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騎士団訪問クイズ
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普段から訓練はしているので、その時間帯を少し変えるだけで済む。あちらにはなんの負担にもならないだろうから、ブルボナ伯爵の感性で問題ないと判断してしまう。時計を見ると食事の時間を過ぎてしまっていた、まだまだ決裁しなければならないことが沢山あるので歓談も終了となる。
「私はこれで失礼するよ、ラファ嬢はゆっくりしてくれ。後は頼むぞサブリナ」
「畏まりました」
全てを任せてブルボナ伯爵は部屋を出て行った。何をそんなに仕事があるのかと言われたら簡単だ、普段サブリナがやっていることを肩代わりしているからに過ぎない。誰かに任せたら良いのだが、その誰かを簡単に用意出来るほど世の中は狭くないのだ。
◇
馬車を囲う騎兵の一団がコーラル市の隣にある、サード市の領域に踏み込んだ。ナール騎士団旗とブルボナ伯爵旗を掲げて、堂々と街道をゆく。パトロンが市外に動くというので護衛の為に騎士が動員された。
「なんだか大事になってしまっていませんか?」
窓からチラッと外を見て、同乗しているサブリナにラファが訊ねた。ブルボナ伯爵は一つ前の馬車に乗っている、なぜ分乗しているかというと、ちょっとしたサプライズがあるから。
「ブルボナ伯爵とお嬢様が居られるのです、騎士団が護衛につくのは当然です」
なにせこういう時の為に存在しているので、その通りだった。それに貴族が少数で街道をふらふらうろついていたら、盗賊の類が襲撃して来るのは目に見えている。身代金ビジネスは相手によっては非常に割が良いのだ。
「そうなんですね。子爵家では、子爵に従者が少数同行するだけでしたので」
子爵に。そう前置きしたのは、自分には全くそういう人物が充てられないということだろうと受け止めた。姉妹にならば居たのかもしれないが、そんなことを明らかにしたところで得るものはない。
「お嬢様が外出為される際にも必ず護衛騎士が従います。煩わしいと感じられることもあるかも知れませんが、どうぞご容赦ください」
「煩わしいだなんてそんな! わざわざ私になんて……」
「お嬢様はブルボナ伯爵の婚約者で御座います。ご自分を卑下なさりませんようお願い申し上げます」
ラファの性格上彼女を持ち上げるよりも適切だろうと伯爵を引き合いに出した。案の定、伯爵の品位を守るために形式上必要な儀礼なのだ、と勝手に解釈してくれる。
「あ、望楼がありますわ」
望楼というのは背が高い見張りの足場のようなもので、小さな監視小屋が乗っかっている塔のようなものだ。そんなのがあるということは、そこで見張りをする人物が存在すると言うこと。つまりは目的地に到着するという話だ。程なくして馬車が停止した。サブリナが先に降りて馬車の外でラファを待つ。
「ラファ嬢、お手を」
降りようとすると馬車のステップの隣でブルボナ伯爵が待っていた。それも出る時の姿とは違い、胸甲や小手を装備した騎士姿でだ。唖然としてその恰好に見入ってしまう。
「黒地に銀の線、赤い外套と星、王国最高の名誉を持つエトワール騎士団ですわね!」
「エトワール騎士のアレクサンダー・ブルボナです。エスコートさせて頂きます」
ラファは頬を紅潮させて伯爵の手を取った。グランダルジャン王国が建てられる際に、公国に助力した集団があった。異国の傭兵団だったそれが、建国宣言時に騎士団としての称号を特に与えられたのだ。その栄誉を今でも保っているのが、王国筆頭エトワール騎士団。
石壁で囲われた敷地へと入ると、左右に分かれて男達が整列していた。みなが同じ装いをしている。伯爵がにこやかにラファを見詰める、目が笑っていた。クイズの答えを待っているところだろうか。
「灰色に緑、くすんだ茶色の外套。路傍に転がる石や雑草も世に役割を持つ、時を越えて褪せる色も平等の証。大同であれを説く、かつて聖マテオの十二騎士団に名を連ねていた、アセルス聖騎士団ですわね!」
