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 今日も今日とて書類と向き合う。相変わらずの量にうんざりしてしまうわ……
 秘書官の方と確認しながら一つ一つ片付ける。そういえばわたくしの銀行口座に多額のお金が振り込まれていたのよね。王妃様ったら流石にそこはしっかりやっていただいたみたいで安心したわ。
 もしかしたらお金も振り込まれないかもと思って、言うだけ言ってみただけなんだけれど。まあ、あの場には証人もたくさんいたから流石にそれはできなかったのかしら……
 いつも通り、王子の印が必要な書類を分け、秘書官の方にお渡ししたんだけれど、彼がそのまま書類を処理していたことに少し驚いてしまった。
「あら、あなたが処理してくださるの?」
「ええ、イアン殿下の教育係の方には一ヶ月お休みをとっていただいております。どうやらかなり限界だったようでそれを知った国王陛下が特別休暇をお与えになったようで。その間のお給金もそれ以前のお給金も全て支払われたようですよ」
 秘書官の方もとても表情も良く、仕事をされている。もしかしてあの一件以来待遇が改善されたのかしら?
「アリア様のおかげです。我々秘書官にも休日を与えられるようになりまして。私の場合はアリア様付きですので元々二日に一回は午後早く帰れていたのですが、ちゃんとお休みもいただけるようになりました」
「それはよかったわ。誰もこの件については言及しなかったのかしら?」
「いえ、元々イアン殿下周辺だけが過剰労働の状態でして……」
 なるほどね。どうやら待遇が悪かったのはイアン殿下の周辺みたいね。まあ、自分についている人たちだもの。その管理をするのはイアン殿下のお仕事のはずなのだけれど。
 それすらも放棄していたのね……
「まあ……大変だったでしょうに。わたくしでできることならやりますからなんでもおっしゃって」
「いえいえ、ここまでよくしていただいているので」
「お給金は王妃様が出してくださるようですし、遠慮なさらないで」
 すっと心の重石が取れたような表情の秘書官を見ていると今までがよっぽど辛かったみたいね。
 でも救えてよかったわ。イアン殿下の教育係の方も元気に帰ってきてくださればいいのだけれど。
 和やかな雰囲気の中、書類の山を崩していく。いつもよりも秘書官の方もお仕事の効率がいいみたいで、一昨日よりも早めに終わることができたわ。
「それではまた明後日、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」



 わたくしの精神状態もとても良く、気分がいい。そのまま迎えにきてくれていたマルスと共に馬車で家に帰ったのだけれど……
「お嬢、これ、王家の馬車ですね」
「はあぁぁ。そうね……」
 憐れむような視線を向け、「お疲れ様です……」と言われてしまったわ……
 まあ、こんなところにいてもしょうがないわ。いくしかないわね。

 案の定応接室に通される。わたくし、仕事をしてきて疲れているのだけれど……
「なんの御用でしょうか」
「こんな時間まで遊び歩いているのか?」
 開口一番それですか。ならばわたくしも言わせていただきましょう。
「わたくし、王宮であなたのお母様から頼まれたお仕事をしてきたのですけれど。ご存じない?」
「知らん。どうせただの言い訳だろう」
「ちゃんと王妃様からお給金もいただいて、あなたのお仕事を代わりにしているのですけれど? あたな、お仕事をしたことがあって? 王宮で見かけたことがないのですけれど」
「なっ……」
 手を握りしめてプルプル震えているわ。図星をつかれて言い訳もできないのかしらね。呆れた。仮にも王子殿下でしょうに。
「それで、なんの御用?」
「貴様が、私がプレゼントしたドレスを引き裂いたというではないかっ。なんでこんなことをするのだっ」
 隣に座っているライラはニヤニヤしてこちらを見ているけれど。昨日も伝えたのですけれど……
「わたくしは一切しておりませんよ。ハンナ? あなたライラの侍女よね? どうなの?」
「とぼけるなっ」
「恐れながら申し上げます。ドレスはライラ様ご自身が鋏を入れているところを目撃しています。他のメイド数名も。お呼びしましょうか?」
「なっ、ハンナ! あなた首よっ」
 なんだか面白いことになっているわね。イアン殿下はショックを受けて俯いているし、ライラはハンナが裏切ったことに激怒しているし、ハンナはすんとしているし。
 カオスだわ……
「ならばハンナはわたくしが雇いましょう」
「はぁぁ⁈   あんたにそんなお金ある訳ないでしょ」
「失礼な。ございますよ。ハンナ、後でわたくしの部屋へ来てちょうだい。ゆっくりお話ししましょう」
 きいぃぃぃっなんて小説の世界でしか見たことのない奇声をあげているわ……
「というかライラ? イアン殿下はよろしいの?」
 ハッとしたライラは必死に彼に縋り付いている。すぐに機嫌を取り戻すイアン殿下にはある意味恐怖を覚えるわ……
 一気に気を取り直したイアン殿下はさらにわたくしに詰め寄ろうとしたけれど思いつかなかったようで変な表情をしているわ。一体なんなのかしらね。
「もういい。お前のそういうところが嫌いなんだ。覚えておけ」
 あら、覚えておけだなんて小物の強がりのような言葉を一国の王子が発してもいいものかしらね。そう言って今日はお帰りになった。
 やっと一息つけるわ。わたくしはハンナを連れて自室に戻る。

「ハンナにはあまり選択肢をあげられないんだけれど……このままわたくしの侍女としてこの屋敷に仕えるか、わたくしの化粧品事業の方へいくか、どちらがいいかしら。ああ、わたくしの別荘で侍女をしてもいいわよ」
 ハンナは目をキラキラ輝かせる。どうやら気に入ってくれたみたい。
「そうですね……どれも魅力的なのですけれど、この屋敷にいると結局ライラ様のお世話をしないといけなくなるので化粧品事業か別荘の侍女がいいです」
「まあそうよね。とりあえず別荘の方に行ってもらいましょうか。そこで時々化粧品の開発をしたりしているから、見てみて後で変えてもいいわよ」
「ありがとうございます!」
 どうやら無事に再就職先が決まったみたい。よかったわ。
 というかライラの専属侍女だったのよね。あの子どうするのかしら。
 なんて考えながら眠りについた。
 
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