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番外編
イース編
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イース編
僕はオルビス国の第一王子のイース。つい先日先代陛下が退位され、父上が新国王陛下となった。そして母上が王妃になる。僕は幼い頃から母上が大好きで、結婚なんてしなくていいなんて思っていたんだ。
けど、とある出会いがあって、僕の心はその子でいっぱいになっていた。
それはある日、隣国から王妃様とその子供が来ていた。どうやら僕にとっては叔母様にあたるらしく、お父様の妹なのだそうだ。母上とも仲がいいらしく、一緒にお茶をしたりされていた。その子供は女の子でシャルロットというらしい。
母上たちがお茶会をしている間、僕はシャルロットと話をしていた。なんだか物凄くおとなしい女の子でどうやら人見知りらしかった。何を話しかけても会話が続かず、困り果てた僕はどうしていいかわからなくなっていた。
さっきまで一生懸命話しかけていた僕が急に黙り込んだことで不安になったのか目に涙を浮かべて小さな声で「ごめんなさい」と呟いた彼女を見て、どきりとしてしまった。
「ごめんね、あまり女の子と話すこともなかったから、何を話していいかわからなくて。だから泣かないで」
彼女の顔に手を伸ばし涙を拭ってあげる。彼女は一瞬ピクリと肩を跳ねさせたが、首をフルフルとふった。
「こちらこそ、上手に話せなくてごめんなさい。あの、よろしければこの国のことを教えてください。お母様はこの国の出身だけど、あまり外には出ずに勉強ばかりしていたと聞いていて……だからこの国がどういうところなのか教えてほしいのです」
「そんなことならいくらでも。僕は父上と母上から国の様子を知っておくのはいいことだと聞いてからよく出かけているんだ。この国で暮らす人々の様子を見ればいい状態なのかがすぐにわかるからって。今度来た時は案内してあげるね。だから、またおいで」
「ぜひ。また、会えると嬉しいです」
「うん。僕も待っているよ」
二人で笑い合って楽しい時を過ごした。それは僕の人生の中で結構な衝撃で、一瞬にして心の中を塗り替えられてしまったんだ。
彼女が帰った後、すぐに父上に掛け合った。そしたら父上はお腹を抱えて笑っていたよ。なんでそんなに笑っているんだって聞いたら、話してくれた。
「僕もね、十歳の頃、アリアと出会って一目惚れしたんだ。それから王宮に帰って早々、父上に婚約をしたいと申し込んだんだよ」
「父上、も?」
「そうだよ。ついでに言うと母上が大好きなのもそっくりだって言われた。まあ僕は六歳の頃には卒業してたけど、イースは随分とかかったね」
「そっ、それはっ!」
「いいよ。大切な何かを見つけることは悪いことじゃない。アリアのことを大好きでいてくれてありがとう。これからは、シャルロット、かな?」
「はい。お願いできますか?」
「レオンに言ってみるよ。帰る前ならエリーゼに言えたのに」
それはそうなんだけど、どうもそれ以外考えられなくなっていた僕はそのことをすっかり忘れてしまっていた。そのくらい、僕にとってシャルロットとの出会いは衝撃的だったんだ。あの少しの時間で心を射抜かれたんだから。
「さて、イース。これからやらなければいけないことはわかっているな?」
「はい、今まで以上に勉学と仕事に励みます」
「わかっていればいいよ。僕だってアリアに会うまで、会ってからも婚約破棄に至るまでさらに待ったんだから。僕の息子なんだからできるよ。でも、もし、彼女が嫌だと言ったら、婚約の話はなかったことにさせてもらうから。この国は恋愛結婚が主流なんだ。家同士で話をしたからってとうの本人たちの気持ちが伴わないとね」
「わかってます。シャルロットに好きになってもらえるように努力します」
「うん、よろしい」
こうして僕の戦いは始まった。お父様が言っていた。向こうの国はいまだに政略結婚が主流だと、だから誰かと婚約してしまっていたら、破棄か解消されるまで何もできないと。
そうなる前になんとかしなければ。それにそうなった時にどうするか、考えなくては。
まずは勉強と仕事からだな。よし、やるぞ!
