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「海だわ!」
久しぶりにみる海に思わずはしゃいでしまったけれど、仕方ないわよね? イーリス国には海はないもの。
馬車の中では相変わらずぐったりしてしまったけれど、やっぱり自然はいいわぁ。
波打ち際にカリンやアーティが連れてきた従者の方がシートを用意してくれていて、そこに二人で座る。
「気に入ってくれた?」
「ええ、とっても。この音好きですわ」
しばらく二人で海を眺める。途中で用意してくれたサンドウィッチを頬張る。外で食べるご飯ってなんだかいつもと違うのよね。あれなんでかしら。いつもよりとってもおいしく感じるわ。
「今日はね、僕のことを話そうと思ってここに連れてきたんだ」
首を傾げるわたくしに苦笑するアーティ。なんの話かしら?
「僕の名前はアーサー・オルビス。このオルビス国の王太子なんだよね」
え、え、えぇ……
いや、確かに、同じ年の男性たちと比べても、というか子供の頃から会った時から思ってはいたけれどっ。
わたくしのそばの王子といえばあの人しかいなかったので、比較対象があれなんだけれどもっ。
思わず絶句するわたくしをくすくす笑っている彼。悪戯が成功した悪ガキのような顔をしているわ……
前世いたのよね。近所の男の子でわたくしによく悪戯して楽しんでいたあの子。反応が楽しかったんでしょうね。それに本当に困らせるためにやっているわけじゃなかったから、付き合ってあげていたのだけれど。
でも、そんなにさらっと言っていい事実ではないと思うのだけれど? というかイーリス国の王太子殿下や陛下、伯母様一家は当然知っていたのよね?
なぜ誰も教えてくれなかったのよ……
「びっくりさせようと思ってみんなに黙っててもらったんだよね」
というかわたくしの心が読めるのかしら。ドンピシャな答えすぎて怖いわ……
「それから十歳の時、たまたまお茶会があるって誘われて行った時に君やブライアン、オリーブに出会ってね。その時からお嫁さんにするのはこの人だって思っていたんだよ」
ふぁ⁈ さらっととんでもないことを言ったわね、この人っ。
ど、どういうことっ。わたくしのことが十歳の頃たった少し過ごしただけで気になっていたと?
あの後わたくし前世を思い出して倒れたから一時間も一緒にいなかったと思うのだけれど……
「そのあと自国へ帰って、父上と母上に彼女と結婚したいって言いにいったんだけど、すでに婚約が決まっていてね」
ああ、イアン元殿下のことね。あれ、わたくしが二日間眠っている間に決まっていたのよね……
イーリス国からオルビス国まで三日くらいかかるから、その時にはすでに婚約している状態だったわけね。
「母上がマーリス伯爵夫人と学生の頃から仲がよくて、それとなく探ってもらったんだ。僕としてはそれで君が幸せになるならと思って諦めようとしたんだけど」
あら……こんなところで伯母様が繋がっていたのね。伯母様から話を聞いていたのなら、わたくしの動向なんてバレバレだったってことかしら。
「話を聞くとそうでもないようだったから、留学をお願いしたんだよ。そしたら聞いていた以上にアリアは素敵な女性になっているし、王宮でも面白いことをしているし、もう惚れ直すしかなかったね」
ぼっと音が出そうなほど顔が赤くなる。このお話、聞いていられないのだけれど……
心臓がうるさいわっ。
「本当は、婚約を破棄された段階で攫ってやろうかと思ったんだけど、家族との関係も精算したいって言ってたから我慢したんだ」
じっと顔を覗き込まれて俯くわたくし。こんな話を聞かされて顔なんて見れないわっ。ジリジリと距離を詰められて反対側に体を反らせようとしたけれど、彼の腕に抱き寄せられてそれも叶わない。
「だからじっくり落とそうと思ったんだけど……もう十分みたいだね」
うっ、そこまでバレているの……?
もう恥ずかしすぎて穴があったら入りたいわ……
「アリア、僕と結婚しよう」
その言葉に思わず肩がびくりと震える。え、今、結婚って、いった……?
え、あの、え……?
思わずガバリと顔をあげ、彼の顔を見つめてしまう。すごく優しげでいてキラキラした笑顔にフリーズしてしまう。
どのくらいそうしていたのかわからないけれど、日が暮れ始めたのに気づき、ハッとする。王宮の時も思ったけれどなんで教えてくれないのかしら……
あの時は一時間位ぼーっとしてしまっていたのよね。飽きないのかしら。
「あ、やっと戻ってきた。返事は?」
あ、そうか。わたくし、プロポーズ、されたんだったわ……
彼なら、信じてみてもいいかもしれない。いいえ、信じてみたい。これで裏切られたらもう極限まで落ち込みそうだけれど……
「は、い。よろしくお願い、します……」
ぎゅっと抱きしめられて、彼の肩越しに砂浜を歩いている人が見えて、彼の胸に顔を埋めて隠した。
そんなわたくしをさらに抱きしめてきて、もうどうしていいかわからなくて頭の中は真っ白だったわ……
そのあとどうやって帰ってきたかすら覚えていないの。気がついたら伯母様の屋敷まで戻ってきていて、伯母様もネルトも妙にニヤニヤしていたのだけははっきり覚えているけれど。
そのまま湯浴みをしてベッドへ潜り込んだわ。
寝ようと思ったんだけれど海での出来事ばかりが蘇ってきて、案の定寝不足だった。今までこんなことなかったのに、あまりに衝撃が強すぎてこれから先が不安になってしまったわ……
「海だわ!」
久しぶりにみる海に思わずはしゃいでしまったけれど、仕方ないわよね? イーリス国には海はないもの。
馬車の中では相変わらずぐったりしてしまったけれど、やっぱり自然はいいわぁ。
波打ち際にカリンやアーティが連れてきた従者の方がシートを用意してくれていて、そこに二人で座る。
「気に入ってくれた?」
「ええ、とっても。この音好きですわ」
しばらく二人で海を眺める。途中で用意してくれたサンドウィッチを頬張る。外で食べるご飯ってなんだかいつもと違うのよね。あれなんでかしら。いつもよりとってもおいしく感じるわ。
「今日はね、僕のことを話そうと思ってここに連れてきたんだ」
首を傾げるわたくしに苦笑するアーティ。なんの話かしら?
