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王宮のお庭の奥まったところにあるガセボで、王妃様とのお茶会に参加させていただいている。どうやらイーリス国でのわたくしのことを詳しく知っているみたいで、王宮でのお仕事のことを詳しく聞かせてほしいと言われ、お話しているのだけれど……
見たことのある方々がちらほら。陛下との謁見の際にも気になっていたのだけれど、どうやらわたくしが王宮で貴賓の対応をしていた時にきてくださっていた方みたい。道理で見たことがあると思ったわ……
「そういえば、何かアリアさんからも聞きたいことはない?」
「あの……どうしても二人きりだとドキドキしてしまってだめなのですが、これはどうしたらよくなりますか……?」
勇気を振り絞って聞いてみたけれど、王妃様はくすくす笑っていて恥ずかしいわ。でもっ、わたくしにとっては死活問題なのよ……
「それはねぇ、慣れるしかないわ。一緒に過ごす時間が長くなったら、気にならなくなるわよ」
「そう、なのでしょうか……」
「それに……いえ、これはあの子が頑張るべきね」
最後の言葉が少し引っかかるけれど、流石に王妃様にそれは聞けないわ……というかやっぱりなれるしかないみたい。
「それはそうと、もう少しであの子も誕生日ねぇ。お休みとお宿のチケットでもあげようかしら」
「あの子、ですか?」
「アーサーよ。後二週間後かしら」
えっ、誕生日だったのね……知らなかったわ。どうしましょう。プレゼントしなきゃよね。何がいいのかしら。わからないわ……
んー、何にしようかしら……
「アリアさんからならなんでも喜ぶわよあの子」
にこにこと微笑まれてしまい、逆に困ってしまうわ……選択肢があった方が選びやすいのだけれど。いっそのこと本人に聞いてみる? いえ、なんでもいいって言われそうね……
お茶会後、屋敷へ戻るとネルトが帰ってきていてお茶に誘ってくれたわ。さっきお茶をしたばかりだからあまり食べられないけれどアーティのプレゼントについて相談したら何かいい案が出るかしら……
「プレゼント? アリアが渡したらなんでもいいと思うけど」
「そうじゃないのよ。わたくしは具体的に何がいいかの案が聞きたくて……」
「ああ、そうだな。日常的に使いそうなものがいいんじゃないかな? カフスボタンとかペンもよく使うね」
「まぁ、それいいわね。それにしましょう。ネルト、付き合ってくださらない……?」
「いや、ついていくのはいいけど、ちゃんと自分で選びなよ」
「わかったわ」
渡すものが決まればあとは選ぶだけだものね。間に合いそうだわ。
というかわたくしなぜこんなに必死になっているのかしら。イアン元殿下の時は何も考えずに送っていたのにね。
本当、恋をすると人は変わるというけれど、わたくしも変わったのかしら。
お友達にはすぐにあげるものが浮かぶのにどうしても慎重になってしまうわ。だって、せっかくあげるものだから喜んでほしいし、でもそもそも何が喜ばれるのかわからないし。というかあまり彼のことを知らなすぎるのもいけないのかも知れないわ。
あまりちゃんとお話ししたことがないというよりもいつもわたくしの話ばかりだもの。彼のことで知っていることといえば、名前とわたくしを好きになったきっかけとこれまでの経緯、くらいなのよね。
それが余計悩んでしまっている原因かもしれないわね。婚約者なのだし、今後のためにもそれはよろしくないと思うの。政略結婚ならばいざ知らず、お互いが、好き、だもの……
自分で言って照れてしまったわ……
でも、あんなことされたら、何も聞けないわ……
いえ、それではダメね。これからのためにも、頑張らなくちゃ。
そしてわたくしはネルトに連れてきてもらって文房具が売られているお店に来ているのだけれど……
わたくしは首を捻りに捻っている。ペンと一口に言っても羽ペンや万人筆、さらにはいろいろなデザインや色があって目が回ってしまう。
ど、どうしよう……
かれこれ一時間くらいは立ち尽くしているわ。お店の方もいろいろと説明してくださるのだけれど、決められない……
「アリア……何をそんなに迷っているの?」
「……なんだかピンとくるものがないの。でも今日中に決めてしまいたいし……」
「なら、お店の人に裏から出してもらおうか。お願いできるかな?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
そう言って通されたのは所謂高位貴族の方をお通しするようなお部屋で、驚いてしまったわ。そしてテーブルの上に白い手袋をはめた店員さんが店には出していない商品を並べてくれたの。
どれも素敵で目移りしてしまったけれど、その中の一つがどうしても気になってしまって、店員さんにお話を聞いたの。
「これは贈り物にとても喜ばれるものです。一番新しいタイプの万年筆で、書き心地もよろしいですよ。サービスで名前や言葉をお入れすることもできます。ただ、お渡しに四日ほどいただきますが……」
「これをもらえるかしら」
「では文字の方はどういたしますか? 大体の方が送り主と送り先の方のお名前を入れておりますよ」
「ではそれでお願いいたします」
無事にプレゼントを買うことができたみたい。送り先のお名前を聞いた店員さんはとても驚いていたわ。そうよね……この国の王太子殿下だものね。
馬車でのことが印象に強くてつい忘れてしまうけれど、そうよね……
付き合わせてしまったネルトには食事をご馳走したわ。遠慮されたけれど、わたくし化粧品事業での利益をいただいているので、問題ないわ。むしろ溜まる一方なのよね……
