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明らかにおかしいわね……
「はあぁぁぁぁ」
わたくしの大きなため息にそばにいた人の方がびくりと震える。ああ、ごめんなさい。あなたに対してため息をついたのではないのよ……
「一昨日よりも倍の書類が積まれているのだけれど、これは……?」
「はいぃぃっ。すみません、すみませんっ。王妃様のご命令で、すみません」
「ああ、あなたは何も悪くないの。聞いてみただけよ」
そう、一昨日よりも倍以上に積み上がった書類。おそらくこれはイアン殿下の書類ね……
王妃様とのお茶会にはまだ時間があるし、できるところまでやっておこうかしら……
というかこれじゃあ二日分書類をいつもの時間までに終わらせるなんて無理ね。わたくしの貴重な時間が。というかなぜ婚約者でしかないわたくしがこんなに仕事をしなければならないのかしら。明らかに理不尽ね……
「ちなみにお伺いしたいのだけれど……婚約者であるわたくしがこの書類をやらなければならない道理なんてないわよね?」
「はいぃぃぃっ。おっしゃる通り、本来ならば必要のないものばかりです……」
やっぱり。どう考えてもこの状況が異常ということね。それだけ確認取れればいいわ。
机に向かい、一枚一枚書類を確認する。明らかに王子の印が必要なものまであるのだけれど。これ、どうしようかしら……
「ねえ、この王子の印が必要なものはどうしたらいいの?」
「あっ、それは書類の精査だけしていただけると助かります。王子の印のみ、教育係のかたが……」
「ああ、あの方が……印すら押さないのね、あの人。本当呆れるわ……」
わたくしのため息ばかり響き渡るその空間で、紙を捲る音が響き渡る。本当どうしてくれようか。
そうこうしているうちに王妃様のお茶会の時間のようだ。
身なりを整えて指定された場所へと向かう。
「アリアさん、お久しぶりね。元気にしていたかしら」
「お久しぶりでございます。王妃様。仕事が多すぎて元気ではないですね」
多少の嫌味も許されるだろう。こちらが仕事をしないといえば済むもの。わたくしが仕事をしなくなれば困るのはそちらでしょう? もう王妃であろうが陛下であろうが遠慮なんてしないわ。
「そ、そう……ごめんなさいね」
「ええ、ただの婚約者であるわたくしがなぜこんなにも無給・無休で仕事をしなければならないのかと思うと、毎日疲れてしまいますわ」
「え? 無給、無休? 王子の婚約者に割り当てられた費用が……」
「それは婚約者として必要なドレスや装飾品、お茶会を開く際の費用などでしょう? お給料とは別ですわね。そんなこと王妃様もお分かりでしょう」
「いえ、あの、それはそうだけれど……」
この王妃様、婚約者に割り当てられた予算がなんなのかわからないのかしら……
そもそもが婚約者の段階でのお仕事なんてお茶会を開いたり、王子妃教育を受けるくらいでしょうし。
そういえば、この王妃様も元々身分の低い貴族だったけれど、当時の婚約者を蹴落として成り上がったって聞いていたわね。
本当、ちゃんと教育は終わっているのかしら。
「ちなみに、王子の婚約者として割り当てられた費用ですけれど、もう空ですのよ。わたくしは一切ドレスや装飾品を買ったこともないのですけれど、不思議ですわねぇ」
「そ、それは、あなたが別のところで使ったんじゃなくて……?」
「ですからわたくしは一切手をつけておりませんし、イアン殿下からもいただいてはおりませんよ。代わりにわたくしの妹が最近やたらと高価なドレスや装飾品を身につけているようですけれど」