中央に一人だけ立っていた中年の男、右拳を胸にあてて一礼する。
「我等が騎士団をかように理解されているご令嬢がおられるとは、神に感謝を。アセルス聖騎士団長のロース・テリアと申します」
「サー・ロースにご挨拶申し上げます。サルディニア帝国はブラウンベリー子爵の子、ラファ・ブラウンベリーですわ」
「私の婚約者殿だ、ロース卿、本日はよろしくお願いする」
互いに敬意を払い礼をすると連れだって砦の中へと歩いていく。そう、砦という表現が適切だ、生活や美意識よりも防衛を主軸にしているだろう造りがありありと感じられたから。
「このような無骨な場をわざわざアレクサンダー卿が選ばれた理由が分かった気がしますな」
目を爛々とさせてラファが周りを見詰めている、その姿をちらっと見ての感想だ。そうでなければ伯爵がやって来るのは商談の時だけといっても過言ではなかったから。商売といっても、生活や訓練に必要な品を格安で調達してくれるのでありがたい、だからこそ二つ返事で訪問を承諾した経緯がある。
「その選択が正解だったと今感じていますよ」
微笑するとラファを見る、騎士団の紋章を見つけては仕様の違いを確かめたりして。騎士に色々と尋ねて、時に返答できないような部分が浮き彫りになるなど、あちらもたじたじの興味を持っているようだった。
「それではご令嬢のであろう要望にお応えするとしましょうか」
「ロース卿、頼みます」
ロースが広場の中央に立つと腰の剣を鞘ごと外して切っ先を地面に向けて叩きつける。するとガシャンと金属音がして皆の注目を集めた。騎士らが速やかに団長の前に整列する。
「これより手合わせ式での訓練を行う。来客がある故、代表者を選抜しての手本とする」
最前列の二名、騎士長が進み出て一礼した。それ以外の騎士らは広場の脇へと居場所を移し、伯爵とラファを用意されている観覧席へと招いた。ナール騎士らは砦の出入り口付近で待機しているが、ラファの後ろにはサブリナが付き添っていた。
騎士長が対面して一礼、観覧席にも一礼して後に剣を抜いた。金属の輝きが鈍い訓練用の刃がつぶされたものではなく、真剣を。
「始めよ」
「私はこれで失礼するよ、ラファ嬢はゆっくりしてくれ。後は頼むぞサブリナ」
「畏まりました」
全てを任せてブルボナ伯爵は部屋を出て行った。何をそんなに仕事があるのかと言われたら簡単だ、普段サブリナがやっていることを肩代わりしているからに過ぎない。誰かに任せたら良いのだが、その誰かを簡単に用意出来るほど世の中は狭くないのだ。
◇
馬車を囲う騎兵の一団がコーラル市の隣にある、サード市の領域に踏み込んだ。ナール騎士団旗とブルボナ伯爵旗を掲げて、堂々と街道をゆく。パトロンが市外に動くというので護衛の為に騎士が動員された。
「なんだか大事になってしまっていませんか?」
窓からチラッと外を見て、同乗しているサブリナにラファが訊ねた。ブルボナ伯爵は一つ前の馬車に乗っている、なぜ分乗しているかというと、ちょっとしたサプライズがあるから。
「ブルボナ伯爵とお嬢様が居られるのです、騎士団が護衛につくのは当然です」
なにせこういう時の為に存在しているので、その通りだった。それに貴族が少数で街道をふらふらうろついていたら、盗賊の類が襲撃して来るのは目に見えている。身代金ビジネスは相手によっては非常に割が良いのだ。
「そうなんですね。子爵家では、子爵に従者が少数同行するだけでしたので」
子爵に。そう前置きしたのは、自分には全くそういう人物が充てられないということだろうと受け止めた。姉妹にならば居たのかもしれないが、そんなことを明らかにしたところで得るものはない。
「お嬢様が外出為される際にも必ず護衛騎士が従います。煩わしいと感じられることもあるかも知れませんが、どうぞご容赦ください」
「煩わしいだなんてそんな! わざわざ私になんて……」
「お嬢様はブルボナ伯爵の婚約者で御座います。ご自分を卑下なさりませんようお願い申し上げます」
