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侍女でメイドで大切な存在

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 大至急仕上げた伯爵と同じ料理を用意して、メイドがテーブルへと載せる。今度は満足いく料理で、伯爵も眉を寄せて見詰める。

「伯爵さまへ謝罪が御座います。ブラウンベリー子爵家へは、妹に求婚されたというのに、私のような相応しくない者がやって来てしまい申し訳ございません。子爵は婚約祝いの財貨を目的として私を送っただけですので、婚約はせずにそのまま放逐されても構いません。どうぞご懸念無く」

「それは違う! いや、違わなくはないが、そうではないのだ!」

 既に何を言っているのか本人ですら良くわからないことを口走ってしまう。セバスチャンが「伯爵さま、ワインをお飲みになり落ち着かれてはいかがでしょう。焦らずとも時間は御座いますので、ご令嬢も」グラスに注ぐと、テーブルの反対に座っているラファのところへも歩んで行くと注ぐ。

「ごほん。誤解があるのだ、聞いて欲しい」

「誤解ですか?」

 長い金髪を揺らして話を聞こうとする姿勢をとってくれている、伯爵はそれだけでも救われた気になってしまった。こんな仕打ちをしていたのだから、黙って席を立たれても何も言えない。

「本来私が求めていたのは、ラファ子爵令嬢だった。あの夜、生誕祭の主役として会場に居たのが本人、姉だと思っていたんだ」

 普通の者ならば誕生祝に本人が居るのが当たり前と受け止める、それについてはラファも理解出来た。そういう誤解ならばあり得るし、自分でもそういう勘違いをするだろうなと。

「そうでしたか。ではそのような事実があったと記憶しておきます」

 にこやかにそう言われても、そういうことにしておいてくれという願いを聞き届けただけ、といった雰囲気しかなかった。真実を語っているのに信じて貰えない、焦りともどかしさで胸が一杯になる。

「本当なんだ、私が婚約したかったのはラファ嬢なんだ!」

「そう言われましても……」

 妹の方が綺麗だし、皆に愛されているし、両親もラファなど眼中にない。そうやって育ってきたのだから、いきなりでは実感がわかない。きっと必死に、間違いだったという物語を採ってほしいということだろう。

「信じて欲しい! 私が貴女に何をしたと――いや、使用人扱いしたり、酷い扱いをしてしまったか。だが私は、あの夜語り合った話が最高に嬉しくて忘れられなかった! だから求婚をした、それは、それだけは本気だと受けとめて欲しい」

 肩を落として己の業の深さを嘆く。一度目は気づくことは出来なかったかもしれないが、二度目は手落ちでしかない。これを許せとはあまりにムシが良い話でしかない。ラファは俯いてしまい何とも言えなくなってしまう。無言で食事が済まされると、伯爵が席を立つ。

「日を改めてまた話がしたい。今日はもう遅いのでこれで失礼させて貰う」

 ラファも立ち上がると黙ってお辞儀をして見送る、言葉にすることが出来ないから。ホールにまで行くとサブリナがそこで待機していて伯爵を迎える。共に馬車に乗ると、セバスチャンに見送られて本館へと戻って行った。執務室へ戻って来ると、冴えない表情の主人を見詰める。

「アレク様」

「はぁ、サブリナ、最悪の気分だよ。自分で自分を殴りたくなる」

 自己嫌悪に陥っているが、半分は自分の責任だとサブリナが畏まる。あの場で助言を発することが出来たはずなのに、何もせずにいたのは確かなのだから。

「申し訳ございませんでした。私が確認すべきことを怠ったばかりに」

「それは違う。私が指示しなかったのが悪いんだ。サブリナのせいではないさ。それにセバスの責任でもない」

 悪いことは全て誰かに押し付けてしまえば楽になれると言うのに、伯爵は昔からこうやって自分を責める。そういった心配をさせない為に、付使用人らが傍に居るのに。

「聞くところによりますと、ラファ様は落ち着いておられるとか。ならばこれから誠意を見せ、真摯に向き合えばご理解いただけるのではないでしょうか?」

「あのようなことをさせたのに? それは甘えだ」

「心の水平とは傾き始めると止まりません。ですが今ならまだ間に合います。いえ、間に合わせます」

 じっと伯爵の瞳を覗き込み、言葉を待つ。弱った時には常に傍に居て、嬉しい時も、辛い時も、いつでも一緒に居てくれるサブリナ。その彼女が言葉も強く断言をした。

「サブリナをラファ嬢付の侍女にする、彼女のことを一番に想って行動して欲しい。頼めるだろうか?」

「お任せ下さいアレク様。一つ確認ですが、どこまでお任せいただけるのでしょうか」

「人事でも財務でも何でも任せる。彼女は、私にとってとても大切な存在なんだ」

「畏まりました。サブリナ・ブルボナが必ずやご希望に沿えるように致しましょう」

 サブリナ・ブルボナ。ブルボナ伯爵の腹違いの姉。といっても庶子というやつで、母親はメイドでしかない。手つきのメイドが生んだ娘、それがサブリナ。アレクサンダーが伯爵家をたてた時に、ブルボナの姓を許された。過言ではなく、常に一緒に居た過去は決して変わることはない。



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