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22.再会
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子どもみたいに手を引かれなくたって、迷子になったりしないのに。
そう思いながらもどこか嬉しくて、引かれるがまま歩いた。
ここへ来てから、ずっと胸のあたりが満ち足りたような心地がする。
こんなに穏やかなのは、彼と過ごした幼い頃以来かもしれない。
──そんな風にあの人を思い返したからいけなかったのだろうか。
自宅の扉の前の人影があった。
わたしもシオンさんも、まさかこの森に他の人間がいるとは思ってもみなかったせいで、気付くのが遅れてしまった。
ふわりと、少し懐かしい白い髪が揺れ、金の瞳がこちらを振り返った。
ぎくりと身体が強張って、足を止めたわたしにつられてシオンさんも立ち止まる。
「知り合いか?」
問いに答えることができないでいれば、「君にも言えるが、簡単に出入りできる土地ではないんだぞ」とシオンさんは溜め息交じりに続けた。
最近の若者は~みたいな言い草だ。ところどころこんな風に年寄りくさいんだよなぁ、なんて現実逃避をしてみても、
「リリ」
やっぱり目の前にいるのはアロイス様で間違いなく…わたしは反射的にシオンさんの背中に身を隠した。
「久しぶりだっていうのに、随分な挨拶だね」
彼の足音が近づいてきて、すぐそこから声が聞こえる。
どうしてアロイス様がここに?
疑問ばかりが脳内を支配して、言葉が出てこない。
そうしているうちに、彼は盛大な溜息をついた。
それだけで、長年で染み付いてしまったものがわたしの肌をざわつかせた。
「見ないうちに返事もまともにできなくなったのかな? 相変わらず愚図なのに変わりないね。そんなのでよく今日まで生きてこれたよね。どこぞで野垂れ死んでるんじゃないかって、それなりに心配したんだよ? どんな気の迷いかは知らないけど、お前みたいなのは雇われのまま引き籠ってるのがお似合「今日はよく口が回るようで、ヴァンディード卿」
シオンさんの静かだが真っ直ぐに届く声がアロイス様の言葉を遮った。
ひえ、と心の中だけで声が上がる。
静寂が突き刺さるほどの空気に胃が痛くなってきたけれど、アロイス様もどこかハッとしたような様子で、気を取り直すように小さく咳払いをした。
「失礼ですが、どこかでお会いしたことが?」
「苦手なのであまり出向くことはないが、社交の場で一度。君は天才だと名高かったからよく覚えている。どうやら愛想笑いの才もお持ちだったようだ」
そろりと背後から覗けば、シオンさんの嫌味に眉ひとつ動かさず微笑むアロイス様がいて、わたしはまた震え上がった。
「大変失礼いたしました、レグニア卿。あの日とは随分違った装いでしたので、気付くのが遅れてしまいました」
「覚えられていたとは、光栄だ」
「ええ。不躾な視線がとても印象的でしたので。それに貴殿も、世界一地味な土地を収めていると有名でしたので」
どうやらアロイス様は吹っ切れたらしい。
笑顔を取り繕いながらも口からは毒を垂れ流している。
きっといつもなら上手く流しているだろうに…つまりそれほどまでに怒っているということだ。
「そんな土地に、遥々領地を離れて何用だ?」
そう思いながらもどこか嬉しくて、引かれるがまま歩いた。
ここへ来てから、ずっと胸のあたりが満ち足りたような心地がする。
こんなに穏やかなのは、彼と過ごした幼い頃以来かもしれない。
──そんな風にあの人を思い返したからいけなかったのだろうか。
自宅の扉の前の人影があった。
わたしもシオンさんも、まさかこの森に他の人間がいるとは思ってもみなかったせいで、気付くのが遅れてしまった。
ふわりと、少し懐かしい白い髪が揺れ、金の瞳がこちらを振り返った。
ぎくりと身体が強張って、足を止めたわたしにつられてシオンさんも立ち止まる。
「知り合いか?」
問いに答えることができないでいれば、「君にも言えるが、簡単に出入りできる土地ではないんだぞ」とシオンさんは溜め息交じりに続けた。
最近の若者は~みたいな言い草だ。ところどころこんな風に年寄りくさいんだよなぁ、なんて現実逃避をしてみても、
「リリ」
やっぱり目の前にいるのはアロイス様で間違いなく…わたしは反射的にシオンさんの背中に身を隠した。
「久しぶりだっていうのに、随分な挨拶だね」
彼の足音が近づいてきて、すぐそこから声が聞こえる。
どうしてアロイス様がここに?
疑問ばかりが脳内を支配して、言葉が出てこない。
そうしているうちに、彼は盛大な溜息をついた。
それだけで、長年で染み付いてしまったものがわたしの肌をざわつかせた。
「見ないうちに返事もまともにできなくなったのかな? 相変わらず愚図なのに変わりないね。そんなのでよく今日まで生きてこれたよね。どこぞで野垂れ死んでるんじゃないかって、それなりに心配したんだよ? どんな気の迷いかは知らないけど、お前みたいなのは雇われのまま引き籠ってるのがお似合「今日はよく口が回るようで、ヴァンディード卿」
シオンさんの静かだが真っ直ぐに届く声がアロイス様の言葉を遮った。
ひえ、と心の中だけで声が上がる。
静寂が突き刺さるほどの空気に胃が痛くなってきたけれど、アロイス様もどこかハッとしたような様子で、気を取り直すように小さく咳払いをした。
「失礼ですが、どこかでお会いしたことが?」
「苦手なのであまり出向くことはないが、社交の場で一度。君は天才だと名高かったからよく覚えている。どうやら愛想笑いの才もお持ちだったようだ」
そろりと背後から覗けば、シオンさんの嫌味に眉ひとつ動かさず微笑むアロイス様がいて、わたしはまた震え上がった。
「大変失礼いたしました、レグニア卿。あの日とは随分違った装いでしたので、気付くのが遅れてしまいました」
「覚えられていたとは、光栄だ」
「ええ。不躾な視線がとても印象的でしたので。それに貴殿も、世界一地味な土地を収めていると有名でしたので」
どうやらアロイス様は吹っ切れたらしい。
笑顔を取り繕いながらも口からは毒を垂れ流している。
きっといつもなら上手く流しているだろうに…つまりそれほどまでに怒っているということだ。
「そんな土地に、遥々領地を離れて何用だ?」
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