王宮のお庭の奥まったところにあるガセボで、王妃様とのお茶会に参加させていただいている。どうやらイーリス国でのわたくしのことを詳しく知っているみたいで、王宮でのお仕事のことを詳しく聞かせてほしいと言われ、お話しているのだけれど……
見たことのある方々がちらほら。陛下との謁見の際にも気になっていたのだけれど、どうやらわたくしが王宮で貴賓の対応をしていた時にきてくださっていた方みたい。道理で見たことがあると思ったわ……
「そういえば、何かアリアさんからも聞きたいことはない?」
「あの……どうしても二人きりだとドキドキしてしまってだめなのですが、これはどうしたらよくなりますか……?」
勇気を振り絞って聞いてみたけれど、王妃様はくすくす笑っていて恥ずかしいわ。でもっ、わたくしにとっては死活問題なのよ……
「それはねぇ、慣れるしかないわ。一緒に過ごす時間が長くなったら、気にならなくなるわよ」
「そう、なのでしょうか……」
「それに……いえ、これはあの子が頑張るべきね」
最後の言葉が少し引っかかるけれど、流石に王妃様にそれは聞けないわ……というかやっぱりなれるしかないみたい。
「それはそうと、もう少しであの子も誕生日ねぇ。お休みとお宿のチケットでもあげようかしら」
「あの子、ですか?」
「アーサーよ。後二週間後かしら」
えっ、誕生日だったのね……知らなかったわ。どうしましょう。プレゼントしなきゃよね。何がいいのかしら。わからないわ……
んー、何にしようかしら……
「アリアさんからならなんでも喜ぶわよあの子」
にこにこと微笑まれてしまい、逆に困ってしまうわ……選択肢があった方が選びやすいのだけれど。いっそのこと本人に聞いてみる? いえ、なんでもいいって言われそうね……
お茶会後、屋敷へ戻るとネルトが帰ってきていてお茶に誘ってくれたわ。さっきお茶をしたばかりだからあまり食べられないけれどアーティのプレゼントについて相談したら何かいい案が出るかしら……
「プレゼント? アリアが渡したらなんでもいいと思うけど」
「そうじゃないのよ。わたくしは具体的に何がいいかの案が聞きたくて……」
「ああ、そうだな。日常的に使いそうなものがいいんじゃないかな? カフスボタンとかペンもよく使うね」
「まぁ、それいいわね。それにしましょう。ネルト、付き合ってくださらない……?」
「いや、ついていくのはいいけど、ちゃんと自分で選びなよ」
「わかったわ」
渡すものが決まればあとは選ぶだけだものね。間に合いそうだわ。
というかわたくしなぜこんなに必死になっているのかしら。イアン元殿下の時は何も考えずに送っていたのにね。
本当、恋をすると人は変わるというけれど、わたくしも変わったのかしら。
お友達にはすぐにあげるものが浮かぶのにどうしても慎重になってしまうわ。だって、せっかくあげるものだから喜んでほしいし、でもそもそも何が喜ばれるのかわからないし。というかあまり彼のことを知らなすぎるのもいけないのかも知れないわ。
あまりちゃんとお話ししたことがないというよりもいつもわたくしの話ばかりだもの。彼のことで知っていることといえば、名前とわたくしを好きになったきっかけとこれまでの経緯、くらいなのよね。
それが余計悩んでしまっている原因かもしれないわね。婚約者なのだし、今後のためにもそれはよろしくないと思うの。政略結婚ならばいざ知らず、お互いが、好き、だもの……
自分で言って照れてしまったわ……
でも、あんなことされたら、何も聞けないわ……
いえ、それではダメね。これからのためにも、頑張らなくちゃ。
そしてわたくしはネルトに連れてきてもらって文房具が売られているお店に来ているのだけれど……
わたくしは首を捻りに捻っている。ペンと一口に言っても羽ペンや万人筆、さらにはいろいろなデザインや色があって目が回ってしまう。
ど、どうしよう……
かれこれ一時間くらいは立ち尽くしているわ。お店の方もいろいろと説明してくださるのだけれど、決められない……
「アリア……何をそんなに迷っているの?」
「……なんだかピンとくるものがないの。でも今日中に決めてしまいたいし……」
「なら、お店の人に裏から出してもらおうか。お願いできるかな?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
そう言って通されたのは所謂高位貴族の方をお通しするようなお部屋で、驚いてしまったわ。そしてテーブルの上に白い手袋をはめた店員さんが店には出していない商品を並べてくれたの。
どれも素敵で目移りしてしまったけれど、その中の一つがどうしても気になってしまって、店員さんにお話を聞いたの。
「これは贈り物にとても喜ばれるものです。一番新しいタイプの万年筆で、書き心地もよろしいですよ。サービスで名前や言葉をお入れすることもできます。ただ、お渡しに四日ほどいただきますが……」
「これをもらえるかしら」
「では文字の方はどういたしますか? 大体の方が送り主と送り先の方のお名前を入れておりますよ」
「ではそれでお願いいたします」
無事にプレゼントを買うことができたみたい。送り先のお名前を聞いた店員さんはとても驚いていたわ。そうよね……この国の王太子殿下だものね。
馬車でのことが印象に強くてつい忘れてしまうけれど、そうよね……
付き合わせてしまったネルトには食事をご馳走したわ。遠慮されたけれど、わたくし化粧品事業での利益をいただいているので、問題ないわ。むしろ溜まる一方なのよね……
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