「僕の名前はアーサー・オルビス。このオルビス国の王太子なんだよね」
え、え、えぇ……
いや、確かに、同じ年の男性たちと比べても、というか子供の頃から会った時から思ってはいたけれどっ。
わたくしのそばの王子といえばあの人しかいなかったので、比較対象があれなんだけれどもっ。
思わず絶句するわたくしをくすくす笑っている彼。悪戯が成功した悪ガキのような顔をしているわ……
前世いたのよね。近所の男の子でわたくしによく悪戯して楽しんでいたあの子。反応が楽しかったんでしょうね。それに本当に困らせるためにやっているわけじゃなかったから、付き合ってあげていたのだけれど。
でも、そんなにさらっと言っていい事実ではないと思うのだけれど? というかイーリス国の王太子殿下や陛下、伯母様一家は当然知っていたのよね?
なぜ誰も教えてくれなかったのよ……
「びっくりさせようと思ってみんなに黙っててもらったんだよね」
というかわたくしの心が読めるのかしら。ドンピシャな答えすぎて怖いわ……
「それから十歳の時、たまたまお茶会があるって誘われて行った時に君やブライアン、オリーブに出会ってね。その時からお嫁さんにするのはこの人だって思っていたんだよ」
ふぁ⁈ さらっととんでもないことを言ったわね、この人っ。
ど、どういうことっ。わたくしのことが十歳の頃たった少し過ごしただけで気になっていたと?
あの後わたくし前世を思い出して倒れたから一時間も一緒にいなかったと思うのだけれど……
「そのあと自国へ帰って、父上と母上に彼女と結婚したいって言いにいったんだけど、すでに婚約が決まっていてね」
ああ、イアン元殿下のことね。あれ、わたくしが二日間眠っている間に決まっていたのよね……
イーリス国からオルビス国まで三日くらいかかるから、その時にはすでに婚約している状態だったわけね。
「母上がマーリス伯爵夫人と学生の頃から仲がよくて、それとなく探ってもらったんだ。僕としてはそれで君が幸せになるならと思って諦めようとしたんだけど」
あら……こんなところで伯母様が繋がっていたのね。伯母様から話を聞いていたのなら、わたくしの動向なんてバレバレだったってことかしら。
「話を聞くとそうでもないようだったから、留学をお願いしたんだよ。そしたら聞いていた以上にアリアは素敵な女性になっているし、王宮でも面白いことをしているし、もう惚れ直すしかなかったね」
ぼっと音が出そうなほど顔が赤くなる。このお話、聞いていられないのだけれど……
心臓がうるさいわっ。
「本当は、婚約を破棄された段階で攫ってやろうかと思ったんだけど、家族との関係も精算したいって言ってたから我慢したんだ」
じっと顔を覗き込まれて俯くわたくし。こんな話を聞かされて顔なんて見れないわっ。ジリジリと距離を詰められて反対側に体を反らせようとしたけれど、彼の腕に抱き寄せられてそれも叶わない。
「だからじっくり落とそうと思ったんだけど……もう十分みたいだね」
うっ、そこまでバレているの……?
もう恥ずかしすぎて穴があったら入りたいわ……
「アリア、僕と結婚しよう」
その言葉に思わず肩がびくりと震える。え、今、結婚って、いった……?
え、あの、え……?
思わずガバリと顔をあげ、彼の顔を見つめてしまう。すごく優しげでいてキラキラした笑顔にフリーズしてしまう。
どのくらいそうしていたのかわからないけれど、日が暮れ始めたのに気づき、ハッとする。王宮の時も思ったけれどなんで教えてくれないのかしら……
あの時は一時間位ぼーっとしてしまっていたのよね。飽きないのかしら。
「あ、やっと戻ってきた。返事は?」
あ、そうか。わたくし、プロポーズ、されたんだったわ……
彼なら、信じてみてもいいかもしれない。いいえ、信じてみたい。これで裏切られたらもう極限まで落ち込みそうだけれど……
「は、い。よろしくお願い、します……」
ぎゅっと抱きしめられて、彼の肩越しに砂浜を歩いている人が見えて、彼の胸に顔を埋めて隠した。
そんなわたくしをさらに抱きしめてきて、もうどうしていいかわからなくて頭の中は真っ白だったわ……
そのあとどうやって帰ってきたかすら覚えていないの。気がついたら伯母様の屋敷まで戻ってきていて、伯母様もネルトも妙にニヤニヤしていたのだけははっきり覚えているけれど。
そのまま湯浴みをしてベッドへ潜り込んだわ。
寝ようと思ったんだけれど海での出来事ばかりが蘇ってきて、案の定寝不足だった。今までこんなことなかったのに、あまりに衝撃が強すぎてこれから先が不安になってしまったわ……
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