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暗闇の中
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「ここはどこなの……?」
暗闇の中を、悲しく冷たい風が低い音を立てて駆け抜ける。少女は、その風を両手で顔を覆いながらやり過ごす。先が暗く見えない場所に、少女は困惑し疲弊しながら、手探りでゆっくりと歩いていった。
少女は、ここがどこなのかまったくわからない――トンネルなのか、洞窟なのか、はたまた古より創られた鍾乳洞なのか……。少女は皆目見当もつかなかった。
とても長い時間歩いているような感覚だった。足の裏も痛いし、歩き続けて喉がカラカラだ。しかし、近くに水が流れている様子はない。少女は一度立ち止まり、ごつごつした壁に手をつけ、なんとか水を探すが、壁は湿ってさえいない。少女は大きくため息をつき、前を見る――何も見えない。少女は目に涙を溜めながら、先の見えない道をゆっくりと慎重にまた歩き始めた。
轟音とともに風は強くなり、少女の額には汗がにじみ始めた――けっして、その場所が暑いわけじゃない、冷たい風が吹いている。かといって、寒いわけでもない。風以外、温度を感じない。このシーンと静まり返った世界に緊張し、少女は今までに感じたことのない恐怖に汗がにじみ始めていた。
風が、指揮者が演奏を終えたかのように一瞬で収まった。少女は、立ち止りあたりを見渡す。さっきまで轟音をたてて吹いていたのに、まるで誰かが扇風機のスイッチを止めたように風がこない。少女は、恐怖から息が荒くなった。まだ風の音が聞こえるだけましだったのに、恐怖心をあおるような静けさが少女を取り巻く。踏みしめるごつごつした地面の、ジャリジャリという音だけが聞こえる。少女は、今にも泣き出しそうになりながら、それでも前へと進んだ――それしか、少女の選択肢がないから。
すると、どこからともなく聞いたこともないおどろおどろしい声が聞こえてきた。その声は、まるで少女のまわりを浮遊しているかのように動き回っている。少女は一度立ち止まり、声のする方向を探した。しかし、今どの方角を向いているのかさえわからなくなるほど、暗闇にいる少女の感覚という感覚はマヒしていた。
必死に声のする方角に顔を動かし、声を探す。上下左右、前から後ろに振り返り探すが、声の正体は見えない。あまりの恐ろしさに、少女は怯えながら耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。
声は手をすり抜け、少女の耳に途切れることなくつぶやき続けた。耳を塞いでいるはずなのに、声はまるで少女の手を障害と思っていないように耳に入ってくる。
「いや……、いや……」
少女は小さく頭を振り、声を追い払おうとするが、声はさらにおぞましい声でつぶやいてくる。
「ひ……の……たを……」
「……りのう……」
「何……?」
少女は大粒の涙を流しながら、声を振り払おうと頭を動かす。
「ひかり……うたを……」
「お願い、もうやめて……」
「〟光りの詩〝を探すのだ……」
これが、おぞましい声が言った最後の言葉だった。
声がいなくなったことに気付いた少女は、しゃくり上げながら顔を上げる。目は赤く腫れあがり、肩を大きく動かす。だが、もうそこに声はいない。あるのは、見渡す限りの暗闇だけ――少女は、少し恐怖心が薄れ、涙をその小さな手で拭き取り、静かに立ち上がった。そして、自分の着ている服のスカートを軽く払うと、一息ついてまた歩き始めた。
「もう帰りたいよ……」
少女は、また泣いてしまいそうなほど弱々しい声で言う。
奥に進むにつれて細くなっていく。
遠くの方に、地面に光る二つの石を見つけた。少女は、恐る恐る石に近づく。さっきのおぞましい声のせいで、少女はもう走ることができない。少女の体力は、もう限界に達してしまった。
石は、何に反射したのか、エメラルドグリーンに輝き、その輝きが少女を誘っているようだった。
少女は、石の前にしゃがみこみ、石をまじまじと見た。光っていた二つの石は、丸いごつごつした少女の手の大きさぐらいの石に食い込んでいた。
少女は、びくびくしながら石ごと両手で拾い上げた。すると、石はエメラルドグリーンにいやらしく光りながら、低い声でこう言った。
「やあ、ララ! ビスケット食べる?」
「キャアァァァ!」