王妃様は押し黙る。流石にこれは把握していたみたいね。それじゃあ……
「こちら、王子の婚約者へと割り当てられた予算の使用内訳です。全てイアン殿下が使っておられますね。わたくし送り先もしっかり確認していますので」
少しハッタリかけてみたけれど、おそらく間違いないわ。後でブライアンに調べてもらわなくちゃいけないけれど、わたくし一切使ってないし使ってもらったこともないもの。
手紙はわたくしから一応送って入るけれど返事が返ってくることもなかったしね。
「……それに関しては申し訳なく思っているわ。あの子が婚約者としての責務を投げ出してしまっているのも。いくら私たちが言っても聞かないのよ」
「それに関してはわたくしは存じませんので。それから、もう一つ」
まだあるの? という表情の王妃様。もうわかっていらっしゃるでしょうに。本当バレてないとでも思っているのかしら。臣下ですら表情に出てしまっていて可哀想なのに。特にイアン殿下の教育係の方が一番不憫よ。
「なぜかわたくし、領地に関する書類や王子の印が必要な書類を回されているのですけれど? そもそもまだ王子妃にすらなっていない婚約者であるわたくしに仕事があるとしたら王子妃教育を受けることだけと思っていたのですが」
「それ、は、まだ、あの子の教育が終わっていなくて……」
「それはわたくしに関係のあることでしょうか? わたくしが仕事をしなくてはならない理由にはなり得ないと思うのですけれど」
押し黙る王妃様に毅然とした態度で話すわたくし。普通なら逆でしょうに一応は罪悪感があるのでしょうね。だから強くいえないのよね。
「そう、なのだけれど……お願い、アリアさん。仕事をお願いできない?」
この後に及んでまだいうのね。本当王妃教育やり直したらいかがかしら……
あまりの王妃様の言い訳に悪態ばかりついてしまうわ。ヤダヤダ、心まで醜くはなりたくないのだけれど。
「それでは条件を提示させていただいても?」
「ええ、仕事をしていただいているんだもの。なんなりと」
「今までお仕事をした分のお給金は当然のことながら、これからのお仕事の分のお給金、さらに、イアン王子のお仕事を代わりになさっている教育係の方への休日、さらには追加のお給金を要求しますわ」
タダ働きなんて言語道断よ。休日もないなんてありえないし、人をなんだと思っているのかしら。そんな態度を見せ続けていたらいつかこの国はクーデターでも起こされるんじゃないかと思うわ。
いくら陛下が優秀であってもその周りがポンコツだと破滅するものよ。我が家のようにね。
「それから」
「え、まだあるの?」
「ええ、当たり前ですよ。イアン殿下は王族の教育すらも習得していらっしゃらないんでしょう? つまりは王族の義務を放棄しているも同然です。そんな人に国民の血税が払われているなんで虫唾が走りますわ。予算の組み直しを要求します」
本来ならいち伯爵令嬢がこんなことを王妃様にいうなんて王家への反逆罪にとらえられるのだけれど、周りの騎士たちも侍女たちももっと言ってやれと言わんばかりの視線を向けてくるのよね。
よっぽど普段から耐え難い何かがあるのでしょうね……
誰一人動かないし剣を向けてこないもの。こんな身近な人たちにも信頼を置かれていないなんて逆に可哀想になってくるわ……
「それから、最後に一つ」
「なにかしら……」
「王妃様はイアン殿下に関してはこのままにするおつもりで?」
「……だって、いうこと聞かないんですもの。しょうがないじゃない」
はぁ、これが一国の王妃の言うことかしら。しょうがないで済まされないのわからないのかしら?
