婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので

しおの

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 次の日、お昼休みはいつもの図書室で過ごしていた。最近はオリーブおすすめの小説を読むようにしている。もうストレスも疲れも溜まってしまい、昼休みと自室にいるときくらいはゆったりと過ごしたくて、何も考えなくてもいいものを選んでいる。
「アリア、最近いつにも増して疲れているね」
「そう見える? ちょっと最近疲れすぎているのかしら。全く隠せないわ……」
 それにアーティと過ごす時間も癒しなのよねぇ。いつも気遣ってくれてとても居心地がいいもの。
「いや、傍目にはわからないと思うよ。それより何か困りごとでも?」
 素の彼を知っているからか余計に七三が気になってしまうわ……なんでいまだに七三なのかしらね。おかしくって笑っちゃうくらい。
 そんな時、彼がわざわざ綺麗に整えてある七三を撫でつけるもんだから思わず声を出して笑ってしまたわ……
「ごめ、ごめんなさ、っぷ」
「笑ってもらえるなら続けようかな」
「ちょ、やめて本当にっ、怒られちゃ、うっぷ」
 なるべく小さな声で笑っていたのだけれど、周りの視線を感じて、俯いた。
 恥ずかしいわ……
「みんなアリアの笑顔が可愛くて真っ赤になってるね。笑顔の方が君には似合うよ」
 前世の男にはよく言われたセリフだけど、寒気しか感じなかったのにアーティは何故かとても似合っているというか違和感がないというか。
 というより、なんだか照れてしまうわ。
 言葉は人が選んでいるけれど、言葉の方も人を選ぶのかしらね。これがあのイアン殿下だったら全力で鳥肌ものだもの。
「ありがとう。でもきっと五月蝿かっただけよ」
「ふふっ。そういうところもアリアのいいところだよね」


 
 いつものように癒しの時間を過ごし、午後の授業を受けてから向かうのは王宮。
 というか、王族であれば公務や仕事があれば学園の仕事が免除されるはずよね。ということはわたくしも免除されるべきではないかしら。仮にもイアン殿下の分の仕事をしているんだもの。次の王妃様とのお茶会の時に言ってみようかしらね。
 そんなことを考えながら今日も今日とて書類をさばく。いつの間にか秘書官の方が増えているみたい。どうやらあまりにも遅くまで仕事をしているわたくしにどなたかが配慮なさったのかしら……?
「今日はお二人もいらっしゃるのですね」
「はい、私は王太子殿下に仕えております。王太子殿下の御命令でお手伝い差し上げるようにと言われております」
「まあ、ご丁寧にありがとうございます」
「不躾な質問をお許しください。いつもこの量を……?」
「ええまあ。わたくしもたまにはお休みが欲しいので二日分を持ってきていただくようにお願いしておりますの。最近また増えているようですけれど」
 憐れむような視線をわたくしに向ける秘書官の方に思わず苦笑してしまったわ。やっぱり中の方から見ても異常な状態なのね……
「次の王妃様とのお茶会のお約束は取れたのかしら……?」
 一応王妃様とのお茶会は向こうから招待されなければ参加は叶わないのよね。事前に申し込みをして王妃様が許可なさった時だけ可能なのだけれど。いつもの秘書官の方がとても優秀でいつも約束を取り付けてくださるのよね。
「はい、明後日の午後に取り付けてあります」
「そう、明後日ね。わたくし、ある意味王家のお仕事をしているじゃない? だから学園の授業免除をお願いしようと思っているのだけれど、あなた方から何か要望はあって? 伝えてみるわ」
 最近ではわたくしの王妃様とのお茶会は、王宮で働くものたちの処遇改善の申し立ての場へと変わっている。もちろん秘書官や騎士の方々の待遇などは王妃様には決定権はないのだけれど、どうも陛下や王太子殿下へ伺いを立ててくださっているみたいなのよね。
 自分では処理しきれないことはちゃんと割り振りできる能力はおありみたい。そこは素直に尊敬するわ。いち伯爵令嬢の戯言をこんなにも聞いてくださるなんてね。まあ、わたくしに対して後ろめたい思いがおありなのでしょうけれど。
「そうですね……そういえばイアン殿下の教育係の方を覚えていますか? 久しぶりにお会いした方に話を聞いたのですが、とても元気になられていたのだとか。我々も週に一度はお休みをいただいておりますけど、たまにでいいので連休が欲しいという声が上がっております」
「なるほどね。それもそうよね。一日だけお休みだと、ただ体を休めて終わるものね。それはわたくしもいただきたいわ……」
 そんなわたくしたちの様子を驚いた様子で見る王太子殿下の秘書官は、興味深そうに口を開いた。
「……驚きました。そのように意見を伝えてくださるなんて。王太子殿下は我々がいうまでもなく実行なさってくれるので今まで考えたこともありませんでしたが、なるほど。アリア様が素晴らしい方だというものたちの気持ちも今理解いたしました」
「そんなことないのよ? わたくしはただ自分の意見を申し上げるだけですもの。わたくしのためなのよ」
「そんなことはありませんよ。素晴らしい方です」
 最近妙に褒められるわね。そんなに言われるだけ何かした覚えはないのだけれど。
 ささっと書類に目を通してサインするものと王子印の必要なものに仕分ける。提出し直しのものもあるのでそれはそれで別のところに重ねながら。
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