婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

文字の大きさ
上 下
21 / 49

21

しおりを挟む
21
 どうしようかと王宮を歩いているとアーティに出会った。
「どうしたの?」
「実は……オリーブに王宮にきてもらえるように伝えたいんだけれど手段がなくて……」
「それなら僕がなんとかしておくよ。学園が終わってからでいいんだよね?」
「もちろん。商売のお話だからって言えばきっときてくれるはず」
 お金になることが好きなオリーブのことだもの。きっと受けてくれるわ。
「ありがとう、本当に助かるわ」
「いいよ、アリアのためならなんでもしてあげる」
「もう、あまりそういうことは軽々しく言ってはいけないのよ?」
 言葉だけ見ればただの口説き文句。それがあの美貌の男性に言われたらくらくらしちゃうじゃない。まだ婚約者がいる身でときめいてはダメよっ。
「本気だけど」
 ああああ、心臓が飛び跳ねてるわっ。顔も熱くなっていて真っ赤になっていること間違い無いわねっ。思わず顔を背け、俯く。
 わたくし、平均よりも身長が低いし、彼も平均よりも身長が大きいから絶対見えないでしょう!
 さらに手で顔を覆う。完全防備ねっ。
「ふふっ。アリアは可愛いね」
 ますます照れてしまったわたくしはもう動けないでいた。そんなわたくし達に元気な足音が近づく。
「あー!アリアだっ。アーサーもいるのね。ってアリア、何してるの?」
 はっ。いけないいけない。思わず固まってしまったわ……
 今から王妃様のところへ行かないと……!
「アーティ、これから王妃様のところへ行くの。ありがとう。というかオリーブ、早くない?」
「そう?使いの人が来てから一時間くらいかな?」
 え、そんなに経ってたの……? そんな長い間わたくしってば固まっていたのかしら。彼はといえばくすくす笑いながらわたくしを眺めていたようだけれど、え、待って、恥ずかしい……
「さ、さあ行くわよっ。じゃあね、アーティ。ありがとう」
「え、ちょ待って、じゃあね、アーサー」
 オリーブの手を掴みスタスタ歩く。きっといろんな人があそこを通ってあの光景を目撃したに違いないわ……
 恥ずかしい。


「あらアリア。待ってたわよ。そちらは?」
「アルト男爵家ご令嬢のオリーブと申します」
「今日のご相談に必要かと思いまして、来たいただいたんです。よろしいでしょうか?」
「いいわっ。今度は何?」
 もうすでにウキウキしているのが目に見えているわ。まあ、楽しそうで何よりなんですけれど。
「実は、騎士団の方から嘆願書を受け取りまして……」
 わたくしは王妃様に彼から聞いた話を伝える。ちょうどそばにいた騎士団長にも話を聞いてくれたみたい。
「それで、どう解決する?」
「それが、彼らには刺繍は難しいようでして、布を縫い付けるくらいならできると。そこで、アルト商会に力を貸してもらいたいのよ」
「私は何をしたらいい?」
「受注生産でいいから、騎士団員の名前の刺繍の入った小さな布を作ってほしくて。このくらいの布に名前を刺繍したものが欲しいのよ」
「なるほど! できると思うわ。ただ、どちらと契約を結んだら」
「そこで私の出番ねっ」
 どうやらわかっていただけたみたい。今回嘆願書を持ってきた彼は王家所属の騎士団なのだ。だから受注するなら王家の誰かの許可が必要になってくる。
 そこを王妃様にお願いしたかったの。オリーブにはその刺繍入りの小さな布をお願いしたかったんだけれど、すぐにやってくれそうでよかったわ。
「わかったわ。オリーブさんがよろしければこちらからお願いしたいくらいよっ」
 近くにいた近衛騎士の方がそっと近づいてくる。どうしたのかしら、何か意見が?
「あら、近衛でも使いたいのね。オリーブさん次第なんだけど……」
「まずは試しに希望者のみで受け付けましょう。嘆願書を持ってきたザルドさんと、あとはそこの近衛の方と、騎士団長さんもお使いになります?」
「ぜひっ!」
「あとは……」
 ばっと一斉に近くにいた騎士達が手を挙げる。思っていた以上にみんな困っていたみたい……
「とりあえずはここにいる方々とザルドさんね。何枚くらい欲しいのかしら」
「とりあえず、20枚ほどいただけると助かるのですが……」
「オリーブ、どう?」
「うん、多分大丈夫だと思う。サイズはどのくらいがいいですか? とりあえずそれで作ってみます」
「ありがとう」
 どうにかなりそうでよかったわ。みんな心なしか嬉しそうね。こんな小さなことなのに喜ばれるととてもやりがいを感じるわ。まあもうそろそろ婚約破棄されて追い出されるのだけれどね。
「アリア、ここにいる間に気づいたことがあればいくらでも言って? みんな喜んでいるもの」
「はあ……また何かありましたら、お伺いしますね」
「ええ」
 少し寂しそうな王妃様とその言葉に思わず小首を傾げてしまったけれど、今日のところはもう帰ることとなった。お仕事がまだ残っていたけれど、アーティもやってきて「今日は帰りな」と言われ帰されてしまったわ。
 まあ今日は少し疲れてしまったからちょうどよかったけれど。
 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...