魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか

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婚約編

24 しばしの別れ

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 もうすぐ寒い冬が訪れる。社交界もしばらくお休みだ。ほとんどの貴族が王都から自分の領地へ帰る時期でもある。レイエアズマン家も例外ではなく南部にある領地の屋敷へ行くことになった。

 領地へ赴く直前に訪れたアルハイザー家ではイサイアスから何度も手紙を出すことを約束させられた。

「絶対だよ! 絶対手紙出して。」

「うん、絶対出すわ。イアス、元気でね。」

「シアも。何かあったら絶対教えてね。飛んでいくから。」

「大丈夫よ。イアスがくれた指輪もあるもの。」

 イサイアスがプレゼントしてくれた指輪をレティシアはとても大切にしていて、寝るときも肌身離さず身に着けていた。カラメリアに目を付けられるかと思っていたが、頻繁に宝石を送ってくる父親のおかげでこれもその一つだと思っているらしく父親からもらった綺麗な宝石を譲ってやったら満足したようでそれ以降何も言ってこなかった。

 次のシーズンまではイサイアスと会うことはできない。ダリアンは王宮勤務なので大半は王都で過ごし、イサイアスとアンネマリーが短期間だけアルハイザー領に行くらしかった。

「アルハイザー領とレイエアズマン領は遠くないから、領地に寄ったついでにレティシアに会いに行けるかも。」

 イサイアスはそう言っているが、そうはいってもアルハイザー領とレイエアズマン領は馬に乗っても2日ほどかかる距離だ。レティシアは期待しないで待っていると言って笑った。

「それじゃあ、イアス。また、次のシーズンに。」

「シア!」

 アルハイザー家を去る時間になり名残惜しく思いながらも別れを告げようとするレティシアをイサイアスが引き留める。名前を呼ばれて顔を上げたレティシアはイサイアスに手を引かれてバランスを崩した。手を引かれるままイサイアスの胸に飛び込むこととなったレティシアは驚いて離れようとするが、イサイアスの腕がしっかりと背中にまわされて離れられない。

「イ、イアスっ!」

「ほんと可愛い。離れたくないなあ。」

 そういってレティシアの肩に頭を乗せて呟く。イサイアスの声が耳元で聞こえて抱きしめられていると自覚したレティシアは思わず赤面した。ここはエントランスホールである。見送りに来てくれているアンネマリーもいればメイドたちもいる。イサイアスに抱きしめられているこの格好を大勢の人に見られていると思うとレティシアは沸騰してしまいそうだった。

 イサイアスは時折こうやってレティシアを抱きしめる。レティシアも決して嫌ではなかった。見られているというのが恥ずかしいだけで。こうやってイサイアスに抱きしめられているときはいつも安心するような温かい気持ちになれた。体の中から溢れてくるようなぬくもりに身を委ねて、最終的にはレティシアもぎゅっと強くイサイアスを抱きしめ返すのだった。

「そろそろおやめなさいな。」

 アンネマリーが笑いながら止めに入ったのはしばらくしてからだった。しぶしぶレティシアを開放したイサイアスは熟れた林檎のように真っ赤になっているレティシアを愛おしげに見つめながら頭を優しく撫でる。レティシアはアンネマリーがいたことを思い出してイサイアスから弾かれるように体を離すとうつむいて足もとを見つめた。

「シアと離れるのは残念だけど、せっかく時間があるんだ。立派な当主になれるよう頑張るよ。だからシアも頑張って。」

「うん。私も、イアスの婚約者として恥ずかしくないレディーになれるように頑張るわ!」

「またね、シア。」

 イサイアスはそういってレティシアの額に口づけを落とした。レティシアは真っ赤な顔のままアルハイザー家の面々にお礼を述べてお辞儀する。そして馬車に乗り込む直前、イサイアスに駆け寄るとその頬に軽いキスを一つ残して去っていった。

 イサイアスはアンネマリーに声をかけられるまで顔を赤くして頬を抑えたまま固まっていた。

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