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クリプトドラゴンと、ですわ

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 首をあげることも無く、ぐったりと寝たままで赤い光だけがこちらを見ているような気がするわ。

「私はアリアス・アルヴィン、あなたに協力をするつもりでここに来ました」

「我はエンシェントドラゴンのクリプトドラゴン。人間が何を馬鹿なことを、さっさと消えよ、さもなくば喰らうぞ!」

 起きたてで状況が見えていないのね、でもいきなり襲ってこないってことはやっぱり困惑してるだけなのよ。多分。そうじゃなければ本日これをもってアリアス・アルヴィン終了のお知らせよ。

「あなたの騎士デュラハンが客と呼んだ者をそうするとは思えません」

 はっきりと、だけども穏やかにそう言い切る。瞳を赤く光らせて、エンシェントドラゴンは低い唸りのような音を発したわ。自分を落ち着けているのかしら。となれば知性だけでなく、感情や理性も持ち合わせている証拠よ。それって人間と何も変わらないことを意味しているわ。

「話を聞いてくれて感謝します。恐らく感じてはいるでしょうけれども、神への祈りであなたとぶつかっているのが私です」

 聞く態勢が出来ただろうところで一礼をする。こちらも極めて冷静になり、言葉を選んで続けたわ。

「貴様がそうか。ならばここで消せば煩わしいものがなくなるではないか」

 言葉は恐ろしいけれども肯定の意味合い、やっぱり原因はここってことで良いのね。相反する力が互いに打ち消し合って、それで消耗しあうなんて良い関係じゃないわ。だけども敵対しているわけじゃないの。

「提案があります。あなたに神聖魔力を補充するので、この場を少し譲ってもらいたくて来ました」

 魔力に性質があるわけじゃないけど、神官ですよってアピールね。およそアンデットドラゴンの類と相容れないかも知れないけれど、確認の意味合いも込めてよ。こちらがわからなくても、あちらはわかるでしょ。

「我に退けだと! 愚かな、人ごときが何を言うかと思えば笑止!」

 プライドってやつかしら。いきなり出て行けって言われたら誰だって気分悪いわよね。殺気を放って威嚇をしてくるけれど、残念私は自分の目を信じているわ。デュラハンの主は決して無体なことをしない、こちらが無礼を働かな限り絶対に。

「これは取引です、いえ契約かしら、或いは盟約でもいいわ。私が竜に魔力を貢ぎ、小さな望みを叶えるの。どれだけの魔力を差し出せるかはわからないけれど、奪うよりも上質でそれなりの量を補給できれば、少しは元気になれると思うのだけれど」

 自発的にそうするのと、無理矢理奪うのでは質が違ってくるのは当然。ましてや魔物に魔力を捧げる人間を多数探すのは困難極まりないわ。

「貴様、なにゆえ我にそのようなことをする」

「私の中に在る何かがそうすべきと囁くから。理由何て自分でもわからないわよ、でもそうしたいって思えてるの」

 赤い光が細くなる、何かを考えているのかしら。嘘じゃないわ、話し合いで解決出来るならそれだけでいいの。

「……その身に何を宿している」

 感じたのね内に居る精霊を。さすがエンシェントドラゴンといったところだわ。何って言われても言葉で説明出来る気がしないから、見て貰いましょう。

「会ってみますか、私の中に居る存在に」

「余興がつまらねばこの場で消し去るぞ」

 いうことはとても高圧的だけど、実際はこちらを認めて話し合いに応じてくれてる。言葉だけで全く聞く耳持たない人よりどれだけ誠実か。そういう感想がおかしいことは自分でも理解しているけど、それでもこうすべきって思ったのよ。

