婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

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 いつものように図書室で休憩した後で王宮の執務室に向かうと、王太子殿下がお呼びであると秘書官の方に教えていただいた。
 あら、もう出どころがわかったのかしら……
 案内されて執務室へ入ると当然のようにソファに座っているアーティがいて少しびっくりしたわ……
 でも本番はここからね。
「来てもらって申し訳ないね。そちらでも調べていてくれたんだろう?」
「はい。彼らの予定を掴むのは簡単ですので。こちらをどうぞ」
 すっとメモを差し出す。その場で購入したものと後で届いたもの全て書き上げており、侍女たちにも頼んで確認してもらったのでバッチリよ。
「……はあぁ。ああ、申し訳ない」
「いえ、お構いなく」
 なんだか最近げっそりしている気がするわ。休んでいないのかしら……
「調べたところ、やはり第二王子のところの予算が動いていたよ。どうやってひき出したのかはわからないがそういう悪知恵は働くようだな……」
 向こうから差し出された書類を見てびっくり。金額が一致するのよねぇ。しかも空になる寸前なんですけど。これ、第二王子殿下は大丈夫なのかしら……
「早急に陛下へ進言して別で予算を入れてもらったから大丈夫だと思うよ。少々手続きが面倒にはなるがあの愚弟では金には手が届かんだろう」
 実の兄にここまで言われるなんて本当だめね、あのお花畑殿下。まあ、わたくしの妹も同じようなものだから何も言えないのだけれど。わたくしの家の場合、お母様も一緒に捌かないと状況は変わらないのよね……
 実はお父様に働きかけている。最近はこっそりわたくしのお給金もわたしてお仕事を減らすようにしてもらっているのよね。体の調子も悪いみたい。
 その時に少しずつお話ししているのよね。最初はあまり聞いてもらえなかったけれど、最近ではあの母と妹に思うところがあるようで、動いてくれているみたい。
 一応、後でお父様にお願いしたいことがあるので、お話をしないといけないのだけれど。
「本当にうちの愚弟が申し訳ない……」
 深々と頭を下げられて慌ててしまう。王族はあまり謝罪をすることはよろしくないとされているのに……
「いえ、一臣下としてできることをしているだけですわ。元はと言えば、イアン殿下の心を繋ぎ止められなかたわたくしにも責任がありますので」
「そんなことはない。アリア嬢はできることをやっているだけだよ。むしろ婚約者に対してあんな対応をしているあいつが悪いだろう。責任など誰も問わないよ」
 すかさずアーティがフォローしてくれる。まあ、わたくしもこんな性格なので、彼に合わなかったのでしょうけれど。それでも一応婚約者としての責務があるのだから仕方がないわ。
 でも、こう言ってもらえるのも嬉しいのよね。アーティの目も嘘を言っているわけではないみたいだし、素直に嬉しいわ。
「では、また何かあったら聞かせてくれ。力になれることならいくらでも協力するよ」
「はい、ありがとうございます」
 こうして王太子殿下との関わりも持つことができて目標は達成されたわ。よかった……
 思った以上に味方も多いみたい。

 執務室に戻ったわたくしは書類を片付ける。最近では業務の改善に関する個人的な嘆願書まで増えているのよね。わたくし苦情処理もしないといけなくなっているわ……
 そう思いながらも仕分けしていく。最近では王妃様も積極的に取り組んでくださっているし、わたくしは仕分けをするだけ。たまにちょっとこれは……というものもあって仕分けも楽ではないのだけれど。
 却下したものは嘆願書の提出者を呼び出して話を聞いてから再度精査している。文字では伝わらない部分もあって、わたくしが一度却下したものでも、王妃様や王太子殿下へ繋げないといけないものもたまに潜んでいるのよね。
 今日もほとんどそれで、特に騎士の方々の嘆願書は文章が簡潔すぎて、詳しい状況が読みづらい。それにあまり騎士の方々のお仕事もわからないところも多いのよ。
 なので直接聞き取りを行って、騎士団長の方に確認する必要があるのよね。というか、いつの間にかこれもわたくしの仕事になっていてお給金も跳ね上がっている。どうやらイアン殿下へ割り当てられているものがそのままわたくしに来ているみたいで、彼は一文なしみたい。
 それとプラスで王妃様が出してくださっているのよね。もう贅沢をしなければ一生暮らしていけるくらい貯まってしまったわ……
 一旦落ち着いたら寄付でもしようかしらね。
「アリア様がお呼びとのことで馳せ参じました。私騎士団員のザルドと申します」
「ああ、ザルドさんね。嘆願書について聞きたいのよ。この服が混ざってしまってどうにかしてほしいと書かれているものなんだけれど、具体的に教えてくれる?」
「はっ。騎士団では衣服は支給されるのですが、どれも同じでサイズだけが違うのです。洗濯は騎士団員で交代で行うのですが、全部一斉に洗うのです。なので今着ているものが他の人のものなんてしょっちゅうで、その、下着も共有されているようで……」
「あらぁ、それは大変ね。その解決策が欲しいということね?」
「はい……気にしないやつは気にしないんでしょうけど、どうしても気になってしまって」
 まあ、そうよね。わたくしだったら共有なんで無理ね。服ならいいけれど下着はちょっと……
「騎士団の中で刺繍ができるものはいるかしら」
「いえ、皆簡単なボタンならつけられると思うのですが刺繍となると……」
「なら、小さな布なら、縫い付けられるかしら? 周りをぐるっと塗ってもいいし何箇所かボタンみたいに何度も針を通すとか」
「それなら皆できると思います!」
「そう。ちょっとわたくしのお友達にも聞いてみるわ。要は名前の書いてある小さな布を服に縫い付けられたら解決するわよね?」
「……! 確かに! それならペンで書いても」
「いえ、ペンだと洗濯するたびにインクが薄れてしまうわ」
「そうですね! ぜひこの意見が通るように願っております!」
 大変元気に敬礼した騎士のザルドさんはスキップをしながら帰っていった。よっぽど困っていたみたいね。
「少し王妃様ともお話ししないといけないわ。あ、でも騎士団のことなら王太子殿下かしら?」
「どちらでも大丈夫でしょうが、王妃様は今なら空いております。お伺いしてきましょうか?」
「お願い。あとはオリーブに連絡が取れればいいんだけれど……」

 
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