魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか

文字の大きさ
上 下
30 / 36
婚約編

30 襲撃①

しおりを挟む




 隠し部屋へ忍び込んだ翌日、レティシアは早朝に屋敷を出発しアルハイザー領へと向かった。数日前から出発時刻は伝えてあったが、家族は誰一人見送りに出てくることはなく屋敷の従者たちに見送られてレティシアは出発した。ただ、レティシアは父の顔を見なくてすむことに少し安堵していた。

 父が用意した馬車は真新しく、最近新調したのであろうことがうかがえた。レイエアズマン家の家紋が描かれた馬車で町を通るのは心苦しく、レティシアは窓にカーテンをしっかりと引いて外を見ないようにしていた。馬車の外からは領民が罵る声が時折聞こえ、向いの席に座るマリーが眉をひそめていた。

 馬車は予定通りに進み、領地を出て森へ入った。今日はこの森を抜けた先にある宿で一泊すると聞いている。森の中なので流石に道も整っているとは言えず先ほどから上下の揺れが強い。

 アルハイザー領までの旅路を共にしてくれているのは侍女のマリーと護衛の騎士が2人。それと馬車を動かしてくれる業者が一人。立った5人の旅である。

 屋敷をでてから半日以上が過ぎた。町を抜けてからは窓を開けて外の景色を楽しんでいたが、森が深まってきたことで再び窓を閉め薄暗い馬車の中でこれからのことをじっと考えていた。肌身離さず懐に仕舞いこんである書類を服の上から触れた。これを提出すればおそらく反逆罪となるだろう。父はそれほどのことをしてしまった。国を騙したのだ。良くて国外追放、最悪の場合死刑もあり得る。皇帝陛下はそこのところ厳しい方だと聞いている。レイエアズマン家は取り潰されるだろう。母や兄、妹はどうなるのだろうか。もちろんレティシアだって例外ではないだろう。イサイアスとの婚約も白紙に戻されるに違いない。

 レティシアはイサイアスのことを思うと心臓を鷲づかみにされたかのような苦痛がした。この悪事を暴くと決めたのも、イサイアスを頼ると決めたのもレティシア自身だ。それに、これ以上領民を苦しめ続けるわけにはいかなかった。何も知らない前までのレティシアなら喜んでイサイアスのもとへ嫁いでいっただろう。しかし、領地の現状をしり、領民の苦しみを知った今、それを無視してイサイアスのもとへ嫁ぐという選択肢はレティシアにはなかった。

貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬノブレス・オブリージュ

 アルハイザー家で何度も聞いた言葉だ。レティシアは決意の瞳で前を見据えていた。



 その時、突然馬車が止まり、周囲が騒がしくなった。

「お嬢様、決して馬車からでないでください! 敵襲です!」

 外から護衛騎士の声が聞こえ、刃物がぶつかる甲高い音が響いた。夕暮れ時の森の中。もうすぐ抜けられるはずだった森でレティシア一行は数十人の男たちに囲まれていた。

「お嬢様!」

 マリーが顔面蒼白でレティシアを守ろうと隣に控え、その右手には短剣が握られている。

 レティシアはぐっと奥歯をかみしめて恐怖に震える体を抑えようとした。

 父にバレたのか、それとも旅人を狙う強盗か。圧倒的に相手の人数が多く、護衛たちも苦戦している。時折馬車のドアが強くたたかれ、蹴破ろうとしていることが分かった。逃げ出そうにも周囲を囲まれているためにそれもできそうにない。

 ついにドアが破られ、破壊音が響いた。中に乗り込んできたのは薄汚いマントをかぶったまだ若い男。短剣を持ったマリーを見ても眉一つ動かさずあっさりとその短剣を叩き落とすとマリーの首筋に手刀を叩き込んだ。意識を失ったマリーが倒れるのと同時にレティシアはその男に捕まる。

「あんたが、レティシア・レイエアズマンだな。」

「......」

「あんたを消せってご依頼だ。」

「…相手はだれ?」

「さあ? 俺はやれって言われただけだし知らないね。」

「…そう。でも私もここで死ぬわけにはいかないの。」

「そりゃそうだ。でもこの状況で何ができるって? 俺だって好きであんたを殺したいわけじゃない。仕事なんだよ。わるいなお嬢さん。」

 そういうと目の前の男は持っていた剣をレティシアに向って振る下ろした。

 レティシアは目を瞑ることなくその剣を見つめる。

 ああ、自分はこんなところで斬られて死ぬのか。

 振る下ろされる剣がやけにゆっくりと見えた。



しおりを挟む
本編から少し離れた番外編『魔力を持たずに生まれてきた私の日常』が連載中です
基本的にほのぼの続きます
お話のリクエストも受け付けております
どうぞお立ち寄りくださいませ
↓↓↓↓
『魔力を持たずに生まれてきた私の日常』へはこちらをクリック
感想 182

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...