方はなんとお呼びいたしましょう」
「うーん、じゃあ私の事からかな。私の名前は櫻音玄慎(サクラネ、ゲンシン)。この署では捜査一課の警部…そうだな…私の方は櫻音さん、て呼んでくれればいいよ」
「承知いたしました、櫻音さん」
「それと…君は何歳?」
「製造されたのは3ヶ月と4日前、2時間11分46秒前ですが…」
「え?!…あっす、すごく綿密だな…」

ちょっとびっくりした、そうか。見た目は確かに女性だけど彼女はアンドロイド、何歳と言われたら製造日時を答えるのが普通だ。

「うーんそうだよね。それじゃあ…君の…容姿。どんなふうに設定されてる?見たところ…若い子に見えるけど」
「私のモデルは25歳を目安に作られています」
「よしよし、なら25歳以下は敬語を外して26歳以上は敬語で話そう」
「何故でしょうか?」

正直なところアンドロイドにあまりいい印象を持っていない国民が多いのは確かだ。ブルーカラーの人間は仕事を奪われてしまうし、先程の通りこれからもさまざまな職がアンドロイドにとって変わっていく事だろう。勿論、私が所属してる警察署でもアンドロイドを毛嫌いする人は多い、だからこそこの子を傷つけないためにも人間と同じように行動するのが望ましいと思ったのだ。

「君がしっかりここに馴染むため。あまりきっちりしなくてもいいよ、年上に対しての敬語もカチカチしすぎず…8割くらい少し砕いた感じにして」
「わかりました、ありがとうございます櫻音さん」
「ううん、いいよ。あと私は君をアンドロイドとして扱わないからね」
「何故でしょうか?」
「うーん…ごめんね、君がアンドロイドとして扱われる、そっちの方がいいならそうするけど私は綺麗な人の形をしてる君を大切にしたいからさ」
「櫻音さんは優しい方なんですね」
「そうかな?まあ…普通の人に比べたら、私はアンドロイドを人として扱っちゃうかも!ついに私もアンドロイドな部下を持つんだーって…少しワクワクしちゃったよ。私の息子はアンドロイドが好きでさぁ…早く君に会わせてあげたいな」

碧姫は私の話を聞いてとても嬉しそうに目を細めた。口端をクッと上げて、そのまま歯を見せて?なんて言ったらそのまま声を上げて笑ってみせる。とても愛らしい子だ。それがプログラミングされた反応なのか、どうなのかはわかりかねるけど、少なくとも私はこの子を一人の部下として育ててあげたいし他のメンバーとも仲良くさせてあげたい。そう思った。

彼女はまだ試験期間ではない。明日からだ。
だからまずは、人間らしさを学んで欲しくて彼女には公園に行ってもらった。彼女を連れてきた店の人が言うには碧姫がアンドロイドである、とまだ公にできないらしい。だけれど私はあのあと仕事があったのでひとまず「人間らしく!公園で待ってて!」と駆け足で伝えてから離れた。

仕事を終えてから公園に大急ぎで行ったところ時間通りに彼女は本当にうまく、そこで待っていてくれた。






「あ、すみません……」

私の目の前に来たのは紅い長髪の、青目で右目には傷がある15歳と推定される男性。やろうと思えば彼の虹彩からデータを特定できるがまだ許可はされていないので、やらないでいた。
目の前の男性の顔を分析する、無表情に近いけれど少し困ってそうな顔をしていて、彼の口から発せられた声も落ち込んでいて少し不安そうだ。

「どうしたの?何か困った事があったの?」

櫻音玄慎と名乗ってくれた36歳の警部は、年下に対しては敬語を抜いて話すように仰っていた。それに、頑張って人間らしく振る舞ってほしい…と。
勿論、彼が仕事に行ってしまったあとデータが私には何もないため、まずはネットで記事やニュースを確認していたところアンドロイドに対して良い印象を持っていない人間が多いのは確かだった、櫻音さんはきっと私が署内でアンドロイドのように振る舞ってしまい差別されるのを避けていたのだろう。
差別が作業が滞らせるというのも把握している。私の行動を制限すると言った問題を引き起こされてしまっては任務を行うのに余分な手間を発生させてしまうだろう。

