婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

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 ある意味で苦行の馬車旅はようやく終わりを告げる。本当、長かったわ……
 疲れ切った顔で馬車を降りると、そこにはオルノア伯母様とその旦那様のマーリス伯爵、ネルトがいてびっくりしてしまったわ。
 本当にわたくしがよく知っている方々だわ……
 わたくしは挨拶をしようと思ったのだけれど、疲れているのがバレバレだったみたいで、部屋へ通され、カリンに湯浴みを手伝ってもらいそのまま休んだ。
 アーティはここで一旦自宅へ帰るみたいで、また馬車に乗り込んで爽やかな笑顔でさっていったわ……わたくしはこんなに疲れているのに、元気な方ね……

 次の日、改めて伯母様ご家族へ挨拶をしたわ。マーリス伯爵と会うのは初めてだったけれど、とても穏やかな人でわたくしにも優しくして下さったわ。それとご家族でわたくしの化粧品を愛用してくださっているみたい。
 とても肌の調子がいいと好評で、こちらでも売って貰えないかと相談を受けてしまったわ。販路に関してはオリーブに任せてあるのよね……
「オリーブにお手紙書いてみますね。ただ、こちらでの販売となると、どこかの許可が必要になるのでは……?」
「ああ、それなら彼に頼むといいわ。きっとスムーズに進めてくれるはずよ。ああ、楽しみだわっ」
 皆笑顔で楽しみにしてくれているみたい。反応を見る限りこちらでも損をすることなく売れると思うから引き受けてくれそうね。
 それからいろいろな話をしたわ。どうやらわたくしのことをこのマーリス伯爵家の養子にしてくださるみたい。そこまでお世話になるのは申し訳ないって断ったのだけれど、こちらには利しかないからと言って下さったの。
 お化粧品もいつも発売前のサンプルを送らせてもらってて、オルビス国の淑女の方々に試してもらったりしているみたいで、そのおかげで社交の輪が広がったんだとか。
「だから安心してうちの子になって」
 なんてみんな言ってくださったので、そのお言葉に甘えることにしたわ。よくよく考えるとわたくしって本当周りに恵まれているわね。
 
 お母様と妹のライラのことも教えてくださったわ。ライラはあのあと王太子殿下のいうように離島の修道院へ送られたみたい。更正施設の中でも群を抜いているところみたいで更正率10割。更正できないものはいないとまで言われるんですって。
 それから、更正したにしても大変居心地がいいらしく大概の人がそこで過ごすのだそう。例外として誰かに娶られたりして出ていったりするみたいだけれど。
 そんな中、ライラもたった三日で更正して今ではとても楽しそうに過ごしているのだとか。よかったわ。わたくしでは無理だったもの。というかあの環境があの子にとってよくなかったんでしょうね。結構周りの環境がその人格を形成する上で大切だと前世でも聞いたことがあるもの。
 人を変えることは難しいというよりも不可能に近いと思っていたからあの子にもイアン元殿下にも何も言わなかったけれど、あの子にとっていい環境で過ごすことができてよかったと思うわ。王太子殿下も采配も素晴らしいと思うの。
 あの修道院よりももっと環境が劣悪なところなんていくらでもあったのに、あえてそこを選んでくださったものね。
 今振り返ってみるとライラの性格をあそこまで曲げてしまったのにはわたくしももちろんだけれど、お父様やお母様もよくなかったのよね。あの子はまだ十五歳の小さな子で、イアン元殿下に出会ったのも九歳の時だもの。
 また教育も受け始めた頃だったし、善悪の線引きもうまく自分でできない状態の時に周りがあんな態度だったなら、誰でもそうなってしまうわよね……
 少し反省してしまったわ。面倒だからと何も言わなかったもの。わたくし自身があの子を諦めてしまっていたから、小説と同じだと決めつけてしまったから。
 後悔してもしょうがないから、次に生かさないとね。
 そう改めて思ったわ。
 それからお母様はというと、あれからお父様に離縁されたみたい。ただ、実家の方はすでに伯父様が継いでいて居場所がなく、というかお母様は伯父様とも仲が良くなかったみたい。それで愛人業をしながら転々としていたけれど、正妻からの仕打ちに耐えきれなくなって結局はライラと同じ修道院へ自ら足を運んだそう。
 まだ入ったばかりで大変みたいだけれど、きっとライラのようにはいかないのではないかと予想しているわ。ライラはまだ子供で、素直なところもあるのよ。柔軟性っていうの? そういうのがあるから早くに馴染めていたみたいだけれど、お母様はもう何十年もその性格なんだもの……
 大人になってから自分を変えようとするのは結構な労力が必要になると思うわ。無事に過ごせるといいのだけれど……

「あ、そうそう、明日アーサーが来るみたいよ。どこか連れてってくれるみたいだから支度しといてね」
「えっ、はい、わかりました」
「カリン? お泊まりセットも忘れずにね」
「承知しました、奥様」
 ん? お泊まりセットって……
 そんなに遠くに行くの? 首を傾げていたけれど、カリンがすぐに動いてくれて準備を始めてくれたのでお任せすることにした。
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