婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

文字の大きさ
上 下
27 / 49

27

しおりを挟む
27
 最後はブライアンとオリーブだった。二人とも少し泣きそうになっていて、こちらまでもらい泣きしそうになってしまう。
「アリア、本当に小さな頃から一緒で、化粧品の開発も一緒にできて楽しかった! これからちょっと寂しくなるけど、これからも友達だよっ」
「ああ、小さい頃から一緒だったから本当、なんていうか、うん。でもきっとこれからいいことあると思う。頑張れ」
「二人とも……ありがとう」
「また会えるでしょう? 絶対会いに行くから!」
 オリーブと二人抱き合いながら涙を流す。その様子を少し寂しそうに見ているブライアンも涙を溜めているのがわかる。そうよね。今までどこかに行くことしか考えていなくて、別れのことなんて考えてなかったわ……
 一気に寂しくなっちゃった……
「さ、みんな待ってるよ! パーティに行こう!」
 どうやらみんなまだいるみたいでパーティをしているみたい。涙を拭って二人についていくと、すでに出来上がっている男性陣に呆れながら楽しそうに見ている王妃様。侍女のカリンも御者のマルスもみんな混ざって無礼講みたい。
 よかった……
 ここまで婚約破棄のためだけに動いてきたけれど、こんなにみんなが幸せそうで嬉しい。みんなの笑顔を見ているとわたくしまで笑顔になるもの。
 パーティは夜更けまで続いてみんな笑い合っていて。流石にみんな馬車で帰っていったけれど、大変だったろうなぁ……陛下は泣き上戸だし、王太子殿下は笑い上戸だし、秘書官の方はなんと絡み酒で絡みまくっていたし。
 ブライアンはオリーブを送らないといけないからってあまり飲んでいなかったけれど。そしてアーティはお酒に強いらしく、その様子をニコニコ眺めているし。楽しいことになっていたわ。
 きっと男性陣は次の日二日酔いね……
 みんなを見送った後で、アーティに呼ばれた。どうやらお話があるみたい。


「さ、座って」
 彼はなぜかソファに座り両手を広げている。どういうことかしら……
 戸惑っているわたくしの腕を掴み、わたくしは彼の膝の上に座らされる。え、これは、一体、どういう、こと……?
「はああぁ……やっとこれで堂々とアリアを口説ける」
「……はい?」
 ど、どういうことかしら……なんでこんなことになっているの?
 イアン殿下、あ、今は違うわね、彼という婚約者がいたからこそかかっていたストッパーが一気に外れる。
 心臓がうるさい……顔が熱い……恥ずかしい……
「これでアリアはフリーでしょう? あのパーティで婚約破棄と宣言された後すでに数人の男が君に向かっていったのを見て焦ったよ。君は魅力的だからね」
 う、ドキドキしすぎて思考回路がパンクしているわっ。ど、どういうことかしら……
 やだ、訳がわからなくなってきたわっ。
「早く僕のところに落ちてきてね」
 もう何も考えられなくて、しばらくの間フリーズしてしまったわ……
 いつの間にかベッドにちゃんと寝ていたけれど、きっとアーティが運んでくれたんでしょうね。
 ああ、なんだかとっても気まずいわ……


 どうしたらいいのかしら……
 まともに顔も見れないかもしれない。ううっ。
 どうも今まで浮気癖のある人としか付き合ったことがないから、まともな人? との向き合い方がわからなくて戸惑ってしまう。
 誰か教えてぇっ。
 起きた時からそんな感じでアワアワするわたくしを見て笑うアーティが少し憎たらしいわっ。睨んでみたけれど、「それ、可愛いだけだから」って言われて見事に撃沈してしまった……
 あの二人のようにうまく反撃できないわっ。何をしても可愛いしか言われないんだもの……
 自爆しにいっているようなもので、もうやらないことにしたわ。勝てないってわかったもの。
 それから、馬車にアーティと二人で乗り込む。もう一つの馬車にはいつかお世話になった従者の方とカリン、さらにはマルスが御者を買って出てくれて、出発する。周りには護衛の騎士の方がたくさんいて少し物々しい感じだけれど。
 安全な旅ができるならそれでいいかしらと思って特に気にすることもなかった。
 んだけれど……
 ピッタリくっつくのは当たり前。手を握られたり頭を撫でられたりとされたい放題でフリーズしまくっているわたくし。わたくしが何か反応するたびに「可愛い」と言われさらにフリーズ。
 新手のいじめじゃないかしら……絶対楽しんでいるわ。
 顔が悪魔のようだものっ。意地悪な笑顔で微笑まれては思わずにらみ返してしまい……
 悪循環の馬車内はわたくしにとっては地獄だったわ。心臓が破裂するんじゃないかって思うくらいずっとドキドキさせられて……
 もう自力では歩けないくらいふらふらで横抱きにされ……
 どんどんエスカレートするアーティにわたくしはされるがままで何も考えられなかったわ。どこへいくのかも聞けず、ずっと彼のことを考えてしまっていて。
 もしかして、もう、恋に落ちてしまっているかもしれないって思ったらますますひどくなってしまって。
 だって、なんとも思っていない人からされたってこんなに胸も高鳴らないもの……前世の記憶がそれは恋だと叫んでいて。
 疲れ果ててしまってぐっすりと眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...