「……王妃様のお気持ちはよくわかりました。それで、条件は飲んでいただけますか?」
「わかったわ……」
こうして王妃様との交渉は成功した。けれど、イアン王子のことは王妃様ではダメね。末の息子なのもあるのか甘すぎる。明らかにおかしいことを指摘しているのにこちらに甘えるなんて……
わたくしがおかしいのかしらと周りを見渡してみたけれど、キラキラした目でわたくしをみてみんな頷いていたわ……
疲れてしまったけれど、まだ仕事が残っているのよね。明日はアーティと遊びに行く約束をしているし、頑張らなくちゃ。
結局終わったのは世も更けた頃。わたくし付きの秘書官の方にも「もうお帰りください」と言われたけれど、明日お休みしたいもの……
それを伝えると秘書官の方も付き合ってくださって、少し仲良くなれた気がするわ。
明らかにおかしいわね……
「はあぁぁぁぁ」
わたくしの大きなため息にそばにいた人の方がびくりと震える。ああ、ごめんなさい。あなたに対してため息をついたのではないのよ……
「一昨日よりも倍の書類が積まれているのだけれど、これは……?」
「はいぃぃっ。すみません、すみませんっ。王妃様のご命令で、すみません」
「ああ、あなたは何も悪くないの。聞いてみただけよ」
そう、一昨日よりも倍以上に積み上がった書類。おそらくこれはイアン殿下の書類ね……
王妃様とのお茶会にはまだ時間があるし、できるところまでやっておこうかしら……
というかこれじゃあ二日分書類をいつもの時間までに終わらせるなんて無理ね。わたくしの貴重な時間が。というかなぜ婚約者でしかないわたくしがこんなに仕事をしなければならないのかしら。明らかに理不尽ね……
「ちなみにお伺いしたいのだけれど……婚約者であるわたくしがこの書類をやらなければならない道理なんてないわよね?」
「はいぃぃぃっ。おっしゃる通り、本来ならば必要のないものばかりです……」
やっぱり。どう考えてもこの状況が異常ということね。それだけ確認取れればいいわ。
机に向かい、一枚一枚書類を確認する。明らかに王子の印が必要なものまであるのだけれど。これ、どうしようかしら……
「ねえ、この王子の印が必要なものはどうしたらいいの?」
「あっ、それは書類の精査だけしていただけると助かります。王子の印のみ、教育係のかたが……」
「ああ、あの方が……印すら押さないのね、あの人。本当呆れるわ……」
わたくしのため息ばかり響き渡るその空間で、紙を捲る音が響き渡る。本当どうしてくれようか。
そうこうしているうちに王妃様のお茶会の時間のようだ。
身なりを整えて指定された場所へと向かう。
「アリアさん、お久しぶりね。元気にしていたかしら」
「お久しぶりでございます。王妃様。仕事が多すぎて元気ではないですね」
多少の嫌味も許されるだろう。こちらが仕事をしないといえば済むもの。わたくしが仕事をしなくなれば困るのはそちらでしょう? もう王妃であろうが陛下であろうが遠慮なんてしないわ。
「そ、そう……ごめんなさいね」
「ええ、ただの婚約者であるわたくしがなぜこんなにも無給・無休で仕事をしなければならないのかと思うと、毎日疲れてしまいますわ」
「え? 無給、無休? 王子の婚約者に割り当てられた費用が……」
「それは婚約者として必要なドレスや装飾品、お茶会を開く際の費用などでしょう? お給料とは別ですわね。そんなこと王妃様もお分かりでしょう」
「いえ、あの、それはそうだけれど……」
この王妃様、婚約者に割り当てられた予算がなんなのかわからないのかしら……
そもそもが婚約者の段階でのお仕事なんてお茶会を開いたり、王子妃教育を受けるくらいでしょうし。
そういえば、この王妃様も元々身分の低い貴族だったけれど、当時の婚約者を蹴落として成り上がったって聞いていたわね。
本当、ちゃんと教育は終わっているのかしら。
「ちなみに、王子の婚約者として割り当てられた費用ですけれど、もう空ですのよ。わたくしは一切ドレスや装飾品を買ったこともないのですけれど、不思議ですわねぇ」
「そ、それは、あなたが別のところで使ったんじゃなくて……?」
「ですからわたくしは一切手をつけておりませんし、イアン殿下からもいただいてはおりませんよ。代わりにわたくしの妹が最近やたらと高価なドレスや装飾品を身につけているようですけれど」
王妃様は押し黙る。流石にこれは把握していたみたいね。それじゃあ……
