上 下
33 / 49

33

しおりを挟む
33
 買い物から帰った後、ネルトにお茶に誘われアーティのことをいろいろ教えてくれた。
「いやあ、母上と王妃様は昔から仲が良くてね。必然的に僕とアーサーも仲がいいんだよ。小さいころから王太子というだけで女性に言い寄られていて、モテモテだったよ。まあ、アーサーはそれが嫌で冷たくあしらっていたけど。そんな彼が少しだけ一緒に過ごしたアリアにベタ惚れだったからねぇ。あの時は驚いたよ」
 まあ、それは知らなかったわ。あの彼が冷たくなんて想像もできないわね……というよりもイーリス国では学園で変装していて、あまり周りには人がいなかったような。
 もしかしてあの七三も女性対策だったのかしら……
「ああ、学園での変装は完全にアリアをびっくりさせようと思ってやったらしいよ。アーサーは元々女性を寄せ付けないようにしているし、素のままでも特に支障はないらしいから」
 あら、声に出てたのかしら……本当にただそれだけだったのかしら。そのためだけに、七三……
「ずっと僕に手紙で逐一報告してくれてね。アーティと街で会ったろう? あの時なんて気づいてもらえなかったらどうしようって言ってたし」
 まあ、案外繊細なのかしら。あんなに印象に残る容姿をしているのにね。まあ一緒にいた時間も少しだけだったもの。そう思うのも無理ないわね……
 でも一緒にいる彼はいつも余裕そうで、いろいろ先回りしてやってくれてるのに意外ね。
「そうそう。それにアリアが腕がかぶれたこともあったろう?あの時なんて彼の侍従に聞いたけど慌てた様子で薬を取りに来たって言ってたし。本当おかしかったって言ってたなぁ」
 なんだか聞いているととても面白いわ。案外心配性なのね。そんなそぶりちっとも見ないんだけれど……
「それよりこんなお話わたくしが聞いてもいいのかしら……?」
「いいよ。アリアのことだって勝手に調べて知ってるんだし、フェアじゃないでしょう。それにこんな話あいつ絶対話さないよ」
 そ、そうなのね。でもなんとなくわかったような気がするわ。なんだか大丈夫そうっ。
「こんな話いっぱいあるから、何かあった時は聞いてよ。いくらでも教えるから」
 なんだか勇気が出てきたわ。頑張らなくちゃっ。
「大丈夫。あいつならアリアを幸せにしてくれるから」
 その言葉に嬉しくなると共に、自分も努力しなければと改めて思ったわ。




 ついにアーティの誕生日当日。なぜか向こうから誘われてお泊まりセットまで準備するようにお願いされたのだけれど……
 誕生日本人から誘われるなんて思っても見なかったわ……普通は逆じゃないかしら。王宮へ行って渡そうと思っていたんだけれど……
「今日は来てくれてありがとう。母上から休みをもらってね。ついでに宿泊券ももらったんだよ。一緒に行くならアリアかなと思って誘ってみたんだ」
「まあ、ありがとうございます」
 こっそりと服の間に忍ばせたプレゼントはラッピングまでされており、そのラッピングの豪華さに驚いたくらいよ。きっとお店の方が気を利かせてくれたのかしらね。
 馬車に乗り込むと彼はいつもの定位置、わたくしの隣にピッタリとくっついてくるけれど、昨日のネルトの話を思い出しているとあまり気にならなくなってきたわっ。
「なんか今日いつもと違う? どうして?」
「そうですか?」
「うん。照れて固まるアリア、可愛いのに」
「……っ、わたくしが大変になるので、ほどほどにしてくださいませっ」
「ふふっ。わかったよ」
 どうやら加減してくれるみたいで、その言葉の通りわたくしはなんとか意識を保つことができて、窓からの景色を楽しむ余裕もあったわ。なんだか慣れてきたみたい。相変わらずドキドキはするけれど色々なお話をすることができたもの。と言ってもほとんどがわたくしの話ばかりなのだけれど……

 ついた先はとても賑わっていた。屋台や出店がたくさんで、貴族の方から平民まで入り乱れている。驚いて立ち尽くしているわたくしの手を彼は握った。
「はぐれたらいけないからね」
 まあ、それもそうよね。わたくしだったらすぐにはぐれてしまいそう……
 今日の宿泊先にはわたくしの侍女のカリンと彼の従者が荷物を運んでくれているみたい。そのまま彼に連れられて街を散策した。どうやら今日はお祭りがあるみたいで、それで賑わっていたみたい。屋台や出店のお値段もお祭り価格みたいで、少し高めに設定しているみたい。さすが商売上手ね。こういう雰囲気だとお財布の紐が緩んでしまうものだもの。よくよく考えたらぼったくり価格でもお祭りというだけで手を出してしまうのよね。
 そういうわたくしもついつい買ってしまうのだけれど。屋台で串焼きを買ってかぶりつく。美味しいわ……
 本来なら貴族としてはしたないのだけれど、前世の記憶があるわたくしは全く抵抗ないのよね。問題は……
「うん、美味しいね」
 あら……普通に食べていらっしゃるわ。抵抗あるかと思ったのだけれど、周りと同じように食べている彼を見て少し驚いてしまったわ。王族というと毒味が必要で、食事もフォークやナイフを使う食事ばかりだと思うのだけれど。不思議そうに首を傾げているわたくしをくすくす笑って彼は教えてくれた。
「よく市井にお忍びで行ってるんだよね。というかアリア。聞きたいことがあるなら遠慮なく聞いて?」
「あ、ごめんなさい。そうよね……」
 そうね。いつも言わなくても察してくれるから甘えていたわ……ダメね。
「僕のことならいくらでも教えてあげるから」
 綺麗な笑顔にドキドキするわ……周りの女性たちも色めきだっていて黄色い声まで聞こえてくる。本当モテるのもわかるわ…… 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

可愛すぎてつらい

羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。 初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。 初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。 しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。 *** なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。 ムーンさんでも同じものを投稿しています。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...