幸せな結婚という仮面の下で

幸せな結婚という仮面の下で

4

翌日、セシリアは普段どおりの日常を過ごしていた。
屋敷の使用人たちに指示を出し、家事をこなす彼女の姿は、いつもの優雅な令嬢そのものだった。
しかし、心の中では昨夜の不安が消えることなく渦巻いていた。

ヴィクターは朝から出かけていたが、夕方には帰ると告げられていた。
その言葉に、セシリアはほっと胸をなでおろした。

「セシリア様、お手紙が届いております。」

午後、使用人が一通の手紙をセシリアに差し出した。
それは彼女の妹、リリアンからのものだった。
何気なく封を開けたセシリアは、リリアンが今晩訪問したいと書かれていることに気づいた。
セシリアは一瞬戸惑ったが、断る理由もなかったため、彼女の訪問を受け入れることにした。

その夕方、リリアンが邸宅を訪れた。
彼女はいつものように明るい笑顔を浮かべて、セシリアを抱きしめた。
リリアンの無邪気な様子に、セシリアは一瞬心の中の疑念が消え去ったかのように感じた。

「お姉さま、久しぶりね！元気にしていた？」

「ええ、元気よ。リリアンも元気そうで何よりだわ。」

セシリアは微笑んでリリアンに応えた。

二人はリビングでお茶を楽しみながら、しばらく談笑していた。
セシリアはリリアンの無邪気な話題に耳を傾けていたが、心の中ではヴィクターとの関係を探るべく、慎重に言葉を選んでいた。

「そういえば、最近ヴィクターと何か話したことはある？」

セシリアが何気なく尋ねると、リリアンは一瞬驚いた表情を見せた。

「ええ…？ああ、ヴィクターさんとはちょっとだけ。お仕事のことでね、すぐに済んだから、そんなに話していないわよ。」

リリアンの返事は自然で疑う余地がなかったが、その一瞬の驚いた表情が、セシリアの心に再び疑念を生み出した。
彼女は内心で何かが引っかかるのを感じながらも、それ以上突っ込むことはしなかった。

その晩、ヴィクターが帰宅した時、リリアンはまだ邸宅にいた。
彼は驚きつつもリリアンに笑顔で挨拶し、セシリアのそばに寄り添った。
その光景は、一見何の変哲もない家族の再会のようだったが、セシリアはその裏に隠された何かを感じずにはいられなかった。

リリアンが少しずつヴィクターに距離を縮め、親しげに話しかけるたびに、セシリアの心はざわついた。
彼女はそれをただの妹と義兄の自然な関係だと信じたいと思ったが、その心の奥底で何かが叫び続けていた。

「お姉さま、もう遅いから帰るわね。」

リリアンが帰り際にそう言うと、ヴィクターも彼女を優しく見送りに行った。
セシリアはそれを見送りながら、心の中のもやもやがますます強くなるのを感じていた。

ヴィクターが再び彼女のもとに戻ってくると、セシリアはその笑顔に安堵を感じた。

「今日も一日お疲れ様、セシリア。」

ヴィクターは優しく彼女の手を取り、温かい笑顔を向けた。

「ありがとう、ヴィクター。」

セシリアもまた微笑んだ。