「こちら、王子の婚約者へと割り当てられた予算の使用内訳です。全てイアン殿下が使っておられますね。わたくし送り先もしっかり確認していますので」
少しハッタリかけてみたけれど、おそらく間違いないわ。後でブライアンに調べてもらわなくちゃいけないけれど、わたくし一切使ってないし使ってもらったこともないもの。
手紙はわたくしから一応送って入るけれど返事が返ってくることもなかったしね。
「……それに関しては申し訳なく思っているわ。あの子が婚約者としての責務を投げ出してしまっているのも。いくら私たちが言っても聞かないのよ」
「それに関してはわたくしは存じませんので。それから、もう一つ」
まだあるの? という表情の王妃様。もうわかっていらっしゃるでしょうに。本当バレてないとでも思っているのかしら。臣下ですら表情に出てしまっていて可哀想なのに。特にイアン殿下の教育係の方が一番不憫よ。
「なぜかわたくし、領地に関する書類や王子の印が必要な書類を回されているのですけれど? そもそもまだ王子妃にすらなっていない婚約者であるわたくしに仕事があるとしたら王子妃教育を受けることだけと思っていたのですが」
「それ、は、まだ、あの子の教育が終わっていなくて……」
「それはわたくしに関係のあることでしょうか? わたくしが仕事をしなくてはならない理由にはなり得ないと思うのですけれど」
押し黙る王妃様に毅然とした態度で話すわたくし。普通なら逆でしょうに一応は罪悪感があるのでしょうね。だから強くいえないのよね。
「そう、なのだけれど……お願い、アリアさん。仕事をお願いできない?」
この後に及んでまだいうのね。本当王妃教育やり直したらいかがかしら……
あまりの王妃様の言い訳に悪態ばかりついてしまうわ。ヤダヤダ、心まで醜くはなりたくないのだけれど。
「それでは条件を提示させていただいても?」
「ええ、仕事をしていただいているんだもの。なんなりと」
「今までお仕事をした分のお給金は当然のことながら、これからのお仕事の分のお給金、さらに、イアン王子のお仕事を代わりになさっている教育係の方への休日、さらには追加のお給金を要求しますわ」
タダ働きなんて言語道断よ。休日もないなんてありえないし、人をなんだと思っているのかしら。そんな態度を見せ続けていたらいつかこの国はクーデターでも起こされるんじゃないかと思うわ。
いくら陛下が優秀であってもその周りがポンコツだと破滅するものよ。我が家のようにね。
「それから」
「え、まだあるの?」
「ええ、当たり前ですよ。イアン殿下は王族の教育すらも習得していらっしゃらないんでしょう? つまりは王族の義務を放棄しているも同然です。そんな人に国民の血税が払われているなんで虫唾が走りますわ。予算の組み直しを要求します」
本来ならいち伯爵令嬢がこんなことを王妃様にいうなんて王家への反逆罪にとらえられるのだけれど、周りの騎士たちも侍女たちももっと言ってやれと言わんばかりの視線を向けてくるのよね。
よっぽど普段から耐え難い何かがあるのでしょうね……
誰一人動かないし剣を向けてこないもの。こんな身近な人たちにも信頼を置かれていないなんて逆に可哀想になってくるわ……
「それから、最後に一つ」
「なにかしら……」
「王妃様はイアン殿下に関してはこのままにするおつもりで?」
「……だって、いうこと聞かないんですもの。しょうがないじゃない」
はぁ、これが一国の王妃の言うことかしら。しょうがないで済まされないのわからないのかしら?
「……王妃様のお気持ちはよくわかりました。それで、条件は飲んでいただけますか?」
「わかったわ……」
こうして王妃様との交渉は成功した。けれど、イアン王子のことは王妃様ではダメね。末の息子なのもあるのか甘すぎる。明らかにおかしいことを指摘しているのにこちらに甘えるなんて……
わたくしがおかしいのかしらと周りを見渡してみたけれど、キラキラした目でわたくしをみてみんな頷いていたわ……
疲れてしまったけれど、まだ仕事が残っているのよね。明日はアーティと遊びに行く約束をしているし、頑張らなくちゃ。
結局終わったのは世も更けた頃。わたくし付きの秘書官の方にも「もうお帰りください」と言われたけれど、明日お休みしたいもの……
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