31 / 49
31
しおりを挟む
31
帰りの馬車の中は平和だった。妹さんのことを教えてくれたの。名前はエリザベス様というみたい。歳はわたくしよりも二つ下でどの方に対してもツンツンしているらしいわ。ただ顔に結構出るので微笑ましいのだとか。
レオン王太子殿下とは小さなころから知り合いみたいで、エリザベス様のあのツンもどうやらレオン王太子殿下が原因らしいのよね。エリザベス様を気に入ったレオン殿下が極限までアピールしまくった結果、ああなってしまったらしいわ。一体何をしたのかしら……
それから化粧品の商売のこともやっとお話しできたわ。陛下にも話を通しておいてくれるみたい。
次の日、わたくしはエリザベス様のお茶会へ招待されたの。お茶会の場所は彼女の部屋で、お部屋でよろしいのか聞いてみたんだけれど、誰にも訊かれたくないってことだったみたい。
結局は侍女も騎士もいるから変わらないような気もするけれども。
「あのっ、あの方私のこと何か言ってなかった?」
「あの方とは、どなたのことでしょうか?」
なんとなくはわかっていたけれど、間違っていたら失礼だものね。昨日会ったばかりですし、一応確認しておかないと。
「私の婚約者よっ」
あら、少し怒ったのかしら……
「イーリス国のレオン王太子殿下でしょうか?」
「っ、そうよっ」
あら、お顔が真っ赤だわ。怒っているのか照れているのかわかりにくいわ……
その時、そばにいたエリザベス様の侍女がこそっと耳打ちしてくださったわ。あれは照れておられるだけですのでって。なるほどね。ツンだわ。
「何かと言われましても……あ、最後お別れの際に婚約者をよろしくねと言われましたわ」
「そ、そうじゃなくてっ、何か言ってなかった⁈」
一体何を求めていらっしゃるのかわからないわね。なら王太子殿下から聞いたお話、全てお伝えしたほうがよろしいかしら。
「わかりました。エリザベス様に関する言動をそのままお伝えしますね。まず、とても可愛い婚約者がいるんだ。隣国の王女なんだけど、小さい頃から知っていてね。一目で気に入って口説いていたんだけど、なかなか素直になってくれなくてね。あ、勘違いしないでほしいんだけど、それが嫌というわけではなくてむしろ気に入っているんだ。最近では私を見るだけで逃げてしまうようになってね。あ、でもそれが嫌というわけではなくてむしろ可愛いんだけど、一番可愛いのは私に負けて素直になった瞬間なんだよ。たまに見せるあれがたまらないん……」
「わぁぁぁっ、やめてぇぇぇぇ!」
ふとエリザベス様を見るともう茹で上がっていたわ。あら、わたくしったら思い出しながらだったから彼女の様子をちっとも見ていなかったわ。
「ごめんなさい、聞きたいことと違ったかしら? どのことかわからなかったから……」
「ううっ、もういいわよっ。わかったからぁっ」
とても動揺している様子の彼女にどうしていいかわからずおどおどしているわたくし。先ほどの侍女が「大丈夫です。照れているだけですので」と教えてくださったわ。
わたくしには彼女の気持ちを察してあげることが難しそうね……
「それで、本当に聞きたいことが別にあるんですよね? 間違っていたら申し訳ないのですが……」
「ううっ、私っどうしても逃げたくなっちゃうのよっ。それを、どうにか、したいんだけどっ」
まあ、なんとも可愛らしい相談ね。これは揶揄いたくなっちゃうのもわかるわぁ……なんていうか可愛いのよねぇ。
それに逃げたくなる気持ち、わかるわっ。わたくしも彼と二人きりの馬車はとても耐え難いもの……
「どうして逃げたくなるの?」
「う、は、恥ずかしいのよっ」
わかるわ、大変よくわかるわ……前世ですらそんなことはなくて、よくよく考えてみればわたくしから好きになって付き合っていたから向こうからのアプローチなんて皆無だったのよね。だから余計にアーティにはどうしたらいいかわからなくなるのよ……
