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1.出会い
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わたしの人生は、アロイス様に拾われた瞬間から始まった。
幼い頃、母は病気で死に、酒に溺れる父の代わりにわたしは町へと働きに出ていた。
町食堂の裏方。厨房にも入れてもらえず勝手口の前で、野菜の下処理などをしていた。
夏はとびきり暑くて、冬はとびきり寒くて、野良犬に食材を奪われてしまった日にはこっぴどく叱られたりもして。
まぁ、それでも有難い働き口だった。
とある、何でもない日。
雪が分厚く積もるような冬の日。父が家を出たまま帰らなくなった。
殴られないからいいと嬉しがったのは最初だけで、数日経つとやっぱり心配になって、町へと探しに出た。
そして、路地裏で父の死体を見つけた。
寒空の下、馬鹿みたいに酒を煽ったらしい。
ろくでもない人だったけれど、はらはらと零れ落ちる涙は止まなかった。
初めて見るような穏やかな表情をしているものだから、余計に涙が溢れた。
そうして呆然としている間に夜になって、何も考えられないまま帰り道を歩いた。
人通りはない。街灯の柔い光を頼りに進む中、何となく空を見上げて、吐く息が白く広がるのをぼんやりと眺めた。
これからどうしよう、そう思っていた時。
ふいに、ゆっくりとした瞬きの間、視線のずっと先に一つの影が映った。
時計塔の屋根の先、あり得ないところに小さな人影。
驚愕に瞬きを繰り返す中、わたしは走り出していた。
「早まらないでっ!」
実のところ、早まりそうになっていたのはわたしの方だったのだけれど。
他人がそうしようとしているのを見ると、随分と馬鹿らしいことだと思った。
だから、塔の真下から人影に向けて思いっきり叫んだ。
しかし決死の叫びも空しく、人影はひらりと宙を舞った。
真っ直ぐに落ちる影に、わたしは声にならない声を上げて顔を覆って、ついでに尻もちまでついた。
無残な光景を想像して、心臓まで凍ったような気になる。
一日に死体をふたつも見るなんて、恐ろしいったらない。
恐怖に目を閉じ、その場に蹲った。
──けれど、いつまでたっても想像した音の一つもなく。
あるのは雪がもたらした静寂ばかりだった。
そろりと、顔を上げれば、
「ひっ」
不思議そうに覗き込んでくる黄金のような瞳が、すぐそばにあった。
思わず上擦った声が零れる。
目の前の少年はそれに可笑しそうに笑って、こちらに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「お前の方が死にそうな顔してるけど」
雪景色に溶けるような白髪を揺らし、面白いおもちゃでも見つけたような子どもらしい無邪気な笑みを浮かべて、彼は言った。
これがアロイス・ヴァンディード様との出会い。
幼い頃、母は病気で死に、酒に溺れる父の代わりにわたしは町へと働きに出ていた。
町食堂の裏方。厨房にも入れてもらえず勝手口の前で、野菜の下処理などをしていた。
夏はとびきり暑くて、冬はとびきり寒くて、野良犬に食材を奪われてしまった日にはこっぴどく叱られたりもして。
まぁ、それでも有難い働き口だった。
とある、何でもない日。
雪が分厚く積もるような冬の日。父が家を出たまま帰らなくなった。
殴られないからいいと嬉しがったのは最初だけで、数日経つとやっぱり心配になって、町へと探しに出た。
そして、路地裏で父の死体を見つけた。
寒空の下、馬鹿みたいに酒を煽ったらしい。
ろくでもない人だったけれど、はらはらと零れ落ちる涙は止まなかった。
初めて見るような穏やかな表情をしているものだから、余計に涙が溢れた。
そうして呆然としている間に夜になって、何も考えられないまま帰り道を歩いた。
人通りはない。街灯の柔い光を頼りに進む中、何となく空を見上げて、吐く息が白く広がるのをぼんやりと眺めた。
これからどうしよう、そう思っていた時。
ふいに、ゆっくりとした瞬きの間、視線のずっと先に一つの影が映った。
時計塔の屋根の先、あり得ないところに小さな人影。
驚愕に瞬きを繰り返す中、わたしは走り出していた。
「早まらないでっ!」
実のところ、早まりそうになっていたのはわたしの方だったのだけれど。
他人がそうしようとしているのを見ると、随分と馬鹿らしいことだと思った。
だから、塔の真下から人影に向けて思いっきり叫んだ。
しかし決死の叫びも空しく、人影はひらりと宙を舞った。
真っ直ぐに落ちる影に、わたしは声にならない声を上げて顔を覆って、ついでに尻もちまでついた。
無残な光景を想像して、心臓まで凍ったような気になる。
一日に死体をふたつも見るなんて、恐ろしいったらない。
恐怖に目を閉じ、その場に蹲った。
──けれど、いつまでたっても想像した音の一つもなく。
あるのは雪がもたらした静寂ばかりだった。
そろりと、顔を上げれば、
「ひっ」
不思議そうに覗き込んでくる黄金のような瞳が、すぐそばにあった。
思わず上擦った声が零れる。
目の前の少年はそれに可笑しそうに笑って、こちらに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「お前の方が死にそうな顔してるけど」
雪景色に溶けるような白髪を揺らし、面白いおもちゃでも見つけたような子どもらしい無邪気な笑みを浮かべて、彼は言った。
これがアロイス・ヴァンディード様との出会い。
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