20 / 24
騎士たちの道
しおりを挟む
ロースが一言開始を宣言すると、ゆっくりと二人の騎士長が接近して剣を振う。双方腕前は互角のようで、打ち合いになり剣を叩きつけ合った。その迫力は凄まじいものがある、観覧者としては最高だろう。
「よい手合わせだね」
「はい、素晴らしいですわ! これが騎士同士の戦いなのですね!」
本に記されていた戦いの場面、文字では到底想像も出来ずに今に至っていた。本物を見てみたかったが、誰かに戦ってみてなどと言えるはずもなく。それがこうやって眼前で行われていることに大興奮する。ブルボナ伯爵は若い、まだ二十代の半ばを過ぎたばかりだ。手合わせに触発されてしまうのも仕方ないだろう。
「ロース卿、私も参加しても良いでしょうか?」
「アレクサンダー卿のご随意に。装備をお貸しいたしましょう」
手合いを中断させて二人を休ませると伯爵が立ち上がる。それに気づいたラファが「あの、どうか致しましたか?」訓練に集中していて隣の椅子の伯爵を全く気にしていなかったことを思い出す。
「婚約者殿に私の腕前も見て貰おうと思ってね」
いたずらっぽく笑うと、騎士団の装備である中剣と中楯を手にする。中剣は元より片手で扱うために作られたもので、中楯は個人戦闘用に設計されたものだ。即ち両方共個人戦闘用の装備。伯爵も広場の中央に行くと「あと二人こちらに」などと騎士の増員を要請した。
「サブリナ、多対一では危険なのではありませんか?」
それも騎士長二人を含む四対一、さすがに真剣から模擬剣に変えているが心配は尽きない。ところがサブリナは表情を微塵もかえることなく「ご心配には及びません」断言してしまう。ロースの方に視線を向けても笑っているだけ。
「エトワール騎士のアレクサンダーだ。アセルス聖騎士団の胸を貸していただこう」
アセルス騎士らは皆が楯無しの中剣両手持ち、伯爵にとっては攻撃範囲が同じで優劣が無いのでやりづらい、というのが一般的な見方。四人が四方に散って囲むと、距離を推しはかる。伯爵は腰を低くして剣と盾を体に引き寄せて、全方位に気を配った。
斜め後方にあたる騎士が気合いを入れて一歩を踏み出した、それとほぼ同時に四人が襲い掛かる。伯爵は斜め前、左手に居る騎士長へ向かい駆ける。攻撃は盾を腹に構えて受け流す形で、右前の攻撃は剣で払った。接触する程騎士長に近寄ると、急に背中を向けて体当たりを下から突き上げるようにして行った。
「なに!」
剣撃があるとばかり思っていた騎士長が背撃で背中から地面に倒れてしまった、勢いを殺した伯爵がその場で急停止。左手に騎士一人、正面に迫る二人。左手側に一歩踏み込むと、正面の騎士は味方に挟まれてしまい剣を振えないので突き出すことにした。左手の騎士の攻撃は盾で防ぎつつ、突きは身体を捻ることで鎧をこするだけ。
右手側の騎士長の振り下ろしを、頭上に縦に構えた中剣で軌道を合わせると、やや右横に逸らしていなす。同時にそのまま振り下ろすことで突いて来ていた騎士の小手を、中剣の平で叩いて武器を落とさせる。
「うわ!」
その場で手を押さえて膝をついた奴が邪魔で、右手の騎士長が一歩だけ斜め左後ろに下がった。同じように伯爵も左斜め後ろに一歩下がったことで、騎士と正面から一対一の立ち位置が瞬間産まれる。意を決して打ちかかって来る剣は、身をかわして半歩前へ出る、密着する騎士を膝をついた騎士へと押してやると二人で倒れ込む。
「さて、四人で出来なかったことが一人で出来るかな」
残る騎士長を見詰めて平坦な声色で言い放つ。双方一直線近づくと剣を振る――その時だ、転倒していた騎士が苦し紛れに伯爵へ向けて転がったまま剣を薙いだ。
「クッ!」
踏み込もうとしていた左足を寸前で斜め前に置き換えることで、真上に振ろうとした中剣が斜め前に振るわれる。ガギン! 鈍い音を立てて騎士長の持っていた剣が跳ね飛ばされた、ラファが座っている席に向かって。
「きゃあ!」
サブリナが不意にラファの前に出て飛んでくる剣を睨んだ。が、その視界にくすんだ茶の外套が広がった。ゴン。低い音を出して剣は斜め下の地面へと跳ね飛ばされる。ロースが前へ出て左腕で軌道を逸らしたのだ。
「それまで! アレクサンダー卿、当方の騎士の訓練不足でご令嬢を危険に晒してしまったことに謝罪を致します」
左腕から血がしたたり落ちているが、顔をしかめることも無く謝罪を先にした。伯爵は剣の切っ先を天に向けて姿勢を正す。
「婚約者殿を助けていただいたことをロース卿に感謝いたします!」
サブリナがロースに歩み寄ると、左手を軽く診断し「骨にひびが入っていることはなさそうです。打撲と裂傷ですので速やかな処置をお勧めいたします。それと、守って頂き私からもお礼を述べさせていただきます」言いながら白い布を腕に巻いてやる。
「なに、女性を守るのが我等の役目だ、気にするな。ご令嬢、恐ろしい想いをさせて申し訳ありません。正式な謝罪は後日改めて」
「サー・ロースのお心遣いにラファ・ブラウンベリーが謝辞を申し上げます。速やかに治療を行ってください」
「よい手合わせだね」
「はい、素晴らしいですわ! これが騎士同士の戦いなのですね!」
本に記されていた戦いの場面、文字では到底想像も出来ずに今に至っていた。本物を見てみたかったが、誰かに戦ってみてなどと言えるはずもなく。それがこうやって眼前で行われていることに大興奮する。ブルボナ伯爵は若い、まだ二十代の半ばを過ぎたばかりだ。手合わせに触発されてしまうのも仕方ないだろう。
「ロース卿、私も参加しても良いでしょうか?」
「アレクサンダー卿のご随意に。装備をお貸しいたしましょう」
