22 / 36
婚約編
22 カラメリアのわがまま②
しおりを挟む
いつもレティシアたちが稽古のために使っている部屋へやってきた。この部屋はアルハイザー邸なある数多くの書斎の一つで言語に関する書籍が集められている。アンネマリーはその中からレティシアが初期に使っていたカラバイン語の教本を持ってきた。
「今日はカラメリアさんもいることだし、カラバイン語の復習にしましょうか。カラメリアさんはカラバイン語は習っているかしら?」
「カラバイン語? 習っていませんわ。」
「そうなのね。じゃあレティシアちゃんがカラメリアさんに教えてあげるという形にしましょう。」
「えぇ! レティシアに教えて貰うなんて嫌よ!」
「あらどうして? 教えるのはレティシアちゃんにとってもいい復習になるし、カラメリアさんもカラバイン語を覚えるのに良い機会でしてよ。」
「まず、どうして私がカラバイン語を覚えないといけないの!」
「あら、カラメリアさんは家にお勉強しに来たのではないの?」
「え?」
「お茶会でもないのに我が家に来たいだなんて言うから、レティシアちゃんと一緒にお勉強しに来たのかと思っていたのだけれど。違ったかしら? 家には何をしに来たの?」
「え? それはもちろんイサイアス様に会いに、ですわ。」
「イサイアスに?」
アンネマリーは不思議そうに首を傾げる。それから、カラメリアがなぜ突然アルハイザー邸に訪れたのか腑に落ちたらしくふっと微かに笑った。
イサイアスがレティシアに首ったけなのをよく知っているアンネマリーとってカラメリアの行動がいかに逆効果であるかは明白であったが、カラメリアがなんと言うのか気になったアンネマリーは黙って続きを促す。
レティシアはカラメリアのあまりにひどい言葉遣いと態度に血の気の引く思いだった。アンネマリーがそれほと気にしないでいてくれることに胸を撫で下ろしながら、カラメリアに対して心の中で「お願いだから失礼なことを言わないで欲しい」と願っていた。
「私、イサイアス様に会いに来たのに、イサイアス様はすぐに稽古に行ってしまうからがっかりですわ。」
「そうねえ、あの子ったら魔術すっかりはまってしまって。あの子が魔術を頑張るようになったのもレティシアちゃんのおかげね。」
「私、ですか?」
「レティ…お姉様が?」
思わぬところで名前があがったレティシアが思わず聞き返すと、アンネマリーは頷いた。
「そうよ、魔術から遠ざかろうとしていたあの子が立ち直ったんだもの。」
アンネマリーは魔力飽和の発作に苦しむ息子の姿を思い出した。最初に魔力飽和の発作を起こしたのはイサイアスが5歳の頃だった。まだ幼く体内の魔力を抑える術を持たないイサイアスは魔力を周囲にまき散らし、運悪くすぐ近くにいたメイドの一人がその魔力に充てられて発狂した。
魔力は個人特有の型を持っており、他人の魔力が混ざれば拒絶反応を起こすといわれている。イサイアスは目の前で狂ってしまったメイドを見てすっかり怖気ずいてしまってた。幸いそのメイドは無事で今は屋敷を離れているが元気に暮らしていると聞く。それでも、その後人といることを嫌がり、自分の持つ魔力に対して嫌悪感を抱いている息子を苦しく思いながらもアンネマリーは何もできないことに心を痛めていたのだ。
魔力容量は歳が上がるにつれて多くなり、大人になれば魔力飽和も収まるだろうと思われる。特に幼い頃に魔術の訓練をするなど魔力の消費を繰り返していると魔力容量が増えやすいと言われており、魔力の多いイサイアスは早くから稽古を始めたほうがよかったのだが、アンネマリーもダリアンも嫌がるイサイアスに魔術の稽古をした方が良いとは強く言えなくなってしまったのだ。
その状況が一変したのが、デビューの舞踏会でレティシアに会ったあの日だった。帰ってきたイサイアスが突然魔術の稽古を増やして欲しいと言ってきたときには声が出ないほど驚いものだ。それからというもの、イサイアスは今までの分を埋めるように魔術の稽古に打ち込んでいる。元々のポテンシャルが高かったこともあってかどんどん成長しあれから3ヶ月程だった今、大人でも難しいような術を成功させてみせるようになった。稽古で魔力を消費しているから魔力飽和も最近では起きていない。日に日に笑顔が戻っていく息子にアンネマリーは泣きそうなほど喜んだものだ。
結局、やる気のないカラメリアでは勉強は進まずお昼の時間になったことで終了となった。
午後からはイサイアスも交えてお茶でもしましょうとアンネマリーが言ったことですっかり機嫌を直したのはカラメリアだった。カラメリアがなにか失礼をしないか気が気でないレティシアは緊張の面持ちで昼食を終えた。
「今日はカラメリアさんもいることだし、カラバイン語の復習にしましょうか。カラメリアさんはカラバイン語は習っているかしら?」
「カラバイン語? 習っていませんわ。」
「そうなのね。じゃあレティシアちゃんがカラメリアさんに教えてあげるという形にしましょう。」
「えぇ! レティシアに教えて貰うなんて嫌よ!」