「その気持ち、わかるわぁ……逃げたくなるわよね。その方法があったらわたくしも教えてほしいくらいだわ」
ポツリと呟いたつもりがバッチリとみんなに聞こえてしまったみたいで生暖かい視線が刺さる。
やだ、恥ずかしい……
「えっ、あなたもっ⁈ それってお兄様のことよね?」
なんだか突然元気を取り戻したエリザベス様。わたくしの隣に座って手を握られたわ。
「本当どうしたらいいかわからないわよねっ。逃げちゃうのも仕方ないわよねっ」
「そうですね。でも逃げるのを直したいというお話ではなくて……?」
「う、そう思ったんだけど、逃げるところも可愛いって思ってもらっているならいいのかなってちょっと思って」
もじもじしながら話すエリザベス様、可愛いわっ。
「そうね。どう見てもレオン王太子殿下はあなたを溺愛しているみたいだもの。そのままでいいんじゃないかしら?」
「うん、でも、もう少しどうにかならないかなって思うの。どうしたらいいかな」
「わたくしも思っているんだけれど……ねえ、あなた方も何かいい案はないかしら。本当に毎回心臓が破裂するんじゃないかってくらい大変なのよ」
いつの間にかエリザベス様の恋愛相談からわたくしたち二人の相談を周りの使用人たちに聞いてもらっている状態で、周りも困惑し始めてしまっているわ。
けれどこれは死活問題なのよね……
「エリザベス様、どなたかこういうのが得意なお友達はいらっしゃらないかしら……」
「いたらあなたに相談する前に解決しているわよ……」
「それもそうよね……」
二人であれやこれやと悩んでいたけれど、結局いい回答は思いつかずに時間になってしまったわ。確か明日は王妃様とのお茶会があったわね。聞いてみようかしら……
帰りの馬車の中は平和だった。妹さんのことを教えてくれたの。名前はエリザベス様というみたい。歳はわたくしよりも二つ下でどの方に対してもツンツンしているらしいわ。ただ顔に結構出るので微笑ましいのだとか。
レオン王太子殿下とは小さなころから知り合いみたいで、エリザベス様のあのツンもどうやらレオン王太子殿下が原因らしいのよね。エリザベス様を気に入ったレオン殿下が極限までアピールしまくった結果、ああなってしまったらしいわ。一体何をしたのかしら……
それから化粧品の商売のこともやっとお話しできたわ。陛下にも話を通しておいてくれるみたい。
次の日、わたくしはエリザベス様のお茶会へ招待されたの。お茶会の場所は彼女の部屋で、お部屋でよろしいのか聞いてみたんだけれど、誰にも訊かれたくないってことだったみたい。
結局は侍女も騎士もいるから変わらないような気もするけれども。
「あのっ、あの方私のこと何か言ってなかった?」
「あの方とは、どなたのことでしょうか?」
なんとなくはわかっていたけれど、間違っていたら失礼だものね。昨日会ったばかりですし、一応確認しておかないと。
「私の婚約者よっ」
あら、少し怒ったのかしら……
「イーリス国のレオン王太子殿下でしょうか?」
「っ、そうよっ」
あら、お顔が真っ赤だわ。怒っているのか照れているのかわかりにくいわ……
その時、そばにいたエリザベス様の侍女がこそっと耳打ちしてくださったわ。あれは照れておられるだけですのでって。なるほどね。ツンだわ。
「何かと言われましても……あ、最後お別れの際に婚約者をよろしくねと言われましたわ」
「そ、そうじゃなくてっ、何か言ってなかった⁈」
一体何を求めていらっしゃるのかわからないわね。なら王太子殿下から聞いたお話、全てお伝えしたほうがよろしいかしら。