「あ、ちょっと散歩してたら……迷子になってしまって……」
「それは困ったね…どこに行きたいの?お姉さん、この辺りは詳しいからなんでも聞いてね」
「なんていうか…えーっと…アーデンって言うショッピングモールなんですが…俺ほんとに方向音痴で、良かったらついてきてくれますか…?」
「うん、…今日待ち合わせしてる人がいるんだけど…その人のお仕事が終わるまでは時間が空いてるの、だから良いよ」

咄嗟についた嘘。櫻音さんが、もしも私がアンドロイドである、と知られてしまうようなら嘘をついてしまっても仕方ない、と仰ってくださった。
目の前の困った人の問題解決をするのは私の責務であり、また人間に自分はアンドロイドであるまたはアンドロイド的印象を与えるのは望ましくない事だ。

しかし目の前の男の子は目を少し丸くして、でもお礼を言って私のそばを歩いてくれる。私の嘘が嘘であるとわかってしまったのだろうか、どう言った部分が嘘であるか意見を聞きたいけれどそれを聞いたら嘘だとわかる可能性が上がってしまう。だから口を噤んだ。

「おねーさんその人のことすごく好きなんだなって」
「どうして?」
「仕事終わるまで待ってるんでしょう。定時って夕方の18時…でも今13時。おねーさんすごい暇じゃないですか?」
「…そうかな?こうして待ってる時間は嫌いじゃないよ」
「そうなんですね、いいな、大切な人がいるの」

男の子の顔が少し寂しそうになった。分析するに、恋人のような、親友のような大切な人が彼にはいないと言うことだろう。でも、櫻音さんは私にとって恋人や友達ではない、上司だ。
男の子が嘘だと分かったかどうかは知らない。だけれど私の話をよく聞いてくれて、櫻音さんのように優しく反応してくれる。これは私が人間らしく振る舞えてると判断しても良いのだろうか、もしも櫻音さんに「人間らしく振る舞えた?」と聞かれてもそれにはいと答える事ができる。

「実は俺、事故でずっと眠ってたらしくって。一応会話には困らないんですが…まだちょっと頭がぼんやりしてるって言うか」
「そうなの…でも生きていて、良かったね」
「おねーさんはどう?大切な人が誰もいなくて、一人で目覚めても「生きていて幸せだ」と断言できますか?」
「それは……」
「大切な人が誰もいない。生きていても自分が関わる人はいないんだ」
「……それは」

大切な人、と分類される人がいるかは私にはわからない。もしいるとしたら一番近いのは、会話を何度か交わした櫻音さんである。
でも、今の私の記憶から、櫻音さんと出会わなかった場合の記憶が存在しないので思いつかない。想定されるとしたらアンドロイドに対して不満を持ってる人間に対していきなりアンドロイドのような対応をしてしまい、差別されるかもしれなかった可能性だろう。
そう思うと、私が櫻音さんと出会ったのはとても運が良かった事なのかもしれない、でもその櫻音さんがいなくなったら…今の私は誰を頼るのが得策なのだろう。
彼と同じで私もまだ、目覚めたばかり。…そう思うと、彼の境遇は今とても困難なものだと思った。

「おねーさん?」
「あ、ぁあ!ごめん、その…すごく考え込んじゃって」

アンドロイドに優しい人間を見極める機能はついていない。櫻音さんは友好的だ。
仮定するなら…これから事故が起こって私の機能が一時的にシャットダウンされ櫻音さんがいなくなった世界で私が目覚める。
私は今が、恵まれている状況なのかもしれない。それなら、大切な人がいない中目覚める、の答えは…今の現状よりも望ましくない状況に置かれるから「幸せではない」なのだろうか。

「お姉さんの大切な人がいなくなったら、私は誰を頼ったら良いかわからない」
「今の俺も、そうなんですよ」
「…それは…」

でも目の前の男の子を傷つけてしまう可能性もあるのではないか。「幸せではない」と断言したら今の彼も「幸せではない」と断言してしまう。
不安な彼が、目覚めたことを否定されれば少なからず悲しい気持ちになるだろう。私は今日彼を不幸せにしてはいけない、でも私が導いた答えは「幸せではない」であった。