「あらどうして? 教えるのはレティシアちゃんにとってもいい復習になるし、カラメリアさんもカラバイン語を覚えるのに良い機会でしてよ。」
「まず、どうして私がカラバイン語を覚えないといけないの!」
「あら、カラメリアさんは家にお勉強しに来たのではないの?」
「え?」
「お茶会でもないのに我が家に来たいだなんて言うから、レティシアちゃんと一緒にお勉強しに来たのかと思っていたのだけれど。違ったかしら? 家には何をしに来たの?」
「え? それはもちろんイサイアス様に会いに、ですわ。」
「イサイアスに?」
アンネマリーは不思議そうに首を傾げる。それから、カラメリアがなぜ突然アルハイザー邸に訪れたのか腑に落ちたらしくふっと微かに笑った。
イサイアスがレティシアに首ったけなのをよく知っているアンネマリーとってカラメリアの行動がいかに逆効果であるかは明白であったが、カラメリアがなんと言うのか気になったアンネマリーは黙って続きを促す。
レティシアはカラメリアのあまりにひどい言葉遣いと態度に血の気の引く思いだった。アンネマリーがそれほと気にしないでいてくれることに胸を撫で下ろしながら、カラメリアに対して心の中で「お願いだから失礼なことを言わないで欲しい」と願っていた。
「私、イサイアス様に会いに来たのに、イサイアス様はすぐに稽古に行ってしまうからがっかりですわ。」
「そうねえ、あの子ったら魔術すっかりはまってしまって。あの子が魔術を頑張るようになったのもレティシアちゃんのおかげね。」
「私、ですか?」
「レティ…お姉様が?」
思わぬところで名前があがったレティシアが思わず聞き返すと、アンネマリーは頷いた。
「そうよ、魔術から遠ざかろうとしていたあの子が立ち直ったんだもの。」
アンネマリーは魔力飽和の発作に苦しむ息子の姿を思い出した。最初に魔力飽和の発作を起こしたのはイサイアスが5歳の頃だった。まだ幼く体内の魔力を抑える術を持たないイサイアスは魔力を周囲にまき散らし、運悪くすぐ近くにいたメイドの一人がその魔力に充てられて発狂した。
魔力は個人特有の型を持っており、他人の魔力が混ざれば拒絶反応を起こすといわれている。イサイアスは目の前で狂ってしまったメイドを見てすっかり怖気ずいてしまってた。幸いそのメイドは無事で今は屋敷を離れているが元気に暮らしていると聞く。それでも、その後人といることを嫌がり、自分の持つ魔力に対して嫌悪感を抱いている息子を苦しく思いながらもアンネマリーは何もできないことに心を痛めていたのだ。
魔力容量は歳が上がるにつれて多くなり、大人になれば魔力飽和も収まるだろうと思われる。特に幼い頃に魔術の訓練をするなど魔力の消費を繰り返していると魔力容量が増えやすいと言われており、魔力の多いイサイアスは早くから稽古を始めたほうがよかったのだが、アンネマリーもダリアンも嫌がるイサイアスに魔術の稽古をした方が良いとは強く言えなくなってしまったのだ。
その状況が一変したのが、デビューの舞踏会でレティシアに会ったあの日だった。帰ってきたイサイアスが突然魔術の稽古を増やして欲しいと言ってきたときには声が出ないほど驚いものだ。それからというもの、イサイアスは今までの分を埋めるように魔術の稽古に打ち込んでいる。元々のポテンシャルが高かったこともあってかどんどん成長しあれから3ヶ月程だった今、大人でも難しいような術を成功させてみせるようになった。稽古で魔力を消費しているから魔力飽和も最近では起きていない。日に日に笑顔が戻っていく息子にアンネマリーは泣きそうなほど喜んだものだ。
結局、やる気のないカラメリアでは勉強は進まずお昼の時間になったことで終了となった。
午後からはイサイアスも交えてお茶でもしましょうとアンネマリーが言ったことですっかり機嫌を直したのはカラメリアだった。カラメリアがなにか失礼をしないか気が気でないレティシアは緊張の面持ちで昼食を終えた。
50
本編から少し離れた番外編『魔力を持たずに生まれてきた私の日常』が連載中です
基本的にほのぼの続きます
お話のリクエストも受け付けております
どうぞお立ち寄りくださいませ
↓↓↓↓
『魔力を持たずに生まれてきた私の日常』へはこちらをクリック
基本的にほのぼの続きます
お話のリクエストも受け付けております
どうぞお立ち寄りくださいませ
↓↓↓↓
『魔力を持たずに生まれてきた私の日常』へはこちらをクリック
お気に入りに追加
8,461
あなたにおすすめの小説
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい
Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい
そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす
3/22 完結予定
3/18 ランキング1位 ありがとうございます

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる