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16.問い
しおりを挟む「シトゥの花ですか?」
まだ花壇に植えられていない花苗を前にしゃがみ込めば、お召し物が汚れますよとゼイノッド様は優しく咎めるように言う。
「愚弟子が一丁前に押し付けてきたのですよ」
「ウィルが?」
「あの方はこの花が好きなのだと、そう豪語しておりましたが…間違いはなかったようですな?」
ふふ、と綻ぶ口元を抑えた。
「そうですね、好きです。またこちらに植えていただけるのですね。嬉しい」
ゼイノッド様の話からも、彼が元気にしていることは知っている。
忙しくしているだろうに、こんな風に気遣ってくれる優しいところは変わらないようだ。
小さな蕾に顔を寄せ、仄かな甘い香りに癒された。
人伝にセレナの作ったクラフティが届いた。
私の大好きなお菓子。
専門の者が作ったものでないのにと、周りは良い顔をしなかったけれど、私にとっては何よりのご褒美で。
この場に二人がいたらと思わずにはいられないけれど、望み過ぎてはいけないと蓋をして、幸せなティータイムを過ごした。
こんな風に凪いだ日々が続けばいいのに。
ヨシュア様が多忙なのをいいことにそう緩んでいた。
しかし物事というのはそう簡単にはいかなくて。
ヨシュア様との食事はもう何度目かになるけれど、いつまで経っても慣れずにいる。
一流の料理が目の前に運ばれる中、それを大して味わえもしないまま無理やりに喉に通して、こんな風に食されては料理の方が不憫だと、色んな意味で心苦しい時間を過ごしている。
それが今日は、いつも以上に落ち着かない。
新たなものを口に運ぶたびに、何故だか彼が「美味しいか」と問うてくるのだ。
「はい……とても」
当たり障りのない返事と表情を送ってみても、彼はどこか納得していない様子で、やはり繰り返し私に問うことをやめず、結局最後まで単一の質問攻めに合う羽目になった。
じっとこちらを見据えて、まるで尋問を受けているかのような心地だった。
美味しいか、という質問に一体どんな意味が…
隠語…? 新手の嫌がらせ…?
あまりにも謎だった。
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