ラファの性格上彼女を持ち上げるよりも適切だろうと伯爵を引き合いに出した。案の定、伯爵の品位を守るために形式上必要な儀礼なのだ、と勝手に解釈してくれる。
「あ、望楼がありますわ」
望楼というのは背が高い見張りの足場のようなもので、小さな監視小屋が乗っかっている塔のようなものだ。そんなのがあるということは、そこで見張りをする人物が存在すると言うこと。つまりは目的地に到着するという話だ。程なくして馬車が停止した。サブリナが先に降りて馬車の外でラファを待つ。
「ラファ嬢、お手を」
降りようとすると馬車のステップの隣でブルボナ伯爵が待っていた。それも出る時の姿とは違い、胸甲や小手を装備した騎士姿でだ。唖然としてその恰好に見入ってしまう。
「黒地に銀の線、赤い外套と星、王国最高の名誉を持つエトワール騎士団ですわね!」
「エトワール騎士のアレクサンダー・ブルボナです。エスコートさせて頂きます」
ラファは頬を紅潮させて伯爵の手を取った。グランダルジャン王国が建てられる際に、公国に助力した集団があった。異国の傭兵団だったそれが、建国宣言時に騎士団としての称号を特に与えられたのだ。その栄誉を今でも保っているのが、王国筆頭エトワール騎士団。
石壁で囲われた敷地へと入ると、左右に分かれて男達が整列していた。みなが同じ装いをしている。伯爵がにこやかにラファを見詰める、目が笑っていた。クイズの答えを待っているところだろうか。
「灰色に緑、くすんだ茶色の外套。路傍に転がる石や雑草も世に役割を持つ、時を越えて褪せる色も平等の証。大同であれを説く、かつて聖マテオの十二騎士団に名を連ねていた、アセルス聖騎士団ですわね!」
中央に一人だけ立っていた中年の男、右拳を胸にあてて一礼する。
「我等が騎士団をかように理解されているご令嬢がおられるとは、神に感謝を。アセルス聖騎士団長のロース・テリアと申します」
「サー・ロースにご挨拶申し上げます。サルディニア帝国はブラウンベリー子爵の子、ラファ・ブラウンベリーですわ」
「私の婚約者殿だ、ロース卿、本日はよろしくお願いする」
互いに敬意を払い礼をすると連れだって砦の中へと歩いていく。そう、砦という表現が適切だ、生活や美意識よりも防衛を主軸にしているだろう造りがありありと感じられたから。
「このような無骨な場をわざわざアレクサンダー卿が選ばれた理由が分かった気がしますな」
目を爛々とさせてラファが周りを見詰めている、その姿をちらっと見ての感想だ。そうでなければ伯爵がやって来るのは商談の時だけといっても過言ではなかったから。商売といっても、生活や訓練に必要な品を格安で調達してくれるのでありがたい、だからこそ二つ返事で訪問を承諾した経緯がある。
「その選択が正解だったと今感じていますよ」
微笑するとラファを見る、騎士団の紋章を見つけては仕様の違いを確かめたりして。騎士に色々と尋ねて、時に返答できないような部分が浮き彫りになるなど、あちらもたじたじの興味を持っているようだった。
「それではご令嬢のであろう要望にお応えするとしましょうか」
「ロース卿、頼みます」
ロースが広場の中央に立つと腰の剣を鞘ごと外して切っ先を地面に向けて叩きつける。するとガシャンと金属音がして皆の注目を集めた。騎士らが速やかに団長の前に整列する。
「これより手合わせ式での訓練を行う。来客がある故、代表者を選抜しての手本とする」
最前列の二名、騎士長が進み出て一礼した。それ以外の騎士らは広場の脇へと居場所を移し、伯爵とラファを用意されている観覧席へと招いた。ナール騎士らは砦の出入り口付近で待機しているが、ラファの後ろにはサブリナが付き添っていた。
騎士長が対面して一礼、観覧席にも一礼して後に剣を抜いた。金属の輝きが鈍い訓練用の刃がつぶされたものではなく、真剣を。
「始めよ」
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