婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

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 休憩がてら王宮内の散歩をする。わたくしが休憩しないと彼らも休憩してくれないのよね……ただ王宮ですることなんて散歩くらいのものだからふらふらと歩いているのだけれど、ここで偶然王太子殿下に会わないかしら。
 散歩をするといつも騎士の方や秘書官の方にお辞儀をされる。皆目をキラキラさせてしきりに「ありがとうございます」とお礼を述べていくのだ。
 まあ、彼らが快適に過ごせているのならそれはそれでいいのだけれど。
 そんなことを繰り返していると、向こうから金髪碧眼の青年ともう一人、見知った人物が歩いてくる。あら、あの方はもしかして……
「あれ、アリアだ。今日もお仕事?」
「アーティじゃない。アーティこそこんなところで何を?」
「一応留学生だからね。王宮に住まわせてもらっているんだ」
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。わたくしアリア・ウォービスと申します」
「ご丁寧にどうも。そんなにかしこまらなくてもいいよ。君のことはあちこちから話は聞いているからよく知っている」
「恐れ多いことにございます」
 ただの弟の婚約者が調子に乗りやがってとかいう方じゃなくてよかったわ。まあ、元々臣下からの信頼も厚いみたいだからそこまで心配はしていないのだけれど。
 わざわざ自分の秘書官をおかしくださるくらいだし、とても良識のある方のようね。
「ところでアリア。どうしたの?」
「あ、あの、わたくし、少し王太子殿下とお話ししたいことがありまして……」
「ああ、なら今からでもいいよ。私の執務室に行こうか」
「あ、ありがとうございますっ」
 思ったよりもスムーズに接触できたわ。というかアーティってここにいたのね。会ったことがないから知らなかったわ。
 王太子殿下の執務室にはたくさんの秘書官がおり、皆黙々と作業している。みなさんとても仕事熱心なのね。
 ソファに座るよう促され、座ると隣にはなぜかアーティが座っていて、首を傾げたけれどとても人好きのする笑顔で微笑まれ、何もいえなかったわ……
 あの笑顔、少し攻撃力が強すぎないかしら……

「それで、私と話したいこととは?」
「ええ、イアン殿下の件で、少しわたくしでは調べきれないところがございまして。おそらくは王太子殿下も知っておいた方がいいものだと思っております」
 はあぁ、と深いため息をつき、額に手を当て項垂れる王太子殿下。どうやら彼もイアン殿下については頭を痛めている様子だ。
「いや、申し訳ない。一番被害を被っているのは君だろうに。それで、調べて欲しいこととは?」
「実は……わたくしの妹にどうやらイアン殿下が贈り物をたくさんしていただいているようで、その出どころが王子の婚約者、つまりわたくしですけれども、その予算から出されているみたいなのですよ」
「まあ、君のことだ。詳細まで調べているのだろう。それで?」
「はい、一度婚約者に割り当てられた予算を使い切ったみたいで、外で遊ぶことはなくなり我が家に来て過ごしていたみたいなんですけれど、最近になってまた貢ぎ始めまして……」
「その金の出どころということか。確かに愚弟に割り当てられた予算と婚約者に当てられた予算は空っぽだった。一度それについて詰めたんだが逃げられたからな。君の予想としてはどこだと?」
 さすが王太子殿下ですね。ちゃんとお仕事をなさっているからこそ気づいておられるのでしょう。尊敬いたしますわ。
「王太子殿下の管轄ではないでしょうね。すぐにバレると流石の彼の方でもお分かりでしょうから。となると後は第二王子殿下のところでしょうね」
「確かにな。あいつは今留学していてこちらでの執務は行っていない。婚約者はいるが、普通は王宮の仕事などしないものだからな」
 そうですよね。その通りですわ。しないものですもの。それに第二王子の予算関係については第二王子自身が管理しているはずですが、隣国に留学しているので時差もありますしね。
「もしお分かりになりましたら、わたくしにもお教えいただければと思います」
「わかった。調べておくよ」
「後もう一つ。秘書官の方を派遣していただいてありがとうございます」
 そうそう、お礼も言おうと思っていたのよね。彼の計らいで仕事が早く終わりそうだもの。
「いいよ。全く母上ときたらアリア嬢が優しいのをいいことにこっそり自分の仕事もわたしていたからな。秘書官から聞いて確認済みだ。流石に抗議しておくからそこは任せてくれ」
 ああ、やっぱりそうなのね。一部の書類を見たわたくしの秘書官の方が眉を顰めていたもの……
 通りで増えていたわけね。まあその分お給金もかなり弾んでいただいているからいいのだけれど。
 ところでアーティが聞いているのだけれど、いいのかしら……?
 こんな内部の話を彼に聞かせるのはあまりよろしくないのでは……
「ああ、アーサーのことは気にしなくていいよ。うちの弟も同じように向こうの内部事情を知っているからお互い様だ。そもそもこの留学も交換留学でお互いの王室内の質の向上のために行われているんだよ」
「あ、あの、そんなことをわたくしに話してもよろしいので……?」
「君なら大丈夫だよ。将来とてもお世話になりそうだからね」
 パチリとウインクする王太子殿下に驚いてしまったわ。普段は仕事のできるイケメンって感じだけれど、こんなお茶目なこともするのね。浮気性の気もないしとても親しみやすいわ。
 そんなことを考えながら彼の顔をじっと眺めているとアーティに額を小突かれる。
「こら。もう用事は済んだんでしょう? そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
 アーティの言葉にハッとしたわたくしは席をたちお礼を述べた後で、自分の執務室へと戻ってひたすら仕事に励んだのだった。  
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