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騎士たちの道

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 ロースが一言開始を宣言すると、ゆっくりと二人の騎士長が接近して剣を振う。双方腕前は互角のようで、打ち合いになり剣を叩きつけ合った。その迫力は凄まじいものがある、観覧者としては最高だろう。

「よい手合わせだね」

「はい、素晴らしいですわ! これが騎士同士の戦いなのですね!」

 本に記されていた戦いの場面、文字では到底想像も出来ずに今に至っていた。本物を見てみたかったが、誰かに戦ってみてなどと言えるはずもなく。それがこうやって眼前で行われていることに大興奮する。ブルボナ伯爵は若い、まだ二十代の半ばを過ぎたばかりだ。手合わせに触発されてしまうのも仕方ないだろう。

「ロース卿、私も参加しても良いでしょうか?」

「アレクサンダー卿のご随意に。装備をお貸しいたしましょう」

 手合いを中断させて二人を休ませると伯爵が立ち上がる。それに気づいたラファが「あの、どうか致しましたか?」訓練に集中していて隣の椅子の伯爵を全く気にしていなかったことを思い出す。

「婚約者殿に私の腕前も見て貰おうと思ってね」

 いたずらっぽく笑うと、騎士団の装備である中剣と中楯を手にする。中剣は元より片手で扱うために作られたもので、中楯は個人戦闘用に設計されたものだ。即ち両方共個人戦闘用の装備。伯爵も広場の中央に行くと「あと二人こちらに」などと騎士の増員を要請した。

「サブリナ、多対一では危険なのではありませんか?」

 それも騎士長二人を含む四対一、さすがに真剣から模擬剣に変えているが心配は尽きない。ところがサブリナは表情を微塵もかえることなく「ご心配には及びません」断言してしまう。ロースの方に視線を向けても笑っているだけ。

「エトワール騎士のアレクサンダーだ。アセルス聖騎士団の胸を貸していただこう」

 アセルス騎士らは皆が楯無しの中剣両手持ち、伯爵にとっては攻撃範囲が同じで優劣が無いのでやりづらい、というのが一般的な見方。四人が四方に散って囲むと、距離を推しはかる。伯爵は腰を低くして剣と盾を体に引き寄せて、全方位に気を配った。

 斜め後方にあたる騎士が気合いを入れて一歩を踏み出した、それとほぼ同時に四人が襲い掛かる。伯爵は斜め前、左手に居る騎士長へ向かい駆ける。攻撃は盾を腹に構えて受け流す形で、右前の攻撃は剣で払った。接触する程騎士長に近寄ると、急に背中を向けて体当たりを下から突き上げるようにして行った。

「なに!」

 剣撃があるとばかり思っていた騎士長が背撃で背中から地面に倒れてしまった、勢いを殺した伯爵がその場で急停止。左手に騎士一人、正面に迫る二人。左手側に一歩踏み込むと、正面の騎士は味方に挟まれてしまい剣を振えないので突き出すことにした。左手の騎士の攻撃は盾で防ぎつつ、突きは身体を捻ることで鎧をこするだけ。

 右手側の騎士長の振り下ろしを、頭上に縦に構えた中剣で軌道を合わせると、やや右横に逸らしていなす。同時にそのまま振り下ろすことで突いて来ていた騎士の小手を、中剣の平で叩いて武器を落とさせる。

「うわ!」

 その場で手を押さえて膝をついた奴が邪魔で、右手の騎士長が一歩だけ斜め左後ろに下がった。同じように伯爵も左斜め後ろに一歩下がったことで、騎士と正面から一対一の立ち位置が瞬間産まれる。意を決して打ちかかって来る剣は、身をかわして半歩前へ出る、密着する騎士を膝をついた騎士へと押してやると二人で倒れ込む。

「さて、四人で出来なかったことが一人で出来るかな」

 残る騎士長を見詰めて平坦な声色で言い放つ。双方一直線近づくと剣を振る――その時だ、転倒していた騎士が苦し紛れに伯爵へ向けて転がったまま剣を薙いだ。

「クッ!」

 踏み込もうとしていた左足を寸前で斜め前に置き換えることで、真上に振ろうとした中剣が斜め前に振るわれる。ガギン! 鈍い音を立てて騎士長の持っていた剣が跳ね飛ばされた、ラファが座っている席に向かって。

「きゃあ!」

 サブリナが不意にラファの前に出て飛んでくる剣を睨んだ。が、その視界にくすんだ茶の外套が広がった。ゴン。低い音を出して剣は斜め下の地面へと跳ね飛ばされる。ロースが前へ出て左腕で軌道を逸らしたのだ。

「それまで! アレクサンダー卿、当方の騎士の訓練不足でご令嬢を危険に晒してしまったことに謝罪を致します」

 左腕から血がしたたり落ちているが、顔をしかめることも無く謝罪を先にした。伯爵は剣の切っ先を天に向けて姿勢を正す。

「婚約者殿を助けていただいたことをロース卿に感謝いたします!」

 サブリナがロースに歩み寄ると、左手を軽く診断し「骨にひびが入っていることはなさそうです。打撲と裂傷ですので速やかな処置をお勧めいたします。それと、守って頂き私からもお礼を述べさせていただきます」言いながら白い布を腕に巻いてやる。

「なに、女性を守るのが我等の役目だ、気にするな。ご令嬢、恐ろしい想いをさせて申し訳ありません。正式な謝罪は後日改めて」

「サー・ロースのお心遣いにラファ・ブラウンベリーが謝辞を申し上げます。速やかに治療を行ってください」


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