【完結】お世話になりました

こな

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5.陰々滅々

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 貯まったお金を数えることが、ここ最近の喜び。
 お札を弾きながら、夢の隠居生活を思い浮かべ、むふふと我ながら気持ちの悪い笑みが溢れた。

 そこで一人ハッとなる。
 こんなだらしのない顔を見られたらまた、

『気持ち悪いから笑わないで』

 だなんて言われてしまう。

 想像しただけでゾッとして、思わず周りをキョロキョロと見回す。
 ……大丈夫。誰もいない。
 わたしだけにあてがわれた小部屋にあるのは、ベッドと、使用人服が仕舞われたクローゼットだけ。屋敷の末端の末端で、人が通り掛かることも滅多にない。

 いなくても呪いのように囁かれる彼の言葉に、わたしは振り回されっぱなしだけれど、夢が叶えばきっとこれもなくなるだろう。

 こんな生き辛い世の中と真っ向から戦う必要なんてない。
 お金が貯まったら退職して人目につかない場所でひっそり暮らすんだ。
 自給自足の術は入念に勉強しているし、生まれてこの方贅沢暮らしとは程遠い人生。そう掛かるお金もないだろう。

 いつかの日のことを想像するだけで、活力が湧いてくる。
 それに、精一杯頑張っていればもしかしたらアロイス様も昔みたいな優しさを向けてくれるかも──
 
『不細工だから隠した方がいいよ』

 ──あ、駄目だ。

 もう昔のあたたかい思い出を飛び越えて、嫌な記憶が呼び起こされるようになってしまった。

 ぱたんと倒れ込むようにベッドに沈めば、目元を覆うほどの前髪が流れて視界が良くなる。
 慌てて横を向いて小さくなった。
 醜いと言われ続けた顔はもう、隠していないと気が気でない。
 一人の時でさえこんな調子だ。

 いかんいかんと小さく頭を振る。
 前向きに考えていたはずが、いつの間にか猛スピードでUターンし始めるのは、悪い癖。
 こういう時はさっさと寝てしまうに限る。

 明日はアロイス様の婚約者候補の方がいらっしゃる。
 マリー様、じゃなかった。アイリーン様だったか、いや、カミラ様だっただろうか。
 彼の元に訪れる令嬢が多すぎて、こんがらがってしまっている。
 事前にしっかり確認しておかないと。

 そう考えつつも、うとうとと微睡の中に引っ張られる。
 明日で良いか、と自分を甘やかしたのと同時に、あっさり意識を手放した。
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