「解りました、お見せします。我が召喚に応じその姿を現せフラウ」

 洞窟のホールに氷の結晶が舞って青白い少女を形作った。それを見たドラゴンの赤い光が大きくなる。表情なんて何も見えないけど、一瞬だけ感情が漏れたような気がしたわ。

「氷の精霊フラウのフラウ。ヘンリエッタさん、お久しぶりね」

「おお、なんとあのフラウか!」

 おっとまた知り合いですか? 数百年前から生きていたらそうなるのかな、死んじゃうのが殆どだけど、生きていたら大体そうなるとか。わからないわね。

「そう」

 素っ気無い返事ね、いいけど。精霊は決して嘘をつかない、その存在が崩壊するからって話らしいけど、本で読んだ悪魔もそうだったわね。だから勘違いを誘う為に言葉巧みにだますの。そうなると人間が一番怖い。

「フラウがこのような人間と盟約を?」

「アルヴィンとは血の盟約を結んでいるの、ずっとよ。あれからずっと」

 あれから? その昔に一体何があったのかしらね、知ったからってどうにもできないけれど。

「むむ。すると、あのお方の盟約か。そうか……そこな人間、いやアルヴィンよ、汝の提案を受けようぞ」

「え、良いんですか? でも急にどうして」

 精霊が知り合いだったから? そんな単純じゃないわよね。二言が無いのはやっぱり一緒、魔物であってもね。ほんと人間について考えさせられるわね。

「あのお方は我が主の盟友であってな。ふむ、この姿では話しづらいな」

 赤い光が薄くなり白い光がフラッシュしたわ、すると目の前に線が細い私よりも少し背が高い女の人が現れた。人間に変身したの?

「改めまして、ワタクシはエンシェントドラゴンでクリプトドラゴンのヘンリエッタ、魔王カイン様の僕ですわ」

 ヘンリエッタ、魔王カインの僕、その主人と盟友、そしてワタクシ、ですわ? 情報量多すぎないこれ? 数秒頂戴…………うん、理解はやめるわ、まずは現状を受け入れることにしましょう。

「なんて呼べば?」

「ヘンリエッタでよろしいですわ」

「じゃあヘンリエッタさんで。変身して魔力大丈夫ですか? 先に補充をした方が」

 多分本来の姿が一番消耗が少ないのよね、だからああしていたわけで。でも一つの謎が解けたわ、道狭くても通れたのはこういうことだったのね。

「少しの間位平気よ。それより随分と経ったのかしら?」

「あれより七百年が過ぎております」

 デュラハンが必要な時だけ言葉を返す、弁えた人格はまさに従者の鑑ね。立派よ、これは属性とか関係なく個別の評価よ。

「あらそう、ならあと三百年は時間があるわね」

 スパンなっが! 千年サイクルなのね、少しの間って数年くらいだったりして。うん、笑えない。

「そうそう、ここで寝てて邪魔したわね。次はどこが寝心地いいかしらね」

「あの、それなんですが、一度聖域を拡げたら私がここだけ除外も出来るので、少しだけ場所をずれてから戻って貰っても大丈夫です」

 誰が支配権を得るかで争うのであって、こちらが譲るのは自由よ。そういう意味ではヘンリエッタさんが譲ってくれても良いけど、多分面白いことじゃないからそういうの。

「ならそうしようかしらね。ところでフラウ、あの方はいまどうしているの?」

「解りません。盟約が生きているのでどこかに存在はしているはずですけれど」

 え? ん? フラウのお姉ちゃんがどこかで生きてるの? でも何百年も経ってるって、確か人間でしたよね半分だけとか言ってたけど。魔王とお友達で、エンシェントドラゴンがあの方と呼ぶのがどこかでイキテルノ?

「飛び回っても見つけられるとは思えないけれど、少し見て回ろうかしら。アリアス・アルヴィン、ワタクシ少々留守にしますわ」

「え、あ、はい。出来れば戻る時はその姿でお願いして良いですか?」

 クリプトドラゴンが飛んで来たら大問題が発生よ、個人的にはいいんですけどね。ああそれと魔力の補充しないと。約束を守るのは絶対だから。

「わかったわ。デュラハン、ここを任せます」

「畏まりました我が主」

「そうね、もしこの娘が困っていたら助けてあげなさい、あの方に連なる者ですわ」

「御意」

 気になるわあの方。知らない方が心に安らぎがありそうだけれども。


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