魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか

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婚約編

22 カラメリアのわがまま②

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 いつもレティシアたちが稽古のために使っている部屋へやってきた。この部屋はアルハイザー邸なある数多くの書斎の一つで言語に関する書籍が集められている。アンネマリーはその中からレティシアが初期に使っていたカラバイン語の教本を持ってきた。


「今日はカラメリアさんもいることだし、カラバイン語の復習にしましょうか。カラメリアさんはカラバイン語は習っているかしら?」

「カラバイン語? 習っていませんわ。」

「そうなのね。じゃあレティシアちゃんがカラメリアさんに教えてあげるという形にしましょう。」

「えぇ! レティシアに教えて貰うなんて嫌よ!」

「あらどうして? 教えるのはレティシアちゃんにとってもいい復習になるし、カラメリアさんもカラバイン語を覚えるのに良い機会でしてよ。」

「まず、どうして私がカラバイン語を覚えないといけないの!」

「あら、カラメリアさんは家にお勉強しに来たのではないの?」

「え?」

「お茶会でもないのに我が家に来たいだなんて言うから、レティシアちゃんと一緒にお勉強しに来たのかと思っていたのだけれど。違ったかしら? 家には何をしに来たの?」

「え? それはもちろんイサイアス様に会いに、ですわ。」

「イサイアスに?」

 アンネマリーは不思議そうに首を傾げる。それから、カラメリアがなぜ突然アルハイザー邸に訪れたのか腑に落ちたらしくふっと微かに笑った。
 イサイアスがレティシアに首ったけなのをよく知っているアンネマリーとってカラメリアの行動がいかに逆効果であるかは明白であったが、カラメリアがなんと言うのか気になったアンネマリーは黙って続きを促す。

 レティシアはカラメリアのあまりにひどい言葉遣いと態度に血の気の引く思いだった。アンネマリーがそれほと気にしないでいてくれることに胸を撫で下ろしながら、カラメリアに対して心の中で「お願いだから失礼なことを言わないで欲しい」と願っていた。

「私、イサイアス様に会いに来たのに、イサイアス様はすぐに稽古に行ってしまうからがっかりですわ。」

「そうねえ、あの子ったら魔術すっかりはまってしまって。あの子が魔術を頑張るようになったのもレティシアちゃんのおかげね。」

「私、ですか?」

「レティ…お姉様が?」

 思わぬところで名前があがったレティシアが思わず聞き返すと、アンネマリーは頷いた。

「そうよ、魔術から遠ざかろうとしていたあの子が立ち直ったんだもの。」

 アンネマリーは魔力飽和の発作に苦しむ息子の姿を思い出した。最初に魔力飽和の発作を起こしたのはイサイアスが5歳の頃だった。まだ幼く体内の魔力を抑える術を持たないイサイアスは魔力を周囲にまき散らし、運悪くすぐ近くにいたメイドの一人がその魔力に充てられて発狂した。

 魔力は個人特有の型を持っており、他人の魔力が混ざれば拒絶反応を起こすといわれている。イサイアスは目の前で狂ってしまったメイドを見てすっかり怖気ずいてしまってた。幸いそのメイドは無事で今は屋敷を離れているが元気に暮らしていると聞く。それでも、その後人といることを嫌がり、自分の持つ魔力に対して嫌悪感を抱いている息子を苦しく思いながらもアンネマリーは何もできないことに心を痛めていたのだ。

 魔力容量は歳が上がるにつれて多くなり、大人になれば魔力飽和も収まるだろうと思われる。特に幼い頃に魔術の訓練をするなど魔力の消費を繰り返していると魔力容量が増えやすいと言われており、魔力の多いイサイアスは早くから稽古を始めたほうがよかったのだが、アンネマリーもダリアンも嫌がるイサイアスに魔術の稽古をした方が良いとは強く言えなくなってしまったのだ。

 その状況が一変したのが、デビューの舞踏会でレティシアに会ったあの日だった。帰ってきたイサイアスが突然魔術の稽古を増やして欲しいと言ってきたときには声が出ないほど驚いものだ。それからというもの、イサイアスは今までの分を埋めるように魔術の稽古に打ち込んでいる。元々のポテンシャルが高かったこともあってかどんどん成長しあれから3ヶ月程だった今、大人でも難しいような術を成功させてみせるようになった。稽古で魔力を消費しているから魔力飽和も最近では起きていない。日に日に笑顔が戻っていく息子にアンネマリーは泣きそうなほど喜んだものだ。



 結局、やる気のないカラメリアでは勉強は進まずお昼の時間になったことで終了となった。

 午後からはイサイアスも交えてお茶でもしましょうとアンネマリーが言ったことですっかり機嫌を直したのはカラメリアだった。カラメリアがなにか失礼をしないか気が気でないレティシアは緊張の面持ちで昼食を終えた。
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