こうしてイースのアリア大好き期間は終わりを告げ、その矛先は隣国の王女様へと向かって行ったのである。
僕はオルビス国の第一王子のイース。つい先日先代陛下が退位され、父上が新国王陛下となった。そして母上が王妃になる。僕は幼い頃から母上が大好きで、結婚なんてしなくていいなんて思っていたんだ。
けど、とある出会いがあって、僕の心はその子でいっぱいになっていた。
それはある日、隣国から王妃様とその子供が来ていた。どうやら僕にとっては叔母様にあたるらしく、お父様の妹なのだそうだ。母上とも仲がいいらしく、一緒にお茶をしたりされていた。その子供は女の子でシャルロットというらしい。
母上たちがお茶会をしている間、僕はシャルロットと話をしていた。なんだか物凄くおとなしい女の子でどうやら人見知りらしかった。何を話しかけても会話が続かず、困り果てた僕はどうしていいかわからなくなっていた。
さっきまで一生懸命話しかけていた僕が急に黙り込んだことで不安になったのか目に涙を浮かべて小さな声で「ごめんなさい」と呟いた彼女を見て、どきりとしてしまった。
「ごめんね、あまり女の子と話すこともなかったから、何を話していいかわからなくて。だから泣かないで」
彼女の顔に手を伸ばし涙を拭ってあげる。彼女は一瞬ピクリと肩を跳ねさせたが、首をフルフルとふった。
「こちらこそ、上手に話せなくてごめんなさい。あの、よろしければこの国のことを教えてください。お母様はこの国の出身だけど、あまり外には出ずに勉強ばかりしていたと聞いていて……だからこの国がどういうところなのか教えてほしいのです」
「そんなことならいくらでも。僕は父上と母上から国の様子を知っておくのはいいことだと聞いてからよく出かけているんだ。この国で暮らす人々の様子を見ればいい状態なのかがすぐにわかるからって。今度来た時は案内してあげるね。だから、またおいで」
「ぜひ。また、会えると嬉しいです」
「うん。僕も待っているよ」
二人で笑い合って楽しい時を過ごした。それは僕の人生の中で結構な衝撃で、一瞬にして心の中を塗り替えられてしまったんだ。
彼女が帰った後、すぐに父上に掛け合った。そしたら父上はお腹を抱えて笑っていたよ。なんでそんなに笑っているんだって聞いたら、話してくれた。
「僕もね、十歳の頃、アリアと出会って一目惚れしたんだ。それから王宮に帰って早々、父上に婚約をしたいと申し込んだんだよ」
「父上、も?」
「そうだよ。ついでに言うと母上が大好きなのもそっくりだって言われた。まあ僕は六歳の頃には卒業してたけど、イースは随分とかかったね」
「そっ、それはっ!」
「いいよ。大切な何かを見つけることは悪いことじゃない。アリアのことを大好きでいてくれてありがとう。これからは、シャルロット、かな?」
「はい。お願いできますか?」
「レオンに言ってみるよ。帰る前ならエリーゼに言えたのに」
それはそうなんだけど、どうもそれ以外考えられなくなっていた僕はそのことをすっかり忘れてしまっていた。そのくらい、僕にとってシャルロットとの出会いは衝撃的だったんだ。あの少しの時間で心を射抜かれたんだから。
「さて、イース。これからやらなければいけないことはわかっているな?」
「はい、今まで以上に勉学と仕事に励みます」
「わかっていればいいよ。僕だってアリアに会うまで、会ってからも婚約破棄に至るまでさらに待ったんだから。僕の息子なんだからできるよ。でも、もし、彼女が嫌だと言ったら、婚約の話はなかったことにさせてもらうから。この国は恋愛結婚が主流なんだ。家同士で話をしたからってとうの本人たちの気持ちが伴わないとね」
「わかってます。シャルロットに好きになってもらえるように努力します」
「うん、よろしい」
こうして僕の戦いは始まった。お父様が言っていた。向こうの国はいまだに政略結婚が主流だと、だから誰かと婚約してしまっていたら、破棄か解消されるまで何もできないと。
そうなる前になんとかしなければ。それにそうなった時にどうするか、考えなくては。
まずは勉強と仕事からだな。よし、やるぞ!
こうしてイースのアリア大好き期間は終わりを告げ、その矛先は隣国の王女様へと向かって行ったのである。
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いつもありがとうございます😊
そうですね。これと言って惹かれる女性も現れず、母親に懐いてましたねw
イースはアーティにそっくりなので、一目惚れするところも遺伝したようですw
感想ありがとうございます😊
親族でやっていてなかなか外面がいいので国民にはわからないタイプの人たちでしたねw
少し休憩してからイースが出てくる物語も書いてみたいなと思います😊
勉強不足が否めないのでちょこちょこ勉強しながら作るので時間はかかると思いますが💦
ご指摘ありがとうございます!
直しました💦