「おねーさんの気持ちを答えてくれれば大丈夫ですよ、俺は関係ありませんし」
「…………ええと、ごめん…頼れる人がいないと……すごく、不安になって…」

でも、存在出来ることは、少なからずともプラスではないだろうか
存在している、と言うことは行動する事ができる
人間なら、関わる人間を選ぶ事ができる

「でも、私達は生き方や、関わる人間を選べる」

その道が必ずしも、良いものになるとは断言できない

「残念だけど、私には選ぶ事が良いか、悪いかどうなるかはわからない。未来の可能性は、計り知れないと私は思う」

そう言って…私は、彼の反応を伺う。


「おねーさんとても素敵な人ですね」
「そうかな?そうだと、嬉しいな」
「素敵ですよ、だって…なんか俺、目覚めてからすごく不安だったのにすごく救われました」
「ほんとうに?よかった」

男の子は笑いはしなかったけれど、でも先ほどよりも明らかに表情が柔らかくなって声のトーンも少し高くなった。それは私が彼が求めるべき対応ができた、と言うことだろう。

「また会えると良いなって思ってしまいました…俺、なんていうか…知り合いがあまりいなくて」
「…貴方の名前、教えてくれる?…もしかしたら、また会えるかもしれないでしょう?」

人間の役に立つ、それは警察として役に立ち、そして誰に対しても助けになる事。
今の彼の助けになるのに必要なことは、彼とまた会える可能性を作り、違和感のないタイミングで出会う事だ。

「俺、鬼柳アユムっていいます」
「アユム君ね…私は…」


──花井碧姫(ハナイタマキ)


PH-A9001と答えていたら少し面倒なことになっていただろう、名前を伝えたらアユム君は碧姫を「綺麗な名前ですね」と褒めてくれた。
そういえば、今日アユム君は私のことをアンドロイドか?とは言わなかった。彼が、私をアンドロイドだと知ったら差別するだろうか?友好的にするだろうか?知っていて友好的にしているのだろうか。
櫻音さんは私がアンドロイドでも友好的にしてくれる人だ、だが…もし、アユム君がアンドロイドを差別する人なら、未来に出会う可能性をつくっても、アユム君の助けになる事はできない。
アユム君との会話ができなくなってしまうのは…私が人間らしさを獲得するための機会を失う事でもある。
それは少し、残念だと私は思った。

「アユム君、お姉さんも一つ質問していいかな」
「ええ、どうぞ」
「アユム君は、その大切な人がアンドロイドであるか否か、人間であるか否かってどう思う?」
「え?唐突ですね」

先程読んだニュース、ドラマから話を作る。

「お姉さんのお母さんはね、もう足が不自由で…今はアンドロイドに頼って生きているの…お母さんにとってはアンドロイドはとても大切で…いなくなったら困る存在なの」
「はい」
「私達人間は、死んだらそれっきり。でもアンドロイドはいくらでも作れる。だとしたら…」
「そのアンドロイドが過ごした生の記憶や言葉は後任者がそのまま、引き継ぐ事はできない。ただのメモリーや事実として残る事はできるだろうけど」


「とても大切なら壊れてしまったときに思っていた時だけショックをうけるはず
俺なら一緒に過ごした人が死んだらすごく…悲しい
それがアンドロイドだとしても、同じです」
「アユム君は凄く優しい子だね」

少なからずとも、私の行動を制限する人たちとは違うらしい。
私の表情センサーは私の顔をなぜか少し寂しそうなアユム君を安心させる為に優しく微笑ませて見せた。
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みんなの感想(3件)

2020.10.16 ユーザー名の登録がありません

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小鳥遊
2020.08.25 小鳥遊

一気読みしました。
主人公もキャラクターもまだまだ謎が多いのに、テンポ良くて面白いです。
3歳から一気に15歳?それなのにお医者さん(?)の言葉が分かって、記憶だけが3歳のままが不思議です。次の話で数年後で軍人になったから、地頭が良さそう。気になります。

お医者さんとのほのぼのが始まるのか…と思いましたが、ここから一気にタグ回収が!
時代のきな臭さと、戦っているキャラクターも、また魅力的で気になります。R18だけれども、それだけじゃない奥深さもありそうで、更新すごく楽しみにしています。

解除
あぶぇし
2020.08.15 あぶぇし

EnさんんんんんEnさんしゃべってるアユム君しゃべってるうわあああああああぁあぁああああああああぁあぁああああああああぁあぁあああああああぁあぁああああああああぁあぁああああああああぁあぁッッッッ!!!!って心情で読んでました…続きを心待ちにしてます…ううっ…!

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