手合いを中断させて二人を休ませると伯爵が立ち上がる。それに気づいたラファが「あの、どうか致しましたか?」訓練に集中していて隣の椅子の伯爵を全く気にしていなかったことを思い出す。
「婚約者殿に私の腕前も見て貰おうと思ってね」
いたずらっぽく笑うと、騎士団の装備である中剣と中楯を手にする。中剣は元より片手で扱うために作られたもので、中楯は個人戦闘用に設計されたものだ。即ち両方共個人戦闘用の装備。伯爵も広場の中央に行くと「あと二人こちらに」などと騎士の増員を要請した。
「サブリナ、多対一では危険なのではありませんか?」
それも騎士長二人を含む四対一、さすがに真剣から模擬剣に変えているが心配は尽きない。ところがサブリナは表情を微塵もかえることなく「ご心配には及びません」断言してしまう。ロースの方に視線を向けても笑っているだけ。
「エトワール騎士のアレクサンダーだ。アセルス聖騎士団の胸を貸していただこう」
アセルス騎士らは皆が楯無しの中剣両手持ち、伯爵にとっては攻撃範囲が同じで優劣が無いのでやりづらい、というのが一般的な見方。四人が四方に散って囲むと、距離を推しはかる。伯爵は腰を低くして剣と盾を体に引き寄せて、全方位に気を配った。
斜め後方にあたる騎士が気合いを入れて一歩を踏み出した、それとほぼ同時に四人が襲い掛かる。伯爵は斜め前、左手に居る騎士長へ向かい駆ける。攻撃は盾を腹に構えて受け流す形で、右前の攻撃は剣で払った。接触する程騎士長に近寄ると、急に背中を向けて体当たりを下から突き上げるようにして行った。
「なに!」
剣撃があるとばかり思っていた騎士長が背撃で背中から地面に倒れてしまった、勢いを殺した伯爵がその場で急停止。左手に騎士一人、正面に迫る二人。左手側に一歩踏み込むと、正面の騎士は味方に挟まれてしまい剣を振えないので突き出すことにした。左手の騎士の攻撃は盾で防ぎつつ、突きは身体を捻ることで鎧をこするだけ。
右手側の騎士長の振り下ろしを、頭上に縦に構えた中剣で軌道を合わせると、やや右横に逸らしていなす。同時にそのまま振り下ろすことで突いて来ていた騎士の小手を、中剣の平で叩いて武器を落とさせる。
「うわ!」
その場で手を押さえて膝をついた奴が邪魔で、右手の騎士長が一歩だけ斜め左後ろに下がった。同じように伯爵も左斜め後ろに一歩下がったことで、騎士と正面から一対一の立ち位置が瞬間産まれる。意を決して打ちかかって来る剣は、身をかわして半歩前へ出る、密着する騎士を膝をついた騎士へと押してやると二人で倒れ込む。
「さて、四人で出来なかったことが一人で出来るかな」
残る騎士長を見詰めて平坦な声色で言い放つ。双方一直線近づくと剣を振る――その時だ、転倒していた騎士が苦し紛れに伯爵へ向けて転がったまま剣を薙いだ。
「クッ!」
踏み込もうとしていた左足を寸前で斜め前に置き換えることで、真上に振ろうとした中剣が斜め前に振るわれる。ガギン! 鈍い音を立てて騎士長の持っていた剣が跳ね飛ばされた、ラファが座っている席に向かって。
「きゃあ!」
サブリナが不意にラファの前に出て飛んでくる剣を睨んだ。が、その視界にくすんだ茶の外套が広がった。ゴン。低い音を出して剣は斜め下の地面へと跳ね飛ばされる。ロースが前へ出て左腕で軌道を逸らしたのだ。
「それまで! アレクサンダー卿、当方の騎士の訓練不足でご令嬢を危険に晒してしまったことに謝罪を致します」
左腕から血がしたたり落ちているが、顔をしかめることも無く謝罪を先にした。伯爵は剣の切っ先を天に向けて姿勢を正す。
「婚約者殿を助けていただいたことをロース卿に感謝いたします!」
サブリナがロースに歩み寄ると、左手を軽く診断し「骨にひびが入っていることはなさそうです。打撲と裂傷ですので速やかな処置をお勧めいたします。それと、守って頂き私からもお礼を述べさせていただきます」言いながら白い布を腕に巻いてやる。
「なに、女性を守るのが我等の役目だ、気にするな。ご令嬢、恐ろしい想いをさせて申し訳ありません。正式な謝罪は後日改めて」
「サー・ロースのお心遣いにラファ・ブラウンベリーが謝辞を申し上げます。速やかに治療を行ってください」
28
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
婚約者が最凶すぎて困っています
白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。
そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。
最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。
*幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。
*不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。
*作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。
*カクヨム。小説家になろうにも投稿。
魔法付与師 ガルブガング
ひづき
恋愛
子爵家の令嬢ソフィアには秘密がある。
その秘密を、社交界で話題のべラル公爵家のアレースが嗅ぎ付けてきて…!
ラブコメが書きたかったのに不発したファンタジーです。
ファンタジーにしてはファンタジー要素が薄いので、やはり恋愛か?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる