私の銀青色の鳥

えんみち

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銀青鳥(ぎんせいと)。
それがこの国の名前だと彼は言った。


国の名前の由来となったという、大きな銀色の青い鳥。
あたしは今その背に乗っている。


乗り心地は悪くはない。揺れもないし、風もそれほど強くないのが不思議だけど。ただ、あたしの背後にいる青年の静けさが無気味。
銀青鳥が人型をとるとこうなるに違いないと思われる美しい青年。
あたしを嫌々ながらに抱きかかえ鳥の背に乗せた無愛想極まりないこの青年は必要最低限のことしかしゃべらない。


「俺の名前は青羅(せいら)」
「青羅、さん?」
「呼び捨てで構わない。お前に、敬称をつけられるものではないからな」
「は?」

皮肉めいた口調に、あたしは眉を顰めた。
なんでそんな風に言われなくてはならないのだろう。
あたしが何かしたわけ?
それを尋ねたかったが、おそらく無視されるに決まってる。
あたしは青羅から顔を背けて前方を見つめた。

「お前は?」

「え?」

「名前だ。あるんだろ」

そりゃあ、ありますよ。
でもね、なんだか素直に返事をしたくない言い方だ。
敬称をつけられたくないというわりには、態度は尊大というより、乱暴な印象。
まるで関わりたくはないという風にとれる。
実際、そうなのかもしれない。

「……真名(まな)」

黙っていても、青羅の機嫌を更に損ねるだけで、あたしにとってはまったくメリットがなさそうなので、渋々こたえる。
それに対して、青羅は何も言わなかった。
別に何か期待したわけじゃないけど、何らかのリアクションがあっても、いいんじゃないんだろうかと思う。
あたしはますます憮然として、黙り、二人の間には沈黙が流れた。
ただ風を切る鳥の羽音だけが、流れる。


沈黙を破ったのは意外にも青羅だった。
だがそれはまさに必要最低限の解説の為に過ぎなかったのだが。

「あそこが王城だ」

彼が指し示す方向を見つめ、あたしは感嘆が零れた。

「わぁ……」

標高の高い山の上に立つ、銀色の鳥が立つような美しい城が建っていた。

みるみる城に近づき、体育館くらいの広さのある屋上に、鳥が優雅に降立つ。

出迎えた人々は皆、床にひれ伏すようにあたし達を出迎えていた。どうすればいいのかわからずにおどおどしてしまうあたしを無視して。

「王子っ!」

背の高い男性が、満面の笑みで近づいて来た。
結構若い感じ。20代半ば頃だろうか。
茶色の髪の青年があたしの方に顔を向けた。
青羅ほどではないけれど、整った顔立ちの男性。しかも青羅よりもずっと親しみを持てるような柔らかな笑みを湛えながら、いきなり恭しく跪く。

「お待ち申し上げておりました。新王」

「……は?」

青年の言葉にたっぷり数十秒の遅れを取って返事をする。

え?何?今、ヘンなこと言わなかった?

あたしは隣に立つ青羅を見たけれど、彼は何も言わずに、前方を見つめてるだけ。
あたしの方には一瞥もない。
その間に、あたしに跪いてる男性が、羽織っているマントの端を摘んで口付けてきた。
思わず、出そうになった悲鳴を飲み込む。後ずさりそうになるのも、なんとか踏みとどまったが。

これって、中世の外国の騎士とかがお姫様とかにするやつだよね。
生で見るの初めてっていうか、されることになるとは思わなかったわよ……。

あたしは心臓がドキドキしてきた。

「王がお待ちかねです」

青年が言い、あたしに手を伸ばすと、青羅がやんわりと彼を遮る。

「いや、先に身支度をさせる。このままでは失礼にあたる。用意は?」
「出来ております」
「そうか」

青羅は頷くと、隣にいるあたしに微笑を向けた。
思わず呆気にとられてそれを眺める。
なんで微笑まれるわけ?
ってゆーか、別人?ってくらい、温和な笑み。
だけど、瞳が全然笑ってなくて、あたしはムッとしてそっぽを向いた。

「失礼、真名」

やんわりと断りをいれてから、再びあたしを抱き上げる。

「ひゃぁっ!?」

本日2度目のお姫様抱っこに、慌てふためく。
しかも、最初のよりもずっと優しい抱き方。

「ちょ、ちょっと?」
「申し訳ないが、少し我慢していただきたい。裸足のあなたを歩かせるわけにはいかないのでね」

本当に申し訳なさそうな青羅の顔と声音に、あたしは戸惑うばかりだ。


これ、誰?
あんたさっきまでと違うわよっ!?

心の中で散々叫びながら、黙って運ばれた。



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