少女はその言葉に驚き、悲鳴とともに石を放り投げた。すると、地面が崩れ、足を踏み外し、闇の中へと真っ逆さまに落ちていった。
暗闇の中を、悲しく冷たい風が低い音を立てて駆け抜ける。少女は、その風を両手で顔を覆いながらやり過ごす。先が暗く見えない場所に、少女は困惑し疲弊しながら、手探りでゆっくりと歩いていった。
少女は、ここがどこなのかまったくわからない――トンネルなのか、洞窟なのか、はたまた古より創られた鍾乳洞なのか……。少女は皆目見当もつかなかった。
とても長い時間歩いているような感覚だった。足の裏も痛いし、歩き続けて喉がカラカラだ。しかし、近くに水が流れている様子はない。少女は一度立ち止まり、ごつごつした壁に手をつけ、なんとか水を探すが、壁は湿ってさえいない。少女は大きくため息をつき、前を見る――何も見えない。少女は目に涙を溜めながら、先の見えない道をゆっくりと慎重にまた歩き始めた。
轟音とともに風は強くなり、少女の額には汗がにじみ始めた――けっして、その場所が暑いわけじゃない、冷たい風が吹いている。かといって、寒いわけでもない。風以外、温度を感じない。このシーンと静まり返った世界に緊張し、少女は今までに感じたことのない恐怖に汗がにじみ始めていた。
風が、指揮者が演奏を終えたかのように一瞬で収まった。少女は、立ち止りあたりを見渡す。さっきまで轟音をたてて吹いていたのに、まるで誰かが扇風機のスイッチを止めたように風がこない。少女は、恐怖から息が荒くなった。まだ風の音が聞こえるだけましだったのに、恐怖心をあおるような静けさが少女を取り巻く。踏みしめるごつごつした地面の、ジャリジャリという音だけが聞こえる。少女は、今にも泣き出しそうになりながら、それでも前へと進んだ――それしか、少女の選択肢がないから。
すると、どこからともなく聞いたこともないおどろおどろしい声が聞こえてきた。その声は、まるで少女のまわりを浮遊しているかのように動き回っている。少女は一度立ち止まり、声のする方向を探した。しかし、今どの方角を向いているのかさえわからなくなるほど、暗闇にいる少女の感覚という感覚はマヒしていた。
必死に声のする方角に顔を動かし、声を探す。上下左右、前から後ろに振り返り探すが、声の正体は見えない。あまりの恐ろしさに、少女は怯えながら耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。
声は手をすり抜け、少女の耳に途切れることなくつぶやき続けた。耳を塞いでいるはずなのに、声はまるで少女の手を障害と思っていないように耳に入ってくる。
「いや……、いや……」
少女は小さく頭を振り、声を追い払おうとするが、声はさらにおぞましい声でつぶやいてくる。
「ひ……の……たを……」
「……りのう……」
「何……?」
少女は大粒の涙を流しながら、声を振り払おうと頭を動かす。
「ひかり……うたを……」
「お願い、もうやめて……」
「〟光りの詩〝を探すのだ……」
これが、おぞましい声が言った最後の言葉だった。
声がいなくなったことに気付いた少女は、しゃくり上げながら顔を上げる。目は赤く腫れあがり、肩を大きく動かす。だが、もうそこに声はいない。あるのは、見渡す限りの暗闇だけ――少女は、少し恐怖心が薄れ、涙をその小さな手で拭き取り、静かに立ち上がった。そして、自分の着ている服のスカートを軽く払うと、一息ついてまた歩き始めた。
「もう帰りたいよ……」
少女は、また泣いてしまいそうなほど弱々しい声で言う。
奥に進むにつれて細くなっていく。
遠くの方に、地面に光る二つの石を見つけた。少女は、恐る恐る石に近づく。さっきのおぞましい声のせいで、少女はもう走ることができない。少女の体力は、もう限界に達してしまった。
石は、何に反射したのか、エメラルドグリーンに輝き、その輝きが少女を誘っているようだった。
少女は、石の前にしゃがみこみ、石をまじまじと見た。光っていた二つの石は、丸いごつごつした少女の手の大きさぐらいの石に食い込んでいた。
少女は、びくびくしながら石ごと両手で拾い上げた。すると、石はエメラルドグリーンにいやらしく光りながら、低い声でこう言った。
「やあ、ララ! ビスケット食べる?」
「キャアァァァ!」
少女はその言葉に驚き、悲鳴とともに石を放り投げた。すると、地面が崩れ、足を踏み外し、闇の中へと真っ逆さまに落ちていった。
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