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番外2
望みうる最善1-2
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ただの舞踏会や催し物なら断るジルベルトが、その使者がもたらした招待は受けた。
弟であり王太子であるジョナタとその妻となったマルタが、ちょうど今、王宮をあけているからというだけではない。
エヴェリーナはジルベルトと共に王都に戻り、都内にある第一王子の邸に移った。そこで完全な身支度を整え、ジルベルトと共に王宮へ向かうところだった。
第一王子の紋章入りの馬車に乗り、エヴェリーナはジルベルトと向き合う形で座る。いつも以上に口数の少ない妻を見てか、ジルベルトは鋭く笑った。
「何をそれほど緊張する必要がある。我が母はそれほどおそろしい人物に思えるか?」
「! そうでは、ありません……! ですが、殿下の母君です。ここにいたるまで、ご尽力頂いていたと聞いています。どうお礼をしたらいいか……」
「そう固くなるな。母上もあなたのことを気に入っているようだからな。母はやや寛容にすぎるところがあるが、見る目はある。取り繕わずとも、そこに実があれば何の問題もない」
はい、と答えながら、それでもエヴェリーナはやはり気になってしまった。
どんな相手か事前に情報を得て把握することが当然とされてきたエヴェリーナにとって、義母にあたるはずの人物がいまいちよくわからないというのは不安を覚えるものだった。
ジルベルトの評判は耳に入ってきても、その母だという人の噂はあまり聞いたことがないのだ。今日この日は、ジルベルトの母とエヴェリーナが会う日だった。ジルベルトの母のほうから強い要望があったという。
エヴェリーナが王太子妃候補でなくなった一連の騒動の後、すぐに第一王子と結婚できたのは、ジルベルトの母その人が、王に働きかけてくれた面も大きい。かつて王の寵愛を受け女性であり、いまはよき友人として王宮で過ごしているというその人が、さりげなく助力してくれたのだ。
これまで、ジルベルトの母はこれといって特徴的な噂を聞かない一方、悪い評判も聞かなかった。ゆえに、今回のように王に働きかけるというのは珍しいことのように思える。
そのこととジルベルト自身の言葉から考えられるのは、政争から距離を置ける程度には観察力と冷静さがあり、王宮で平穏に過ごせる程度には無害で、息子と仲の良い女性という人物像だった。
(不興を買うようなことはしたくないわ)
エヴェリーナはひそかにため息をつく。王に影響力を持ち、第一王子との繋がりも強い女性と不仲になるのは得策ではない。――かつて躾けられた、政争に関する感覚がそう告げている。
だが、ジルベルトの母に嫌われたくないという気持ちはそれが理由ではなかった。
エヴェリーナはそっと目の前の夫を見た。
この第一王子の伴侶として恥ずかしくない人間でありたい――それ以上に、この人の母に嫌われたくなかった。
弟であり王太子であるジョナタとその妻となったマルタが、ちょうど今、王宮をあけているからというだけではない。
エヴェリーナはジルベルトと共に王都に戻り、都内にある第一王子の邸に移った。そこで完全な身支度を整え、ジルベルトと共に王宮へ向かうところだった。
第一王子の紋章入りの馬車に乗り、エヴェリーナはジルベルトと向き合う形で座る。いつも以上に口数の少ない妻を見てか、ジルベルトは鋭く笑った。
「何をそれほど緊張する必要がある。我が母はそれほどおそろしい人物に思えるか?」
「! そうでは、ありません……! ですが、殿下の母君です。ここにいたるまで、ご尽力頂いていたと聞いています。どうお礼をしたらいいか……」
「そう固くなるな。母上もあなたのことを気に入っているようだからな。母はやや寛容にすぎるところがあるが、見る目はある。取り繕わずとも、そこに実があれば何の問題もない」
はい、と答えながら、それでもエヴェリーナはやはり気になってしまった。
どんな相手か事前に情報を得て把握することが当然とされてきたエヴェリーナにとって、義母にあたるはずの人物がいまいちよくわからないというのは不安を覚えるものだった。
ジルベルトの評判は耳に入ってきても、その母だという人の噂はあまり聞いたことがないのだ。今日この日は、ジルベルトの母とエヴェリーナが会う日だった。ジルベルトの母のほうから強い要望があったという。
エヴェリーナが王太子妃候補でなくなった一連の騒動の後、すぐに第一王子と結婚できたのは、ジルベルトの母その人が、王に働きかけてくれた面も大きい。かつて王の寵愛を受け女性であり、いまはよき友人として王宮で過ごしているというその人が、さりげなく助力してくれたのだ。
これまで、ジルベルトの母はこれといって特徴的な噂を聞かない一方、悪い評判も聞かなかった。ゆえに、今回のように王に働きかけるというのは珍しいことのように思える。
そのこととジルベルト自身の言葉から考えられるのは、政争から距離を置ける程度には観察力と冷静さがあり、王宮で平穏に過ごせる程度には無害で、息子と仲の良い女性という人物像だった。
(不興を買うようなことはしたくないわ)
エヴェリーナはひそかにため息をつく。王に影響力を持ち、第一王子との繋がりも強い女性と不仲になるのは得策ではない。――かつて躾けられた、政争に関する感覚がそう告げている。
だが、ジルベルトの母に嫌われたくないという気持ちはそれが理由ではなかった。
エヴェリーナはそっと目の前の夫を見た。
この第一王子の伴侶として恥ずかしくない人間でありたい――それ以上に、この人の母に嫌われたくなかった。
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