「わかりました。エリザベス様に関する言動をそのままお伝えしますね。まず、とても可愛い婚約者がいるんだ。隣国の王女なんだけど、小さい頃から知っていてね。一目で気に入って口説いていたんだけど、なかなか素直になってくれなくてね。あ、勘違いしないでほしいんだけど、それが嫌というわけではなくてむしろ気に入っているんだ。最近では私を見るだけで逃げてしまうようになってね。あ、でもそれが嫌というわけではなくてむしろ可愛いんだけど、一番可愛いのは私に負けて素直になった瞬間なんだよ。たまに見せるあれがたまらないん……」
「わぁぁぁっ、やめてぇぇぇぇ!」
ふとエリザベス様を見るともう茹で上がっていたわ。あら、わたくしったら思い出しながらだったから彼女の様子をちっとも見ていなかったわ。
「ごめんなさい、聞きたいことと違ったかしら? どのことかわからなかったから……」
「ううっ、もういいわよっ。わかったからぁっ」
とても動揺している様子の彼女にどうしていいかわからずおどおどしているわたくし。先ほどの侍女が「大丈夫です。照れているだけですので」と教えてくださったわ。
わたくしには彼女の気持ちを察してあげることが難しそうね……
「それで、本当に聞きたいことが別にあるんですよね? 間違っていたら申し訳ないのですが……」
「ううっ、私っどうしても逃げたくなっちゃうのよっ。それを、どうにか、したいんだけどっ」
まあ、なんとも可愛らしい相談ね。これは揶揄いたくなっちゃうのもわかるわぁ……なんていうか可愛いのよねぇ。
それに逃げたくなる気持ち、わかるわっ。わたくしも彼と二人きりの馬車はとても耐え難いもの……
「どうして逃げたくなるの?」
「う、は、恥ずかしいのよっ」
わかるわ、大変よくわかるわ……前世ですらそんなことはなくて、よくよく考えてみればわたくしから好きになって付き合っていたから向こうからのアプローチなんて皆無だったのよね。だから余計にアーティにはどうしたらいいかわからなくなるのよ……
「その気持ち、わかるわぁ……逃げたくなるわよね。その方法があったらわたくしも教えてほしいくらいだわ」
ポツリと呟いたつもりがバッチリとみんなに聞こえてしまったみたいで生暖かい視線が刺さる。
やだ、恥ずかしい……
「えっ、あなたもっ⁈ それってお兄様のことよね?」
なんだか突然元気を取り戻したエリザベス様。わたくしの隣に座って手を握られたわ。
「本当どうしたらいいかわからないわよねっ。逃げちゃうのも仕方ないわよねっ」
「そうですね。でも逃げるのを直したいというお話ではなくて……?」
「う、そう思ったんだけど、逃げるところも可愛いって思ってもらっているならいいのかなってちょっと思って」
もじもじしながら話すエリザベス様、可愛いわっ。
「そうね。どう見てもレオン王太子殿下はあなたを溺愛しているみたいだもの。そのままでいいんじゃないかしら?」
「うん、でも、もう少しどうにかならないかなって思うの。どうしたらいいかな」
「わたくしも思っているんだけれど……ねえ、あなた方も何かいい案はないかしら。本当に毎回心臓が破裂するんじゃないかってくらい大変なのよ」
いつの間にかエリザベス様の恋愛相談からわたくしたち二人の相談を周りの使用人たちに聞いてもらっている状態で、周りも困惑し始めてしまっているわ。
けれどこれは死活問題なのよね……
「エリザベス様、どなたかこういうのが得意なお友達はいらっしゃらないかしら……」
「いたらあなたに相談する前に解決しているわよ……」
「それもそうよね……」
二人であれやこれやと悩んでいたけれど、結局いい回答は思いつかずに時間になってしまったわ。確か明日は王妃様とのお茶会があったわね。聞いてみようかしら……
96
お気に入りに追加
4,128
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。


愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる