婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

文字の大きさ
上 下
36 / 49

36

しおりを挟む
36
 王宮についてからはそのまま部屋へ案内される。その途中で王妃様と会ったのだけれど、わたくしとアーティをニヤニヤして見ていて「ふふっ、うまくいったみたいねぇ」なんて言われて恥ずかしかったわ……
 あれはきっと致したことまでバレているわね……
 部屋についてからはアーティとお茶をして、食事も部屋へ運んでもらったの。そのまま食事も二人で食べる。食事まで食べさせようとしてくるものだから流石に拒否したわ。がっくり肩を落としていて、なんだか実家で飼っていた犬みたい。
 思わず頭を撫でてあげるとガバッと顔を上げて笑顔で抱きついてくる。うん、失礼かもしれないけれど犬だわ……
「さ、寝よう」
 わたくしは自分の寝室の方へ行こうと思ったのだけれど、彼に手を握られて反対方向へ連れて行かれたわ。一つ扉をくぐると大きなベッドだけがドンと置いてあるわ……
 一緒に寝ることは確定なのね。
 先に彼がベッドに横になって上掛けをはいでぽんぽんと横を叩く。う、ここに来いということね……
 ブンブンと大きく揺れているしっぽが見えるわ……疲れているのかしら。
 諦めて彼の横に横たわるとぎゅっと抱きしめられる。彼の香りに包まれてなんだか安心する。そのまますっと眠りについた。



 昨日と同じ光景にもうすでに慣れてしまっていて、むしろ隣にいてくれることが安心する。なんだか変な感覚だわ。
 むくりと起き上がり隣にいる彼に朝の挨拶をしてから自室へ戻る。
 部屋にはカリンが来ていて、朝の支度を手伝ってくれたの。どうやらカリンはそのままわたくしの専属侍女になれるよう話してくれたみたい。それから今日の予定を聞く。王妃様とのお茶会の後、エリザベス王女とのお茶会があるみたい。なかなか忙しいわね……
 王太子妃の教育は明日から始まると聞いているの。と言っても向こうで受けてはいるのでこの国の歴史やしきたり、他国との関係性を教えてもらうくらいでいいみたいだけれど。でも、アーティと結婚したら未来の王妃になるもの。今のうちにしっかり覚えておかなくちゃ。

 
「昨日ぶりね。なんだかすっかり大人びちゃって。やあねぇ」
 第三者から指摘されるとものすごく恥ずかしいわ。それも王妃様からだなんて……
「ふふ。かわいいわねぇ。あ、そうそう、アリアさんにお仕事をお願いしようと思ってねぇ。いいかしら?」
「わたくしにできることでしたらなんでも」
「この国でもね、嘆願書を処理する係をしていただきたいのよ。ぜひあなたにと推薦状ももらっているの」
 どうやらわたくしがイーリス国にいる時に貴賓としてきていた方々がぜひにといってきたそうで。そう言われてしまったら断れないわね。断る気もあまりないのだけれど。
 環境が落ち着いてきたことでうずうずしてしまっていたのよ。何かお仕事をしたいなって。役に立てそうでよかったわ。
「あとそれから、アリアは学園はどうする? あなたが通いたいというなら通ってもいいんだけれど、そうなると結婚は卒業してからになるのよね。アーサーはそんなに待てないと駄々をこねているし、それにあなたたち仲が良さそうだもの。先に子ができてしまいそうで心配なのよ」
 子って……子って!
 いや確かに、そうかもしれないけれどっ。すでに体の関係はあるし、あの一回で子を孕んでしまっているかもしれない。可能性は、否定できないわ……
「うっ、そう、ですね……」
「アーティは別に学園にいるうちに結婚しても卒業はできるもの。もしも子ができてしまえば学園も卒業できないものね」
「ふふっ。じゃあ、学園は通わないということでいいのね?」
「はい。大丈夫です」
 向こうでも学園へ通っていたけれど、すでに習得済みのものを復習しているだけだったものね。一緒に学園へ通ったらそれはそれで楽しそうだけれど。
「それじゃあまた今度一緒にお茶を飲みましょう?」
「はい、ありがとうございます」
 王妃様はとても優しくて人もできている人みたい。わたくしもこんな人になりたいわ。

 そしてわたくしは次の目的地へと案内してもらう。実はわたくしの執務室をあてがってくださったみたい。
 案内された執務室はソファとローテーブル、そしてわたくしについてくださる秘書官の方の分の机が置いてある。秘書官の方と挨拶を交わして、早速書類に目を通したんだけれど……
「……なんだかとても平和ですね」
「そうですね。この嘆願書の提出制度は二年前から初めていて、初めの頃は色々ありましたけど、今ではただの恋愛相談所に成り代わっております」
「まあ、心の余裕ができたいい証ですわね。この国の方々はとてものびのびと過ごされているように見受けられますもの」
「そうですね。だからこそ、この嘆願書は後回しにされがちでして……」
 なるほどね。女性からの相談もそうだけれど、男性からの相談もちらほら見受けられるわ。これ、わたくしにできるのかしら……
 お仕事は明日からでいいと言われているので、次の目的地へと向かう。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...